超弩級のセパレートAVセンターAV10+AMP10が話題のマランツ。しかしながら、その流れを汲んだ一体型機CINEMA 40の存在を忘れちゃいけない。11.4chプロセッシング対応9chパワーアンプを搭載したその高い完成度は、現状のAVセンター市場を見渡して、コストパフォーマンスという点で最もバランスの優れたモデルのひとつというのが私の認識だ。そこで今回は本機を使って『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のサラウンドサウンドを存分に楽しんでみたい。

 本作のサウンドデザインは、いわばすべて想像/創作の上で成り立っている。その音にいかに“血”を通わせるかがAVセンターの重要な役割といえそうだが、自家薬篭中の高音質モジュール回路「電流帰還型HDAM-SA2」やパーツを厳選したフルディスクリートパワーアンプ、さらにはEIコアトランスを擁した強力な電源部などが相まって、リッチでスペクタキュラーなサラウンド再生が期待できる。

 なお今回の視聴では、ドルビーアトモス設定で7.1.2と5.1.4の2通りを試し、フロアースピーカーはすべてラージ、オーバーヘッドスピーカーは120Hzクロスオーバーのスモール設定とした。

 

Marantz
AV CENTER
CINEMA 40
¥506,000 税込

●型式:11.4chプロセッシング対応AVセンター
●定格出力:125W+125W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.05%)
●搭載パワーアンプ数:9
●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力6系統(RCA×5、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1)ほか
●寸法/質量:W442×H188×D413mm/15.1kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112

 

CINEMA 40はハイファイアンプグレードと謳う、HDAM-SA2搭載の強力なプリアンプ回路や高度なサラウンドデコーダー回路などを搭載しているが、その基盤となる電源回路もまた力が入っている。CINEMA 40専用の大容量パワーサプライが本体に内蔵。4.9kgにも達するEIコアタイプの電源トランスや150μF容量の専用カスタム品電解コンデンサーが用いられている

 

 

ヘビィーな音響の醍醐味を重厚な音できっちり描き出す

 まずはオマティカヤ族が貨物列車を襲撃するチャプター5を観た。爆発炎上にそれらしいヘビィー感が出ないAVセンターは、それだけで興醒めなのだが、本機はもちろんそんなことはない。砲撃で脱線した列車が立てる強烈な轟音と、飛散する破片などがしっかり四方八方に飛ぶのがサラウンド再生の醍醐味だ。翼竜イクランの羽ばたきや、それに伴なう上昇・下降の音にもドルビーアトモスらしさが感じ取れる。

 

マランツのAVセンターは、フラッグシップのセパレート機AV10+AMP10が話題だが、11.4chプロセッシング対応9chアンプ内蔵モデルCINEMA 40も高い人気を誇る存在だ。今回はCINEMA 40を使って、HiVi視聴室のリファレンススピーカーで組んだ5.1.4と7.1.2のふたつのシステムで『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を鳴らしてみた

 

 

 この時のスピーカー設定は、サラウンドバックも含めた7.1.2だが、「リコンビナント」として生まれ変わったクオリッチ大佐等が降り立つジャングルのチャプター13の鬱蒼とした様子は、ベッドのスピーカーを7本としたことで得られたであろう空間密度の濃さが感じられた。ムッとした湿り気と高温の空気感、虫や鳥たちの鳴声が遠近感を伴なってグルッとサラウンドして響く辺りに、CINEMA 40の音のクリアネス、ひいてはアンプとしてのスルーレートの高さが現われている気がした。チャプター15の雨が降るジャングルの様子も同様で、ジメジメとした湿気が再生音から感じ取れる。また、頭上のティルトローター機のプロペラの音のリアリティは、ドルビーアトモスならではの垂直方向の表現だ。

 チャプター30でジェイクの次男ロアクが狂暴な巨大魚に襲われるシーンにて、スピーカーレイアウトを7.1.2構成から5.1.4構成に切り替えてみた。水平方向の素早い移動は前者の設定の方が明瞭に感じられたが、後者では垂直方向の密度が高まるようで、水圧や閉塞感の感じ方が変わってくる。本作は特に中盤以降で海中シーンが増えることから、5.1.4構成がマッチングがいいように感じられた。以降の視聴の印象はこの設定で書き記していく。

 チャプター46、トゥルクン狩りのシーンでは、潜水艇の発進や爆雷の音など、全方位に大小の機械的な音がばら蒔かれる。その轟音の凄まじさたるや! 潜水艇から発射された浮袋がトゥルクンに命中する音、その時のトゥルクンの悲鳴ともつかない鳴声の虚しさもまた、シーンの緊張感を巧みに演出している。

 チャプター51では、海草に身を隠しながら潜水艇との攻防を繰り広げる子供たちの様子が描かれている。スクリュー音の細かさや衝突音の衝撃などもたいそうリアルだった。

 チャプター53以降、座礁した巨大な母船が次第に沈んでいく様は、やはりサブウーファーを含めたサラウンドシステムだからこその迫真性があった。

 CINEMA 40はそうしたヘビィーな音でも怯むことなく重厚な音でシーンを描写する。こうした場面を観るにつけ、このAVセンターはたいした実力の持主と改めて思った次第である。

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』