テレビの音を高音質化する方法は、AVセンターを使った本格的なAVシステム、あるいは設置のしやすいサウンドバーが主流ですが、ここに来てプリメインアンプを始めとしたオーディオ製品にHDMI端子を装備して、シンプルな接続かつ高品位なテレビ音響再生の実現を目指したHDMI対応オーディオコンポーネントが増えています。ここでは、HDMI接続に対応した注目の最新製品をピックアップ、オーディオ製品としての基礎体力はもちろん、テレビとHDMI接続した際の実力について細かくチェックしました。(編集部)

 HDMI対応が進み始めたのは、プリメインアンプだけではない。デノンのネットワークオーディオプレーヤーの新製品DNP-2000NEにもHDMI ARC端子が付いた。

 本機はデノン&マランツのネットワークオーディオ機能<HEOS>を用いて、高音質でハイレゾファイル再生ができることを主眼に開発された本格派のネットワークプレーヤー。サブスクの音楽ストリーミングサービス等を、大型テレビが置かれたリビングルームで楽しむ方が増えている昨今、ネットワークプレーヤーにHDMI ARC端子を設けることで、テレビ番組やテレビに接続された映像機器の音もハイクォリティに楽しめることを訴求しようと考えたのだろう。これはまったく悪くない試みだと思う。

 大きなフットが4脚取り付けられた薄型デザインで、グラファイトシルバーとプレミアムシルバーの2色展開。大きな表示窓を中央に配したフロントパネルの意匠は高級機ならではの魅力に満ちている。

 

Network Player
DENON DNP-2000NE
¥275,000 税込

●型式 : HDMI入力対応ネットワークプレーヤー
●接続端子 : デジタル音声入力6系統(同軸×1、光×2、USB Type A×1、USB Type B×1、HDMI ARC×1)、アナログ音声出力2系統(RCA×2[固定レベル×1、可変レベル×1])、デジタル音声出力2系統(同軸×1、光×1)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W434×H107×D421mm/9.7kg
●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオ お客様相談センター TEL.0570(666)112

 

 

2ch32ビットDAC素子4基による磨き抜かれた高音質対応に注目

 本機の音質設計には見るべきところが多い。2chタイプの32ビットDAC素子ES9018K2Mを左右チャンネルに2基ずつ使用、同社独自のデジタルフィルター「Ultra AL32 Processing」によって生成された1.536MHzデータを半分の信号の768kHzに分割し、2基(4ch)のDACに入力することで大きな電流出力を得て、S/Nの改善を図っている。マスタークロックもDAC回路近傍に44.1/48kHz系の2基の低位相雑音クロックを配置、ジッターリデューサーを用いて安定なデータ読み出しを可能にしている。

 DAC出力を受けるI/V(電流/電圧)変換回路にはオペアンプを使用せずに、サウンドマスター(音質設計担当)が選んだパーツで組んだディスクリート回路を採用している。電源はEIコアトランスを搭載したアナログ・リニア回路。RCAアンバランス出力は固定と可変の2系統がある。

 独自のネットワークオーディオ機能<HEOS>の操作アプリを用いることで、Amazon Music Unlimitedで配信されるFLAC形式のハイレゾファイルのほかSpotify、SoundCloudなどの音楽ストリーミングサービスが聴ける。またBluetooth受信機能があり、スマホやタブレットを用いてのワイヤレス音楽再生も可能だ。ネットワークプレーヤーとしての対応レゾリューションはPCMは192kHz/24ビットまで、DSDは5.6MHzの対応となるが、本機のUSB DAC機能を用いてパソコン等と接続すれば、384kHz/32ビットPCMや11.2MHz DSDまでの音楽ファイルを聴くことができる。

 

デノン製プリメインアンプでは以前から「IRコントロール端子」を装備しており、本機能を活用することで、DNP-2000NEとの動作が連動、2モデルが一体化した「ネットワーク対応プリメインアンプ」に進化する。テレビのHDMI CEC機能でもIR連携操作が可能で、テレビのリモコンで(2000NEのHDMI接続を介して)プリメインアンプの入力切替え、音量調整、電源連動ができる。言葉にすると単純に思えるが、この連動操作は実にスムーズで、利便性が非常に高く、極めてユーザーフレンドリーな機能に仕上げられている(対応モデルによっては一部制約あり)

 

アナログ音声出力は、アンバランス端子が2系統備わるが、それぞれ「FIXED(音量固定レベル)」と「VARIABLE(音量可変レベル)」の専用端子を装備している。固定レベル端子は、一般的なプリメインアンプ(やプリアンプ)に、可変レベル端子はアクティブスピーカーやパワーアンプなどとの連携を前提としている

 

比較的薄型のシャーシであるが、内部はぎっしりと多数の回路基板や電源部が盛り込まれている。前方中央には、デジタル/アナログ分離型のEIコア電源トランスを配置。その周りを取り囲むように、電源回路(左側)やデジタル信号処理回路(後方)、アナログ変換/音声出力回路(右側)が納まる

 

デジタル信号をアナログ信号に変換する回路は、デジタルプレーヤーの心臓部といえる部分だ。写真の黒い基板が「ULTRA AL 32 PROCESSING」と呼ばれる独自アナログ波形再現技術を適用する箇所。その後段にやや見えづらいが、小さな黒色の正方形のチップ4基が電解コンデンサー群の中にマウントされているが、それがESSテクノロジー製32ビットDACチップ。左右チャンネルごとに2基ずつが用いられている。その後段の、ディスクリート構成のI/V(電流/電圧)変換回路も高音質を支える重要な部分だ

 

 

デノン製プリメインアンプと連携可能、「ネットワーク対応プリメイン」化を実現

 試聴にはデノンのプリメインアンプPMA-SX1 Limitedを用いたが、DNP-2000NEに同梱されたIRコントロールケーブルで両機をつないでSX1 Limitedの入力を「NETWORK」にすることで、操作の連携が実現、両機が一体化した「ネットワーク対応プリメインアンプ」に化けることがわかった。

 この状態でHEOSアプリを用いて、Amazon Music Unlimitedでドゥービー・ブラザーズの『Living on the Fault Line』(192kHz/24ビット/FLAC)を聴いてみた。ベースやキックドラムの押し出しのよさなど、充実した電源回路の恩恵を実感させる力感に満ちたサウンド。デノンが2016年のDNP-2500NE以来、満を持して発表したネットワークプレーヤーらしい本格サウンドだ。ヴァイブラフォンの響きの美しさも申し分ない。

 Amazon Music Unlimitedのマリア・ベターニアのヴォーカル・アルバムの44.1kHz/16ビット/FLACファイルとDCD-SX1 Limitedで再生するCDとを比較してみた。音質差は僅かだが、低音の押し出しのよさはCD再生が上回る印象。電源回路等への物量投入の違いによるものだろう。もっともネットワーク周辺のローノイズ化に向けて手を尽くしていけば、その差はなくなるかもしれない。

 本機のアナログ出力を可変出力とし、PMA-SX1 Limitedの「Extra Pre」入力につないだ音も聴いてみたが、予想以上の健闘ぶりだった。音像の実体感の確かさ、音の生々しさは2000NEの固定出力をPMA-SX1 Limitedのライン入力につないだほうが上回るが、このネットワークプレーヤーの音の緻密さや抑揚の表現の卓抜さはきちんと表現される印象だ。この可変出力を昨今話題の音のよいアクティブスピーカーとつないで、シンプルなシステムを組み上げるのも興味深い。

 

その他のシステム
●有機ELディスプレイ : パナソニックTH-65MZ2500
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
●ストリーミング端末 : Apple TV 4K
●プリメインアンプ : デノンPMA-SX1 Limited
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300Ⅱ

 

本機は、視聴室常設のリファレンスアンプであるデノン製PMA-SX1 Limited(写真右)と、DNP-2000NE同梱のIRコントロールケーブルを使って連携した状態で視聴した

 

 

デジタル非対応オーディオシステムをテレビと高音質で連携できる

 HDMI ARCの音質チェックといこう。当代随一の画質・音質を誇るパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1とHDMI接続したパナソニックの65インチ有機ELテレビTH-65MZ2500のHDMI ARC端子と本機をつないで、デノンPMA-SX1 LimitedでモニターオーディオPL300Ⅱスピーカーを鳴らしての視聴である。

 UHDブルーレイ『最後の決闘裁判』の、真に迫ったダイアローグの質感の高さに感心させられた。石造りの屋敷内に響く声がとてもリアルで、まるで音楽を聴いているかのよう。ヒロインと姑のやりとりも緊張感に満ちていて、背筋がゾクリとした。

 ブルーレイ『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014』は、HDMI ARC経由だとディスクに収録された192kHz/24ビット音声を48kHz/16ビットにダウンサンプリングされた状態で聴くことになるわけだが、「ん、それがどうかした?」と思えるほどすばらしいサウンドを聴くことができた。コントラバスなど低音楽器は力強く、ヴァイオリンもヒリつくことなく、とてもなめらか。立体的なオーケストラ・イメージが見事に描写されることにも感心させられた。

 Apple TV 4Kで観る『トップガン マーヴェリック』も、これが高圧縮のドルビーデジタルプラスの音声だということを感じさせない、つまり音痩せしない見事なサウンドだった。2チャンネル再生ながら、ダークスターの前後の移動音の軌跡はくっきりと描かれるし、男声は艶っぽく力感に満ちている。ロッシーの高圧縮音源で気になりがちなサウンドエフェクトの歪みっぽさも雲散霧消し、爽快感に満ち溢れている。ドカンと入ってくる低域のエネルギー感の豊かさにもドギモを抜かれる思い。

 これはDNP-2000NEのHDMI ARC入力の音質ケアに十分に意を尽くしているからだろうし、なんといっても組み合わせたアンプ、PMA-SX1 Limitedの実力の高さゆえだろう。この特集で採り上げているようにHDMI ARC入力付プリメインアンプが増えているのは確かだが、デジタル入力を持たない(=DAC回路を積んでいない)けれど、音がよくてすごく気に入っているアンプを手放したくない、でもテレビとオーディオシステムをドッキングしていい音で映像コンテンツを楽しみたいという方にとって、ネットワークプレーヤーである本機のようなソース機器にHDMI ARC端子が付いた製品はとても貴重だということを痛感したDNP-2000NEとの出会いだった。

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』