世界のAVセンター市場を牽引するデノンのプレミアムラインとなるAVR-X3800HとAVR-X4800H。いずれも同社の売れ筋モデル、つまり稼ぎ頭となる主力モデルだけに、上級機の開発で培った技術、ノウハウが積極的に投入され、その内容は実に豪華だ。

 両モデルともに“お得感”のあるモデルであることは間違いないが、その詳細を注目していくと、「こんなことまで……」と驚かされる部分が少なくない。いずれも内蔵アンプは9ch仕様(2ch駆動時の定格出力はそれぞれ105W×2と125W×2)、プロセッシング能力は最大11.4ch。4系統のサブウーファーは、すべて同じ音を出力する「スタンダード」と、各サブウーファー近傍の低音もサポートする「指向性」の選択が可能。またステレオパワーアンプを追加すれば、最大で7.4.4構成まで拡張できる。

 サラウンドフォーマットについてもドルビーアトモス、DTS:Xに加えて、Auro-3D、MPEG-4 AAC、IMAX ENHANCED、360 Reality Audio(MPEG-H 3D Audio)と、現在のサラウンド音源をほぼ完璧にサポート。さらにハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置しない環境でも、後方、高さ方向を含めて、一体感のあるサラウンド体験が可能になるバーチャル技術「Dolby Atmos Height Virtualizer」や「DTS Virtual:X」も対応済だ。

 さらに本質的なクォリティに関わる部分についても、均一なクォリティを約束する、全チャンネル同一かつディスクリート構成のパワーアンプ回路、音質に影響を与える振動を効果的に抑制するダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクションなど、上級機譲りの高音質技術が目白押し。もちろん最新のネットワークオーディオ機能を提供するHEOSテクノロジーも搭載済だ。

 まさにクラスを超えた充実した内容だが、ここで気になるのは、AVR-X3800HとAVR-X4800Hの違いだ。外観、サイズ/重量、機能性と、その内容は瓜二つだが、価格差は13万円以上。この価格の違いは、いったいどんなところにあるのだろうか。

 AVR-X4800Hの優位性として、メーカー資料から分かることは、上位モデルと同じ福島県にある白河オーディオワークスでの生産、各パワーアンプ回路を独立基板に配置し、それぞれ個別に電源供給を行なうモノリス・コンストラクションの採用、本来あるべき信号波形を復元するAL32 Processing Multi Channelの搭載、アナログ映像入力(コンポーネント1系統、コンポジット2系統)の装備、本体質量が約1kg重いといったところ。日本国内生産とすることで、細かな調整が求められ、仕上がりに手間のかかる技術、機能を装備しているということだろう。

 

DENON

AV CENTER
AVR-X4800H
¥313,500 税込

●型式:11.4chプロセッシング対応AVセンター
●定格出力:125W+125W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.05%、2ch駆動時)
●搭載パワーアンプ数:9
●接続端子:HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力6系統(RCA×5、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1)ほか
●寸法/質量:W434×H167×D389mm/13.4kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112

 

AV CENTER
AVR-X3800H
¥181,500 税込

●型式:11.4chプロセッシング対応AVセンター
●定格出力:105W+105W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.08%、2ch駆動時)
●搭載パワーアンプ数:9
●接続端子:HDMI入力6系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力6系統(RCA×5、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1)ほか
●寸法/質量:W434×H167×D389mm/12.5kg

 

 

堂々と自然体のサウンドがお見事。確かな実力を備えたAVR-X3800H

 では実際にどのくらいの実力の差があるのか。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のUHDブルーレイを中心に再生し、両者のパフォーマンスの違いを確認していくことにしよう。まずAVR-X3800Hだが、アンプとしての素姓を把握するために私の愛聴CD『フェイマス・ブルーレインコート/ジェニファー・ウォーンズ』を再生してみると、堂々とした落ち着きのあるサウンドを聴かせる。高域、低域ともに表現がオーバーになりすぎず、あくまでも自然体で、音源の持ち味を素直に引き出すタイプだ。

 

接続図

AVR-X3800H/X4800Hともに、7.1chシステムにトップミドルスピーカー1組2本を追加した7.1.2構成で視聴した。両機種ともに、5.1.4構成での再生も単体で可能だが、今回は7.1.2再生を試した

 

 

 続いて『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の再生。冒頭シーン、危険に満ちた神秘の星パンドラの森をバックに、壮大な自然を印象づける音楽が拡がり、虫の音、鳥のさえずり、動物の唸り、鳴き声が部屋中に散りばめられる。空間の広さは中庸だが、1音1音の明瞭度は高く、危険に満ちた神秘的な森の空間にグッと引き込まれる。

 続いて海辺の楽園を思わせる美しい映像が続くチャプター23。ジェイクの子供たちが海辺で泳ぎを学ぶシーンで、海中の生物の色鮮やかな映像に目が奪われるが、この時の地上と水中の空間、空気感の「音としての切り替わり」にドキッとさせられる。

 岩場から海に飛び込んだ瞬間、ブクブクという効果音とともに、視聴室全体がにわかに海中に引き込まれ、多彩な生き物とたわむれ、ふれあいながら浮遊するように描かれる。そして主人公ジェイクの息子、ネテヤムとロアクの息が続かなくなり、水上に浮かび上がるが、その瞬間、視聴室は再び地上の空気に逆戻り。一瞬のうちに視聴室全体を水中から地上へと切り換えてしまう、空間表現の描き分けは実に新鮮。そこで子供たちの会話が拡がるが、各自の声の強弱/トーンの変化から、キャラクターたちの遠近感、そして位置関係が把握できる。

 さらにその外側には優雅な音楽が広がり、視聴室を包み込むが、微細な響きと声が空間を浮遊する様子も実に清々しい。これはまさに優れたS/N感とていねいに追い込まれた位相特性のなせる技。AVセンターとしての基本性能の高さを実感させてくれるパフォーマンスだった。定価18万1500円のAVセンター1台で鳴らしているとは思えない……、X3800Hの確かな実力を再認識した。

 

AVR-X3800H

AVR-X3800Hは、8K対応のHDMI入力6系統、同出力3系統を備える充実した端子の装備が魅力。9chアンプ内蔵で本機本体で5.4.4あるいは7.4.2構成のサラウンドシステムが駆動できる。さらに11.4chプリ出力も備えており、外部パワーアンプを追加することで7.4.4構成にまで拡張できる

 

本体内部は前方に電源部とパワーアンプブロックを、後方に多層階構造で各種基板を組み込んでいる。X4800Hとの最も大きな違いはパワーアンプブロックが、チャンネルごとの基板に分割しておらず、そのための内部の部品配置も異なっている点だ。機能的にはほとんど同等であり、その意味では極めてコストパフォーマンスが高いともいえる

 

AVR-X3800Hの頭脳というべき、DSPチップは、AVC-A1HやAVR-X4800Hなどの上級機と同じSHARC(シャーク)の最新世代チップを搭載。デノンのAVセンターが新世代機へ移行する同じタイミングで開発されたため、同じチップが使われているが、X3800Hの価格帯を考えると異例ともいえる高性能チップの搭載だ

 

 

開放感に富んだ、高鮮度の音で、音場空間を支配するAVR-X4800H

 続いてAVR-X4800H。ジェニファー・ウォーンズのCD再生だが、全帯域にわたって気持ちよく音が吹き上がり、ストレスを感じさせない空間の広がりが清々しい。音の勢いに加えて、微小信号の再現性に余裕があり、その場の空気感も鮮明。声は艶っぽく、しなやか。手を伸ばせば届きそうなほどの鮮度の高いサウンド。おのずと期待が高まる。

 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』冒頭部を再生。パンドラの森が映し出され、風の葉擦れ、虫の音、鳥の鳴きと、細かな効果音が散りばめられるが、その空間がX3800Hでの再生よりもひと回り大きく、さらにその外側に拡がる音楽も深く、厚みがある。

 そしてここで引きつけられたのが、しんみりと「The Songcord」を歌うネイティリの声だ。母親としての決意を感じさせるように、落ち着いた表情で、ゆったりと歌うが、ほのかな震えを感じさせる微細な響きが伴ない、悲しげな雰囲気も感じ取れる。彼女の複雑な心境をここまで克明に描き出すとは……。

 続いてチャプターの23の海辺のシーン。地上と水中の空間の変化の描き分けについては、X3800Hとの差はそれほど大きくない。ただ子供たちが海に潜り、泳いでいるときに感じる水の動き、泡のブクブクとした描写がより鮮明で、その外側には音楽、コーラスがいっそう高く、深く拡がる。

 大振幅、微小振幅を問わず、基本的な情報量が豊かで、なおかつ低音の描写に余裕があるためなのか、海の雄大さ、さらにはそこで遊ぶことの楽しさまで、よりダイレクトに感じ取れる印象だった。このあたりの表現力はさすがだ。

 そしてX4800Hへの信頼が確かなものとなったのが、ジェイク夫妻の長男ネテヤムの死を受けて、ジェイクとネイティリがスパイダーとともに、娘たちの救出に向かうチャプター64からのシーンだ。手に汗する場面が矢継ぎ早に展開されるが、実在感の高いセリフに加えて、臨場感を盛り上げる効果音、鑑賞者を作品に引き込む音楽と、入念に作り込まれたサウンドデザインが手にとるように分かる。

 小声での話し声や息づかいから、銃声、爆発音などの大振幅の音まで、絶対的な情報量が豊かでありながら、ダイナミックレンジが広い。キリを人質にとられ、激しい戦いの場面から、一転して静かなやりとりに切り替わるが、この時の緊迫感の表現も聴き応えがあった。

 

AVR-X4800H

AVR-X4800Hは、X3800Hと機能的にはほぼ同じであるが、スピーカー端子以外の端子配置が違うことからも理解できるように内部構造は大きく異なっている。機能面での最大の違いは、アナログ映像入力端子(コンポジット映像2系統と色差コンポーネント映像1系統)を備えていること。いずれも内部的にデジタル映像に変換してのHDMI出力となるが、アナログビデオデッキやLDプレーヤーなどのアナログ映像機器をお使いの方は注目したい機能だ。本機能は最上位機のAVC-A1Hにも搭載されていない

 

AVR-X4800Hの内部。前方に電源とパワーアンプブロックを、後方に基板関係するという配置自体はX3800Hと変わらないが、パワーアンプが、チャンネルごとの基板構成に変わっていること、それに伴ない、信号処理基板から、ケーブル配線ではなく、接続用基板を介しての信号供給となっている点が異なる。ケーブルの引き回しもシンプルとなり、ノイズ面でも有利な設計が施されている。なお、X4800Hは福島県白河にある同社のオーディオワークスで生産されている「メイド・イン・ジャパン」製品でもある

 

パワーアンプブロック。チャンネルごとにアンプ基板を分割し、その基板9枚をヒートシンクにマウントした「モノリス・コンストラクション・パワーアンプ」の採用がX4800H最大の特徴だ。この方策は、AVC-X6700HやAVC-X8500H/HAなどで採用されたデノン製AVセンターのハイパフォーマンス化の常套手段。チャンネル間の相互干渉を徹底的に抑制し、音場空間の再現性向上に大きく寄与する

 

 

 整ったエネルギーバランスで肌合いがよく、開放感に富んだムービーサウンドを楽しませてくれるAVR-X3800H。持ち前の分解能の高さに加えて、その場の空気感まで支配してしまうほどの制動力を備えたAVR-X4800H。価格を考えるとX3800Hは実に魅力的。ただ予算的に余裕があるのなら、思い切ってX4800Hを選びたい。デノンの最高峰AVセンターAVC-A1Hに通じるクォリティ感は極めて貴重だ。

 

その他のシステム
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300Ⅱ(L/R)、PLC350Ⅱ(C)、PL200Ⅱ(LS/RS)、PL100Ⅱ(LSB/RSB)、イクリプスTD508MK3(トップミドルL/R)、イクリプスTD725SWMK2(LFE)

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』