デスクトップ環境からARC端子の活用でテレビまで。多種多様な機器と連携できる高性能D/Aコンバーター

 僕は新進気鋭ブランドが目の前に現れると、とても気持ちが高まる性分だ。なぜなら、これらのブランドから発売される製品の多くが、斬新な機能やユニークなデザインを引っ提げていることが多いからだ。

 今年7月、まさにそのイメージ通りのD/Aコンバーターが世に放たれた。ポーランドで創業されたFerrum Audio(フェルム・オーディオ)の「WANDLA(ワンドラ)」である。

 

D/A Converter
Ferrum Audio WANDLA
オープン価格 (実勢価格46万2,000円前後)

●型式 : D/Aコンバーター
●接続端子 : デジタル音声入力6系統(USB Type C、同軸、光、AES/EBU、ARC、I2S)、アナログ音声入力1系統(RCA)、アナログ音声出力2系統(RCA、XLR)、ほか
●寸法/質量 : W217×H50×D206mm/1.8kg
●問合せ先 : (株)エミライ

 

 

 注目していただきたいのは同社が歩んできた沿革だ。設立者で現CEOのマルチン・ハメラ氏は、ポーランドのワルシャワ工科大学で電子工学を学んだ後、HEM社を立ち上げ、1998年より2015年までマイテック・デジタルのプロ/コンシューマー製品開発に強力に関わってきた。現在のスタッフは22名にもおよぶ。

 HEM社は、2019年に自社ブランド「フェルム・オーディオ」を立ち上げ、オーディオ業界への参入第一弾としてDCパワーサプライ「HYPSOS(ヒプソス)」を発売。リニア電源とスイッチング電源のハイブリッドシステムや、リモートセンシングによる安定した給電供給能力を備え、クォリティの高い製品として大きな話題となった。フロントの有機ELパネルに表示されるメニューを操り、5~30Vの間で出力電圧を、0.1V単位で可変できるし、誤操作への配慮も万全。使い勝手も素晴らしく、日本に登場した当時、“こんな強化電源を待ってました!”と、僕は自宅用システムに導入した。

 実はHEM社は、チップや回路、ソフトウェアまでの多くを自社で開発可能、数少ない垂直統合型生産を実現できるオーデイオメーカーである。

 現在は、D/Aコンバーター兼プリアンプ「ERCO(エルツォ)」、ヘッドホンアンプ「OOR(オア)」なども発売、いずれも好評を博している。

 

幅217mmのいわゆるハーフコンポサイズに、多種多様な入出力端子類を装備している。USB端子はパソコンなどで採用が増えてきたType Cコネクターとなる。ハイレゾ対応USB DACではUSB Type B端子を搭載している製品が多いが、次ページで説明している通り、USB Type C端子の接続は、今回の取材ではトラブルフリーで、極めてスムーズに再生ができた

 

写真①

写真②

写真③

写真④

本体画面はタッチ式液晶画面となっており、トップメニュー(写真①)から様々な設定が直感的に行なえる。本機を使ううえでのポイントは、「Slow PCM Upsampling Type」のデジタルフィルターの設定(写真②)、音量レベルを固定にするか/可変にするか(写真③/バイパス・オンで音量固定になる)、可変音量設定時にデジタルボリュウムを使うか、アナログボリュウムを使うか(写真④)になろう。なお、アナログボリュウムは高品位チップで名高いMUSES 72323を使用している

 

付属リモコン。小ぶりだがボタン配置がよく整理され、使いやすさも上々

 

 

ハーフサイズ筐体に強力な回路を満載。多様なデジタルフィルターも見逃せない

 そんなフェルム・オーディオの最新製品WANDLAをレビューしよう。シャーシ幅は既存モデルと同じ217mmとコンパクト。フロントパネル左側にはブランドの名称となった「鉄」の元素記号を表すラテン語“Fe”が刻まれ、高解像度のタッチ式液晶パネルを搭載する。デザインの善し悪しは主観も混じるだろうが、僕の目からは、無骨な中に美しさも感じられるたいへん秀逸なデザインだと思う。

 背面部にはUSB Type C、同軸/光のS/PDIF、デジタルバランスAES/EBUに加え、I2Sのデジタル入力(コネクターはHDMI端子)を搭載する。本端子の搭載により、HDMI端子によるI2S出力を搭載する先進的なトランスポートや小型のワンボードパソコン「ラズベリーパイ」などと接続できるのが嬉しい。さらにARC(オーディオ・リターン・チャンネル)対応入力(コネクターはHDMI)も装備する。

 オーディオ回路部については、DACチップにESSテクノロジー製DACチップES9038PROを搭載し、電流バッファーを設けた新開発のI/V(電流/電圧)変換回路の搭載に加え、ARMチップベースの自社開発「SERCE」モジュールを搭載する。

 近年のD/Aコンバーターは、多機能化や多フォーマット対応のために、多くのICチップを搭載する製品が増えている。WANDLAではUSBレシーバーや独自開発フィルター、MQAデコーダーなどで一般的に5チップ構成で用いられる回路チップの構成を、1チップに集約し、最短のシグナルパスを実現。しかもアナログ回路部は全段バランス構成としたこだわりようだ。

 さらに、WANDLAでは音色や音調を可変できる合計5種類のデジタルフィルターが用意されていることも見逃せない。ES9038PROチップが内蔵している3種類のフィルターに加え、現在ハイレゾファイル再生のマニアたちから高い評価を得ている再生ソフトウェアHQ Playerを手掛けているSignalyst社のJussi Laakso氏と共同開発した、独自のガウスフィルター「HQ Gauss」とアポダイジングフィルター「HQ Apod.」を利用できる。

 

リファレンス的な音調が秀逸。純正電源追加は効果が非常に大きい

 WANDLAの能力を確認すべく、デノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 Limitedのアナログ出力(接続①)と、同機から同軸デジタル出力してWANDLAにつなぎD/A変換したアナログ出力(接続②)とを比較試聴した。つまり、DCD-SX1 Limited内蔵のDAC回路による接続①とWANDLAのDACで接続②の音質対決となるわけだ。

基本的な音調を確認するため、今回はまずデノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LimitedでCDを再生、SX1からアナログ出力した音(接続①)とSX1から同軸デジタルケーブルでWANDLAとつなぎ、そこでのアナログ変換した音(接続②)を比較した。合わせて接続②の状態でWANDLAに内蔵するデジタルフィルターの違いでの音質傾向もチェックした

 

 ホリー・コールのCD『ドント・スモーク・イン・ベッド』を用いて比較開始。接続①の音は重心が低く、ヴォーカルやベースの存在感も秀逸だ。WANDLAのアナログ回路を介した接続②は、まず「HQ Gauss」フィルターを選択して再生。フラットな帯域バランスのイメージで、ヴォーカルの質感表現やバックミュージックとの描き分けも優れている。ピアノタッチと余韻がもたらす空間表現も広大で、接続①と比較しての優位性を実感した。

 続いて、ネットワークトランスポートにデラN1A/3を使い、USB Type A/USB Type C型ケーブルでWANDLAとつないだ(接続③)。メロディ・ガルドーのハイレゾファイル『オントレ・ウー・ドゥ』(44.1kHz/24ビット/FLAC)を再生すると透明感抜群のサウンドで、ピアノタッチ、ヴォーカルの口元の動きが実にリアル。クセのない音色表現と、空間表現に立体感を覚えるリファレンス的な音の出方が秀逸だ。

次にUSB端子で、ハイレゾファイルの再生を試す(接続③)。今回はデラのミュージックサーバーN1A/3のUSB TypeA端子と、USB Type A/同Cのコネクターを備えたケーブルをつないだ。準備段階でアップルシリコン搭載のMacBook Airと両端がUSB Type Cケーブルを使った連携も試したが、いずれの機器でもまったく問題なくスムーズに互いの機器が認識された

 

 前述の通り、WANDLAはデジタルフィルターの切替え可能であることが特徴の一つだが、フィルターごとにディテイル表現の硬さ/あるいは柔らかさ、空間の広がり、音楽的なスピード感などに差異が感じられる。簡潔に説明するなら、DACチップ内蔵フィルターは、輪郭にエッジがありつつ分解能に優れたサウンドで、「HQ Gauss」と「HQ Apod.」は、分解能の高さを際立たせるというよりも、アナログ的なテクスチャー、音楽性が感じられる。

 WANDLAは、固定出力のほかに可変出力も可能で、その音量調整も、デジタル方式とアナログ方式の2種類が選択できる。可変出力を使えば、パワーアンプやアクティブスピーカーとダイレクトに接続できるので、シンプルでダイレクトかつ、豊富な情報量を活かした構成も可能となる。2つの音量調整回路の音質傾向を表現するならば、デジタルボリュウムはストレートかつダイレクトな質感表現、アナログボリュウムは力感に満ちて、よりウォームな表現というところだろう。

 固定出力に戻して純正パワーサプライのHYPSOSからの電源供給を行なう構成を試したが、これが今回の試聴のハイライトとなった(接続④)。実に素晴らしい音質向上効果が体感できたからだ。静寂感、ピアノタッチのリアルさや実体感などが大きく向上。全方位的な意味合いで、音質が向上したのが聴き取れた。何よりアーティストが音に込めた情感がより伝わってくる音に変化したのである。

フェルム・オーディオの初号機HYPSOSは、高品位な電源供給が可能なDCパワーサプライ。それを活用して給電を行ないグレードアップが可能な点もWANDLAのセールスポイントだ。写真下はHYPSOS(下)とWANDLA(上)を専用DCケーブルでつないでいるところ(接続④。それ以外のケーブルは外している)。この状態ではWANDLAの音質キャラクターはほとんど変化せずに、S/N感や実体感、サウンドステージ表現、ニュアンスの緻密さなど、いわゆるオーディオ的な品位が大きく向上したのは本文の通りだ

 

 ARCの音も試した。つまりWANDLAをリビングオーディオの核として使うという発想でのシステム構成だ。レグザの有機ELテレビ48X9400Sにパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1を接続、48X9400SのHDMI ARC端子とWANDLAをHDMIケーブルでつないだ(接続⑤)。エリック・クラプトンのUHDブルーレイ『Lady In The Balcony』から「Tears in Heaven」のステレオトラックを再生した。アコースティック楽器の良質な質感表現がよく捉えられた本ディスクだが、WANDLAのARC端子経由で奏でる音は、テレビ経由で聴いているとは思えないほど、ギターとベースの音がクリアーで、分解能が高い。マイクの前で体を動かすクラプトンのわずかな声の変化もリアルに表現し、臨場感に優れた音が得られた。

今回の取材の仕上げとして、テレビとの連携も試した。レグザの有機ELテレビのHDMI ARC対応端子からHDMIケーブルでWANDLAのARC端子につなぎ、テレビからの2chリニアPCM音声を再生した(接続⑤。テレビのデジタル音声出力設定は事前に「PCM」にしておく必要あり)。テレビから「戻った」音声とは思えないほどのグレードの音が体験できた。2chシステムとテレビとの連携をWANDLAを介して高品位に行なえる点で実に有意義な機能だ

 

デスクトップからリビング環境まで様々な機器と連携が図れる高性能機だ

 ハイレゾファイル再生の黎明期からUSB対応D/Aコンバーターは花形の存在だった。WANDLAはコンパクトなシャーシでありながら、幅広い入力端子の装備で、様々な機器との組合せが柔軟に可能。そして内部は実質剛健かつ理路整然としたデジタル/アナログ回路構成により、リファレンス的なサウンドキャラクターが特徴だ。本格的なオーディオシステムの環境から、注目度が高まっている高品位デスクトップオーディオ環境まで小型シャーシのおかげでスムーズに設置できる。しかもARC入力を備えたことでオーディオビジュアル環境との親和性が高いことも特筆したい。小型/本格D/Aコンバーターとして、たいへん強力な1台の登場である。

取材はHiVi視聴室のほか、土方さんのご自宅視聴室でも行なっている。スピーカーはJBLのL100 Classic75、パワーアンプはコードのUltima 3

MacBook ProとWANDLAとをUSB Type Cケーブルでつなぎ、デジタル音声をアナログ信号に変換。WANDLAからは、可変レベル出力でコードのパワーアンプにつなぐ

 

視聴に使った機器
●有機ELテレビ : レグザ48X9400S
●SACD/CDプレーヤー : デノンDCD-SX1 Limited
●ミュージックサーバー : デラNA1/3
●プリメインアンプ : デノンPMA-SX1 Limited
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300II

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』