谷崎潤一郎の不朽の名作『卍』を令和の時代に合わせてリメイクした『卍』が、井土紀州監督の手によって創られた。令和版の光子を演じるのは、近年話題作・注目作への出演が続く新藤まなみ。そして、その光子に翻弄される女性・柿内園子には、百合作への出演を多く経験している小原徳子がキャスティングされている。ここでは、令和版卍の魅力をW主演の二人に聞いた。

――よろしくお願いします。まずは出演の経緯を教えてください。
新藤まなみ(以下、新藤) 私はオファーをいただいての出演でしたけど、当初はどちら(園子、光子)を演じるかは、決まっていませんでした。ただ、プロデューサーさんとお話した際は、園子にまとまりそうな雰囲気ではありました。ただ、私自身は女性として光子に惹かれるところがあったので、光子がやりたいです! と希望は伝えていました。

――光子に惹かれたところは?
新藤 天真爛漫で、自由に生きている、軽やかな女性というところですね。でも内面は繊細で、寂しがり屋で、感情には素直に反応してしまう。そういうところは自分と似ているなと感じました。私自身も明るいキャラだと思われていますが、反対な部分もありますし(実は陰キャなんです)、悩みもありますし、なりたい自分になかなかなれないという葛藤もありますから、自分が憧れるような女性(園子)との関係がある。どんな人が(園子役に)来るんだろうって、楽しみでした。

――園子役の小原さんと顔合わせした時は?
新藤 いやもう、めっちゃ園子だ! って思いました。

――プライベートで小原さんを落としには行かなかったんですか?
新藤 もちろん行きましたよ(笑)。一緒にスイーツを食べに行きました!!

――小原さんは?
小原徳子(以下、小原) 私も新藤さんを見た時に、めっちゃ光子だ! って思いましたね。ひまわりみたいで、パっと人を引き付けるような魅力のある笑顔を見て、光子そのものだなって感じました。

――ただ、これまで小原さんが演じてきた役柄は、妹的な立ち位置が多かったように思います。
小原 だから今回は頑張りました! 普段の私よりも強く大きく、がっしりとしている印象を表現するように、いつもと違う自分を思いっきり出しました!

新藤 それは感じました。素の部分では、意外と甘えてくれるところはありましたけど、役柄ではバシッと綺麗でかっこいい女性を演じられていて、そのギャップにやられました。役を外した時に見せる、ねえねえみたいな可愛い表情がいっぱい見られました。

――ところで小原さんの出演の経緯は?
小原 私はオーディションで、しかも、最初は落ちたと思っていました。主にはプロデューサーの方とお話をしていて、その様子を監督が横から見ているという雰囲気で、普通に終わりましたから、あまり手応えがなかったんです。

――受けようと思った動機は?
小原 『卍』という作品自体、何回も映画化されていて、それが令和版としてリメイクされることに強い興味を惹かれたからです。加えて私自身、女性との恋愛作への出演経験はありましたから、私がやらずして誰がやる(笑)! という気持ちで臨みました。

――狙っていた役は?
小原 最初から園子です! 企画書を読んだ時から、私も趣味で写真を撮っているなど共通するところも多いし、女性に翻弄される感覚・感情が、スッと自分の中に入ってきて、これは絶対にやりたいって思いました。

――先にお聞きしますが、園子を演じるにあたって、随分と声質を変えていますね。
小原 はい! 少しトーンを落として、経営者として自信のある振る舞いを表現するようにしています。

――では少し話を戻しまして、役作りについて教えてください。
小原 私は結構監督とディスカッションする時間をいただいて、そこでシーンごとに詰めていくという感じで作っていきました。やはり、園子自身、経営者としてしっかり自立している女性でもあるし、強くいたいと思っている。でも、光子と出会って崩れていく。その流れを緻密に作るようにしました。事前にしっかり作っていたこともあって、現場ではスッと園子になれたと思っています。

新藤 私は本当に自由にやって! という感じでしたから(笑)、もちろん事前の役作りはしていますけど、ぶっつけ本番・体当たりみたいな感覚で、現場で生まれるものを吸収しながらやっていったという感じでしょうか。ただ、事前に監督からは、光子はただ雑な人ではないし、元気なだけで人間関係をぐしゃぐしゃするだけの人でもないから、というのは伝えてもらっていましたから、それを踏まえたお芝居は気を付けていました。これからの人生をどうしようという、ある意味宙ぶらりんのような感覚を持っていて、何かを探している。そんな光子の前に、すべてを持っている(仕事・家庭・優しい旦那)園子が現れて! 自分の劣等感が憧れに変わって、やがて愛欲の関係に没頭してしまう。その流れに身を任せたっていうところですね。

――そういう光子は、園子を蜘蛛の巣に絡めていく……ような雰囲気はなかったですね。
新藤 この人たちをはめてやろうとか、思い通りにしてやろうということはないですね。私も仲間(そっちの世界)に入れてよという感覚で、一緒の景色を見たい、溺れてみたい。そういう感覚だと思いますが、結果としてごちゃごちゃになってしまった、と。それこそが令和の“卍”なのかなって。

――ちなみに、光子はまず園子の旦那である孝太郎と出会いますが、いきなりモーションをかけます。}
新藤 それが光子なんですよ(笑)。人懐っこいんです。こいつに決めた、ロックオン、という感じではなくて、誰にでもふわっと自然に出てきてしまうんです。

――でも、カフェの店主には出ないんですね?
新藤 いつも怒られているので、なにか違うんでしょうね。

――さて、小原さんに伺います。園子は、光子からの微かな誘いを受け、はじめは拒否しますが、最後には一線を越えてしまいます。
小原 でもやっぱり、本当は超えちゃいけないと思っていたと感じています。撮影を海ではなく、街中でしていたら、超えていなかったと思いますね。海に行って、わざわざ自分から光子に溺れてもいいという環境を作って、周りを固めて。そういうお膳立てを自分でして、その状況を作って、もう自分の中で自分に対して断れない状況にしてしまう。それはすごく納得できました。やはり、禁断の愛(の始まり)ってみんなそうなんだろうと思います。とにかく、自分に断れない状況を作って、もうしょうがないじゃん、みたいな感じですね。

 一方で、園子自身にもやはりどこかに光子とこうなりたかったっていう感情が、あの、手を触られた時から生まれていて、それを二人きりで海に行くことで、自分自身を開放できる状況に持っていったのだと思います。

――観る者からしたら、光子は、孝太郎に続いて、園子にもモーションをかけているようにも見えました。
新藤 飲み会で手に触れるところは、(園子と)キスしたい、何したいということはなくて、単純に、(園子って)綺麗だな、手も綺麗だなっていう興味本位からの行動だと思います。けど、その後、海に行った時は、あっもうこの人がいい、この人が好きという感情になっていて、自然と引き寄せられていったと感じています。

――お互いに逃げ場を作らずに、そうなるのを見越して。
新藤 そうですね。(光子は)それは感じていたと思います。最初、手が触れた瞬間にはぐらかされるところから思うところが生まれて、二人きりで海で撮影するっていう状況がもう、付き合う前のカップルみたいでドキドキしますし(笑)、ちょっといい感じになって、お互いに意識してしまって、最後には……止まらないでしょうね。

――そして、一線を越えてしまったら、小原さんがリードしていました。
小原 やっぱりリードしたいんでしょうね。それは台本を読んだ時から感じていて、もっと私に夢中になってよ、という感覚でしょうか。(園子は)もう(光子に)夢中になっているくせに、もっともっというのが強くてリードしたい、という感情の発露だと思います。

 とはいえ、ベッドシーン自体は自然というか、吸い込まれていくような感覚がありました。吸い込まれるように触れ合っていたし、一人の人間として向き合っていたという感じがすごくしました。

新藤 そうですね。それは感じました。私は女性とのベッドシーンは初めてで、型みたいなものがまだ自分の中になかったんですけど、(園子が)リードしてくれる気持ちがすごく伝わってきて、それをサポートできるように、受け身になるだけじゃなく、自分も一緒になって溺れていく……。そういう感覚でいました。

――盛り上がってきたところで、攻守(?)交代します。その際の光子はどんな感情でいたのでしょう。
新藤 もうどうにでもなれ! って正直思っているんですけど、どこかで、ちょっと待ってこれ大丈夫? ヤバいことしていない? というブレーキがかかってしまって……。一瞬、常識が邪魔してきましたけど、結局、好きならいいじゃんという気持ちが強くなったというところでしょうか。そこからは、光子もリードするようになりますね。

――一線を越えてしまうともう、園子は光子の虜になってしまいますが、一方の光子は……。
新藤 すごく嬉しいし、こんなにシンプルに人のこと愛せるのって素敵だなって思う反面、怖くなってしまって。幸せすぎて怖い、っていう感覚でしょうか。この人と一緒にいたら楽しいし、満たされるんだけど、満たされすぎると何か罰が当たるんじゃないかっていう不安が大きくなってしまった、と。

小原 そこまで光子(恋愛)に集中できるのも羨ましいですね。一歩引いて小原として見てみると、そこまで没頭できるものって、なかなかないんじゃないかなって思います。でも、人間にはそういう時が訪れてしまうんでしょうね。開けてはいけない扉を開けてしまった。そういう感覚で演じていました。

――少しネタバレ的なことをお聞きしますが、幸せな時間は長続きしません。
新藤 ね。私(新藤)だったら、泣いて、泣いて、泣きわめくと思いますけど、光子は人に弱さを見せないし、それは女性としての芯の強さだと思うんです。だから、お芝居ではグッとこらえて、光子の意思の強さを表現するように頑張りました。ラストシーンがクランクアップでしたので、これが終わると光子とも園子とも本当にお別れなんだなという寂しさを感じながらの撮影になりました。

――泣かないというだけでなく、あの状況を光子はよく受け入れられましたね。
新藤 気持ち的には本当に嫌なんですけど、そこに味があると思いますし、受け入れること自体が、光子の強さでもあると思います。

小原 本当にそのシーン・瞬間は、お互いにすべての感情をさらけ出してしまったから、そうなるしかないだろうって思いますし、だからこそ園子も受け入れられたのだろうと感じています。けど、今そのシーンを思い出しても、(その時の)感情が蘇って来て泣けますね。まあ、これが令和の卍なのだと思います。

――最後の最後に、もう一仕掛けあります。
小原 ねっ(笑)。一度知ってしまった味は、忘れられない、と。これ以上はネタバレになるので。

――では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
小原 本作を観て、名作ってこういう風に時代に沿って受け継がれていくんだなっていうのを、皆さんに感じていただきたいです。今後もさまざまな時代で映像化されていく作品だと思いますが、その一個の分岐点が本作だったんだな、新たな卍って自由に作れるんだなって思いながら、本作を楽しんでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

新藤 何度も映画化されている作品への出演には、正直プレッシャーも大きかったです。でも、令和の今の感覚も取り込みながら、「卍」という作品の魅力をすべて詰め込んでいると思うので、一人でも多くの人に観ていただきたいと思います。よろしくお願いします。

映画『卍』

9月9日(土)より新宿 K’s cinemaにて公開 ほか全国順次ロードショー

<キャスト>
新藤まなみ 小原徳子
大西信満 黒住尚生 明石ゆめか ぶっちゃあ(友情出演)/ 仁科亜季子

<スタッフ>
監督:井土紀州 脚本:小谷香織 企画:利倉亮 郷龍二 プロデューサー:江尻健司 北内健 アシスタントプロデューサー:竹内宏子 撮影:田宮健彦 照明:金城和樹 録音:山口勉 美術:中谷暢宏 編集:桐畑寛 助監督:森山茂雄 制作担当:山地曻 山田剛史 メイク:五十嵐千聖 スタイリスト:大平みゆき スチール:阿部拓朗 音楽:宇波拓 整音・音響効果:藤本淳 キャスティング協力:関根浩一 北野裕子 営業統括:堤亜希彦 制作:レジェンド・ピクチャーズ 配給協力:マグネタイズ
2023年/日本/104分/カラー/ステレオ/R-15作品
(C)2023「卍」製作委員会

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