シャープから発売された「AN-SX8」は、首に掛けるだけで臨場感溢れるサウンドが楽しめる、ウェアラブルネックスピーカーだ。さらに立体音響のドルビーアトモスにも対応し、いっそうの没入感を再現できるよう進化している。そんなAN-SX8に注目したのが、えびなやすのりさんだ。えびなさんは現在放送中のTVアニメ『呪術廻戦』で音響監督を勤める音のプロで、同時に熱心なホームシアター愛好家でもある。今回は、リビングで立体音響を楽しむ手段としてのAN-SX8が気になっているというえびなさんに、そのサウンドを体験してもらった。(Stereo Sound ONLINE・泉 哲也)

AQUOSサウンドパートナー:AN-SX8(市場想定価格¥39,600前後)

テレビ等と接続する送信機。eARC対応HDMI端子や光デジタル入力、アナログ入力を備えている。接続状態が確認できるLEDランプ等も搭載する

●使用ユニット:フルレンジ×2、ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM
●通信方式:Bluetooth5.3
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、LC3(LE Audio)
●接続端子(送信機):HDMI(eARC対応)、光デジタル音声入力、3.5mmアナログ入力、USB Type-C(給電用)
●対応サラウンドフォーマット:ドルビーアトモス、MPEG-4 AAC 22.2ch
●再生サラウンドモード:ダイレクト、オプソディス1、オプソディス2、ドルビー、クリアーボイス
●連続再生時間:約16時間
●寸法/質量:W227×H46×D181mm/約260g(本体)

——今日はえびなやすのりさんに、ご自宅でシャープのAN-SX8を体験いただいた感想をうかがいたいと思います。えびなさんは熱心なホームシアター愛好家で、ご自宅の近くに13.2.10のドルビーアトモス対応システムを備えたホームシアターを設置されています。その様子はStereo Sound ONLINEでの度々紹介させていただきました。

えびな そうですね。潮 晴男さんや山本浩司さんにもおいでいただきました。おかげで結構満足できるホームシアターができたのではないかと思っています。

——そんなえびなさんが、なぜウェアラブルスピーカーのAN-SX8に注目されたのでしょうか?

えびな ホームシアターは趣味の部屋ですが、同時にパッケージソフトの解析のための場所でもあります。各チャンネルの音量レベルがわかるようなアプリも入れているので、ついついそれを使って分析的に見てしまうんです。しかも最近は仕事が忙しく、なかなかホームシアターに行けない。なので、自宅のリビングでもドルビーアトモスが体験できたらいいなぁという期待がありました。

——ご自宅でも立体音響を楽しみたいと。本当に映画がお好きなんですね。

えびな こういう仕事をしていることもあって、自宅でテレビを見ていても音が気になってしまいます。リビングには薄型テレビとサウンドバーを設置しているんですが、視聴位置が離れているのでセリフなども聴き取りにくいんです。子どもたちも同じ場所にいるのでボリュウムを上げるわけにも行かないし、なかなかリビングで落ち着いて映画を楽しむことはできませんでした。

AN-SX8は首にかけてサラウンドサウンドを楽しめるウェアラブルスピーカー。本体天面にはサラウンドモードの切り替えやミュートボタンを、側面には電源や音量ボタンを備えている

——なるほど、それでAN-SX8が気になっていたと。実際に使ってみていかがでしたか?

えびな 面白かったですね。セリフやナレーションという意味では、AN-SX8を使った方が聴きやすかった。バラエティ番組などを見ても、それぞれの出演者の発言内容がよくわかったのです。

 サラウンド音場は、横方向にカットしたスイカ(球体)の下半分をかぶっているような響き方といったらいいのかな。前方や横方向に音場が広がってくる印象で、結構作品に没頭できる瞬間もありました。

——ちなみにどんなコンテンツをご覧になったんですか?

えびな テレビ放送や、内蔵アプリを使ってDisney+の『マンダロリアン』やNetflixの『ハート・オブ・ストーン』といったドルビーアトモスコンテンツをチェックしました。他にも『イカゲーム』も見ています。

 リビングのサウンドバーもドルビーアトモス対応ですが、さっきお話したようにセリフの通りがいまいちだし、高さ感もぱっとしないんです。そのため、ドルビーアトモスの配信もリビングで見るのはもったいないなぁと思って後回しにしていました。今回はそれらをまとめて見てみました。

——AN-SX8ではドルビーアトモスの効果は感じられましたか?

HDMI端子はeARC対応で、テレビなどの対応端子とHDMIケーブルでつなぐだけで、放送やパッケージ、配信のサウンドを楽しむことができる(別途電源供給は必要)

えびな 最初は音場の広がりが物足りなかったんですが、サラウンドモードを「ドルビー」にしたら、セリフがふっと持ち上がって、サラウンド空間も広がってきました。もうちょっと高さ感の表現ができたらよかったんだけど、思っていた以上に楽しめましたよ。

 AN-SX8には「ダイレクト」「OPSODIS1」「OPSODIS2」「Dolby」「クリアボイス」の5種類のサラウンドモードが搭載されていますが、個人的には「Dolby」モードが一番サラウンド感も自然に感じられたので、今回は「Dolby」を中心に視聴しています。

 自分が担当したアニメの2ch放送も「Dolby」で再生したほうが、意外と広がりがあって面白かったですね。放送もこっちで見た方がより楽しめるかな、と思ったくらいです。

——2chコンテンツもアップミックスを入れたほうが印象がよかったと。

えびな もちろんニュースなどは「ダイレクト」でもいいかもしれませんが、映画やドラマ作品なら「Dolby」モードがあっている気がしますね。

 ただAN-SX8は電源をオフにすると「ダイレクト」モードに戻ってしまうんです。個人的には全部「Dolby」で聴きたいと思っていたので、毎回モードを切り替えるのが手間でした。サラウンドモードのメモリー機能も搭載してくれるといいですね。

——音質はいかがでしたか?

えびな 厳しい言い方をすればレンジ感や高域の伸びはもうちょっと欲しいなぁと思いました。一方で低音の再現性はよかったです。低域再生に「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」という方式を搭載しているそうですが、これが結構効果がありました。『イカゲーム』の第1話の音楽シーンでジャズがかかっているんですが、そのシーンの音は、レンジ感は狭いんだけど、低域に骨太な感じがあってよかったです。

ACOUSTIC VIBRATION SYSTEMは、本体上部(肩のあたり)に搭載されたジャバラ状のユニットで、再生される低音に合わせてここが伸び縮みして振動を発生、装着している人に低音感を与える機能だ

——ACOUSTIC VIBRATION SYSTEMは、本体に搭載されたジャバラ状の振動ユニットが、低音に合わせて伸縮することで音と一体化した振動を感じることができるという、シャープの独自技術ですね。

えびな 本体の振動で低音感がそれなりに補間できることもあって、音のバランスもよかったですよ。しかも、何でもかんでも振動するわけじゃなくて、ちゃんと元の音に連動しているのがいい。再生音の低域に合わせてジャバラユニットが動いているので、音楽と爆音での低域の幅の違い、振動の強さの違いがちゃんと再現できているんです。低音の強弱もしっかり感じられるのが面白かったです。

 あと、接続がとっても楽。送信機とテレビのeARC対応端子をHDMIケーブルでつないで、電源をUSB Type-Cで供給するだけですからね。送信機と本体のペアリングは終わっているから、本当に簡単でした。説明書を読まなくても音を聴くことができました。リビング用としてはこの簡単さはありがたい。

——リビングでAN-SX8を使っている時のご家族の反応はいかがでしたか?

えびな リビングで視聴している時に、ソファの隣に子供が座っていたので、“これ、うるさい?” と聴いてみたら、やっぱり音が耳には入っていたようです。でも、うるさくて困るというほどではなかったみたいですよ。しかし、この音量感をテレビの内蔵スピーカーやサウンドバーで出そうと思ったら、もっとたいへんなことになっていたはずです。

 最近は家族でリビングにいる時に僕がテレビを見ていても、子どもたちはスマホをいじっていたりと、みんな別々のことをやっているんです。そんな環境でも、自分ひとりが作品に没入できる環境を再現しつつ、でも他の家族の迷惑になることはなかったので、その点はとてもよかった。

本体は軽量で装着感もよかったとか。「上位モデルとして、もう少しがっしりした筐体で迫力ある低音が再現できるモデルがあってもいいですよね」と、えびなさん

——使ってみて気になったことはありましたか?

えびな 遅延がちょっとあるかな。リップシンクがわずかにズレているのと、爆発音が微妙に遅れるような印象がありました。Bluetooth伝送だから仕方ないかも知れないけれど、もう少し遅延量が抑えられるといいですね。

——なかなか厳しい指摘ですね。

えびな 仕事柄そこはひじょうに敏感なんですよ(笑)。

——他に、AN-SX8で印象に残った点はありましたか?

えびな 今回視聴して、AN-SX8には可能性を感じました。僕自身はドルビーアトモスをきちんと再現したくてホームシアターまで作ったわけですが、ネックスピーカーでどこまでそのサラウンド感に迫れるのかに興味があったんです。

 AN-SX8にはドルビーアトモスとオプソーディスという立体音響技術が搭載されていて、今回はドルビーアトモス作品をメインに聞きましたが、ふたつの「OPSODIS」モードも微妙に違いがあって面白かったですよ。

 この技術もまだまだ発展していくだろうし、どんどん突きつめていけば、バーチャル再生であっても、高さ感もちゃんと出してくれるネックスピーカーが登場するんじゃないかと思ったのです。

 AN-SX8は接続性や使い勝手はなかなかいい仕上がりなので、これをベースに、筐体をしっかりしたものにするとか、ユニットの数を増やすといった方向で、改良を続けて欲しいですね。そういった製品が登場すれば、リビングのテレビの音に対する認識が変わっていく、それこそドルビーアトモスで見るのが当たり前という世界ができるんじゃないかと期待しています。