※今回の体験動画はこちら(空気録音あり) ↓ ↓
本記事(動画)の企画は予定外のスタートだった。発端は、僕が6月にステレオサウンドオンラインの取材( https://online.stereosound.co.jp/_ct/17630587 )で、一人の熱心なオーディオファイルの自宅を訪れた際のこと。その人が使うシステムの中に、1台の気になるパワーアンプを発見したのだった。
そのアンプは、イギリスのCHORD Electronics(コード)のパワーアンプ「SPM1200MK II」で、オーナーはフェイスブックのコミュニティ「極☆ネットワークオーディオ」を主催されている菊地洋平さんだ。菊地さんのオーディオルームでは、最先端のネットワークオーディオとアクセサリー類を縦横無尽に使い、ハイレゾファイルのアドバンテージであるリアルな分解能や秀逸なサウンドステージを、B&Wの大型3ウェイ・スピーカー「802D」から表現していた。僕は、そんな菊地さんがSPM1200MK IIを愛用している理由に興味を持った。
なぜなら、日本でコードはDACチップを使わないFPGA回路を持つ「DAVE」「HugoTT2」「Qutest」などのD/Aコンバーターが人気。つまり “デジタル機器に強い” イメージが先行しており、アンプの知名度は高くない。しかし実のところ海外のオーディオマーケットでは、コードのアンプは圧倒的な駆動力およびS/Nのよさと情報量に優れた音質を保有すると、抜群の評価が下されている。そして、何より僕も6月に国内最上位のモノーラルパワーアンプ「Ultima 3」を導入したばかりのコードアンプユーザーなのである。
最先端のネットワークオーディオとアクセサリー類を使いこなした、
菊地洋平さんのオーディオルーム
<菊地邸の主なシステム>
●PC:オリオスペック Canarino fils9 ver.3 Core i9 12th
●プレイヤー:Gentooplayer ver.8.0
●NAS:Synology DS923+
●クロック:ミューテック REF10 SE120
●スイッチングハブ:SOtM sNH-10G(銀線、クロック入力付)×2
●ルーター:NEC Aterm BL3000HM
● D/A コンバーター:Holo Audio MAY DAC Level 3 KTE
●ディレッタターゲット:DST-00
●プリアンプ:CHORD CPA8000
●パワーアンプ:CHORD SPM1200MK II
●AV センター:デノンAVC-A110
●スピーカー:B&W 802D(フロント)、他
●サブウーファー:ヤマハ YST-SW1500×2
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同じメーカーのアンプユーザーということで、取材の合間に「コードのアンプいいですよね〜。なんでもっと知られていないのだろう」とたいへん盛り上がってしまった。そこで僕は、後日「最新モデルはかなり音質が上がっているので一緒に聞いてみませんか?」と提案して、それをちゃっかりと本記事にさせてもらったという状況である。
ということで、試聴会は8月中旬に実施された。先述したとおり、菊地さんのシステムは先進かつ独創的なシステムだ。メインスピーカーとなる802D2を駆動するのがSPM1200MK IIだが、気になったらすぐに動き出す菊地さんは、今回の取材前に、コードのフラグシッププリアンプ「CPA8000」(生産完了)も導入してしまったという。この経済力と勢いはすごい。
試聴インプレッションの前に、読者の皆さんへコードパワーアンプの代表的な3つの特長をお伝えしたい。
まず1点目として、コードはパワーアンプにスイッチング電源を使用している。創設者のJhon Franks(ジョン・フランクス)氏は航空宇宙用電源の開発に長期間携わっており、創業当時から、低雑音、高効率、高出力で安定な電源供給能力を持つスイッチング電源を探求してきたのがその要因だ。
現在のスイッチング電源は、電源の連続的な供給能力という意味で、トロイダルトランスを使うアナログタイプにはない強力なアドバンテージを持っている。さらにオーディオ信号に対しての電源インピーダンスが低く、バッテリーに近い特性を持つのもメリットだ。そしてノイズ対策も徹底されている。
コード製パワーアンプの3つの特徴
1)スイッチング電源を使ったAB級パワーアンプ
2)パワー段のマイナーループNFB技術(コード流の新世代フィードフォワード)
3)小型軽量な本体と、唯一無二の外観デザイン
2点目は、パワー出力段のみに対して歪発生を低減させる、マイナーループNFB技術によるデュアル フィードフォワード回路「ULTIMAテクノロジー」の搭載だ。また出力素子にイギリスの宇宙航空分野に携わる半導体メーカーが コード専用に開発したMOS-FETを搭載するなど、強力なスイッチング電源と徹底した歪みの抑制を、現在のテクノロジーにより実現する先進的なアンプなのである。
3点目はシャーシサイズおよびデザインの秀逸性。スイッチング電源を採用したことで、ハイパワーな出力を誇る割にはコンパクトな本体サイズを実現している。また、天板内部とフロントボタンがエメラルドグリーンのLEDで彩られており、コンポーネントとして未来的なデザインも魅力である。
さて、いよいよ3モデルの試聴に入る。順番は(1)「SPM1200MK II」、(2)ステレオパワーアンプ「Ultima 6」、(3)ステレオパワーアンプ「Ultima 5」、(4)「Ultima 6」(低域)と「Ultima 5」(高域)を使って802D2をバイアンプで駆動、(5)モノーラルパワーアンプ「Ultima 3」とした。
試聴ソースは、CDリッピングおよびFLAC、DSDのデジタル楽曲ファイルとした。デジタルファイル再生を探求する菊地さんと僕らしい選曲だと思う。
まず、久石 譲のグラモフォンレーベル移籍後初となるアルバムで、全曲がジブリの宮﨑 駿監督作品の楽曲である『A Symphonic Celebration - Music from the Studio Ghibli Films ofHayao Miyazaki』(44.1kHz/16ビット)と、女性ヴォーカルにはアデル『30』より「To Be Loved Easy on me」(44.1kHz/24ビット/FLAC)を選択。ジャズは『Stereo Sound Hi-Res Reference Check Disc』から、サックスの苫米地義久が率いるトリオ構成の「All the Things You Are」(DSD 5.6MHz)を用いる。
まずはリファレンス(基準)となる音を確認すべく、ステレオパワーアンプSPM1200MK IIの音から聴く。1世代前のモデルだが、4Ω負荷で620Wをギャランティする。その印象をひと言で表現するなら、スピード感が強い鮮烈な音で、「凄いな」と思わず口に出る。
ダイナミクスのある中音域から低音域、ディテイルは少しシャープすぎると感じるほどで、アデルのイントロで演奏されるピアノは適度な色彩感も有しており、久石 譲はひとつひとつの音のエッジが鋭い。「All the Things You Are」で石川 智が叩くパーカッションにはスピード感がある。そしてこの状態でも低域はしっかりとグリップしているように聴こえる。
ステレオパワーアンプ
Ultima 6 ¥1,650,000(税込、写真上)
●形式:AB 級ステレオパワーアンプ
●出力:180W RMS per channel @ 0.005% distortion into 8Ω
●再生周波数特性:-1dB(0.5Hz〜100kHz)
●THD:0.005%
●寸法/質量:W480×H180×D360mm(突起部含まず)/20.0kg
Ultima 5 ¥2,530,000(税込、写真下)
●形式:AB 級ステレオパワーアンプ
●出力:300W RMS per channel @ 0.005% distortion into 8Ω
●再生周波数特性:-1dB(0.5Hz〜100kHz)
●THD:0.005%
●寸法/質量:W480×H180×D360mm(突起部含まず)/21.5kg
続いてUltima 6につなぎ替える。今回の3機種では一番安価なステレオパワーアンプで、「ULTIMA」および「デュアル フィードフォワード」回路を搭載する、SPM1050MKIIの後継モデルだ。8Ωでチャンネルあたり180Wをギャランティする。
SPM1200MK IIとのもっとも大きな差異は、音の密度感が高くなったこと。シャープなディテイルのSPM1200MK IIとは方向性が違い、ソースに対してよりアキュレイトな音色、音調で表現する。低域の迫力など絶対的なパワー感はSPM1200MK IIに譲るが、アデルのヴォーカルはより生身の人間が歌っているように聴こえるし、久石 譲はヴァイオリンやチェロの響きに余裕が出てくる。こう書くと音色的な個性の差だけに聞こえるが、サウンドステージの立体感と広がりはUltima 6が圧倒しており、世代の差を感じずにはいられない。
続いて8Ωでチャンネルあたり350Wをギャランティする、Ultima 5を試す。コードのステレオパワーアンプの最上位モデルである本機は、SPM1200MK IIの後継モデル的な位置付けだ。
世代の差は明確で、大きな音質的ステップアップを果たしている。久石 譲は一聴して音のダイナミクスとスケール感が向上し、高音域から低音域まで全領域の力感と分解能が向上。アデルはピアノ、ヴォーカルともリアルで、声を張り上げた時の感情的な表現力が高まっている。「All the Things You Are」で、ピアノとパーカッションなどタッチのディテイルに曖昧さがなくなるのも印象的。ウーファーの制動力が増すので、全領域の速度感が揃ってくる。
続いてスピーカーの802Dがバイワイヤリングに対応しているので、Ultima 6を低域、Ultima 5を高域に使ったバイアンプ駆動を試した。結果から書くと、きわめて印象的な組み合わせとなった。2台のアンプで駆動される802Dはとにかく音が自然で、歪み感がないのだ。最高だったのはアデルのピアノの倍音の響きで、低域のリアリティが大きく向上するので、クラシック、ジャズとも低音楽器の表現力が増して聴こえる。しかも低域が立定的になっている。
最後はモノーラルパワーアンプUltima 3。8Ωでチャンネルあたり480Wをギャランティする、コードの日本国内最上位モデルだが、さすがに圧巻の再生品質。音が出た瞬間の空気感から違い、「All the Things You Are」は部屋の空気が一変した。位相表現が的確で、音のフォーカスがしっかりと合って、鮮明な音場が出現する。とにかくリアルなのだ。アデルのヴォーカルは音像の彫りが深い上に、自然な形で像を結ぶから最高である。802Dを支配下に置き、持てる能力をすべて出し切るような駆動力の高さに聴き入ってしまった。
モノーラルパワーアンプ
Ultima 3 ¥6,380,000(ペア、税込、受注生産)
●出力:480w RMS @ 0.05% distortion into 8Ω
●再生周波数特性:-1dB @ 0.2Hz to 46kHz and -3dB 0.1Hz to 200kHz
●S/N:-84dB 以上
●チャンネルセパレーション:90dB 以上
●入力インピータンス:100kΩ
●インピータンス:0.04Ω
●寸法/質量:W480×H150×D360mm(突起部含まず)/22.4kg
いかがだったろうか? コードのパワーアンプ群は、ハイレゾファイルやアナログソースに含まれる音を最大限に伝える圧倒的なS/Nと情報量を持ちつつ、現代的な描写力を備えたハイファイな音作りが魅力だった。先述した通り、コードのパワーアンプは日本ではまだ認知度が低いが、音楽のジャンルや曲調を問わず、スピーカーのユニットの能力の秘めたる封印を解くマスターピースとなる存在だと今回の試聴を通して痛感した。
個人的には、徹底的にルームチューニングが行われたメーカーや出版社の試聴室ではなく、実際のユーザーである菊地さんのオーディオルームで取材をできたのは、現実的な音を知ることができて嬉しかったし、同社アンプが海外で評価が高い理由もよくわかり、有意義な時間であった。動画では空気録音も行っているので、僕たちが感じた、パワーアンプによる質感とステージングの差異がわかっていただけると思う。
当日試聴したスピーカーケーブル
Architectura
K2 ¥264,000(2.5m、ペア、税込、写真上)、KEI ¥110,000(2.5m、ペア、税込、写真下)
Architecturaは、コードの輸入販売を手掛けるタイムロードのオリジナルブランド。スピーカーケーブルの「KEI」はスーパーコンピューター「京」の内部配線材をベースに開発された製品で、銀メッキを施したOFC導線に、絶縁材としてジュンフロン被膜を採用した特注の超高性能線材が使われている。「K2」はKEIの持つ解像感とスピード感を継承しつつ、低域成分の音の豊かさを引き出し、全体のバランスを整えた上位ラインナップだ。
提供:タイムロード
『StereoSound Hi-Res Reference Check Disc (BD-ROM+CD) SSRR9~10』
¥15,074(税込)
今回の試聴では、弊社から発売中のハイレゾBD-ROMから、「Allthe Things You Are」(DSD5.6MHz)もチェックしている。このBD-ROMにはCDフォーマットの44.1kHz/16ビットからPCM 384kHz/32ビット(WAV)、DSD11.2MHz/1ビットの最上位のハイレゾフォーマットまで(DSF)、12曲全47音楽トラックを収めており、各フォーマットの音質的特徴を確認できる。ハイレゾ再生システムの比較試聴用としてお勧めです。