『戦国自衛隊』『蘇える金狼』『野獣死すべし』『化石の荒野』『友よ、静かに瞑れ』『伊賀忍法帖』『キャバレー』……。『犬神家の一族』を皮切りにスタートした「角川映画UHDプロジェクト」に新たな人気作が加わる。御存知、『汚れた英雄』の登場だ。

 劇場公開されたのは1982年。ミュージックビデオ風の演出が大胆に採り入れられた、角川映画を率いる角川春樹氏の初監督作品である。当時は映画ファンのみならず、レースシーンに魅かれたバイク少年の多くが劇場に足を運んだ。いまでもローズマリー・バトラーの歌う主題歌を耳にすると、ウォークマンで聴きながらバイクを飛ばしていたあの時代の気分を思い出す方も少なくないだろう。

 4Kデジタル修復版の作成にあたっては仙元誠三撮影監督のもと、撮影当時は撮影部助手(セカンド)だった柳島克己撮影監督がグレーディングを監修している。角川映画UHDプロジェクトには『キャバレー』に続いての参画だ。同シリーズでレストアやグレーディングを担当しているIMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下、Imagica EMS)の各スタッフとの連携もあって、映像は劇場公開時の印象を鮮やかに蘇らせるマスターとなっているのは言わずもがな、本作の場合は制作当時も録音技師として参加していた瀬川徹夫氏が、新たにドルビーアトモス音声を制作していることが大きなトピックだ。

 1960年代から映画界に録音部として関わる瀬川氏は、もちろん現在も数々の作品に参加されている。自宅には氏の個人スタジオがあり、本作のアトモス化に際してはこのスタジオでベースとなるサウンドデザインが施されたという。ここで瀬川氏が制作したイマーシブ音源をもとに、最終的な仕上げをImagica EMSのMAスタジオで行い、「Dolby Atmos 2023 Remix版」が制作されている。

東京・竹芝のダビングステージで、『汚れた英雄』のドルビーアトモスを体験する酒井さん

 瀬川氏と共にその作業を担当していたImagica EMS クリエイティブポストプロダクション部 サウンドエディット&デザイングループのミキサー、望月資泰氏とともにDolby Atmos 2023 Remix版を試聴する機会を得た。「サウンドデザインにはかなり手が加えられているんですよ」と聞けば期待に胸が膨らまないわけがない。本編の大きな見どころであるレースシーンを中心に、ドルビーアトモス化の効果が高いシークエンスを視聴させていただいた。

 これまでパッケージ化の際に5.1chサラウンド化された音源は体験済みだったが、とにもかくにも新たなDolby Atmos 2023 Remix音源には思わず鳥肌がたった。なにしろ音の鮮度感が従来の音声トラックとは格段に違う。望月氏によると、これまでKADOKAWAで保管されていた素材はすべてImagica EMSでデジタイズし、レストアしたものを瀬川氏に委ね、それだけでなく当時の音響効果を担当したスタッフから瀬川氏自身もあらためてSE(サウンドエフェクト)の素材を取り寄せたというのだから驚きだ。

 4K化された絵の情報量に見合うように、確かに音の情報量も増えているのがよくわかる。音の広がりが素晴らしく、サラウンド感がアップ。時に音のパンニングなども含めて、劇場公開時のサウンドデザインをベースに、さらにその音響デザインが分かり易く伝わるように構築されているイメージだ。クリアーになった絵に合わせてサウンドエフェクトもこれまでよりくっきり、はっきりと聴き取れる。

 デジタイズ時のレストアも効いているのだろう、静かなシーンのS/Nのよさも印象的だ。移動感や包囲感のみならず、イマーシブサウンド化されたことによって高さを伴う音楽の表現や、またレースシーンでもカメラ位置によって聴こえてくるSEの高さ方向の再現力も明らかに向上している。時に、音による演出も明確になった。草刈正雄演じる北野晶夫のヒロイズムや孤高感にもさらに磨きがかかっているように伝わってくるのだ。

株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス クリエイティブポストプロダクション部 サウンドエディット&デザイングループのミキサー、望月資泰さん

 Dolby Atmos 2023 Remixは「現代的な音のトーン」「情報量」「迫力」。この3つがキーワードと言っていい。瀬川氏自身が公開当時は出来なかったこと、現在だから出来ることを今回は細部までていねいにサウンドデザインに反映させていらっしゃるのだろう。しかし、最新のイマーシブサウンドだからといってやり過ぎることなく、あくまでも作品の世界観を壊すことなくサウンドデザインをアップデートしたものに仕上げているのは、現在も邦画の最前線でその手腕を振るう瀬川氏ならではの采配、と言える。

 本作は台詞が最小限に削ぎ落された作品。音楽のみならず、実は各シークエンスの持つ意味や描かれている雰囲気を雄弁に語るのは他でもないそれぞれのシーンのサウンドデザインだったのだとあらためて感じた次第だ。

 ドルビーアトモス化によって制作された新たな音声トラックを耳にすると、これは映像もUHDブルーレイに収録されるHDRフォーマットが相応しいように感じた。こちらの完成度にも大いに期待が持てる。『汚れた英雄 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】』は10月13日のリリースだ。

 なお、Imagica EMSでの取材後に、瀬川さん御本人に本作の音作りについてインタビューする機会を得た。そちらについても近々ご紹介します。

「汚れた英雄 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】」(4K Ultra HD Blu-ray+Blu-ray+CD 計3枚組)¥22,440(税込、DAXA-5905) 発売・販売:KADOKAWA

●本編112分●3層ディスク(UHD)+2層ディスク(BD)●カラー●ビスタ●1982年公開/日本●音声:[UHD]1.日本語2023 Remix Dolby Atmos 、2.日本語劇場オリジナル4.0chステレオ、3.日本語劇場オリジナル2.0chモノーラル[BD]1.日本語劇場オリジナル4.0ch ステレオ、2.日本語2.0chステレオ、3.日本語2004 Remix 5.1chサラウンド●字幕:日本語字幕

[同梱特典]●「THEIGNITION KEY OF THE LAST HERO」(A4/ソフトカバー/90P以上)●『汚れた英雄』劇伴CD●アウタースリーブケース付【初回限定特典】※劇伴CDについては、2023年に未使用楽曲を含めた完全版としてCINEMA-KANレーベルよりリリース予定
[映像特典]●「『汚れた英雄』製作会見ニュース」(スポニチ映像) ●TV SPOT 15秒(1種)・30秒(2種※初収録)●特報、予告篇

©KADOKAWA 1982

『汚れた英雄』UHD特典映像ダイジェスト

『汚れた英雄』UHD特典映像

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『汚れた英雄』Dolby Atmos音声映像

『汚れた英雄』Dolby Atmos音声映像

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