『コーダ あいのうた』で、ろう者の俳優として初めてアカデミー助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァーが製作総指揮を務める話題作が日本に上陸した。監督は『パピチャ 未来へのランウェイ』のムニア・メドゥール、主人公のフーリアにはアルジェリア出身のリナ・クードリが扮した。

 舞台は北アフリカのイスラム国家、アルジェリア。フーリアはバレエダンサーを夢見て、日々の特訓にあけくれていた。が、内戦の傷も癒えず、治安のよくない中、彼女は男性とのとあるトラブルによって階段から突き落とされ、大ケガを負う。顔の包帯はとれたものの、脚のコンディションは戻らず、命の糧だったバレエも断念せざるを得なくなった。しかも、あまりに深いショックゆえか、発声が不可能になってしまった。彼女は、自分をこうさせた「犯人」の名前も顔も、まだ街にいることも知っているが、どういうわけか捜査の手は伸びず、犯人は今日ものうのうと生きている。

 大ケガをしても、踊りたいという気持ちは変わらない。ある日、彼女がリハビリ施設を訪ね、心の痛みからろう者になった女性が自分だけではないことを知る。フーリアは彼女たちにダンスを教え、一緒に踊ることで、新たな生きる喜びを見いだしていく。それはバレエのような名人芸を競うようなものではないかもしれないが、ダンス、手話、新しい仲間との出会いによってフーリアが活気づいていくあたりは、この映画にとって大きな希望である。

 こうしたストーリーなのでフーリアの肉声は途中から消え、表情、身振り手振りの表現が主となる。このパートは“鬼気迫る”という形容がぴったりという印象を受けた。「もう取り戻せないものを望むこと」を断念するつらさを、言葉を使わずに、ここまで深く表現するのは並大抵の底力ではないはずだ。また「フーリアが踊る意味」については、ラスト・シーンで流れる楽曲の歌詞で十二分にいいつくされており、このあたりの構成も巧みだと感じた。7月21日から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。

映画『裸足になって』

7月21日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

製作総指揮:トロイ・コッツァー
監督: ムニア・メドゥール
出演: リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ
配給:ギャガ
原題:HOURIA/99分/フランス・アルジェリア/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:丸山 垂穂
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