StereoSound ONLINEではこの春、ビクターのD-ILAプロジェクターユーザー宅を潮 晴男さんが訪ね、使いこなしを指南するリポートを紹介した。その記事に思いがけない反応を示してくれたのが、「季刊HiVi」でソフトレビューを担当いただいている伊尾喜大祐さんだ。

 伊尾喜さんは現在、ご自宅のホームシアターでビクター「DLA-V80R」を愛用中ということもあり、本記事も楽しく読んでくれたという。その際、記事中にあった “ソース機器とプロジェクターは直結した方が好ましいことが多い”という潮さんのコメントが気になったそうだ。実際、ほとんどのホームシアターでは、映像信号はAVアンプを経由してプロジェクターに送られており、伊尾喜邸もそうなっていた。しかし潮さんは直結の方が絵がいいと言っている……。

 “本当にそんなことあるんですか?” という伊尾喜さんからの質問を受けた編集部は、これは自身で体験してもらうしかないと判断し、潮さんと一緒に押しかけ取材を敢行した。HDMIケーブルの交換や、つなぎ方を変えることで絵や音は本当に変化するのか? 今回はそんな奥深いテーマを検証します。(StereoSound ONLINE・哲)

伊尾喜さんに体験いただいたFIBBRの光変換HDMIケーブル。左から「Ultra Pro 3」「Pure3」「ULTRA 8K II」

 今日は伊尾喜さんのホームシアター “シン・イオキネマ” にお邪魔して、HDMIケーブルにフォーカスした視聴を行いたいと思います。

伊尾喜 ようこそ。まさか潮さんにわが家においでいただける日が来るとは思ってもいませんでした。

 とんでもない。呼んでいただければ、いつでもうかがいますよ(笑)。

 前回StereoSound ONLINEで、ビクターの「DLA-V90Rリミテッド」と「DLA-V90R」ユーザーのホームシアターを潮さんが訪問し、それぞれに最適な使いこなしを指南するという企画をお届けしました(関連リンク参照)。すると、その記事を読んだ伊尾喜さんから質問をもらったのです。

伊尾喜 この部屋が完成したのが約1年半前で、その時にプロジェクターとしてビクター「DLA-V80R」を導入しました。ディスク再生機としてパナソニックのUHDブルーレイレコーダー「DMR-ZR1」をメインで使っているので、記事で使われていたシステムもわが家とよく似ていて、調整方法なども参考になりました。

 その中で潮さんが、再生機とプロジェクターの間のHDMIケーブルはAVアンプを通さずに直結にしたほうがいいと発言されていたのです。前々から10m以上になるとHDMIケーブルで画質に違いがあるという話は聞いていましたが、まさかAVアンプを通すことでも絵が変わるなんて思ってもみなかったので、これは本当ですかとメールで質問したのです。

 これはいいテーマをもらった! と思ったので、すぐに潮さんに相談しました。そしたら大いに盛り上がって、伊尾喜邸にお邪魔することになった次第です。

 いい心がけですよ。好奇心はホームシアターのグレードアップには欠かせませんからね。そういうことなら、僕もいくらでもお手伝いしちゃいます。まずはシン・イオキネマの概要から教えてもらえますか?

ホームシアターのために家を建てました。伊尾喜さんの想いが凝縮された シン・イオキネマ

伊尾喜さんの夢の空間 “シン・イオキネマ”。床に段差を設けることで天井高を稼ぐといった工夫も施されている。スクリーンサイズは120インチ/16:9

視聴位置後方には執筆用デスクも並ぶ。スピーカーは6.1.6構成で、サラウンド&サラウンドバックスピーカーはオンウォール型、トップスピーカーは天井埋め込み型をチョイス

プロジェクターのDLA-V80Rもひじょうに綺麗に取り付けられている。HDMIケーブルは、インストーラーと相談のうえ12mのメタル線を壁内通線している

伊尾喜 一昨年の暮に家を建てる際にこの部屋を作りました。というか、ホームシアターのために家を建てたといった方が正確かもしれません(笑)。広さは15畳ほどで、天井高を稼ぐために、視聴エリアは半地下になっています。

 スクリーンはキクチの「シャンティホワイト」(120インチ/16:9)で、プロジェクターは「DLA-V80R」、再生機はパナソニックの「DMR-ZR1」と「DP-UB9000」を使い分けています。AVアンプはデノン「AVC-X8500H」で、スピーカーはイマーシブオーディオ対応の6.1.6構成です。フロントが
KEF「R7」、サラウンド/サラウンドバックはダリ「OBERON ONWALL」を使っています。サブウーファーはKEF「kube 10b」です。

 素晴らしいねぇ。HiVi読者の優等生システムだ。

伊尾喜 ありがとうございます。何しろHiViは40年前から愛読していましたので、影響力絶大です(笑)。

 ところで、今はHDMIケーブルは何を使っているのかな?

伊尾喜 AVアンプとプロジェクター間のHDMIケーブルは壁内通線しているため、長さが12m必要でした。ただ、以前光変換HDMIケーブルを試した時に動作が不安定だったので、今回はインストーラーさんと相談して、カスタムのメタル線HDMIケーブルをオーダーしました。

 最近は光変換チップもかなりよくなっているから、互換性も問題ないと思いますよ。というか、逆に10mを超えるメタル線ではよほど頑張らないと信号減衰による映像への影響があるんじゃないかな。特に将来的に8K映像を伝送しようと思ったらメタル線では難しいだろうから、そういった展開も踏まえてケーブルを選んだ方がいいでしょうね。

 今日はFIBBRの光変換ケーブルを3種類用意していますので、順番につなぎかえて確認してみましょう。お値段順に「Ultra Pro 3」「Pure3」「ULTRA 8K II」で、長さは10mです。

 まずはAVアンプのAVC-X8500HとプロジェクターDLA-V80Rの間のHDMIケーブルを交換したら、どんな風に映像が変化するかを確認します。再生機はDMR-ZR1で、AVC-X8500Hとの間のHDMIケーブルは伊尾喜邸のメタル線をそのまま使います。

伊尾喜 ソース機器とAVアンプ間のHDMIケーブルも、プロジェクターと同じものを特注で作ってもらいました。長さは1.5mです。

ホームシアターのために家を建てました。伊尾喜さんの想いが凝縮されたシン・イオキネマ

スクリーンを上げたフロントサイド。薄型テレビの両サイドのラックには、伊尾喜さんのお気に入り作品や、これまで手掛けてきたディスクが並んでいる。スピーカーの横には2体のゴジラが

AVアンプやレコーダー等は作り付けラックに収納されている。ここにはケーブルの配線がしやすいようにとの特別な工夫も(後段コラム参照)

伊尾喜シアターの主なシステム
●プロジェクター:ビクター DLA-V80R
●スクリーン:キクチ シャンティホワイト(120インチ/16:9)
●有機ELテレビ:レグザ 65X9400
●UHDブルーレイレコーダー:パナソニック DMR-ZR1
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニック DP-UB900
●AVアンプ:デノン AVC-X8500H
●スピーカーシステム:KEF R7、ダリ OBERON ONWALL、他
●サブウーファー:KEF kube 10b

 視聴ソースは、おふたりに馴染みの深い作品から、UHDブルーレイ『スター・ウォーズ/エピソード4』冒頭と、『ターミネーター:ニュー・フェイト』のチャプター13をご覧いただきました。

 さて伊尾喜さん、絵に違いはありましたか?

伊尾喜 ……はい。はっきり違いがありました。というか、思った以上に差があるもんだなぁと驚きました。

 最初にメタル線からUltra Pro 3につなぎ変えた時点で、『スター・ウォーズ〜』の冒頭の星空の再現性とか、ダース・ベイダーのケープの見え方、ベイダーのヘルメットの削り出しの感じなど、手作り感満載の『エピソード4』ならではのディテイルがよくわかりました。絵の変化、質感の違いが確認できたのです。

 『ターミネーター〜』は、僕自身は見慣れたソースではなかったので、潮さんにどこがチェックポイントかをうかがって、そのあたりを中心に確認しました。サラ・コナーや女性ターミネーターたちが、アーノルド・シュワルツェネッガー演じる旧型ターミネーターの家を訪れますが、時間帯が夜から朝に移り変わるシーンで光の加減がどんどん変わっていきます。その光の再現性が、なるほどこういう風に変化するのかというところに、わかりやすく差が出てきていました。

 いいところに気が付きましたね。最初のメタル線も、絵に安定感があるしS/Nもよかったですね。黒側が若干沈み気味だけど、色もよく乗っているし、12mのメタル線でこれだけの映像が再現できているのは立派だと思います。

 Ultra Pro 3に交換しても、S/Nや解像感はそれほど極端な差はありませんでした。ただし、輝度、コントラストは上がる方向で、全体が明るく見えてきた。そのぶん色味は少し薄くなっているけれど、そこについては黒を沈める方向でコントラストのバランスを取っている、そんな印象です。

 『スター・ウォーズ〜』では、帝国軍がレイアの船(タンティヴIV)に乗り込んできた時の船内の壁やストームトルーパーの白の再現に驚いたし、『ターミネーター〜』では、夜から朝に移り変わる時の日差しのピーク感などが出てきました。ただその差はわずかで、ケーブルを交換しましょうと伊尾喜さんに薦める程ではないかなと感じたのも事実です。

デジタルケーブルで絵や音が変わることがない、はもう古い!? FIBBRのHDMIケーブルで検証

Ultra Pro 3 ¥42,900(10m、税込、写真左)、¥31,900(2m、税込、写真右)
 FIBBRの最新モデルにして最廉価の光変換HDMIケーブル。HDMI2.1の8K/48Gbps 対応で、光変換チップには、FIBBR オリジナルを採用している

Pure 3 ¥80,300(10m、税込、写真左)、¥51,700(2m、税込、写真右)
 2年前に発売されたモデルだが、未だに多くのユーザーから人気を集めているという。HDMI2.1の8K/48Gbpsに対応しており、Silicon-Lineの光変換チップを採用している

伊尾喜 Ultra Pro 3で『ターミネーター〜』を再生した時にFOXのロゴが出てきましたが、これまで見てきたロゴとは明るさがはっきり違ったのには驚きました。

 それだけ輝度のロスが少ないということですね。そこがUltra Pro 3の持ち味でもあるでしょう。

 Ultra Pro 3は今年1月に発売された、FIBBRとして一番新しいHDMIケーブルで、同社オリジナルの光変換チップを使っています。上位モデルとの違いは光ファイバーの素材と、チップのグレード(対応信号の差)になるようです。

 Ultra Pro 3は比較的はっきりした絵作りで、クリーンな表現が魅力です。ただ個人的には、DLA-V80Rとシャンティホワイトの120インチという組み合わせなら、もう少しヌケ感と黒の安定性が欲しい。そこをもう一歩グレードアップしたいですね。

 次にPure3をご覧いただきました。こちらは2021年5月の発売で、今回の3モデルでは一番古い製品です。もともと「Pure2」というFIBBRのトップモデルがあって、Pure3はその改良版です。Pure2は自社製の光変換チップを使っていたようですが、解像度は4Kまでの対応でした。そこで8K信号に対応するためにドイツのシリコンライン製の光変換チップを搭載して開発されたケーブルがPure3です。

伊尾喜 ひとつうかがいたいのですが、光変換チップの性能でそんなに絵が変わってくるのでしょうか?

 かなり影響しますよ。光変換HDMIケーブルの場合、入力された電気信号をいかに正確に光信号に変えるか、逆に受け取った側ではどれくらい正しく電気信号に戻せるかが肝といってもいい。もちろんファイバー線自体の差もないとは言いませんが、まずは光変換チップがポイントですね。

伊尾喜 なるほど。Pure3とUltra Pro 3はその光変換チップも違うから、絵の印象が変わったんですね。

 それも一因でしょうね。全体的な絵のグレードも、Pure3はUltra Pro 3よりワンランク上という印象です。

絵や音がどのように変化するかを、潮さん、伊尾喜さんの愛視聴盤で確認した。StereoSound ONLINE読者にもお馴染みの作品が並んでいる

伊尾喜 『スター・ウォーズ〜』で言えば、冒頭の星空の見え方がかなり変わって、何でこんなに星に立体感がつくのかな? と不思議でした。また、タトゥイーンの近くの星がオレンジに光っていたことに、今日気がつきました。40年この作品を見てきたのに、まだ “新たなる発見” があったんです!

 どちらもピーク感が伸びているんだけど、その中の白の階調はPure3の方が豊かです。そこがUltra Pro 3とPure3の違いかもしれません。

伊尾喜 続くシーンでも、船内の壁を構成するパーツの素材や白色の差が見えてきて、思わず「え!」と声を上げてしまいました。宇宙戦の内壁はピュアホワイトなんですけど、そこにくっついているケーブルカバーなどのパーツはクリーム色寄りの白だったんです。白色の差がそこまで描き分けられていることに、ちょっと驚きました。あと、C-3POのボディの陰影が、HDMIケーブルを変えることでさらに出てきました。

 汚しの技が見えました。これはPure3で初めて分かったことです。

伊尾喜 C-3POのボディは金色だけど、使い込まれて汚れていることを感じさせてくれます。『スター・ウォーズ』シリーズはウェザリングの美学が大きな特長ですが、ここまでやっていたのかと、Pure3で見ると改めてびっくりしました。またR2-D2のホロプロジェクター下のカードスロットがいい感じにひしゃげているのもわかって、これじゃメモリーカードも詰まるよね、と気が付いたのです。

 『ターミネーター〜』は、夜から朝への光の変化が明確に分かるようになりました。加えて、陰影がより出るようになったせいか、サラの顔に刻まれた皺が浮き上がってきています。また旧型ターミネーターが椅子に座っているカットでも、彼が黒いシルエットの中にいて、まだ善なのか悪なのかわからないということを光で演出しているという狙いが伝わってきました。

 ヘリのシーンでは、サラたち3人が写っている時にバンディングノイズが出てきます。その見え方が、Ultra Pro 3ではあまり目に付きませんでした。しかしPure3に変えたらノイズが見えてきた。でもこれはもともとディスクに入っている情報なので、見えてくるのはいいことなんです。しかもPure3ではそれを嫌なノイズではなく、情報として上手に再現しているので、まったく気にならなかった。これも面白かったですね。

 『スター・ウォーズ〜』でも星の数が増えているし、ディテイルの再現も向上しているのがひとめで分かりました。これくらい情報が出てくればHDMIケーブルを交換する意味も出てきます。

ULTRA 8K IIの画質・音質は一見の価値あり。構造の違いも注目したいポイントだ

ULTRA 8K II ¥308,000(10m、税込、写真左)、¥115,500(2m、税込、写真右)
 価格相応というわけではないだろうが、ULTRA 8K IIのパフォーマンスは頭ひとつ抜けていた。光変換チップはFIBBRオリジナルで、対応信号は56Gbps/8K@60Hz/4K@120Hz/10K@120Hzを実現している

ULTRA 8K IIとUltra Pro 3ではケーブル内部の構造も異なっている。図の1が映像信号を伝送する4本のファイバーで、他はメタル線が使われている。2はARC用、3はCECの制御信号、4はクロックといった具合だ

 最後に、FIBBR製HDMIケーブルの現行最上位モデル、ULTRA 8K IIをご覧いただきました。お値段もぐんと上がりますが、いかがでしたでしょうか?

伊尾喜 僕はブルーレイ制作の仕事もしていますが、そこでは映像・音声マスターが持っている情報をいかに劣化させずに収録できるかを重視しています。その見方で言うと、あぁここまでの信号がこのディスクに入っていたのかということを実感させてくれたのが、ULTRA 8K IIでした。

 『スター・ウォーズ〜』でも、星の数云々という変化ももちろんありましたが、一番驚いたのは光線が力強かったことです。冒頭でタンティヴIVに向けてスター・デストロイヤーから発射される緑色の光線がしっかり見えるんです。ボケていないと言うか、光線のエッジがしっかり立っているし、発色もより鮮やかになっているので、攻撃性、力強さが際立ってきます。

 ストームトルーパーとの撃ち合いでも、ブラスターの赤が力強く、これは当たったら痛いだろうなっていう、身の危険を感じる表現になりました。そんな色が出ていたことが、Pure3とULTRA 8K IIの最大の違いでした。ULTRA 8K IIは、より元々のソースに近い、オリジナルに肉薄した情報の再現力を備えているということを実感しました。

 『ターミネーター〜』では、木漏れ日を受けて光る木々の葉が、立体感豊かに浮き上がっています。人物よりもそっちに目がいっちゃうぐらいに森の立体感が凄い。人物についても、女性ターミネーターの肌が3本のケーブルの中で一番柔らかく見えました。

 彼女はアンドロイドなので皮膚の上につなぎ目の線が入っているんですが、その継ぎ目がより明瞭になって、異質なものがここにいるんだという存在感が際立ってきました。また彼女が守っている少女・ダニーの肌もツルツルで、もともと写っていたのはこれだったのかなっていうことを実感させてくれたんです。これには脱帽、納得感がありました。

HDMIケーブルのつなぎ方で絵が変わるのか? という何気ない質問を発したがために、取材を受けることになってしまった伊尾喜さん。さてその結果はいかに

 テクスチャー感は一番ですね。伊尾喜さんのおっしゃる通り、『ターミネーター〜』の女性の肌や木々の葉っぱも自然で、見ていて納得の再現です。バンディングノイズを含めて、情報の描き方が上手なケーブルだなぁと思って見ていました。

 今回視聴したFIBBRのケーブルに共通しているのはピーク輝度の再現ですが、ULTRA 8K IIは、朝日の中でヘリコプターが着陸する森の様子や、木漏れ日のひとつひとつも美しく再現しています。単純に明るくなっただけじゃなく、階調のスムーズさ、光の回り込みの自然さがありました。

 また、ピーク輝度は上がっているのに、色が浅くならないのがいい。『スター・ウォーズ〜』では、ローライトのシーンでC-3POやR2-D2の塗装の塗りの差もちゃんと出ている。明るいところの色のつき方もしっかりしていますね。これはPure3とも違うなぁと感じました。

 冒頭の星の光の収束感もかなり変化しました。遠くの星は弱々しく、近くの星は力強い。黒が締まって、同時に白側の階調性も伸びているから、これだけバランスのいい絵を再現できるのでしょう。C-3POの金ピカ具合も他の2本とはまったく違うね。

伊尾喜 そうでしたね、この色再現とメタルの質感は素晴らしかった。

 『ターミネーター〜』のヘリが森の中に着陸するシーンでの、少しカメラが引いたカットでの木の葉の再現、細かさや、ダニーとサラの会話シーンでの光の柔らかい再現など、ULTRA 8K IIは素晴らしいですね。

伊尾喜 HDMIケーブルがよくなると、それだけソースに忠実な絵が再現できるようになっていったということがよくわかりました。

 さて次は伊尾喜さんが一番気になっていた、ソース機器とプロジェクターを、AVアンプを経由してつないだ時と直結した場合で絵が違うのかについての検証です。HDMIケーブルには先程の視聴で一番印象がよかったULTRA 8K IIを使い、つなぎ方による絵の違いを見比べました。

 伊尾喜さん、これだね。この立体感はULTRA 8K IIの直結でしか出てこない!

執筆用デスクの後ろには、こちらも伊尾喜さんが制作に関わったディスクがずらりと並ぶ。この棚はスライド式で、その後ろにはパッケージの収納スペースが設けられている

伊尾喜 同じ『スター・ウォーズ〜』の冒頭シーンなのに、まだ星の数が増えちゃうんですね。う〜ん、ここまで違うと急いでつなぎ方を変えないといけないかなぁ(笑)。

 小さい星が消えていたことが、直結に変更したら初めてわかりました。AVアンプの映像回路を通したことで、微細な情報が失われていたのかなぁ。

伊尾喜 タンティヴIVのドアの凹凸感の再現も凄かったし、ドアに小さな黒丸が4つあったことに初めて気がつきました。また光線のバリバリ感や、C-3POとR2-D2のボディに、傷とこびりついた汚れの両方があったことが明確に分かりました。こんなに違うのなら、『スター・ウォーズ』シリーズのファンは一度ULTRA 8K IIの直結の絵を見ないと駄目ですね(笑)。

 『ターミネーター〜』のチャプター13の冒頭も、夜がもっと暗くなって、黒の安定性、沈みがいっそうよくなっています。サラの顔の皺、彫りの深さも違ってきました。

伊尾喜 非常灯の赤い照り返しも、強すぎず、ほどよいバランスになった気がします。また早朝にヘリが飛んでくるカットと森に降下するカットでは、同じ流れで撮っているんでしょうが、ちょっとずつ明るさを変えてグレーディングしているのが分かります。ちゃんと時間経過を考えているんですね。

 もともとグラデーション再現も優れているケーブルだと思ったけど、レコーダーと直結したら、いっそう素直な絵になりましたね。

伊尾喜 木漏れ日の再現がとにかく凄い! 早朝の感じが本当によく出ますね。

 サラの皺と、女性ターミネーターの肌の継ぎ目も生々しく再現できています。画面全体で陰影表現がワンランク上がっている。これなら伊尾喜さんにも、直結のメリットをわかってもらえますね。

伊尾喜 もちろんです。ディスク製作者としては、この環境でもう一度自分が手掛けたディスクを見直さないといけないなぁと痛感しました。

取材用のHDMIケーブルは長さ10mを準備し、DMR-ZR1とAVC-X8500H/DLA-V80Rの間を毎回つなぎ替えました

 最後に、光変換ケーブルで音も変わるのかというテーマも確認しました。映像と同様に、Ultra Pro 3、Pure3、ULTRA 8K IIの3種類で、長さ2mのタイプを準備しましたので、DMR-ZR1の音声用HDMI出力とAVC-X8500Hの間のケーブルを交換して、音の違いを聴いていただきます。映像はDMR-ZR1とDLA-V80RをULTRA 8K IIで直結しています。

 視聴ディスクは、潮さんがプロデュースしたCD『情家みえ/エトレーヌ』から「ムーン・リバー」を2chピュアダイレクトで、UHDブルーレイは『スター・ウォーズ/エピソード4』のチャプター49「王座の間」をドルビーアトモスで再生しました。

 HDMIが絵と音を伝送するようになってから、CDなどの音楽ソースもHDMIで伝送されることが多くなってきました。今日では、HDMIケーブルによる音楽再生のクォリティもとても重要ですから、この検証はとても大きな意味があります。

伊尾喜 僕自身は、HDMIケーブルによる音の違いをこれだけきちんと確認したのは初めてでした。最初のUltra Pro 3では、うちのメタル線も結構頑張っているかな、と思いました。

 というのも、音の印象に大きな差がなかったんです。ただ、どちらも音場が中央に固まる傾向で、ちょっとお団子になっているかなぁという気はしています。例えば「ムーン・リバー」では、ヴォーカルの減衰が早く、響きがすっと終わってしまうような印象がありました。また高音部分にざわざわっとした音が乗っているような気がしました。

 『スター・ウォーズ〜』は今まで聴いてきた音の印象に近い。当時劇場で聴いた、あるいはレーザーディスク時代から慣れ親しんできたドルビーサラウンドの音が最新のサウンドになっている、そんな感じでした。

 Ultra Pro 3の音は、少しあっさりしている印象があって、聴き応えがもう少し欲しいなぁと感じました。「ムーン・リバー」の情家さんのヴォーカルもそれなりに聴かせるんだけど、もう一味深みが欲しいかな。声の芯というか、シンガーの体格まで再現して欲しいと思いました。

グッドアイデア発見! 作り付けAVラックには、ケーブル配線用の小窓を準備

シン・イオキネマの作り付けAVラック天面には小窓が設けられており、ケーブルのつなぎ替えを上から見ながら簡単に行えるようになっている。これはインストーラーから施工時に提案されたとか

ULTRA 8K IIは、信号の伝送が確認されると内蔵LEDが点灯する

伊尾喜 次にHDMIケーブルをPure3にしたら、「ムーン・リバー」ではピアノ、ヴォーカル、スネアの音が綺麗に分離して、それぞれの細部まで聴き取れるようになりました。ステレオ音源なんだけど、立体的で、音の定位感が変わってきたのです。ピアノの倍音に乗っているノイズっぽさもなくなって、高域まで綺麗に伸びてきました。そこが一番印象的でしたね。ヴォーカルも艶っぽさが出てきて、やっぱり情家さんはいい声をしているなぁと、素直に思いました。

 うちのCDに素晴らしいコメントをありがとうございます(笑)。

伊尾喜 『スター・ウォーズ〜』は、ブラスがメインのメロディを奏でて、それを受ける形で、左サラウンド側で弦楽器が鳴るんです。そこでも、これまで聴いたことがないくらい、弦の高域が綺麗に再現されました。解像感がだいぶ違うぞと思ったんです。

 あと、レイアがハン・ソロとルークにメダルを授与するシーンで、トレイからメダルを取る時のカチャっという小さい音が、重さと質感を伴って聴こえてきて、こんな音だったんだという驚きがありました。

 Pure3は演出感もなく、音に落ち着きがありますね。『スター・ウォーズ〜』のサラウンドでは、音場の構築感、構成力がしっかりしてきた。ちゃんと音に包まれているし、楽器の構成、演奏の広がりなどがしっかり感じ取れました。

 バランスも整っているのでじっくり聴くにはいいケーブルだと思いました。派手さはないけど、音楽やサラウンドを楽しむのなら間違いなくお薦めです。

伊尾喜 ULTRA 8K IIに交換すると、「ムーン・リバー」でベールを剥がしたような鮮明さがありました。Pure3とULTRA 8K IIの間には、かなり薄いけれど、ベールが確実にあったようで、音の純度がさらに高くなったのです。またULTRA 8K IIは音の消え際が綺麗で、自然にす〜っと減衰していくんです。情家さんの声の余韻が気持ちよく、これには参りました!

 ピアノやスネアについても、歌が流れてる間は伴奏として引き立てているんだけど、間奏に入ると存在感が増してくるという違いがちゃんと出てきてびっくりしました。ヴォーカルの存在を引き立てつつ、ちゃんとセッションしているんです。

 『スター・ウォーズ〜』のサラウンド再生は、絵と同様にソースが持っている情報をすべて出してくれる、そんな印象がありました。このミキシングで、こういう定位感で、こういう響きを聴かせたかったんだなっていうことを感じさせてくれます。ただ、ちょっと分析的で、全部の情報が聴こえてきちゃう、そんな気はしました。

オーディオビジュアルの深みを体験するには、ケーブルへの配慮も忘れては駄目。
伊尾喜邸が次の次元に進むためにも、ぜひ!

 たかがケーブル、されどケーブル。ケーブルを笑うものは、ケーブルに泣く、とは、僕がこれまであちこちで書いてきたことである。ケーブルはつながりさえすれば、絵も音も出るが、それでは本当のオーディオピジュアルの世界には程遠い。

 何もいきなり高額なケーブルを使えと言っているわけではなく、システム全体のバランスを考えてケーブルを選んで欲しい。分かりやすく説明すると機器のお値段の20%程度までがアクセサリーへの投資額としては適正範囲だと、僕は考えている。

 伊尾喜邸の場合、プロジェクターが「DLA-V80R」(¥1,705,000、税込)だから、HDMIケーブルは30万円程度の製品まで候補になる。将来的な発展性を考えるなら8K対応も視野に入れておきたいし、4Kや2Kの映像を伝送する場合でも8K対応ケーブルはS/Nや階調性に違いが出るので、ここはひと頑張りして欲しい。

 音声信号の伝送については光変換HDMIケーブルでもいいが、経験的にはグレードの高いメタルケーブルの方が高品位なサウンドを再現できることも多いので、このあたりは好みのサウンドを選択するといいだろう。(潮 晴男)

 ULTRA 8K IIはいい音なんだけど、個人的にはもう少し厚みがあってもいいかな。ディテイルまで聴こえ過ぎるというか、若干中高域に色づけがあるなぁという気がしました。

伊尾喜 ULTRA 8K IIはすべての音が聴こえてくるので、スタジオのモニター用にはぴったりかもしれません。ホームシアターとかホームオーディオの世界で使うには、僕個人にはトゥーマッチな印象が、正直ありました。

 ハイレゾ音源のすべてのディテイルまで聴きたいと言ったユーザーには向いているかもしれない。

伊尾喜 仕事柄、ここまで情報が聴こえてしまうと、そっちに耳が寄って行ってしまうかな。僕の音の好みで言うと、低域の豊かさなどでPure3がよかったですね。映像ならULTRA 8K IIなんですが。

 絵と音で同じHDMIケーブルを使わなくてはいけないわけじゃありませんから、映像用はULTRA 8KIIで、音声用はPure3といった選択もありますよ。

伊尾喜 あれ、もう映像用にULTRA 8K IIを導入する話になってます?

 でも、今日の絵を見たら、他は選べないよね〜。

伊尾喜 ……(苦笑)。

 そうそう、映像のチェックで3種類のHDMIケーブルをつなぎ替えた時に、音の印象も変わったんですよ。Ultra Pro3、Pure3、ULTRA8K IIの順番で音圧があがって、迫力も出てきた。不思議なんだけど、映像用HDMIケーブルを変えることで、音にも影響があるんですよね。

伊尾喜 潮さんもそう思いましたか? 確かに印象が違いましたよね。となるとやっぱり映像はULTRA 8K II……。

 結論としては、伊尾喜邸へのお薦めは映像がULTRA 8K IIの12m、音がPure3の1.5mかな。入れ替えたらまた絵と音を確認に来ますよ。

伊尾喜 いやいや、まずはPure3から検討しますので、ゆっくり考えさせて下さい。

HDMIケーブルの種類やつなぎ方が絵にも音にも影響することを実感しました!
でも潮さん、なんてものを見せてくれたんですか……

 ここまで変わってしまうとは!

 現状のメタルケーブル「ATS 399Tin-B」の品質には満足していたし、事実、AVアンプとプロジェクターの間をほぼ同価格帯のFIBBR「Ultra Pro 3」に入れ替えた際には、輝度ピークの若干の変化以外には特に……だったのだ。

 ところが「Pure3」に入れ替えた途端に目を疑うレベルで映像のコントラストが改善され、質感や立体感が深みを増したからびっくり。

 さらに価格差約4倍の「ULTRA 8K Ⅱ」に至っては、見慣れたディスクにここまでの情報が入っていたのかと、もうスタジオマスターをチェックするかのような分析的な感覚で見てしまう有様。

 そして最大の驚きは、UHDブルーレイレコーダーとプロジェクターの直結映像。細やかな映像ディテイルと質感の向上を、確かに目の当たりにした!

 もう素直に白旗である。足元がずぶずぶと、底なしのケーブル沼に沈み始めた。潮さん、なんてものを見せてくれたんですか……。(伊尾喜大祐)