第二次世界大戦前の1939年、ハリウッドを舞台にしたスキャンダルにまつわる事件をリーアム・ニーソン扮する探偵フィリップ・マーロウが解き明かすサスペンス・ドラマである。映像もサウンドも時代背景にマッチした作りで少し古めの演出。そんな中、「突然姿を消したかつての愛人を探してほしい」と事務所を訪ねてきた依頼人のクレア・キャベンデッシュを演じるダイアン・クルーガーのフェイス・トーンの美しさが際立つ。

 原作はベンジャミン・ブラックの『黒い瞳のブロンド』で、レイモンド・チャンドラーの探偵フィリップ・マーロウ・シリーズ『ロング・グッバイ』の公認続編である。

 監督はアイルランド出身のニール・ジョーダン。脚本はウィリアム・モナハンとニール・ジョーダンが書き下ろし、同じくアイルランド出身のリーアム・ニーソンは本作で彼の監督作品に4度目の出演となる。そのためかどうかわからないが、ロケはロスアンゼルスのほか、スペインのバルセロナとアイルランドのダブリンでおこなわれている。

 リーアム・ニーソン自身「ずっと演じてみたかった役柄」と述べているように、記念すべき100作目にしてのマーロウ役である。ぼくにとってリーアム・ニーソンと言えば『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ=ガン・ジン役が印象に強く残っているので、その後の主演作『96時間』などのハード・ボイルドな役回りには多少驚きもあった。そうしたイメージが今の彼を作り上げていることは間違いないが、本作はこれまでとは一味違う姿を見せてくれる点もファンには興味深いと思う。

 ハリウッド作品にしては音楽もSEも抑えめで、ハイライトの銃撃シーンを除けばどちらかと言えば寡黙な作りなので、リーアム・ニーソンらしいドンパチアクションを期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、ダイアローグ活劇に仕上げられた内容はいぶし銀の演技とともに見応え充分。またこの時代の車や衣装と言った大道具、小道具の類には目を見張る。

 撮影はアリのAlexaにカールツァイスのレンズを組み合わせた4K版だが、光の回り込みを巧みに使った映像がミステリアスな雰囲気を醸し出す。当時のハリウッドの映画界の闇を描くサスペンス・ドラマをぜひ劇場でご覧になっていただきたい。

『探偵マーロウ』
(2022年/アイルランド・スペイン・フランス/英語/109分/カラー)

<ストーリー>アメリカ・ロサンゼルスに事務所を構える探偵フィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)を訪ねてきたのは、見るからに裕福そうなブロンドの美女クレア(ダイアン・クルーガー)。「突然姿を消したかつての愛人を探してほしい」――依頼を引き受けたマーロウだったが、映画業界で働いていたというその男はひき逃げ事故で殺されていた…?!捜査を進めるにつれ謎が深まる”ハリウッドの闇”、探偵マーロウが辿り着く真実や如何に。

<出演>リーアム・ニーソン、ダイアン・クルーガー、ジェシカ・ラング、アドウェール・アキノエ=アグバエ、ダニー・ヒューストン、アラン・カミング

<キャスト>●監督:ニール・ジョーダン●脚本:ウィリアム・モナハン●原作:「黒い瞳のブロンド」(ベンジャミン・ブラック/小鷹信光訳早川書房刊)●原題:Marlowe●字幕翻訳:船越智子●配給:STAR CHANNEL MOVIES

©2022 Parallel Films (Marlowe) Ltd./Hills Productions A.I.E./Davis Films
※TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー公開中