誰だって就職するなら憧れの、好きな分野にいきたいだろう。が、現実(現場)が必ずしも楽しいということはない。そんな「就職あるある」を極めてシビアに描いた一作だ。

 主人公のジェーンは、映画プロデューサーになるという夢を描いて有名エンターテイメント企業に就職したひとり。ウキウキしながら面接を受け、合格の通知を受け取り、喜び勇んで出社したことだろう。名門大学の卒業生、すぐ就職できたという意味でも彼女はエリートだ。しかし就職そうそう、ジェーンは現実を体感することになる。そしてスクリーンを観る我々も、しばらくの間、彼女と同じ視点で物事に対峙することになる。やる気のない、その場しのぎの、活気などどこにもない職場。ギスギスした人間関係。クリエイティヴィティのかけらもない作業。

 業界の超大物である会長のジュニア・アシスタントとして淡々と業務をこなしていくうちに、ジェーンはとある事実に直面し、頭はある疑問で覆われた。会長にまつわる“やばい案件”だ。「いくらなんでも、これは許されないのではないか」。彼女は勇気を振り絞って立ち上がるが、以降「現実の壁」はさらに厚くなる。ジェーンを始め、人物は服を着替えていないので、「一日の(オフィスが開いて閉まるまでの)物語」として描かれているのだろう。が、これが、一年に三百何回も続くのかと思うと、ジェーンでなくても、ネガティヴな気持ちになるはずだ。とはいえ、彼女にとってこのオフィスは「憧れの世界」への第一歩でもあるはずであり……期待が大きければ大きいほど、悩みと葛藤は深さを増す。

 監督、脚本、製作、(共同)編集はドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーンが担当。彼女によると、ジェーンというキャラクターは、数百にも及ぶ労働者へ対して行われたリサーチとインタビューによって(とりわけ女性の痛みや混乱の経験から)形成されているという。主演はジュリア・ガーナー、6月16日から全国ロードショー。

映画『アシスタント』

6月16日(金) 新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー
製作:スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス、P・ジェニファー・デイナ、ロス・ジェイコブソン|サウンドデザイン:レスリー・シャッツ |音楽:タマール=カリ|キャスティング:アヴィ・カウフマン|配給・宣伝:サンリスフィルム
2019年|アメリカ|英語|87分|2:1|カラー|原題:The Assistant
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