《ネット動画の絶品再生ー実践的再生プラン》

テレビとシンプルに連携。HDMI対応プリメインアンプの活用

 インターネットを介した各種音楽ストリーミングサービスやハイレゾ音源の対応はもとより、FM、MM方式アナログレコード再生までデジタル、アナログを問わず、いま我々を取り巻く多彩な音源にサポートし、ヤマハ自慢の高品質なサウンドで再生することを目指した、ネットワークレシーバーR-N2000A。

 写真からもおわかりのように、音楽の躍動をダイレクトに感じさせるレベルメーターを活かした繊細かつ無駄のないデザインは、同社の高級プリメインアンプ、A-S1200、A-S2200に通じるもの。さらに前面パネル下には日本語表示に対応した有機ELディスプレイが配置され、ここには入力コンテンツや再生楽曲名、操作時の音量表示などの各種情報が表示される。このあたりのあしらいも、実にスマートだ。

 

Integrated Amplifier
Yamaha R-N2000A
¥429,000 税込

● 型式 : HDMI入力対応プリメインアンプ
● 定格出力 : 90W+90W(8Ω、2ch同時駆動、20Hz〜20kHz、0.07%T.H.D.)
● 接続端子 : アナログ音声入力4系統(アンバランス×4 [MMフォノ1系統含む])、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×1、USB TypeB×1)、HDMI ARC入力1系統、LAN端子1系統、ほか
● 寸法/質量 : W435×H157×D473mm/22.1kg
● 問合せ先 : (株)ヤマハミュージックジャパン お客様コミュニケーションセンター オーディオ・ビジュアル機器 ご相談窓口 TEL. 0570(011)808

 

 

 トップパネルを開けて、本体内を覗いてみると、大容量のトロイダル電源トランスが中央に鎮座し、その両端にパワーアンプ回路が配置するという左右対称のコンストラクションが確認できる。パワーアンプ回路は、アースに乗っているノイズの影響を受けにくい「フローティング&バランス」方式。左右チャンネルのプラス側とマイナス側の計4組の電力増幅回路をフローティングさせつつ、プッシュプル動作を完全対称化、さらに電源供給を含む全回路をグラウンドから完全に独立させるという徹底ぶりだ。

 電源トランスやブロックケミコンなどの振動を伴なう質量の大きな部品については、ベースフレームに取り付け、そこに溶接したボルトに専用のインシュレーターを装着。重量物を機構的に接地させることで、構造の安定化を図るという独自の「メカニカルグラウンド・コンセプト」で設計されている。

 DAC素子はESSテクノロジー製「ES9026PRO」を搭載。L/Rチャンネルそれぞれに2ch分ずつ配置するという贅沢な使い方で、低ノイズ、かつ高精度な信号変換を約束している。

 ヤマハのAVセンターで実績のある自動音場補正機能「YPAO」もサポートしている。付属の専用マイクで測定し、リスニング環境を最適化するという機能で、内容としては部屋の形状や壁の材質、スピーカーの特性や設置場所などによって生じる再生音の違いを補正する「ハイプレシジョンEQ」と、初期反射音を制御する「YPAO-R.S.C.」から構成される。また、小音量再生時に自然な音質補正効果が得られる「YPAO Volume」も搭載済だ。

 多彩な音楽が自在に楽しめる独自のネットワークオーディオ機能「MusicCast」も健在だ。スマホやタブレットなどにインストールした専用アプリ「MusicCast CONTROLLER」を使って、画面アイコンにタッチして聴きたい楽曲の選択が可能。本アプリでは楽曲選択だけでなく、YPAOの各種設定を含む様々な音質調整ができ、スマートな使いこなしを実現している。

 

本機は、ヤマハが単体オーディオ機器づくりで長年培ってきたアナログ音響技術と、AVセンターづくりで磨き上げてきたネットワークオーディオ再生機能(MusicCast)やHDMI音声再生機能を、合理的に同一筐体化して作り上げた格好のプリメインアンプ。HDMI ARC入力によりテレビとのスムーズな連携が可能な、2chアンプという新ジャンルのハイファイアンプだ。

 

アンプ増幅段は、特許技術「フローティング&バランス・パワーアンプ」で構成され、外来ノイズの影響を徹底的に遮断。機構的には左右対称構造で構成され、チャンネルセパレーション面で、ステレオ再生の理想を目指す

 

デジタル入力時の高音質の肝となるDACチップはESSテクノロジー製ES9026PROを採用、左右チャンネル用に2ch回路ずつを用いる構成としている
 

 

 

HDMI ARC対応端子を活用しストレスなくテレビと連携できる

 そしてR-N2000Aでもう一つ、見逃せないのがテレビとケーブル1本で接続できるARC(Audio Return Channel)対応のHDMI端子を装備したことだ。テレビ放送はもとより、テレビと接続したレコーダー、ストリーミング端末、ゲームなどからの多彩なコンテンツに、HDMIケーブル1本をテレビと接続することで、ストレスなく高品質なステレオ再生で楽しめる。

 CEC連動機能も採用。テレビ側の音声出力を「PCM」設定として、HDMI連動機能を「オン」にするだけで、電源のオン/オフがテレビに連動し、テレビのリモコンでそのまま音量調整が可能。さらに入力切替えについても、テレビのリモコンで操作できるため、HDMI接続時はR-N2000Aの操作は一切なし。完全に動作が連携するわけで、テレビの音響システムとしてR-N2000A+スピーカーの本格的なサウンドが楽しめる。ネット動画の再生でも、そのメリットは極めて大きい。

 

鮮度が高く、躍動する音調は、ヤマハ伝統のサウンドを継承

 本機は、「TIDAL Connect(タイダル・コネクト)」にも対応しているので、ロスレス音源となるTIDALで聴き慣れた曲を聴いてみよう。スピーカーはHiVi視聴室リファレンスのモニターオーディオPL300Ⅱ。重量バランスまで考慮した筐体の作り、徹底したノイズ対策のおかげか、勢いのある、鮮度の高いサウンドが空間に放たれる。ストレスを感じさせない確かなドライブ感で、バスドラやベースの切れ込みが鋭く、気持ちよく躍動する。引き締まった筋肉質の低音の描写は、ヤマハのアンプが得意とするところ。ベースのリズムも的確に刻み、ピアノのタッチも細やかだ。

 「デスペラード」を歌うリンダ・ロンシュタッドの声は、透明感のある、穏やかな表現で、耳に突き刺すような輪郭の強調感もない。目の前でささやくように歌う彼女の声は、素朴で、潤いがある。S/N感のよさを印象づけるような滑らかさ、緻密さは、まさにヤマハの高級プリメインアンプ譲りの魅力だ。

 ここで「YPAO-R.S.C.」の効果を確認してみたが、音響特性が整えられた視聴室という環境もあって、音質的に大きな変化はなかった。空間のスケールはやや抑えられる傾向だが、ギター、ベース、ピアノと、各楽器のエネルギーが削がれることはなく、音の鮮度も高い。音響的にあまり考慮されていない一般家庭の環境で、本来の威力を発揮するということだろう。

 

分解能が向上し、声の魅力も充実。PLL設定の音質改善効果が凄い

 続いてApple TV 4Kをパナソニックの有機ELテレビTH-65LZ2000に接続して、HDMI ARC接続で映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(Disney+)を再生してみよう。

 冒頭、フォルサム刑務所でのライヴ直前のシーンから。はるか遠くから、ベースの響き、足踏みのかすかな音が聴こえ始める。すると徐々に近づき、演奏と足踏み、拍手、歓声と会場の盛り上がる様子が音で描き出されるが、まずその音の生々しさ、エネルギー感に感心させられる。

 微小な音から徐々に、音量が上がっていくが、その推移が滑らか。音量に関わらず一定の明瞭度が確保され、音の分離がいい。これから始まるストーリーに対するワクワク感を盛り上げるに、十分すぎるくらいのパフォーマンスだ。

 続いて、1955年、ジョニー・キャッシュがレコードデビュー後、テキサス州テクサーカナのコンサートでヒット曲「クライ・クライ・クライ」を演奏するが、この会場の熱気が凄まじい。歌い初めは静かだった観客は、演奏が進むにつれて、感動、興奮が抑えられなくなり、立ち上がり、踊りだす。

 カントリー独特のリズム、ギター、ベースが気持ちよく広がり、拍手、歓声、口笛が大きなホールに響きわたる。声、楽器の明瞭度を犠牲にすることなく、ステレオ再生でここまで熱気溢れる雄大な空間を描き出すとは……。

 ここでひとつ実験。R-N2000AではオプションメニューからPLL(位相同期回路)の設定変更が可能で、音源のジッター特性に応じて、チューニングの最適化が可能になった。具体的には「モード1」「2」「3」の設定で、標準は「2」。高音質化を期待する場合は「3」を試してほしいのだという。

 

本機は、HDMI ARCからの入力ではオプションメニュー内の「PLL」設定項目(写真上)で、デジタル信号の同期ロックの許容幅のモードを選択することで、ロックの安定性と音質のバランスを図ることができる。「モード1」は同期ロックがほとんど外れにくいが、やや音が甘くなる傾向となり、「モード3」は同期ロックはややシビアになるが、音質面で有利となる設定だ(写真中)。それらの間となるのが、HDMI接続時の初期設定となる「モード2(写真下)。ここでは「モード2」と「モード3」を比較してみた。なお、「モード3」でも同期が外れることが一度もなかった。本機のユーザーは積極的に試してみたい機能だ

 

 

 そこでモードを標準の「2」から「3」に変更。音が出た瞬間に、スピーカーから放たれる音の明瞭度、分解能、さらに空間の気配と、その変わり様に唖然としてしまった。「2」と比べるとステージがひと回り大きく、音全体も躍動し、ジョニーの声が太い。ベース音のピッチもより明確で、しかもメリハリが効いて、音階の変化が曖昧にならない。この音質改善効果には、本当に驚かされた。

 本作はジョニー・キャッシュを演じるホアキン・フェニックス、共演のリース・ウィザースプーンともに、劇中で熱唱する歌はすべて吹き替えなしで収録されているが、この声の表現力は「3」がベスト。熱く、強いホアキンの声と、チャーミングなリースの声に、すっかり魅了されてしまった。

 リビングのオーディオ、AV環境を一気に押し上げてしまう価値ある1台。そのクォリティ、そして多彩な映像コンテンツの魅力を大きく底上げする影響力まで考えると、R-N2000Aの価格に割安感さえ覚える。

 

視聴に使った機器
●有機ELディスプレイ : パナソニックTH-65LZ2000
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300Ⅱ
●ストリーミング端末 : Apple TV 4K

視聴した主なソフト
●Disney+ : 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』『アバター』
●TIDAL : 『Don't Cry Now/リンダ・ロンシュタット』『Famous Blue Raincoart/ジェニファー・ウォーンズ』

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』