《ネット動画の絶品再生ー実践的再生プラン》
高画質・大画面テレビの両脇にふさわしい音響システムを考える
大画面テレビの横に、“気の利いた”スピーカーを設置して、映画、ドラマ、音楽ライヴと、好みの映像配信サービスと存分に楽しんでみたい。さらに将来、ネット配信でも珍しくなくなったサラウンド収録のコンテンツまで、サポートできるシステムに発展できないだろうか。
最近、こんな相談を受けることが多くなったが、最新の動画配信のクォリティからすれば、大画面の高画質再生に止まらず、もっといい音で楽しんでみたいと考えるのは当然のこと。AVセンターについてはマランツのCINEMA 50のように、最先端の機能性、クォリティを備え、デザイン的にも様々なインテリアに調和させやすいスタイリッシュなモデルが登場している。
反面、リビングユースに適した“気の利いたデザイン”のスピーカーとなると、求められる要素が多く、にわかにハードルが高くなる。55インチ、65インチという画面サイズと無理なくバランスできるサイズであること、日常的に目に入るだけにデザイン的に納得できること、そして当然、音質的に優れていること、だ。
いろいろと悩んだ末、「コレでしょう!」と思い浮かんだのが、伊ソナス・ファベールの小型2ウェイシステム、オリンピカ・ノヴァ Ⅰ だ。まず精密な木工技術と、感度の高い職人の技巧により生み出された工芸品を思わせるデザインに引きつけられる。エンクロージャーは高級な北欧家具でもよく見かけるプライウッド構造(※)とし、気品を感じさせる柔らかなフォルムが特徴的だ。
※プライウッド構造:厚みの異なる木材シートの木目を直交させながら複数枚を重ねてプレス機で加圧。美しく、強靭な曲面に成型した構造のこと
Speaker System
Sonus faber
Olympica Nova Ⅰ
¥935,000(ペア) 税込
● 型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット : 28mmアローポイントDADシルクドーム型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー
● 出力音圧レベル : 87dB/W/m
● クロスオーバー周波数 : 2.5kHz
● インピーダンス : 4Ω
● 寸法 / 質量 : W200×H355×D395mm / 10kg(単体)、W282×H1,080×D395mm / 17kg(Stand Olympica Nova装着時)
● 備考 : スタンド別売り(Stand Olympica Nova、¥121,000ペア税込)あり
● 問合せ先 : (株)ノア TEL. 03(6902)0941
本体を天板側から見ると、左右のラインが微妙に異なっていることに気がつく。このエンハンスド・ライラ・シェイプと呼ばれる非対称の形状は、並行面をなくして、本体内の定在波や共振を抑えるのが狙い。また同内部には補強リブを配置し、スピーカーとしての性能を左右する剛性を強化しているという。
フロント・バッフルも突き板仕上げだが、ウーファーとトゥイーター周りは伝統のレザー張りの仕上がり。これはデザイン効果にとどまらず、バッフルの共振制御による音質改善を狙ったもの。また本体斜め後方に見える細いスリットは、アルミ押し出し成形した専用のバスレフポート。複雑な本体形状と吸音材との合わせ技により、ドライバーの背圧をポートから渦巻くように排出するという。
左右のスピーカー位置を入れ替えてこのポートの出口を外側、もしくは内側に向けることで、設置環境によって生じる低域の再現性、定位感、空間表現などが調整できる。デザイン的にも、構造的にもここまで凝ったエンクロージャーは他ではなかなか見当たらない。
ドライバーユニットは28mm径のシルクドーム型トゥイーターと、15cm径ウーファーの組合せ。ウーファーの振動板はセルロースパルプにカポックやケナフ等の自然繊維によるペーパーコーンで、トゥイーター同様、オーガニック系の素材でまとめられている。
本体後方に、垂直方向にスリット状にバスレフポートが配されているのがわかる。スピーカー端子板も縦位置にマウントされている。なお、ポート出口が外側に向けた状態か、内側に向けた状態を任意に選ぶことで、使用する部屋の音響条件に適応させることができる
木製のキャビネットの前面には、アルミニウム・ダイキャストフレームを介して、高品位な2つのユニットを配置。高域ユニットは、シルクドーム型振動板の前面に、独自のDAD(Damped Apex Dome)テクノロジーというパーツを配置。ドーム振動板の頂点を部分的にダンピング、振動板の逆相動作を制御し、総合的な特性を向上させている。ウーファーは、セルロース、パルプ、ケナフなどの自然素材を乾燥させたうえで成形した振動板を採用。15cm口径ながら、躍動感に溢れた低音再生を追求している
左右非対称形状となる特徴的なデザイン。ドライバーユニットの背圧は、内部並行面がない、独特の形状のキャビネットを、渦を巻くように流れるように設計されている。バスレフ型スピーカーで低域を伸ばす場合には、ポートノイズが問題になりやすいが、それを絶妙に防ぐスマートな設計が施されている
ぞくぞくするほどの生々しさを体験。小型スピーカーの枠を大きく超えた音だ
このオリンピカ・ノヴァ Ⅰ を使って65インチの大画面との連携を図ってみたい。今回はサラウンド再生も視野に入れる前提で、アンプはHiVi視聴室常設のデノンのAVセンターAVC-X8500HAを使い、AppleTV 4Kをソース機器に用いた。まずスピーカーとしての素姓を把握するために、聴き慣れた楽曲をApple Musicで再生してみたが、整った帯域バランスと、音そのものの質感の高さに感心させられる。ジェニファー・ウォーンズの歌声はほどよい張りがあり、独特の艶を感じさせる。目の前にフォッと拡がる清々しい空間に、ニュアンスに富んだ声が自然に定位する様子は、造りのいいエンクロージャーの賜物と言っていいだろう。
反田恭平のピアノはタッチが明確で、軽いタッチでも音の芯、骨格が曖昧にならない。しかも硬質な響きではなく、しなやかで、ねばりがあり、ジャズトリオの演奏は弾力性に富んだスネア、バスドラが躍動し、ピアノのアタックの鋭さ、余韻の美しさが印象に残った。
いよいよ映画再生を試す。Apple TVデジタル購入版の映画『カントリー・ストロング』を再生してみよう。テレビはパナソニックの有機ELテレビTH-65LZ2000。この作品は、カントリー・ミュージックを題材とした米国映画で、主演のグウィネス・パルトローが歌うカントリーソングは、すべて吹替えなし。2010年の公開当時、その歌のうまさがちょっとした話題になった。
音楽再生同様に、ムービーサウンドでも鮮度の高い、小気味のよさは健在だ。低音は無理に量感を求めず、ほどよく締り、中域から低域にかけてのグラデーションが滑らか。セリフ、効果音、音楽と、空間に拡がる階層の違いを丁寧に描き出していく様子も好印象だ。
要所、要所で折り込まれているステージシーンでは、空間のスケールがリアルで、声の実在感が際立つ。特にヴォーカルの定位とその背後に拡がる歓声の関係が鮮明で、65インチ有機ELテレビの映像から沸き上がるように拡がるライヴステージは見応えがあった。
注目は終盤のチャプター15。大歓声に迎えられ、パルトロー扮するケリーが「Country Strong」「Shake That Thing」「Coming Home」と3曲立て続ける歌うシーン。「ケリー、ケリー……」と盛り上がる声援を背後に感じながら、舞台裏で胸を押えるケリー。
「Country Strong」の演奏が始まり、ギターを抱えて歌い始めるが、不安は隠しきれない。ところが曲の進行と共に、その表情は徐々に和み、声の圧、力感に余裕が生まれ、それに応えるように客席が盛り上がる。
ケリーの復活を感じさせるステージだが、彼女の心の機微まで感じさせるような繊細かつ緻密なサウンドは、まさにオリンピカ・ノヴァⅠの真骨頂。このあたりの表現力はスペックでは計りきれない部分であり、ソナス・ファベールが得意とするところだ。
そして場内の照明が抑えられ「Coming Home」の前奏とともに幼少期の映像(パルトロー本人の映像が使われている)が映し出される。「そこは暖かな場所、心の瑕をいやしてくれる」と歌い始めると、場内は一気に盛り上が、最高潮に達する。
そのスケール感、臨場感は、明らかに小型ブックシェルフスピーカーの枠を超えたもの。情感溢れる歌声、熱気のある演奏、そして場内の興奮、感動と、なかなか体験できないほどの上質なライヴ空間。ぞくぞくするほどの生々しさだった。
今回は、65インチ以上の大画面テレビにふさわしい高音質をシンプルに得る、というテーマで、定番ソナス・ファベールのラインナップの中から、オリンピカ・ノヴァⅠをピックアップ。最終的にサラウンド展開を図る前提でアンプはデノンのAVセンターAVC-X8500HAを用いた。接続①は、テレビ+オリンピカ・ノヴァⅠのステレオAV再生という組合せ。AV再生はサラウンドが必須、と誤解している方もいるようだが、まっとうなステレオシステムであれば、非常に充実したAV再生が可能となるが、それを実践した格好だ。そこからサラウンド再生に発展させたのが、接続②。同一スピーカーをサラウンドとして組み合わせるのが理想だが、ここでは同じソナス・ファベールから、人気モデルルミナ Ⅰ をチョイス。スピーカーのグレードは異なるが、同じ設計思想で作られているためか、音のつながりは抜群。サブウーファーのGravis Ⅰ と合わせて大満足のシステムが構築できた。なお、センターチャンネルはAVセンターで、フロントLRに混ぜ合わせる処理(ダウンミックスと呼ぶ)を行なっている。オリンピカ・ノヴァ Ⅰ は、センターに使われている声も非常に充実して再生してくれた
オリンピカ・ノヴァ Ⅰ を核に4.1ch再生に挑戦。シームレスな音場空間と高い臨場感に感激
続いて、ソナス・ファベールのベストセラーモデル、ルミナ Ⅰと、サブウーファー、グラヴィス Ⅰ を加えた4.1chシステムによるサラウンド再生にチャレンジしてみたが、これが期待していた以上のパフォーマンスだった。
チャプター15のステージシーンは、ステレオ再生時の空間がそのまま拡張され、部屋全体が興奮の坩堝と化し、熱気に包まれる。特に感心させられたのが、単に後方向の空間が拡がるだけでなく、前方ステージの奥行、ホールの高さにも余裕が感じられるようになったことだ。
Speaker System
Lumina Ⅰ
¥118,800(ペア) 税込
●型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●寸法 / 質量 : W148×H280×D220mm / 4.5kg
Subwoofer
Gravis Ⅰ
¥137,500 税込
●型式 : アンプ内蔵サブウーファー
●寸法 / 質量 : W286×H334×D316mm / 14.5kg
フロント側とサラウンド側に異なるスピーカーを設置すると、前後の空間の繋がりに違和感を覚えることが少なくないが、今回の組合せではそうした心配は皆無。剛性を追求したエンクロージャーや、振動板にオーガニック系の素材を用いた専用のユニットなど、オリンピカ・ノヴァシリーズとルミナシリーズの基本的な設計思想が一貫しているためか、質感の高い音色、緻密な響きは共通。一体感のあるシームレスなサラウンド空間が体験できた。
そしてエンディングとなるチャプター16。バーで歌うギャレット・ヘドランド演じるボウの元を、レイトン・ミースター扮する恋人のチャイルズが訪れ、一緒に「Give in to Me」を歌うが、その空間の生々しいこと。
男臭さ全快のボウの声と、優しさに満ちたチャイルズの声。この2人のコーラス、そしてハモりが、実にいい雰囲気で、アコースティックギターの優しい響きが小さな酒場の隅々まで、染み込むように拡がっていく。2本のリアスピーカーとサブウーファーを加えただけで、ここまでの臨場感が得られるとは……。こうなるともう、後戻りは難しい。
本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』