【実験目的】“マランツのAVセンター史上最高のパフォーマンス”を標榜するAV10+AMP10。国産モデルとしては初めてとなるグレードでの本格セパレートタイプであり、最先端の技術と熟練の技、そして圧倒的な物量を注ぎ込んだ自信作だ。私自身、昨年末、川崎にあるマランツ視聴室でそのサウンドに触れ、素性の良さはすでに確認しているが、以来、1つのことが頭から離れない。もう、お察しだろう、「山中湖ラボにこの2モデルが加わったら、いったいどんなサウンドが描き出されるのだろうか」。ステレオ2ch再生、7.1.6再生、さらにはそこにフロントワイドチャンネルを加えた9.1.6という未知のサラウンド再生と、時間の経過とともにワクワク感が増し、止まらない。そしていよいよ、AV10+AMP10が山中湖ラボに持ち込まれる日がやってきた。

《ネット動画の絶品再生ー実践的再生プラン》

Control AV Center
AV10
¥1,100,000 税込(写真右)

● 型式 : 15.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター
● 接続端子 : HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力8系統(RCA×6、XLR×1、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、17.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1、XLR×1)ほか
● 寸法/質量 : W442×H189×D503mm/16.8kg

 

16ch Power Amplifier
AMP10
¥1,100,000 税込(写真左)

● 型式 : 16chパワーアンプ
● 定格出力 : 200W(8Ω、1kHz. THD 0.05%、ノーマル接続/2ch接続時)
● 接続端子 : 16chアナログ入力2系統(RCA×1、XLR×1)、ほか
● 寸法/質量 : W442×H189×D488mm/19.8kg

●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオ
お客様相談センター TEL. 0570(666)112

 

オーディオクロックの扱いに注力

 ゴールデンウイーク直前の4月某日、取材の前日、AV10+AMP10視聴取材のため、編集部が山中湖ラボに入った。取材前日からセッティングの準備に入るケースは珍しいが、最大9.1.6のサラウンド再生、しかもプリアンプ、パワーアンプともに入れ替えての取材となると、少なくとも半日、音がしっかり聴ける状態まで仕上がるにはもう少し時間が必要かもしれない。結局、今回の取材に要した時間は丸々二日間、ちょっとした視聴イベントと言っていいかもしれない。

 ひと通り、セッティングを終えて、山中湖ラボの木製ラックに並んだAV10+AMP10を目の当たりにして、まず感じたことは、存在としてのスマートさ。インテリアとの調和を意識したというデザインもあるが、その出で立ちは明らかにこれまでの高級AV機器の雰囲気ではなく、新しい時代を感じさせるアンプということだろう。

 この2つの筐体だけで、吹き抜け20畳強の空間を満たすようなサウンドが勢いよく吹き上がるのか、ちょっと心配にはなるが、この洗練されたスタイルは実に魅力的である。ちなみに山中湖ラボではトリノフ・オーディオALTITUDE16に加えて、マークレビンソンのステレオ機とインテグラリサーチ7ch機×2台、合計16ch分のパワーアンプ3台が稼動中だ。

 両機種の端子部を覗いてみると、これがなかなか壮観だ。まずAV10はHDMI入力7系統、出力3系統を備え、ZONE2として使われる出力1系統を除き、すべて8K/60pならびに4K/120p信号のパススルー出力に対応。プリアウトとして17.4ch分のXLR端子を配置し、RCA端子も真鍮削り出しの豪華仕様だ。

 AMP10はデンマークのICEpower社のモジュールをベースに相当部分をカスタマイズしたClass Dアンプで、全16ch仕様。200W/8Ω、400W/4Ωというパワーを保証(5.1ch再生時)し、2ch毎にノーマル/BTL/バイアンプの切替えが可能だ。日本で比較的多いという7.1.6構成のシステムであれば、フロント3chのバイアンプ駆動が実現できることになる。

 ここでふと思ったのが、ほぼ同時期に開発、製品化されたデノンAVセンターの最高峰、AVC-A1Hとの関係である。ご存じの通り、デノンとマランツは「D&Mホールディングス」が展開するオーディオブランドであり、当然ながら開発、設計陣も自社工場となる白河オーディオワークスに集結している。

 セパレート型と一体型という違いはあるものの、いずれもブランドを代表するフラッグシップモデル、両者はどのような関係にあるのだろうか。そのあたりの話も含めて、今回の取材に同席していただいたAV10の設計責任者、飯原弘樹さんに尋ねてみた。

藤原さんの山中湖ラボに、AV10の開発設計を担当された飯原弘樹エンジニア(写真左)をお招きし、AMP10も含めた製品開発のこだわり、ご苦労をお聞きした

 「いずれも最高峰のモデルですから、音質に対していま出来る限りのことはやり尽くしたと断言できます。ただ両者、目指す音質が違います。音声デコード用のDSP(アナログデバイセズ製SHARCの最新世代)やDAC(ESSテクノロジー製ES9018)、あるいは水晶発振器といった基本デバイスは共通化していますが、その使いこなしはまったく別と考えていただいていいと思います。

 たとえばDAC基板は、一見、似たように見えますが、オペアンプ、コンデンサーは別のものですし、DACのポストフィルターの特性やゲインの設定まで違います。部品の配置、使いこなしはデノンとマランツ、それぞれ自由に設計しています」(飯原さん)

 なるほど、基本的な動作に関わる部分については共通化して、音質に影響の大きい部品、回路構成については、それぞれ独自の路線で仕上げていくという個性を重視した設計手法ということだろう。

 「AV10の開発で特に気をつかったのがオーディオクロックの扱いです。AVセンターの場合、BDレコーダーやテレビのHDMI ARCなど、クロックの扱いの善し悪しで音質が大きく変わることが分かっています。今回のDAC回路は音源のクロックを直接使わず、内蔵する高精度のクロックをDACに入れてデータを乗せ替えています。この部分はもとより、クロックを生成する水晶やDACのアナログ部分は、電源の品位によって静特性、そして音質が大きく変わってきます。そこで、ディスクリートのオペアンプを組み込んだ専用の電源回路を組んで、きれいな電源を確保しています」(飯原さん)

 

国産モデルとして空前の規模を誇る、15.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター、AV10。マランツが誇る最新のオーディオ、オーディオビジュアル技術の粋を集めて作り上げられた最新、最高峰のAVプリアンプだ。シンプルで上質なエクステリアデザインは、マランツが近年推し進める新しいデザインの文脈を踏襲している

 

バッファー回路にはマランツが長年作り続けているHDAM(Hyper Dynamic Amplifier Module)のハイグレード仕様HDAM-SA3を搭載。ハイスルーレートを誇る電流増幅アンプモジュールであり、AVセンター用としてはAV10が初採用となる。安価な製品では、オペアンプ数個で済ませることができる回路を、あえてディスクリート構成の基板を使うこだわりように注目したい。写真の基板が1ch分のHDAM-SA3で、AV10ではこれを15.4ch分、つまり19枚も搭載しているわけだ

 

AV10は、高度なオーディオ機器として、電源周りからデジタル回路、バッファー回路、シャーシ設計など、細部に渡り入念な設計が施されている。写真はD/A信号処理の肝となるDAC基板。一般的なAVセンターでは8ch構成のDAC素子が使われることが多いが、本機では2ch構成の、ハイグレードDAC素子(ESSテクノロジー製ES9018/黒い小さな正方の素子)がなんと10基(!)も使われている。DAC素子の周りに林立する電解コンデンサーは音質追求のこだわりの現れだろう

 

 

格調の高さを感じさせる音

 では早速、山中湖ラボでそのサウンドを確認していこう。まずジャズ、ヴォーカル、ピアノと日頃聴き慣れた楽曲で確認してみたが、そのサウンドは化粧気がなく、素直だ。音の粒子がギュッと凝縮し、空間に解き放す感じで、ヴァイオリンの繊細な響きにしても、バスドラの低音の張り出しにしても、品位が高く、表現がオーバーにならない。

 大向こうをうならせるような演出はせずに、音楽の本質を色づけせず、あるがままに描き出しているような感じ。気張らず、音離れがよく、空気のグラデーション、音の粒子まで鮮明に描き上げてみせた。

 正直に言えば、フロントスピーカー、ウエストレイクBBSM15の低音は、もう少しゆったりと聴かせてもいいかな、と聴き始めの時点で感じた。ただ鳴らし込みを続けるとともにそうした不満は薄まり、確かな制動力によるレスポンスの良さが心地よく感じられるようになった。「ダンピングファクターが通常のアナログアンプの約10倍」(飯原さん)という説明にも納得がいく。

 続いて『ジョーカー』、『アリー/スター誕生』、『トップガン マーヴェリック』、『グレイテスト・ショーマン』とお馴染みの映画を再生。格調の高さを感じさせる再現性で、気張りのない、肌合いのいいサウンドがスッと空間に放出される清々しい音調はステレオ再生時と変わらない。

 馴染みが良く、聴きやすいセリフを中心に、その外側に効果音、音楽がキレイに拡がり、場面、場面の空間の違いを明確に描き上げていく。筋肉質の引き締まった低音と、すっきり伸びる中高音の共演は聴き応え十分。音そのものの鮮度の高さと、各チャンネル間の繋がりの良さが印象に残った。

 『グレイテスト・ショーマン』のチャプター13。バーナム一座の人気パフォーマー、ひげ女のレティ・ルッツ(キアラ・セトル)が「This Is Me」を熱唱するシーン。心細そうに歌い始めるヴォーカルは徐々に力感を増して、踊り、歌う彼女たちの声、響きの生々しいこと。ステージは一気に盛り上がる。

 ここで感心したのは、音量を思い切って上げていっても、声、演奏ともに刺激的にはならず、細かな効果音、微妙なニュアンスまで浮き彫りにすること。低音の制動も緩むことなく、スケール感に富んだサウンドを堂々と描き上げていく。ある種の余裕を感じさせるパフォーマンスだった。

 

200W出力のパワーアンプを16ch分も搭載しつつ、一般的なAVコンポーネントサイズに収めたAMP10。増幅部は、いわゆるクラスD増幅方式で、高効率かつ高出力の両立を目指し採用されている。パワーアンプの基本回路は、ICEpower社の設計をベースにパーツグレードや回路構成自体をマランツが徹底的にカスタマイズし、事実上オリジナル設計のアンプモジュールとしてAMP10向けに開発し、白河工場で生産しているものだ

 

AMP10は、パワーアンプということもあって、あまり外観的な特徴はないが、実はメーター部分は開発陣がこだわった箇所なのだという。メーターの動きがあまりに早かったり、緩慢だったりするとユーザーが違和感を抱きかねない、という考えから最適な動きとなるようにチューニングしたそうだ。なお、メーターは背面端子左端子(CH1)の信号レベル推移に反映する(端子脇にメーターマークが印字されている)

 

AMP10は、2ch分ずつのモジュール構成となっていて、「ノーマル接続」「BTL接続」「バイアンプ接続」の3パターンで使うことができる。つまりユーザーが必要とするチャンネル数を8〜16chの間で自在に選択できるわけで、非常にフレキシブルな用途で使える便利なパワーアンプでもある。スピーカー端子の間隔は狭くはないが、バナナプラグを用いるのが安全面を考えると現実的だろう

 

 

『ジョーカー』の激烈さは初体験

 そして今回の取材の最も大きな発見は『ジョーカー』で試したフロントワイドチャンネルを加えた9.1.6ch再生。地下鉄で女性をからかう証券マンたちを勢い余って殺害するシーンでは、銃声、叫び、車両のきしみと、多彩な効果音が複雑に入り混じるが、それぞれの音が濁らず、明瞭度の高いこと。

 フロントワイドスピーカーが加わり、細かなエフェクト音を独立して再生できるようになったことで、フロントL/C/Rチャンネルの描写に余裕が生まれ、前方の空間の見通しがにわかに開ける感じ。地下鉄が複雑に行き交うシーンは、これまで数十回と見ているが、重なり合う各車両の動きがここまでハッキリ聴き取れたのは初めて。大きな驚きだった。

 

今回の取材では、国産最高峰セパレートAVセンター、マランツAV10とAMP10のコンビを入念に試した。16 chパワーアンプも含めた大規模なシステムにしては、わずか2筐体というシンプルな構成にも感銘を受けた

実験結果

AV10とAMP10、2台の組合せがベストだ

 取材前夜、AV10と山中湖ラボ常設パワーアンプの組合せで、そのサウンドを確認している。生粋のアナログアンプで、温かく、重量感のサウンドが持ち味。AVP10との組合せでは、当初、ややよそよそしく、遠慮がちな聴かせ方だったが、2時間、3時間と時間の経過と共に徐々に打ち解けて、濃密、かつ質感の高いサウンドが楽しめるようになった。結論的にいえば、AV10とAMP10の組合せがベスト。ただAV10は他ブランドのパワーアンプとの組合せでも、十分に実力を発揮できる懐の深さを感じさせてくれた。

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』