《ネット動画の絶品再生ー実践的再生プラン》

 変化は突然やってくる。

 今回のAVセンターのリプレイスはぼくにとってもそれほどに電撃的だった。今年の2月、デノンとマランツから相次いでハイエンドのAVセンターが発表になった。仕事柄もあるが、1人のAVファンとして当然それらの製品には興味が湧いた。わけてもマランツのコントロールAVセンターAV10は、ドルビーアトモス仕様の最強モデルとして16chのアナログ信号がすべてバランス端子から出力できる点で、まさに我が視聴室の環境にぴったりマッチする。

 であるにもかかわらずぼくが選んだのはデノンの一体型AVセンターAVC-A1Hだった。もっともここに行き着くまでは悩みに悩んだ。いずれ甲乙つけがたい製品であればこその悩みである。

 

AV Center
DENON AVC-A1H
¥990,000 税込

●型式 : 15.4chプロセッシング対応AVセンター
●内蔵パワーアンプ数 : 15
●定格出力 : 150W(8Ω、1kHz、THD 0.05%、2ch駆動時)
●寸法/質量 : W434×H195×D498mm/32.0kg
●問合せ先 : デノン・マランツ・D&M インポートオーディオお客様相談センター
TEL. 0570(666)112

 

 

 さらに付け加えておくなら、ぼくはこれまでデノンのAVC-A110を愛用してきた。このモデルはAVC-X8500Hをベースに練り上げた逸品なので、当面製品の入れ替えは必要なし、を決め込んでいた。ところがAV10を視聴して足元がぐらつき、AVC-A1Hで完全に気持ちが揺らいだ。試作機の段階での視聴も含め、いずれのモデルともにこれまでの景色を一変させるだけのパフォーマンスを備えていたからである。

 とりわけデノンのAVC-A1Hは、外観こそAVC-A110やAVC-X8500Hによく似ているものの、その中身はまったくの別物である。開発の陣頭指揮を執った高橋佑規さんによると、AVC-A110はX8500Hをブラッシュアップして完成したモデルだが、AVC-A1Hはすべて白紙の状態から作り上げたものだという。

 AVC-A1Hは15chのパワーブロックを備えた超弩級のAVセンターだが、そのAVセンターをぼくはもったいなくも、プリアンプとして使っている。おそらく世界一贅沢な使い方をしているユーザーだと思う。AVC-A1Hはパワーブロックの出来も素晴らしいので、本機でスピーカーをすべてドライブさせても何ら不満はないはずだが、さらにその先の世界を覗き見るためにぼくはプリアンプとして使っている。A1Hは、その期待に応えて見事なまでに新しい世界を描き出している。

 AV10がクールビューティなら、AVC-A1Hはホットビューティと評してもいいかもしれない。基幹部品の共用を始め二つのモデルには回路的に似通ったところもあるが、出てくる音はそれぞれのブランドのフィロソフィーがしっかりと反映されている点にも感心させられた。

 

とりあえずパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1からのHDMIケーブルだけをつないでいる。内蔵15chパワーアンプも使わずに、プリアウトのみで使うという贅沢な使用方法だ。バランスプリアウトの「2」「3」「4」は、フロントL/C/R出力にアサイン変更を行なう。「2」と「3」はマークレビンソンNo32Lに送り出し、SSP(ゲインゼロ)設定モードで使っている

 

 

凄まじい音の浸透力が圧巻

 前作のAVC-A110もよく出来たAVセンターだったが、AVC-A1Hはそのパフォーマンスをことごとく上回っている。まず重要な部分は、歪みが大幅に低減しS/Nが飛躍的に向上し、音の見通しがとても良くなったことだ。比較するとA110の方が明らかにぬるま湯的に聴こえてくるのには困った。また、低域の分解能が向上しているので、UHDブルーレイの映画ソフトを再生すると、引き締まったLFEの音を再生するだけではなく、どんなキャラクターの音が付けられているのか手に取るようにわかる。

 『グレイテスト・ショーマン』の冒頭のシーンに付けられた足踏みの音も、今まで聴いてきたものは何だったのかと思えるほどダイナミクスに溢れている。ジェニー・リンドがコンサートホールで「ネヴァー・イナフ」を歌うシーンでは、ローレベルの音がマスクされず残響音がとても細やかで、彼女の息遣いも手に取るようにわかる。

 圧巻だったのは『トップガン マーヴェリック』でラストの敵プラントを爆撃するシーン。普通に観ても手に汗を握る場面の連続だが、歪みが少ないので刺激臭が少なく効果音本来の姿が現れるため、つい調子に乗ってボリュウムを上げてしまい、家人から初めてクレームが出た。それほどにAVC-A1Hは凄まじい音の浸透力を備えたモデルに生まれ変わっている。ぼくと同様にAVC-A110やAVC-X8500Hのユーザーには、この違いをぜひとも体験してほしい。

 

A1Hが奏でる鮮烈かつ躍動感に満ちた音に感服しきりの潮さん。これから長い付き合いになりそうですね!

本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』