dts japanは、6月24日(土)〜25日(日)に有楽町・東京国際フォーラムで開催されるOTOTEN2023に出展すると発表した。ガラス棟カンファレンスルーム507号にDTSとIMAX Enhancedのホームシアターや、Virtual:X&Headphone:Xの視聴コーナーを準備、同社が提唱する音響体験ができる。
また両日とも13時〜14時には麻倉怜士さんを講師に迎え、今年30周年を迎える同社の歴史を紐解く【DTS30周年記念講演】も開催される。そして昨日、その内容をひと足早く体験できるプレス向け説明会が開催された。
DTSは映画音声用のフォーマットとして1993年に誕生した。劇場公開第一作はスティーブン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』で、本作の制作時にスピルバーグがDTSの音を体験し、そのクォリティを気に入って採用されたことも話題になった。
その後、家庭用のサラウンドフォーマットとしてLD(レーザーディスク)やDVDの音声にも採用され、多くのホームシアター愛好家の間で人気を集めてきたのは皆さん御存知の通りだ。今回の麻倉さんの講演会では、それらのホームシアターでの歴史を振り返りつつ、実際のデモを交えての紹介が行われた。
説明会ではまず、同社取締役の西村明高さんが登壇し、今回の経緯を説明してくれた。西村さんは1993年にはパナソニックに努めていたとかで、当時パナソニックがハリウッドにHDテレシネセンターを設立したことも覚えているという。当時はパナソニックとMCAの間で多くのプロジェクトにも関わっていたとかで、そこから30年が過ぎたことが感慨深いと語っていた。
続いて麻倉さんが登場し、講演会がスタートした。麻倉さんは開口一番、「今日はDTSの30年の歴史を振り返りつつ、その進化を直に体験してもらいたいと思います」と話してくれた。
まずはDTSという言葉が持つ意味が変化してきたことが紹介された。1993年の登場当時は「Digital Theater Systems」だったが、その後「Dedicated To Sound」に変化し、最近は「Dedicated To Sensational」を標榜している。これは時代や技術の変化に伴い、DTSの技術を活かしてどのような感動をユーザーに提供できるかを志向してきた結果なのだろう。
続いて同社のこれまでの経緯(年表)や創立当時の紹介が行われ、さらに1993年頃の麻倉さんの取材原稿(おそらく弊社の『月刊HiVi』用に取材したものとのこと)の抜粋も紹介された。
「DTS の何が魅力なのか。それはズバリ、音の良さだ。換言すると映画らしいエネルギッシュで、剛性感が強く、しかもリアリティに溢れる……というシネマサウンドを感動とともに迫真の勢いで聴かせてくれるのがDTS なのだ」
という、まさに麻倉さんらしい語り口で、1993年当時に映画館の音に変革をもたらしたDTS技術に、麻倉さんがどれほど興奮したかがよくわかる内容になっていた。特に麻倉さんは「DTSの音は太ッとい。肉厚な音で、音の粒自体がリッチ」だったことが印象的だったと語っていた。
そしてここからDTSの歴代の音の体験会がスタートした。今回はDTS社内視聴室にKEF「R7 Meta」「R6 Meta」「R5 Meta」「KF92」を使ったシステムがセットされ、83インチのブラビア「X83-A90J」と組み合わせてサラウンド体験ができるようになっていた。AVアンプはマランツ「AV8805+MM8807」という構成だ。
まずは1998年に発売されたDTS LD『アポロ13』が再生された。当時はLDのリニアPCM用エリアにDTS5.1ch信号を記録したDTS LDが発売されており、オーディオビジュアルファンの間で注目を集めていた。これを最新システムで鳴らしたらどれくらいの体験ができるのかという興味深い試みだ。
有名なアポロ13号の打ち上げシーンを再生すると、ひじょうに力強い、大迫力の低音、轟音を感じることができた。それでいて管制室のオペレーターの声は冷静さを持って再生されているから面白い(DTS信号は光デジタルでAVアンプに入力)。
映像はプレーヤーのパイオニア「HLD-X0」のコンポジット出力をX83-A90J側で4Kにアップコンバートしているとかで、変換に伴う階調の粗さなどはあったが、それでも25年前のメディアにこれだけの音と絵が収録されていたのには驚いた。
続いてDVDメディアはイーグルスの『hell freezes over』(1998年発売)から「ホテル・カリフォルニア」を再生した。DTS音声はDVDではオプションフォーマットだったが、LD同様に高音質を求めるファンの多くはDTS音声収録ディスクを選んで聴いていたという。
当時のDTSデモディスクにもこの楽曲が収録されており、こちらの方がビットレート的に余裕があるとかで、マニアの間でも話題を集めていたが、今回は特別にそのデモディスクが再生された。
ライブホールの音の広がり、ギターやドラムのふくよかさ、そして何よりドン・ヘンリーのヴォーカルが力強い。ここからは再生機にパナソニック「DMR-ZR1」を使っていることもあり、映像もクリーンでヌケがよくなっているし、音にも透明感が増してきた印象もある。DVDであっても高品位なプレーヤーで再生することで画質・音質にメリットがあることも確認できた。
次はハイビジョン時代に入り、ブルーレイディスクの時代を体験する。ブルーレイではロスレス圧縮のDTS-HD MA(マスターオーディオ)がマンダトリー音声に採用されたことがDTSとしての大きな進歩点で、それもあってひじょうに多くのタイトルでDTS-HD MAが使われている。
映画コンテンツとして『ジュラシック・パーク』のTレックス登場シーンを見ると、咆哮の迫力に改めて心臓が縮みあがる。実際に重さを感じる足音、鼻息の不気味さなど効果音も情報豊かで、映画の楽しさが音から伝わる。
ブルーレイからはもうひとつ、『モーツァルト バイオリンコンチェルト ニ長調アレグロ』も再生された。このディスクは映像を静止画で収録し、ビットレートを音にふりわけることでハイレゾ・マルチチャンネルで収録したBDミュージックという仕様だ。
こちらも収録した空間の広がり、間接音の響きと直接音の力強さがバランスした、豊かなサラウンド空間が体験でき、DTSというフォーマットが映画だけでなく音楽にも充分なパフォーマンスを持っていることがうかがえる再生音だった。
そしていよいよイマーシブのDTS:Xをチェック。麻倉さんによると、DTS:Xはオブジェクト音声の再生に対応しているが、トップスピーカーなどについて設置位置の自由度が高く、他のフォーマットとの互換を取りやすいのも特長という。
ここでは『ハリーポッターと死の秘宝 PARTR2』から洞窟内をトロッコで疾走するシーンを見たが、洞窟の反響、閉塞感もリアルだし、その中を走るトロッコのスピード感もきちんと再現されていた。最新フォーマットらしく、力強さに加えて、絵も音もいっそう細かい情報まで感じ取れた。
DTSでは現在、IMAX Enhancedも推進している。これはDTSとIMAXによるコラボレーションで生まれた、映像と音質の両方を担保するフォーマットで、現在Disney+で数十タイトルが配信中だ。画質は4K/HDR、アスペクト比1.9:1を基準とし、音はIMAX劇場の6.0/12.0chから家庭用に変換している。
ここでは配信用トレーラーの『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、UHDブルーレイの『Journey to the South Pacific』『バッドボーイズ フォー・ライフ』が上映されたが、どれもハイコントラストで明瞭な映像と、ディテイルまで描きこまれた情報量豊かな音が印象に残る。加えてDTSらしい音の力強さ、重低音も楽しめる。
「IMAX Enhancedは映像も音声も濃密です。画質と音の両方の方向性が揃っているし、音の艶感、コントラスト感が音に共通しているのがわかります。IMAXはDTSの音を求めていたし、逆にDTSはIMAXの絵を求めていたといって間違いないでしょう」と麻倉さんも両社の相性のよさを指摘していた。
「最近の家庭用サラウンドフォーマットにはそれぞれ特長あります。その中でDTS:Xは、音の太さ、明瞭さ、臨場感を楽しめるのがポイントで、これは30年前のDTSフォーマット誕生時から受け継がれてきたものです。30年常に高音質なフォーマットを作ってきたDTSには、今後も頑張っていただきたい」と麻倉さんがこれからの期待を語り、講演会は終了となった。
なおIMAX Enhancedについては、Disney+が今年から音声をDTS:Xに採用することが発表されており、コンテンツについてもソニー・ピクチャーズから『Spider-Man: Across the Spider-Verse』『Gran Turismo』『The Equalizer 3』といった新作を含めた最大40タイトルの配信を予定しているそうだ。さらにパッケージメディアとしてもUHDブルーレイのボックスセットが2タイトルほど予定されているという。こちらは詳細が決まり次第サイト等で紹介されるとのことだ。
最後に西村さんから、dts japanの今後の取組も紹介された。同社では車載関係の技術開発にも注力しており、「DTSオートセンス」「DTSオートステージ」を展開している。前者はカメラを使ってドライバーを始めとする社内の人物の表情をセンシングし、お薦めラジオを選んだり、居眠り防止の注意喚起などを行うもの。後者は北米ではHD Radioといったストリーミングサービスを行っている。
そして先日、BMWの5シリーズにXperiの独立プラットフォームを採用することが発表されたという。これにより車の中で音楽だけでなくビデオコンテンツも楽しめるようになるとかで、自動運転車のエンタテインメントとして提唱していくそうだ。実際の車に搭載されるのは、2027年頃を見込んでいる。オーディオビジュアルにとどまらないDTS(Xperi)の展開に期待していただきたいと西村さんは語っていた。
なおOTOTEN2023のDTSブースのイベントは麻倉さんの講演会も含めて体験できる人数に限りがあるため、整理券が必要になるとのことだ。配布方法等についてはホームページやSNSで告知されるので、来場前に必ずチェックしていただきたい。