アナログ全盛期の日本コロムビアの名曲12曲が時代性から解放されたエヴァーグリーンな響きで復活

『恋すれど廃盤シリーズVol.1 艶夢十二変』のオリジナルリリースは1983年。1960〜1970年代に日本コロムビアが世に送り出した数多くの歌謡曲のシングルから、女性ヴォーカルのヒット曲を中心に集めたコンピレーション盤である。1983年といえば、アナログレコードが全盛の時代。あらゆる時代の音楽に容易にアクセスできるサブスク全盛の現代とは違い、いくら一世を風靡した曲でも数年が経てば廃盤になってしまうことが少なくなかった。

そんなわけで、聴き馴染みはあるけれど微妙に手に入れにくいヒット曲を集めたこのシリーズは、当時の音楽ファンに受け入れられ、同タイミングでリリースされた『同 Vol.2 恋夢十二章』『同 Vol.3 青春十二譜』と合わせて好セールスを記録したようだ。CDが広く普及した90年代には、収録曲を増量したボックスセットなどもリリースされている。

33 1/3回転 180g重量盤
『恋すれど廃盤シリーズ Vol.1 艶夢十二変』

(日本コロムビア/ステレオサウンド SSAR-81) ¥8,800 税込

[SIDE 1]
1.白馬のルンナ/内藤洋子 作詞:松山善三/作曲:船村徹/編曲:船村徹
2.真夏の出来事/平山三紀 作詞:橋本淳/作曲:筒美京平/編曲:筒美京平
3.人形の家/弘田三枝子 作詞:なかにし礼/作曲:川口真/編曲:川口真
4.白い蝶のサンバ/森山加代子 作詞:阿久悠/作曲:井上かつお/編曲:川口真
5.誰も知らない/伊東ゆかり 作詞:岩谷時子/作曲:筒美京平/編曲:筒美京平
6.ブルー・ライト・ヨコハマ /いしだあゆみ 作詞:橋本淳/作曲:筒美京平/編曲:筒美京平
[SIDE 2]
1.経験/辺見マリ 作詞:安井かずみ/作曲:村井邦彦/編曲:川口真
2.愛の奇跡 /ヒデとロザンナ 作詞:中村小太郎/作曲:田辺信一/編曲:中川昌
3.真夜中のギター /千賀かほる 作詞:吉岡治/作曲:河村利夫/編曲:河村利夫
4.白い色は恋人の色/ベッツィ&クリス 作詞:北山修/作曲:加藤和彦/編曲:若月明人
5.涙の太陽 /エミー・ジャクソン 作詞:R.H.Rivers/作曲:中島安敏/編曲:中島安敏
6.風が落した涙 /小川ローザ 作詞:中村小太郎/作曲:田辺信一郎/編曲:中川昌

●カッティング:武沢茂(日本コロムビア)
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このたびステレオサウンドで復刻された本LPは、コロムビアのテープ庫で大切に保管されてきた各曲のオリジナルのアナログマスターテープまで遡り、リマスタリング/リカッティングされているのが大きな特徴である。当時このコンピレーションのために作成されたアナログマスターテープ(=コピーマスター)をそのまま流用するのではなく、1曲ごとに「源流」まで遡っているから、より鮮度の高いサウンドが期待できるわけだ。カッティングを担当したのは日本コロムビアのベテランエンジニア、武沢茂氏で、カッティングマシンはノイマンVMS70、カッターヘッドはSX74を使用。音楽評論家の湯浅学氏による各曲の解説と聴きどころが記されたライナーノートも封入されている。

アートワークの再現性も高い。参考のために入手した「AF-7179」という品番のオリジナルLP(以下、コロムビア盤)と今回のステレオサウンド盤を見比べてみると、細かい仕様上の表記や帯の形状などは違うものの(帯の形状は、コロムビア盤が「巻き帯」、ステレオサウンド盤が「かぶせ帯」)、それ以外はほとんど違いがわからないほど忠実かつ丁寧に、コロムビア盤の意匠が再現されている。そして、コロムビア盤に封入されていた全12曲のシングル盤のオリジナルジャケット/歌詞カードも同様に封入されているのがうれしい。なんでもLPのジャケットやこれらの付属物は、ステレオサウンドの制作スタッフが個人的に所有する10枚以上のコロムビア盤の中から一番コンディションが良好なものを厳選し、高解像度スキャンしたらしい。

というわけで、盤に針を落としてみる。今回はトーレンスTD-147 Jubilee(アナログプレーヤー)+ゴールドリング1012GX(MM型カートリッジ)/デノンPMA-SA11(プリメインアンプ)/ハーベスHL-Compact(スピーカー)という自宅のシステムで、コロムビア盤と比較しながらステレオサウンド盤を聴いた。収録曲のうち、最も古いリリースはエミー・ジャクソンのB面5曲目「涙の太陽」で1965年、最も新しいリリースは伊東ゆかりのA面5曲目「誰も知らない」で1971年。ほとんどの曲が当時のオリコンチャートの10位以内にランクインしており、曲目を見ているだけでも日本のポピュラー音楽市場が急成長したこの時代の勢いが伝わってくる。

ステレオサウンド盤は、そういったノスタルジーをある程度担保しながらも、時代性から解放されたエヴァーグリーンな響きを獲得しているというのが全体的な印象だ。総じてS/N感が高く、歌い手の情感がまっすぐこちらへ届く。特にA面2曲目「真夏の出来事」の平山三紀や、A面3曲目「人形の家」の弘田三枝子、B面1曲目「経験」の辺見マリといった個性の強い歌い手の持ち味と生々しい息づかいの再現性にはすごい説得力がある。

また、音場の見晴らしがよくなったことで、より各曲のアレンジに耳が向くようになった。いしだあゆみのA面6曲目「ブルー・ライト・ヨコハマ」は、いしだ本人と作編曲を担当した筒美京平の両人に初のオリコン1位をもたらした曲だが、力強くも儚いイントロのホーン、その儚さを助長する間奏のストリングスのほか、いしだの歌の合間に奏でられるカウンターメロディの音色の多様さにも、改めてアレンジャー・筒美京平の卓越したセンスを感じる。アコースティックギターのアルペジオを基調に、グロッケンシュピールやエレクトリックギターのフレーズが重ねられる千賀かほる(B面3曲目)の清涼感、北山修&加藤和彦のコンビによって書かれたフォーク・クルセダーズ風味満点の楽曲に若月明人が聴き応えのあるストリングスアレンジを施したベッツイ&クリス(B面4曲目)の室内楽的な響きなどは、リアルタイムでこれらの曲を聴いていた方にも新鮮に感じられると思う。

各曲の歌詞カードに目を落とすと、多くの楽曲の演奏には「コロムビア・オール・スターズ」「コロムビア・オーケストラ」といった名前がクレジットされている。コロムビアに限らず、当時は自社の楽団を持つレコード会社が多く、それがレコード会社やレーベルのサウンドのキャラクターに寄与していたことは間違いない。そういう意味でこの『恋すれど廃盤シリーズ』は「1960〜1970年代のコロムビア・サウンド」を記録した貴重なアーカイヴだが、リマスタリング/リカッティングされたこのステレオサウンド盤にはアーカイヴというだけでは終わらない現役感が備わっている。ぜひ若い世代の音楽ファン/オーディオファンにも爆音で聴いてほしい。