近年、ダウンロードによるPCやNASに保存した音源再生やサブスクによるストリーミング再生など、ネットワークオーディオによる鑑賞スタイルが飛躍的に増えてきている。特にサブスクにおいてもデータ量の大きいハイレゾ音源のストリーミングが増えて来ており、音にこだわりを持つ熱心なユーザーが積極的に取り組んでいる印象が強い。

 そんなネットワーク/USB再生で見逃せないのが、LANやUSB端子からの飛び込みノイズ。特に未使用の空き端子はノイズのアンテナにもなりかねず、こういった点に対策を施すことで再生品質を数ランク向上できる可能性も高いわけだ。

 そこで今回はネットワーク・ハイレゾ再生に熱心に取り組んでいる菊地洋平さんのオーディオルームにお邪魔し、アコースティックリバイブのLAN/USB用アクセサリー3種類を使った音の変化を検証してみた。アドバイザーは、同じくネットワーク/USB再生に熱心に取り組んでいる土方久明さんにお願いしている。(StereoSound ONLINE編集部)

※今回の取材に関する土方さんのコメントはこちら ↓ ↓

ステップアップ・無限大! USBやLAN端子からのノイズを対策することで、ハイレゾの音も大きく変化する。土方久明さんが読者宅でその効果を徹底検証

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 家庭内のLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)を使ったネットワーク再生や、PCおよびネットワークトランスポートとUSB D/Aコンバーターを組み合わせる、いわゆるネットオーディオ再生では、LAN/USB周りの環境を整えることで音質を向上させることができる。

 国産のアクセサリーブランド、アコースティックリバイブは、デジタルオーディオ黎明期よりそういった環境で使用できる音質向上アイテム開発してきた。本企画は同ブランドの最新モデルであるLANアイソレーター「RLI-1GB-TripleC」、LANターミネーター「RLT-1K」、USBターミネーター「RUT-1K」という3つのアクセサリーの効果を、オーディオとビジュアルをこよなく愛するユーザー宅でチェックしようというものだ。

 登場いただくのは、神奈川県横浜市にお住まいの菊地洋平さん。実は菊地さん、ネットワークオーディオやPCオーディオなどの愛好家が集まるFacebookのコミュニティ「極☆ネットワークオーディオ」の主宰者として有名だ。PCオーディオやネットワークオーディオを営む1000人近い愛好家が毎日熱心にコミュニケーションをとっており、僕のような評論家やオーディオショップのスタッフも参加、ストリーミング再生の初歩的な使いこなしから先端的でマニアックな再生手法の話題までネットワークオーディオに関する情報の宝庫となっている。

“独創的”なシステム構成で、ハイレゾを緻密、かつ心地よく楽しむ。
細部にまで気配りされた、菊地さんのオーディオルーム

 本文にもある通り、菊地洋平さんはフェイスブックのコミュニティ「極☆ネットワークオーディオ」を主催する、熱心なオーディオ愛好家。お使いのシステムも充分に吟味されたもので、PCやNASはもちろん、ネットワークスイッチなども定評のあるモデルが選ばれている。加えて電源ブレーカーも音質に配慮した製品に入れ替えるなど、ひじょうに細かい気配りがなされている。この素晴らしい環境で、ノイズ対策アクセサリーがどれほどの効果を出してくれるかも注目ポイントだ。

菊地さんは、リビングルームをフルに使って、“オーディオファンの憧れ” と呼ぶにふさわしい環境を構築されている。スピーカーは7.2.6chがセットされ、ハイレゾコンテンツもこの状態で楽しんでいる

菊地さんはオーディオグレードPC「Canarino fils9 ver.3」(写真上段左)をRoonサーバーとして使い、NASの「DS923」(写真下段左)に収めた音源を再生している。上段右がマスタークロックの「REF10 SE120」

フロントL/RスピーカーのB&W「802D2」にはオーラムカンタスのスーパートゥイーターを組み合わせている。菊地さんの愛猫「もなか」ちゃんもいい音に包まれて心地よさそう

サラウンド、サラウンドバックスピーカーはJBL製、6本のトップスピーカーはB&W製をチョイスしている

菊地邸の主なシステム
●PC:オリオスペックCanarino fils9 ver.3 Core i9 12th
●プレイヤー:Gentooplayer ver.8.0
●NAS:Synology DS923+
●クロック:ミューテックREF10SE120
●スイッチングハブ:SOtM sNH-10G(銀線、クロック入力付)×2
●ルーター:NEC Aterm BL3000HM
●D/Aコンバーター:SFORZATO DSP-Dorado
●AVアンプ:DENON AVC-A110
●パワーアンプ:CHORD SPM1200mk2
●スピーカー:B&W 802D(フロント)、JBL 4307(センター)、4312A(サラウンド)、4312G(サラウンドバック)、他
●サブウーファー:ヤマハYST-SW1500×2

菊地邸のシステム接続図

「極☆ネットワークオーディオ」のページはこちら

 ということでまず、今回使用する3つのアクセサリーを紹介していこう。まずLANアイソレーターのRLI-1GB-TripleCは、LANケーブルの途中に継ぎ足す形で、ケーブルに乗る伝送ノイズを低減するアイテム。導体にはPC-TripleCを採用。アイソレーショントランスとコモンモードノイズ用チョークコイルを組み合わせて、医療用LANアイソレーターを超えるノイズ低減を実現した。

 LANターミネーターのRLT-1Kは、ネットワークスイッチやルーター、NAS、オーディオ機器などの空きLAN端子(RJ45形状)に装着することで、LANポートへの電磁ノイズ飛び込みを防止する。筆者も都度紹介させてもらっているが、ソニーの著名なエンジニア、故・金井隆氏が考案した「Xターミネーター」をベースに、アコースティックリバイブの独自技術を付与した製品で、2017S航空グレードアルミ合金の削り出しボディを採用し、天然クォーツレゾネーターや鉱石パウダーを配置する事で制振効果も期待できる。

 最後のRUT-1Kは、PCやオーディオ機器などのUSB Type-A空き端子に装着するUSBターミネーター。電源(バスパワー)回路用のフィルターの他に、良質な抵抗を用いた信号回路のターミネート機能を有することが大きな特徴で、さらに天然水晶レゾネーターを配置する制振構造により、USB端子基盤の振動を物理的に抑えたり、静電気の発生を抑制する同社独自の貴陽石を使った処理が施されている。市場には他にも同カテゴリーの製品が存在するが、その全てが電源回路のノイズフィルターのみ搭載されているのに対し、唯一RUT-1Kは信号回路のノイズ対策を行うことができ、さらに上述した独自の音質向上技術により差別化を図っていることに注目してほしい。

チェック1:LANアイソレーターを追加して、音楽信号に混入するノイズをカット。ルーターからのケーブルに加えることでS/Nが改善!

LANアイソレーター 「RLI-1GB-TripleC」 ¥30,800(1個、税別)

 LANケーブルの先端につないでネットワークオーディオのノイズ伝送をカットするアイテム。導体にPC-TripleCを採用し、絶縁には比誘電率に優れ、超高速伝送スピードを実現するフッ素樹脂を施すことで、オーディオ帯域のシールド特性に優れ音質的キャラクターの発生のない銅箔シールドで外来ノイズの飛び込みを強力に防いでくれる。

 今回はルーターのAterm「BL1000HW」からスイッチングハブ「sNH-10G」へのLANケーブルと、sNH-10GとNASの「Synology DS923+」、PCの「Canarino fils9 ver.3」との間のLANケーブルに3個使用している。

 さてここからは、菊地邸での試聴の模様をリポートしていこう。

 菊地邸のシステムは、基本を押さえながらも独創的だ。音楽ソースはハイレゾを中心としたデジタルファイルが中心。ソース系の機材から説明すると、オリオスペックのオーディオグレードPC「Canarino fils9 ver.3(CPU:Core i9)」をルーンサーバー/Diretta Hostとして使用し、Diretta Target/ネットワークプレーヤーにスフォルツァート「DSP-Dorado」を組み合わせている。

 加えて、ネットワークスイッチには定評のあるSOtM「sNH-10G」を2台使い、上述した機材にMUTECのマスター・クロック・ジェネレーター「REF10 SE120」から10Mのクロック信号を入力する。音源の保存場所にはCanarino fils9 に加え、SynologyのNAS「DS923」を併用している。ネットワーク再生を楽しむ多くのユーザー宅に取材したが、ここまで凝ったシステムを使う方は少ない。さすがは有名コミュニティの主催者だ(笑顔!)。

 また、先ほどあえて “独創的” と書いたのは、DSP-Doradoからの音声出力をデノンのAVセンター「AVC-A100」に入力し、2ch成分を拡張してサラウンド変換しているから。フロント2chスピーカーはB&W「802D」で、これに加えサラウンド/サラウンドバックやトップスピーカー、サブウーファーを追加した7.2.6システムを構築している。

チェック2:空きLANポートからの飛び込みノイズを遮断して、音への悪影響を排除。ネットワーク機器の動作も安定し、歪み低減も実現

LANターミネーター「RLT-1K」 ¥23,100(1個、税別)

 ネットワーク環境では、機器自体に加えACアダプターなどからもノイズが発生しているため、空きLANポートからの飛び込みノイズが音に与える影響も無視できない。LANターミネーターのRLT-1Kは、空きLANポートに装着することで装着したLANポートの動作がストップされ、ノイズの飛び込みやノイズ増幅がなくなり、ネットワーク機器自体の動作も安定し、歪みの低減やS/N向上が実現できるものだ。

 菊地邸では、ルーターの「Aterm BL1000HW」、スイッチングハブ「sNH-10G」、PCの「Canarino fils9 ver.3」、AVアンプ「AVC-A110」の空きLANコネクターに13個使用した。

 まずは菊地さんが普段鳴らしている音を確認するべくRoonからジャズ系のソースを何曲か再生してもらうと、躍動感があるパワフルなサウンドが飛び出した。分解能や聴感上のS/Nも高いが、色艶のいい音とスイートスポットを取り囲むように設置された複数のスピーカーのおかげで、サウンドステージは広大で面白みがある。サブウーファーの投入により、低域のレンジや迫力も充分。僕が「音楽的にもオーディオ的にも魅力があるサウンドですね」というと、緊張した面持ちだった菊地さんが笑顔になった。

 ある意味、菊地さんのシステムは型破りで楽しい機材構成だが、前段のソース機器周りに施されたクロックや光LANケーブルを始めとする音質対策が分解能やS/Nの高さに表れている。これだけこだわり抜いた環境でアコースティックリバイブの3つのアクセサリーを追加するとどのような変化をもたらしてくれるのだろうか?

 クォリティチェックの方法としては、まず3モデル単体の効果を確認し、最後にすべてを同時に使用してみる2段階構成とした。しかも、一般的なテストでは1製品1個というのが普通だが、今回はアコースティックリバイブのご厚意により各製品とも潤沢に用意されており、空き端子に片っ端から入れてテストできたことにも注目してほしい。やりすぎとなるか否かも含めて各モデル/全投入による最大の変化を確認できるはずだ。

チェック3:空きUSB端子にも飛び込みノイズ対策は有効。信号回路をターミネートすることで、ネットワークオーディオのエネルギー感が向上

USBターミネーター「RUT-1K」 ¥19,800(1個、税別)

 USB Type-A端子に取り付けるターミネーター。信号回路を良質な抵抗でターミネートし、電源回路にはフィルター回路を搭載して、信号回路、電源回路共にノイズの発生をシャットアウトする。RUT-1KによってUSB回路からのノイズの影響が無くなったオーディオ機器はS/Nが向上し、歪みが減少して音の厚みや密度、エネルギー感まで向上する。

 取材では、PCの「Canarino fils9 ver.3」と、AVアンプ「AVC-A110」、NASのSynology「DS923+」の空きUSBポートなどに6個取り付けている。

 まずはLANアイソレーターのRLI-1GB-TripleCを試す。使用個数は3つで、ルーターのNEC「Aterm BL1000HW」とスイッチングハブsNH-10Gの間、sNH-10GとSynology DS923+の間、DS923+とデータ送り出し用PCのCanarino Fils9 Ver3の間にあるLANのライン上にそれぞれ1個投入した。

 その音質差は一聴してわかるレベル。まず聴感上のS/Nが上がり、中音域から高音域の透明感が高くなる。ヴォーカル系の楽曲では背景の見通しがよくなり、バックミュージックとヴォーカルの描き分けのラインがより明瞭に聞こえた。ジャズ系の音源では楽器のアタック感と立ち上がり表現がより鋭くなる。「かなりよくなりますね、透明感が大きく上がりました!」と菊地さんも嬉しそう。

 次にLANターミネーター、RLT-1Kを試す(RLI-1GB-TripleCは一旦外した)。ここではAterm BL1000HW、sNH-10G、Canarino Fils9 Ver3とAVセンターのAVC-A110、NASのSynology DS923+に合計13個使用した。

 音質変化についてはRLI-1GB-TripleC同様に、聴感上のS/N改善が顕著だ。使用前と後を比べると音全体の透明感が上がるし、高音域から低音域まで全帯域の分解能も向上しているように聴こえる。また、RLT-1Kの持つ制振効果のおかげか、音のディテイルに乗る微かな付帯音が減少しており、楽器の音色の微細な描き方がより明瞭になる。菊地さんは「こちらも効くな〜」と感心している。

 USBターミネーター、RUT-1KはPCのCanarino Fils9 Ver3とAVセンターのAVC-A11、NASのSynology DS923+の空きUSB端子に合計6個使用したのだが、こちらも興味深い結果に。まず菊地さんが、「躍動的な音になりましたね!」と声を上げる。僕も同印象で、聴感上のS/N向上によるノイズフロアーの減少とともに、より音楽が躍動的かつ音色豊かに聞こえるのだ。ジャズ系音源のアタックの出方や表現力も上がり、ヴォーカルはいっそう血の通った表現になる。

チェック4:LANアイソレーター/ターミネーター、USBターミネーターを適材適所に全部装着。贅沢な試みは、どんな効果をもたらすか

 3種類のノイズ対策アクセサリーを贅沢に使った “全部入り” の効果も確認している。空き端子からの飛び込みノイズ対策としてRLT-1KとRUT-1Kを、さらにルーターからのノイズ対策にはRLI-1GB-TripleCを、個別の取材時と同じ場所に取り付けている。

 最後は3つのアイテムを同時に使用して音質変化を確認したのだが、これはインパクト大で、かつ興味を惹く結果となった。聴感上のS/Nだけであれば間違いなくこの構成がNo.1だ。全帯域の音に密度が増して、歪み感が大きく減少する。

 今回のレビューではノイズ対策アクセサリーにありがちなエネルギー感の減衰や音色の極端な変化などの副作用は感じられず、本質的なクォリティを引き立たせる結果となった。取材時は空いているLANとUSBの端子にターミネーターのRLT-1KとRUT-1Kを合計19個も投入したが、どのアイテムも少数の使用で大きな効果を発揮するので、まずは1個から試して変化を確認しながら数を増やして行くことをお薦めしたい。アコースティックリバイブには無料貸し出し制度もあるので、こちらを利用してみるのもいいだろう。

 いかがだったろうか。インターネットの普及と光回線および5Gなど有線/無線の回線速度が高速化している中、既存のハイレゾファイル再生に加え、現在は聞き放題の音楽配信サービスの人気が加速している。これらの音質を高めるために投入されたオーディオアクセサリーは、時に投入したコスト以上の音質改善をもたらすが、各々の環境により効果の幅や現れ方が異なる場合もある。

 つまり、あらかじめ調音が徹底された試聴室での音の変化をレビューすることも大切だが、今回のように実際の現場(みなさんのお宅)で試すことでよりリアルな効果が確認できるということだ。その意味でも、今回のレビュー結果はより現実に即しており、読者諸氏にもインパクトがあったのではないかと思う。

 高品位なオーディオ用ケーブルや電源タップなども人気のアコースティックリバイブだが、今回試した3つのアクセサリーは間違いのない音質向上結果をもたらした。基本的にビットパーフェクトが保証されるLAN接続だが、ノイズ抑制による音質向上効果は確かだったし、電源と信号ラインが共存するUSBにも大きな音質向上効果が聴き取れたのが収穫だ。

 ネットワークオーディオのノイズ対策アクセサリーには高額なものも存在するが、今回試した3種のアクセサリーは比較的入手しやすい価格帯であり、ひとつからでも効果がわかるので、それぞれの環境に応じてやりすぎに注意しながら慎重に試してもらいたい。

 最後に菊地さんが作り上げている音について。上述の通り独創的だったのが印象的だが、同時に、出てくる音はかなり本質をとらえた魅力的なもので、オーディオという趣味はさまざまな楽しみ方があると思っている僕にとって、たいへんいい勉強になったことも報告させていただきたい。

提供:関口機械販売

DSD5.6MHz音源「All the Things You Are」で、ドラム、パーカッション、ピアノ、サックスといった楽器の変化をじっくりチェックした

 今回の試聴では、弊社から発売中のハイレゾBD-ROMから、「Allthe Things You Are」(DSD5.6MHz)もチェックしている。このBD-ROMにはCDフォーマットの44.1kHz/16ビットからPCM 384kHz/32ビット(WAV)、DSD11.2MHz/1ビットの最上位のハイレゾフォーマットまで(DSF)、12曲全47音楽トラックを収めており、各フォーマットの音質的特徴を確認できる。ハイレゾ再生システムの比較試聴用としてお勧めです。