映画『わたしの見ている世界が全て』公開記念舞台挨拶が4月1日、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で行なわれ、主演の森田想、共演の中崎敏、熊野善啓、メガホンをとった佐近圭太郎監督が登壇した。

 家族と価値観が合わず、大学進学を機に実家を飛び出しベンチャー企業で活躍していた遥風だったが、目標達成のためには手段を選ばない性格が災いし、パワハラを理由に退職に追い込まれる。復讐心に燃える遥風は、自ら事業を立ち上げて見返そうとするが資金の工面に苦戦。そんな中、母の訃報をきかっけに実家に戻った遥風は、3兄妹に実家を売って現金化することを提案するが断固反対され、それでも野望に燃える遥風は家族を実家から追い出すため「家族自立化計画」を始める――というストーリーが展開される。

 これから映画を鑑賞する観客を前にした主人公の熊野遥風役を演じる森田は「すごく刺激的な映画というよりは、日常の中にある感情や経験だったりをすくい取って描いているので、そこにぜひ注目して見ていただけたらいいなと思います」と挨拶。本作は2年前の夏に、2週間という短期間で撮影されたそうで、森田は「2週間だったので1日にお兄ちゃんのシーン、お姉ちゃんのシーンといろんな人とお芝居をやって、次の日もやってという風に駆け抜けていった感じがありましたね」と回顧。

 次男の熊野拓示役を演じる中崎は「周りに『いつ撮ったんですか?』って聞かれたりして、『去年撮ってましたね』って言っちゃうくらい、あっという間に時間が過ぎましたね」と語り、長男の熊野啓介役を演じる熊野は「雨を待つとか、天気を待つとか、雲が流れてから行こうってみんなで待ったりして、農家のシーンとかは特に印象的だなと思っていて、そのチーム感みたいなものがあったなと感じていました」と吐露した。短期間で撮影することに難しさを感じていたという佐近監督は「遥風はアクの強い役なんですけど、森田さんはその役を自分の中に取り入れていって、最年少だったんですけど現場の空気を引っ張っていってくれたので、胸を預けて2週間で撮りきらせていただきました」と森田に感謝した。

 また、本作を見た感想を求められると、森田は「自分が想像していた作品といい意味で違って、時間も82分ですごくまとまっていますし、場面の切り替えだったり、物語が進んでいく様子だったりが遥風と同じように潔くて、登場人物と物語の進み方がリンクしているように感じて、自分が関わらせていただいた映画だけど率直に面白いなと思いました」と声を弾ませ、中崎は「佐近さんの手腕というか、いざ見たらコミカルでテンポも良くて、(劇中の兄弟が)ギクシャクしているのになんでクスッと笑っちゃうんだろうってところがところどころあって、距離を置いている熊野家の兄弟が愛おしくて、一所懸命生きてほしいなって印象を持ちました」とにっこり。熊野は「撮影しているときはのどかな感じで進んでいたんですけど、試写を見終わったあとにけっこう雰囲気が違って“こんなにスマートな感じになるんだ”って思いました。撮影現場にいた身からすると、差があって面白かったなって思いました」とコメントした。

 続けて、映画祭への出品もあり、撮影後2か月程度で仕上げたという佐近監督は「プロデューサーと『このシーンは落としたほうがいいんじゃないか』とか、群像劇ってどの情報を先に見せていくかという順番とかがあるんですけど、脚本から入れ替えたりしながら、1番お客さんが見やすいのはどういうのだろうと検討しながら作りました」と告白。改めて、本作のキャスティングについて聞かれた佐近監督は「今回は運がよかったんですけど、僕がかねてよりご一緒したいなと思っていた方々とできたことが本当に幸せでした」と目を輝かせた。

 さらに、本作のキャッチコピー“個人主義へのささやかな挑戦を描いた社会風刺エンタテイメント”に込めた思いを尋ねられた佐近監督は「遥風は個人主義の象徴みたいな存在で、ある種いまの時代にあるそういう空気みたいなものを象徴する存在で、今回の映画は主人公に共感して何かを感じていくというよりは、主人公を観察する中で“こういう人って最終的にどこに行き着くんだろう”みたいな観察者の目線でみなさんに見ていただくような、ちょっといびつな映画になっているかなと思っています」と説明した。

 そして、本作の内容にちなみ、実際に兄弟はいるか質問されると、2歳下の弟がいるという熊野は「仲良いですよ!弟も結婚して子どももできたので、それぞれの家庭って感じなんですけど、(劇中の)兄弟の感じというのはわかる気がしますね」といい、2歳上の兄がいるという中崎は「去年末に子どもが生まれたんですけど、姪っ子がかわいくてかわいくて」と目を細め、「兄弟仲がいいので、こういう兄弟もいるんだなって思いながら台本を読んでいました」とコメント。

 3歳上の兄がいるという森田は「私も仲がよくて、お兄ちゃんがいるという設定は飲み込みやすかったですけど、(劇中の兄弟の)仲みたいなものは想像というか、みなさんと一緒に擦り合わせていきましたね」と明かし、3歳上の姉がいるという佐近監督は「性別も違うのですっごい仲がいいってわけでもないんですけど、普通に仲よくやっています。僕も大人数の兄弟って経験がないので、どんな感じなんだろうというのは想像を巡らせながら描きました」と語った。

 なお、本作でマドリード国際映画祭・外国語映画部門で主演女優賞を受賞した森田は、この日、サプライズで佐近監督からトロフィーを贈呈されると「おー!いつ届くんだろうって思っていたんです。存在しないんじゃないかって思っていました」と目を丸くし、トロフィーを手にすると「重い…。ありがとうございます。非常に嬉しいです」と感慨深げに語った。

 そして、最後にコメントを求められた森田は「作中の登場人物たちがすごく個性があって、キャラクターを通しながら見る社会の見方とか、見てくださる方が“どういう風に考えていたっけ?”とか、例えば家族との距離感というものをどう考えていたっけと振り返りきっかけになってくれれば嬉しいです」と思いを語り、「口コミを本当にいただきたいなと思っているので、TwitterだったりInstagramだったり会社のご友人でもいいので、ぜひ何か思ったことは一言でも書いていただきたいなと思っています」とお願いした。

映画『わたしの見ている世界が全て』

ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国公開中
(C)2022 Tokyo New Cinema