IIJ(インターネットイニシアティブ)は、現在上野を中心に開催されている国内最大級のクラシック音楽の祭典「東京・春・音楽祭2023」のライブ・ストリーミング配信を実施、会場と並行し、66公演をインターネットで視聴可能だ。そして昨日、実際に配信を行なっている本社内の「IIJ Studio TOKYO」がマスコミに公開された。

配信スタジオでは、現場に設置されたカメラの操作やインサートなどの作業も行っている

 同社は以前から「東京・春・音楽祭」のサポートを行なっており、2021年からライブストリーミングサービスも行ってきている。昨年は各会場に設置するカメラを1台とし、その映像をインターネット回線を通じて飯田橋のIIJ本社に伝送、社内の仮設スタジオにてオペレーターがリモートで機器の操作や音量調整などの中継操作を行うことで、コストを抑えた配信を実現していた。

 今回の配信でも作業自体は同様とのことで、上野のホールに4Kカメラを1台ずつ設置して映像を収録(基本的には全景をフィックスで撮影)、音声については会場のライン(48kHz/24ビット/2ch)をもらってカメラに入力している。こうすることで映像と音声をミックスした状態で、インターネット回線で送れることになる。

映像と音声はインターネット回線とワイヤレスの二つの経路を使って伝送

 その伝送についても昨年同様に4Kクォリティとバックアップ用のHD品質(2系統)が使われている。4K映像と音声はSEIL(ザイル=IIJが開発した高機能ルーター)経由でフレッツIPv6折り返し回線を使って伝送される(30Mbps前後)。バックアップ用は同じくフレッツIPv6折り返し回線と、LiveUのモバイル回線を使って送られるという。

 なお昨年との違いとしては、前回は上記の通り仮設スタジオで中継作業を行っていたが、今年は常設のIIJ Studio TOKYOとなり、さらにその隣にはクロマキーも備えた撮影スタジオやドルビーアトモスの再生が可能な試聴室まで準備されている。

カメラのパンニングやズーミングもインターネット経由で操作可能

 スタジオの解説をしてくれた、IIJ ネットワーク本部の岡田裕夫さんによると、今回は66公演をライブ配信するという(昨年は60公演)。上記のように機材自体は昨年を踏襲しており、ホールに1台の4Kカメラを設置すればいいので、必要なスタッフの数もかなり抑えることに成功している。

 苦労した点としては、東京文化会館小ホールなどの一部のホールでは、カメラからルーターまでSDI(同軸)とイーサネットケーブルを這わせる必要があったとかで、視覚的に邪魔にならないように30m近く敷設するのに時間がかかったとのことだった。その他にもミュージアムコンサートでは、一般公開が終わった後に設置や撤収作業を行わなくてはならないので、そういった制約をどうするかが難しかったそうだ。

ドルビーアトモスの再生も可能な視聴室。スピーカーはジェネレックのアクティブ型が使われている

 さて説明会当日は、文化会館小ホールの公演がリアルタイムで配信されており、それを隣の試聴室で上映していた。中継機機からの信号をHDMI経由でAVアンプのマランツ「AV8805」に入力、2ch音声をアップミックスして7.1.4システムで再生していた。映像はソニー「VPL-VW275」で投写。

 試聴室は吸音・調音処理もきちんと行われており、S/Nのいい落ち着いた空間に仕上がっている。音声は2chからのアップミックスだが、スクリーンの周りにふわりと音声が広がり、女声が自然な響きを持ちつつ広がっていく。こういった配信素材はテレビの内蔵スピーカーで聞くことも多いと思うが、この音質であればちゃんとしたスピーカーで再生して欲しいと思った。

プロジェクターはソニーの4K対応モデル

 IIJでは、「東京・春・音楽祭」で培ってきた経験を活かし、コンテンツ配信をワンストップで提供する動画配信プラットフォーム「IIJ Teatrista(テアトリスタ)サービス」も提供していく予定だ。Teatristaは公演の撮影・収録、伝送/ネットワーク、動画視聴サイトでのコンテンツ配信に加え、会員管理・チケット管理、決済システムの提供など、有料ライブ配信に必要なすべてを備えており、クライアントはその中から必要な項目を選んで委託もできるという。

 同社のノウハウを活かせば日本中のどこからでも配信を行うことができるとかで、コンサートに限らず様々なジャンルでTeatristaが活躍するかもしれない。また音質面でも48kHz/24ビットを超えるハイレゾクォリティも検討したいとのことなので、これからのIIJの配信事業にも期待したい。(取材・文:泉 哲也)