淺雄望監督の、初長編作『ミューズは溺れない』が、3月18日より、ポレポレ東中野での上映が開始となり、同日上映後には公開を記念した初日舞台挨拶が行なわれた。登壇したのは、主演の上原実矩、共演の渚まな美(SF研)、佐久間祥朗(野球部)、スタッフから撮影の大沢佳子、そして淺雄望監督ら。トーク部分では、撮影のエピソードから、撮影後の過ごし方まで、キャストの口からは、いろいろな出来事が語られていた。

 本作は既報の通り、新人監督の登竜門とされるTAMA NEWWAVEと田辺・弁慶映画祭の双方でグランプリに輝いたほか、ベスト女優賞、観客賞など計6冠を獲得。昨年9月にテアトル新宿での田辺・弁慶映画祭セレクション内で初上映された際には、1週間限定にもかかわらず、口コミで満席回も出るなど、大きな盛り上がりをみせており、各地での上映を経て今回、待望の東京都内での本上映が決定した、という流れだ。

 今回は、監督自身がMCも兼ねて、司会と進行を兼任。まずは、東京での本上映が決まったことについて聞かれたキャストたちは、「昨夏の上映では、夜遅い時間の上映だったこともあって、行けないという声も多く聞いていたので今回、ポレポレ東中野さんで、見に来やすい時間帯で上映してもらえることが、とっても嬉しいです」(上原)、「素敵な劇場でかけていただけるのが、本当に嬉しいです。そして、皆さんに愛される作品になったことも嬉しいです」(渚)、「昔、友達が舞台挨拶に立った劇場に、今度は自分が立てることが、うれしくもあり不思議な感覚もあります」(佐久間)、「裏方なんですけど、大好きな劇場で、監督が本当に頑張って頑張って頑張ってきた映画が上映されるのが嬉しくて、登壇してしまいました」(大沢)と、喜びのコメントをしていた。

 続いて、初めて台本(シナリオ)を読んだ時の感想を聞かれた主演の上原は、「私の中で濁りがなかった」と独特の表現ながら、すぐに作品の世界観を理解することができたと述懐。その意味するところは、芝居をするにあたって読み込んだ際に、「分からないとか、ちょっと違うんじゃないかなって感じる部分がなかった」と語り、メインの登場人物3名には「共感できるし、面白い」と感じたそうで、作中で描かれている「誰も好きにならない時期とか、ただ揺らいでいるだけでいいというテーマは、公開に向けてインタビューなどを受けたり、監督と話をしていく中で、すごく素敵だなと感じる気持ちが強くなった」そうで、「そういう作品に参加できて嬉しかった」と笑顔を見せていた。

 また、自身の学生時代を振り返りながら、「そういうことで悩んでいる子たちがいて、とても身近なテーマだと感じたし、こうして形(映画)になったことが面白いですね。学生時代に一緒に過ごした人たちに見てもらえたら」と話していた。

 本作のドラマパートの撮影は2019年の夏に、およそ12日間で行なったそうで、撮影時のエピソードを聞かれた渚は「海で撮影していた時のことが凄く印象に残っています」とニコリ。「水が動いている様子を見るのが好きなので、撮影の合間に、ボーっと海を眺めたりしていたので、海辺の近くで撮影できたことがとっても嬉しかった」とコメント。また、真夏の撮影だったこともあり、暑い日が続いていたそうで、「アイスの差し入れがめっちゃ美味しかったです」と食いしん坊な一面も見せていた。

 一方の佐久間は、モデルの活動もしていることから日焼けはNGだったそうだが、撮影後には、色が変わってしまうほど日焼けしてしまったそうで、「周囲の人たちに心配されました」と、ハプニングがあったことを話していた。

 撮影の大沢は、「とにかく時間がなくてバタバタしていた」そうだが、「役者さんたちの輝いている姿を見逃さないように」撮影に集中したという。同時に、「このメンバーなら大丈夫っていう直感」もあったそうで、スケジュールに引きずられないように頑張っていたことを、「上映を観て思い出しました」とニコニコしながら語っていた。

 ちなみに、本作はクランクインから上映まで、4年近くの時間が経過しているが、その間の気持ちや過ごし方を聞かれると、上原は「映画祭でいろいろな賞をいただいたり、昨年の特集上映の際に、いろいろな感想(言葉)をいただけて、役者をやっていてよかった、この作品に関われてよかったと感じた」そう。同時に「本作に出演したことで、自身の成長も感じた」と、胸を張って答えていた。

 と、ここで、上原(朔子)の父親役を演じた川瀬陽太がサプライズで登壇。上原へ花束を渡して、颯爽と去っていった(本当に一瞬の登壇)。

 さて、川瀬が去ったあとは、再び話を渚に振ると、「コロナ禍もあって、舞台の中止も多く落ち込むこともありましたけど、(ミューズの)撮影がすっごく楽しかったので、いつ完成するのかなって考えることを心の支えにしていました。映画祭でもたくさん賞を獲ったことを聞いて、“嬉しい”っていう気持ちで過ごしていた」という。

 佐久間は、アフレコ作業が記憶に残ったそうで、「声変わりの時期と被ってしまって、ちょっと作業を停滞させてしまいました……」と苦笑い。今はダンディになった渋い声で、完成までの苦労を振り返っていた。

 大沢は、仕上げ作業で監督とは密に連絡を取っていたそうだが、「編集するたびに、SF研のメンバーの登場時間が変わっていくんですよ」と笑顔で話し、最終的には「撮ったシーンはほぼ使っているみたいだった」と明かし、「SF研のファンになっちゃいました」とおどけてコメントしていた。

 最後の挨拶として、上原からは「また東京で、ポレポレ東中野さんで、上映することができて、すごく嬉しいです。個人的には、劇中で描かれている渦中の学生の皆さんを含めて、幅広い年齢の方に観てほしいです」。淺雄監督は「映画を撮る時に、悩みをうまく言葉にできなくて。できないから映画にしたと、改めて思っています。映画を観た方が、私が言葉にできなかったことをくみ取って、いろいろな言葉で表現してくれているのを見るのが今、心の支えになっています。生きてきてよかった、映画を撮ってよかったと、心から思っています。なので、何でもいいので言葉をもらえればと思います。お力添えください。お願いします」という言葉をもって、初日舞台挨拶は終幕となった。なお、舞台挨拶は、24日まで連日開催予定となっている。

学生時代の親友から花束を贈られた監督

映画『ミューズは溺れない』

ポレポレ東中野、横浜シネマ・ジャック&ベティで上映中
4月15日(土)より元町映画館など全国順次公開予定

<キャスト>
上原実矩
若杉凩 森田想 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美 新海ひろ子 菊池正和 河野孝則 川瀬陽太 広澤草

<スタッフ>
監督・脚本・編集:淺雄望
撮影監督:大沢佳子(J.S.C)|制作担当・スケジュール:半田雅也|照明:松隅信一|美術:栗田志穂|ヘアメイク:佐々木ゆう|監督助手:吉田かれん|撮影助手:岡田拓也|録音:川口陽一|整音・効果:小宮元、森史夏|カラリスト:稲川実希|スチール:内藤裕子|音楽:古屋沙樹|音楽プロデューサー:菊地智敦|油絵:大柳三千絵、在家真希子|企画・制作・プロデュース:カブフィルム|配給宣伝:カブフィルム|宣伝協力:小原治(ポレポレ東中野)| 2021年| 82分| 16:9|カラー
(C)カブフィルム

『ミューズは溺れない』3/18(土)から東京凱旋上映決定!

www.youtube.com

●舞台挨拶日程
・3月20日(月) 18:40の回上映後
 上原実矩・淺雄望監督
・3月21日(火・祝)  18:40の回上映後
 上原実矩・淺雄望監督 ゲスト:前田弘二(映画監督)
・3月22日(水)  18:40の回上映後
 ゲスト:鈴木史(映画監督・美術家・文筆家)
・3月23日(木)  18:40の回上映後
 上原実矩・淺雄望監督
・3月24日(金) 18:40の回上映後
 上原実矩・淺雄望監督 ゲスト:ヴィヴィアン佐藤 (ドラァグクイーン・美術家)