第5回を数える「リン・サラウンド体験記」では東京都内のユーザー宅を訪問。都内の住宅はコンパクトな居住空間になりがちだが、設計とインテリアの工夫で心地よく住みこなす「住まいの達人」にしばしば出会う。今回のMさん夫妻はまさにそういった方々で、センスのよいリビングにリンのサラウンドシステムを調和させてAVライフを楽しんでいる。このたび新たにMAJIK 109を導入し、全チャンネルをイグザクトシステムで鳴らしているという情報をキャッチ。その経緯と音を聴きに訪ねた。
取材・文/本多祐介

 今回の取材先は、神社を中心とした地縁が残る東京の下町の住宅。駅周辺の繁華街から少し離れた静かな住宅地の中で、コンクリート打ちっぱなしの外装と、木材を平行に並べたルーバーで窓を覆ったファサードが特徴の一軒家だ。外観から受けるクールな印象とは裏腹に、玄関に入ってすぐの2階に続く階段には明るい外光が入り、階段を上がった先のリビングダイニングに通されると、広い間取りと溢れんばかりの光に驚かされた。まるで現代的にアップデートした町屋といった風情。大きな窓に取り付けられたルーバーは外からの視線だけを遮り、窓のすぐそばのリビングに自然光を柔らかく招き入れて、ポカポカと心地よさそうな空間を演出している。

 「2012年に建て替えた家です。この土地は細長い形をしていて、間口が狭いのですが『とにかく広々とした部屋で暮らしたい』という思いがあり、視線や動線の工夫で広く感じられる間取りや構造を建築家と相談して決めました」

 そう話すMさん夫妻のリクエストどおり、キッチン、ダイニング、リビングを間仕切りせず、すべて見渡せる抜けのよい間取りと、外の光をめいっぱい取り入れられる大きな窓が設置された。壁は漆喰、天井・床・本棚は無垢の木と、自然素材に囲まれて夫妻は悠々とした暮らしぶりを謳歌しているように見える。そしてこのリビングにごく自然な佇まいでリンのスピーカーが4台置かれ、4.0chサラウンドシステムを構築、そのすべてをイグザクト化しているという。

 「以前からサラウンド環境で聴いていたのですが、かつて試したイグザクト仕様のSeries 5の音に圧倒された経験があり、いつかは自分もこの音を……と、憧れていたのです」

 Mさんは2022年秋、ついにそれを実行。音環境がグレードアップしたことで快適さも増し、リビングで過ごす時間がかけがえのないものになっている。

設計は植本空間設計舎が担当。木製ルーバーは角度がついているため外からはまったく中が見えないものの、部屋の中にはしっかり光が入る。間口が狭く奥行が長い町家のような住宅で、ルーバーは格子戸のオマージュにも感じられる

M邸の主な使用機器

●4Kディスプレイ : ソニー KJ-55A9G
●4Kレコーダー : ソニー BDZ-FBT4000
●UHDブルーレイプレーヤー : オッポ UDP-205
●ネットワークプレーヤー+コントロールアンプ : リン AKURATE DSM
●D/Aコンバーター/チャンネルデバイダー : リン AKURATE EXAKTBOX-I
●スピーカーシステム : リン EXAKT AKUBARIK(LR)、リン MAJIK 109(LS/RS)

 

設計段階からこのスピーカーレイアウトを想定し、AVラックや本棚も造り付けた。チェアやテーブルは大阪の家具ブランドTRUCKをセレクト。大阪のショールームまで出向き、部屋に対してジャストなサイズを選び抜いたという。スピーカーを含めたインテリア全般が自然な存在感でリビングに溶け込む

 

生来の音楽好きが、ネットワーク再生と サラウンド環境にたどり着くまで

 「リン・サラウンド体験記」ではこれまでまったくオーディオやビジュアルに接してこなかった方々も登場するが、Mさんの場合はジャズやロックを聴きまくり、オーディオに没頭する少年〜青年期を過ごしてきた。当時住んでいた横浜ではジャズ喫茶の名店「ちぐさ」に通い、FM雑誌でエアチェックする高校時代を送る。大学生になるとタンノイのスピーカーを自宅で聴き込み、ラックも自作した。筋金入りのオーディオファンである。そんなMさんの音楽の聴き方を根底から変えてしまったのが、リンのMAJIK DSだ。

 「2000年代半ばに、iPodを有線やドックで自宅のオーディオとつないで聴く方法が流行しました。私もそうしていたのですが、圧縮音源ではなくCDクォリティで聴きたいと思うようになり、その頃からファイル再生において抜きん出ていたのがリン。手が届く価格のMAJIK DSが登場したタイミングで入手しました」

 それから現在に至るまでリンのネットワーク再生がリスニングの中心だ。一方のサラウンドは、今の自宅に建て替える際、奥様ともども映像作品が好きだったことからサラウンドを前提としたリビングルームを計画。壁や床の内部に配線を通し、リンのCLASSIK UNIKをリアスピーカーに、他メーカーのフロントスピーカーとAVセンターを使った4.0chサラウンドを組んだ。その後はAKURATE DSMとMAJIK 2100でフロント2chの音を強化、ユニティゲイン入力でAVセンターとの共存を図りながらリン製品をサラウンドに組み込んでいき、フロントスピーカーEXAKT AKUBARIKの導入でフロントのみイグザクト化したリン・サラウンドがいったん完成する(図❶)。

 しかし、EXAKT AKUBARIKをDACアップグレードする際に借りた、同イグザクト方式の530スピーカーとの4.0ch再生を聴き、これを目指すべきだとMさんが思ったのは前述のとおり。現状のシステムを生かしつつ、サラウンド全チャンネルのイグザクト化をMさんに決意させたのだった。

フロントに加えてリアもイグザクト化。 実体感が迫り来るサウンドに

 リンのイグザクトテクノロジーは、帯域のクロスオーバーをデジタル領域で行なうことで、アナログ信号の伝送ロスやクロスオーバーユニットから発生する物理的な歪みから解放され、優れた位相特性を発揮する技術。スピーカー間あるいはユニット間の出音のタイミングがきっちりとそろうため、スピーカーのチャンネル数が増えればそれだけ恩恵を実感できる。

 「AVセンターを使用していた頃はどうしても『もわーん』と鳴ってしまう印象だったのが、フロントをイグザクト化したことでだいぶ改善されました。今回はそれをさらに押し進めるため、リアにMAJIK 109を導入したのです」

 MAJIK 109はイグザクト対応のコンパクトな3ウェイブックシェルフ。MAJIK 109を壁掛けリアスピーカーにするのは、今回のインストールを担当したサウンドクリエイトのサイトにいくつか事例が載っており、Mさんはそれらを読み込んで依頼したそうだ。なにより、この部屋に抜群にハマるルックスだったことも大きい。

 Mさんの現在のシステムはこうだ。イグザクトの司令塔であるヘッドユニットにAKURATE DSM、ここからイグザクトリンクでフロントスピーカーEXAKT AKUBARIKにデジタル接続してアクティブ駆動。リアは、今回導入したサラウンド拡張ユニット兼チャンネルデバイダーAKURATE EXAKTBOX-Iにこちらもイクザクトリンクでデジタル接続しD/A変換、3ウェイのMAJIK 109をマルチアンプ駆動させている。(図❷)。はたして全チャンネルイグザクト化の成果のほどは。

今回刷新したサラウンドピーカー、MAJIK 109は2008年に国内発売を開始したロングセラーモデル。トライアンプ駆動に対応したスピーカー端子を搭載する。M邸ではあらかじめ壁内配線され壁に固定されている。天井高は約2.5m

EXAKT ENGINEを内蔵した5ウェイアクティブスピーカーEXAKT AKUBARIK。「ISOBARIK方式」で伸びやかな低音を鳴らすリンの中核モデルだ。2015年頃にKATALYST DACにアップグレード済み

 

「もやがかかっていた風景が晴れたように、明瞭に音が聴こえてくるのがとてもいいです。NHK BS4Kで5.1ch放送をしていた『鎌倉殿の13人』の第一話冒頭に馬を駆って逃げるシーンがあるのですが、蹄で地面を蹴る音や森を抜けるカサカサした音が印象的に響いてきます。妻が好きなコールド・プレイのスタジアムライヴソフトを観ても、会場のエコー感がわざとらしくなく、自然なんです」

 現状はMさんにとってほぼ最終形のサラウンド環境。とても満足している様子が伝わってくる。

 サラウンドの強化を図ったのはコンテンツのマルチ音声環境が整ってきたことも理由のひとつ。NetflixやPrime Videoでは、多くの作品が5.1ch以上の音声で配信されており、4K放送もしかり。サッカーなどのスポーツ観戦も楽しむMさん夫妻にとって、ストリーミングや放送でもサラウンドを楽しめるようになった昨今の状況は大歓迎だ。リビングで過ごす大切な時間を、リンのシステムが支えている。

 AVファンが自邸をイチから建てる場合であっても、専用の部屋を作るより、リビングを視聴ルームにするケースが多いだろう。取材に同席したサウンドクリエイトの金野匠さんも「圧倒的に後者が多いですね」と首肯する。「特にリンはスピーカー筐体が環境になじみやすく、コンポーネントもシンプルなのでリビングユーザーに受け入れられています。僕らはいつもお客様の事例を別のお客様に紹介しているわけですが、Mさん邸はリビングとオーディオがほぼ完璧に調和しているから『こんなふうにしてみるのはどうですか』と伝えたい部屋のひとつですよ」

 今回は、現代のリビングとリンの親和性、それがもたらす生活の豊かさを強く物語っているケースだった。今後も様々なユーザーの声や姿をキャッチし、読者に届けていく。

造り付けのラックにAKURATE DSMとAKURATE EXAKTBOX-Iを格納。オッポUDP-205、ソニーBDZ-FBT4000とともにすっきりとまとめられ、外観もそろえている。テレビはソニーの4K有機ELディスプレイKJ-55A9Gだ

音楽はNASに入れた楽曲のリスニングの他、シーンに合わせてランダムに楽曲をストリーミングするサブスクリプションサービス「Calm Radio」を利用して自宅での仕事中にながら聴きしているそうだ

 

取材にご協力いただいたインストーラー
●SOUNDCREATE:TEL. 0120-62-8166

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年春号』