オーディオビジュアルの花形はなんといっても大画面スクリーン映像である。その感動を支え続けているのが、JVC/ビクターが作るD-ILA素子を使ったD-ILAプロジェクターだ。昨2022年、D-ILA素子が誕生25周年を迎えた。ここではその系譜を追うとともに、8人のD-ILAプロジェクター現・愛用者にその想いを綴っていただく。(HiVi編集部)

傑出したD-ILA素子と高度な映像処理技術が感動の大画面の原動力だ!

 JVC/ビクタープロジェクターの画質を根底で支えてきたD-ILA(Direct drive Image Light Amplifier)デバイスが1997年に実用化されて25年。効率の良さ、開口率の高さなど、プロジェクター用の表示素子としての素性の良さは広く認知されていたが、その持ち味を引き出すのは簡単ではなかった。基本性能(特にコントラスト比)を左右する素子の表面性、信頼性に直結する耐光性、あるいは画素ギャップの縮小が不可欠な高画素化と、JVC/ビクターは日々、地道な開発を重ねながら、他社の追随を許さない今日(こんにち)のクォリティを実現したのである。

 D-ILAはシリコンチップ(LSI)の表面に直接液晶が配置され、外からの光を反射して画像を表示するLCOS(Liquid Crystal On Silicon/反射型液晶)に分類される。ベースとなる駆動回路部分は、普通のLSIと変わらないが、表面の画素電極を保護しながらカッティングし、ガラスとの間に液晶を挟み込んで封入する。LSIは樹脂の中に固めてしまえば完成するが、LCOSは電気光学デバイスであり、信号処理と同時に光を反射させなければならない。このとき、信号レベルの変動が僅かでもあると映像に表示されてしまうため、LSI設計段階での追い込みが重要となる。

 半導体は元々、光に敏感だが、LCOSの場合、強烈な光を受けてもトランジスターが誤動作しないことが不可欠。ここで狙いの特性を確保して、さらに信頼性を上げることが求められるわけで、極めて特殊なデバイスということが分かっていただけるだろう。

 実際、2000年前後から、日立、キヤノンなど、世界に名だたる様々なメーカーがLCOSの開発に取り組み、製品化しているが、その多くは高輝度化を追求した業務用機で、締まった黒が求められる家庭用として使える代物ではなかった。

 その常識を見事に打ち破ってみせたのが、2006年の暮れに登場したDLA-HD1だ。デジタル駆動のフルHD解像度のD-ILAデバイスを初めて搭載したモデルで、当時、高級プロジェクターの定番として君臨した3管式に迫るコントラスト比を獲得した。

 他社が液晶の材料開発に注力するなか、JVC/ビクターはそれだけでなく、液晶をいかに並べて、制御するかという配向の技術に磨きをかけた。同時に、安定したパネル駆動が可能で、黒の再現にも有利なデジタル駆動技術を確立。その努力の結晶がDLA-HD1だったわけだ。ちなみにこの時、D-ILAデバイスの開発がスタートして約13年、その難易度の高さがうかがい知れる。なお、D-ILAデバイス自体の誕生は前述の通り、1997年。家庭用製品としては2004年のDLA-HD2Kに初搭載されたが、その後継機DLA-HD11K/12Kともにアナログ駆動のD-ILAデバイスを用いていた。

 その後、持ち前のコントラスト比に磨きをかけながら、2011年登場のDLA-X90R/X70Rでは1画素を斜めに0.5画素シフトすることで4K表示を行なう「e-shift」テクノロジーを実用化。さらに2016年にはネイティブ4K仕様のD-ILAデバイスの開発に成功し、レーザー光源を備え、3000ルーメンという高輝度化を実現したDLA-Z1を製品化している。

 そしてネイティブ4K解像度のD-ILAデバイスを本格投入した2018年登場のDLA-V9R/V7/V5を、2021年には家庭用プロジェクターとして世界初となる8K/60p、4K/120p入力をサポートしたDLA-V90R/V80R/V70Rを投入と、近年、その優位性を積極的に生かした魅力溢れるモデルが続々と登場している。

 JVC/ビクター製プロジェクターの場合、どうしてもD-ILAデバイスに注目が集まりがちだが、その優れた表示素子の潜在能力を引き出す映像処理技術にも非凡なものがある。フィルム(フジ/コダック)の特性を徹底して追求した画質(カラープロファイル)モードである通称「フィルムモード」や、キセノンランプの光源色をシミュレーションした色温度設定「Xenon1、同2」などが、その一例だが、原則すべて12ビット相当のRGBのベースバンド信号で処理している。

 家庭用の映像機器としては、相当に贅沢な映像処理だが、HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)作品の再生時、圧倒的とも言える効果をもたらす「Frame Adapt HDR」(2018年以降の製品に搭載)、では、さらにその上をいく。

 HDRの映像内容を解析して、プロジェクターのダイナミックレンジに最適なトーンカーブを選択していく技術だが、実際の信号処理としては、あらかじめ用意してある数百の代表点から、高速演算してトーンカーブを生成していく。と同時に、映像の流れに違和感が生じないようにフレーム間で適度なフィードバックを行なう。

 代表点からトーンカーブを生成する考え方は、一部の超高級オーディオ用D/Aコンバーターで実用化している手法に近く、回路としての難易度は極めて高い。この時、信号処理は何と18ビット。分解能にしてR/G/Bそれぞれ6ビット分有利になるため、より滑らかで深い黒の階調が得られ、高輝度部の色抜けや色の歪みも有利だ。

 これは12ビット処理の制約を受けるガンマの処理に頼らずに、カラープロファイル処理の領域でトーンマップを処理しているため。なおパナソニックの一部のBDプレーヤー/レコーダーとの連動で動作する「Pana PQ連動モード」でも同様のビット長が確保されている。

 ついつい見とれてしまうほどの吸引力を持つ大画面映像は、傑出した表示能力が誇るD-ILAデバイスと、その持ち味を引き出す映像処理技術の合わせ技の賜物。一朝一夕では実現できる世界ではない。

8人の大画面熱狂人間が語る、D-ILAプロジェクターの想い出

麻倉怜士

肌色を輝かせた「聖子ちゃんモード」をJVCと共同で開発。その後、標準装備に

D-ILAプロジェクターでもっとも思い出深いのが、彼らとの共同で開発した映像モード、通称「聖子ちゃんモード」だ。DLA-X90R/X70R(2011年)に、私が輝度、彩度、色相を設定した映像モードが入ったのだ。2004年のNHK BS『音楽夢倶楽部』での松田聖子「赤いスイートピー」の映像にて、彼女の魅力をさらに増して投映するための特別な映像モードを作ったのである。本来は販促特典としてダウンロード進呈するという手筈だったが、その後、一般の映像でもエモーショナルな雰囲気になることが分かり、何と、その後、D-ILAプロジェクターすべてに標準装備(カラープロファイル「ナチュラル」「ビデオ」)されたのである。あなたのお持ちのD-ILAプロジェクターにも入っているはずだ。ぜひお試しを!

現在の愛用モデル
DLA-Z1

思い出のモデル(写真)
DLA-X90R

 

潮晴男

4Kパネル搭載のZ1を導入寸前で断念したがHDRの旨味を引き出すV9Rを大いに愛用中

D-ILAプロジェクターの能力については十分に理解していたが、ぼくは解像度志向だったこともあり、2Kパネルを4K表示するe-shift対応モデルにはそれほど魅力を感じなかった。そうした思いを払拭してくれたのがネイティブ4Kパネルを採用したDLA-Z1だ。さっそく導入計画を立てその寸前までいったのだが、設置スペースの問題で泣く泣く断念せざるを得なかった。DLA-V9Rは、そうした気持ちを察してくれた(?)製品であり、4Kパネルの8K/e-shiftという新たなる武器を携えての画質に大いに感動させられた。4Kパネルには8Kへの画素変換に応えるだけの資源が十分に備わっていたのである。光源は高圧水銀ランプだが、HDRソフトの旨味をフルに引き出してくれるモデルとして今も愛用している。

現在の愛用モデル
DLA-V9R

思い出のモデル(写真)
DLA-Z1

 

小原由夫

豊穣の色再現と階調、暗部表現に首ったけ。もうD-ILAプロジェクターからは離れられない

誰もやったことのない大画面を実践したくて、新築の折りに導入した200インチサウンドスクリーン。17年前のその最初の相棒はDLA-HD12K。それを2台スタックという、これまたアクロバティックな設置を試みた。ズームによる光量不足と透過型スクリーンによるゲイン低下を補うための方策である。現在愛用中のDLA-Z1はそんな無茶をしなくても充分な明るさが得られているが、あの頃はとにかく人と違うことをやりたくて血走っていた。以降現在まで3機種乗り継いできたが、D-ILA以外に浮気したことがない。私はあの滴るような豊穣とした色再現とグラデーション、グッと引き込む暗部表現に首ったけ。最早そこから抜け出せないことはわかっている。

現在の愛用モデル
DLA-Z1

思い出のモデル(写真)
DLA-HD12K

 

鳥居一豊

開発陣の映画、そしてホームシアターに対する並々ならぬ思い入れの深さを大いに称えたい

D-ILAデバイスの誕生から25年が経った。パネルの解像度はフルHDを経て4Kとなり、今や8K/e-shiftX表示にまで到達した。こうした技術的な進歩はもちろんだが、開発陣の映画やホームシアターに対する並々ならぬ思い入れの深さとこだわり、それらの積み重ねをこの場で強く称えたい。思い起こせば2007年。ボディをすっきりとコンパクトにし、デザインもモダンになったDLA-HD1を見て、「いつかは自分もプロジェクターの大画面を導入したい」と憧れたものだ。あれから10数年、今では自分もDLA-V90Rを手に入れ、映画はもちろん、パソコンでの動画やゲームまでも大画面で楽しんでいる。憧れの存在はさらに進化した映像とともに現実となったのだ。

現在の愛用モデル
DLA-V90R

思い出のモデル(写真)
DLA-HD1

 

 

土方久明

DLA-V9Rの絵づくりに一目惚れして、早速導入。それを超えるV90Rの高精細画質にいま大満足

本誌で執筆を始めたことで、最新の4Kプロジェクターが見せる素晴らしい映像に触れた私は、2019年に藤原先生の山中湖ラボへ泊まり込みで実施した、「LCOS方式の4Kプロジェクター6機種テスト」で、忠実な表現と色乗りを両立したDLA-V9Rの絵づくりに一目惚れ、早速導入した。アップデートでの機能追加もあり「買ってよかった」と満足していたが、JVCの視聴室で発売1週間前に体験したDLA-V90Rの明るく高精細な絵にさらなる感銘を受け、更新を決めた……。作品に引き込まれるような絵づくりに大満足で愛用中だ。今年は8K撮影用の一眼レフと再生用のパソコンを導入してのV90Rの性能をフルに活かす計画を密かに練っている。

現在の愛用モデル
DLA-V90R

思い出のモデル(写真)
DLA-V9R

 

藤原陽祐

フルHDのDLA-X9と4KのDLA-Z1。ネイティブ解像度で表示できる2機種を愛用中

これまでわが家に導入したD-ILAプロジェクターはDLA-HD1、10万対1の高コントラスト化を実現したDLA-X9、そしてネイティブ4Kパネルとレーザー光源を搭載したDLA-Z1である。このうちX9とZ1は現役。X9はフルHD映像をネイティブ解像度で表示できる貴重な映像機器であり、しかも黒が締まったことでフィルム画質を追求した「フィルムモード」の凄味が増し、ひとつの頂点を極めた。Z1は「Pana PQ連動モード」のHDR画質が実に魅力的だ。パナソニックの「HDRトーンマップ」機能を内蔵したBD再生機との組合せが前提となるが、Apple TV 4Kとの連携でも、Max CLL(最大輝度)が700nit前後までなら、繊細かつしなやかな質感が得られる同モードを選ぶ。

現在の愛用モデル
DLA-Z1

思い出のモデル(写真)
DLA-X9

 

山本浩司

黒の黒らしさ。その圧倒的な表現力とマニアックな映像モード設計に唸り続けている

3管式プロジェクターの時代からソニー製品を愛用したぼくが、最初にJVCのD-ILAタイプにコロんだのは2008年のDLA-HD750だった。それ以降、数世代に渡ってD-ILAプロジェクターを乗り継いでいるわけだが、その理由はいくつかある。一つはコントラストのよさ、とくに黒の黒らしさの表現は他社製品を圧倒する魅力を秘めている。パネル性能の磨き上げや光学系とのすり合わせなど、地道な努力の甲斐あってのことだろう。二つ目は映画マニアの要求に的確に対応した映像モードの設定。フィルムガンマを研究した映像モード、プロジェクターでの再生が難しいとされたHDR映像に的確に対応した「Frame Adapt HDR」など、その鮮やかな提案に唸らされ続けている。

現在の愛用モデル
DLA-V9R

思い出のモデル(写真)
DLA-HD750

 

吉田伊織

群を抜く描写力だった2代目HD11Kを導入。現在は精密にして緻密な映像のV9Rを愛用

D-ILAの反射型液晶方式パネルについては危惧と期待がないまぜであったが、家庭用の製品が出始めると透過型液晶方式よりコントラストが安定し、反射型のDLPの乏しい階調性を超える高性能が明らかになってきた。まずはその2代目DLA-HD11Kを導入。映像プロセッサー、セレクター部が別筐体という異例の構成だが、アナログ12ビット階調と2500:1のコントラストにて当時として群を抜く描写力であった。続いて導入したDLA-HD750はデジタル方式の10ビット階調という仕様で実用性が向上。目下はDLA-V9Rで4Kネイティブの精密にして緻密な映像再現性に満足している。プロジェクターは設置や保守の手間がかかるのだが、今後もこの方式に磨きをかけてほしい。

現在の愛用モデル
DLA-V9R

思い出のモデル(写真)
DLA-HD11K

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年春号』