全編九州のオールロケの美しく壮大な自然をバックに、シングルマザーのボクサーと最愛の娘の絆が描かれる感動作『レッドシューズ』。主演・朝比奈彩のインタビューが届いた。

――女性ボクサーであり、シングルマザーでもある真名美の思いや闘いを、どのように受けとめましたか?
 ボクシングはもちろん、子供を産んで育てた経験もないので、最初にお話をいただいたときは正直戸惑いもあったんです。でも同世代の女性やシングルマザーに向けて力を与える作品にしたいという監督の話を聞いて、自分がその力になれるのであれば、ぜひ一緒にやりたいですとお返事しました。それでも経験していないことがたくさんあったので、やっぱり難しかったですね。

 母親を演じるにあたっては、この仕事をする前に産婦人科の助手として二年間ぐらい働いていたので、そのときに目にした母親と子供にまつわるやり取りを思い出したり、自分の感じたことを大事にしながら、演じさせていただきました。

――初めてボクシングに挑戦してみていかがでしたか?
 もともとキックボクシングをやっていて、ボクシングも同じ格闘技ですし、そこまで大きな違いはないのではないかと思って始めたんです。でもいざやってみると、全く違う競技であることを、体を動かしながら身にしみて感じました。なので立ち方、頭の振り方、ステップの踏み方といった基礎練習をゼロから始めました。逆にキックボクシングの癖が体についていたことで、対戦相手と対峙するとつい足が出てしまったりもしたので、ボクシングのベースを体に染み込ませるまでに時間がかかりました。

 それを一年間やってきて、ボクシング指導の(映画『ケイコ 目を澄ませて』に出演のボクシングトレーナー、本作にも出演の)松浦慎一郎さんに「これならプロテストを受けたら受かるよ」と言ってもらえたときには、そこまでちゃんと仕上げてこられたということが、自分の中でも自信につながりました。

――具体的にはどんなトレーニングをしたのでしょうか。
 基礎練習、テクニックの練習、相手を決めて型を作っての練習、カメラワークに合わせた動き方の練習、という4段階に分けて仕上げていきました。

 この映画の撮影前に、『今際の国のアリス』で空手の達人を演じていたのですが、そのときにアクションの基礎を教えていただいたので、その上で本作に取り組むことができたのは大きかったです。『今際の国のアリス』のシーズン1は、アクションのノウハウや知識がまったくない状態からスタートしたので大変だったんですけど、今回はその経験を生かすことができてよかったなと思っています。

――トレーナーの谷川役の市原隼人さんもボクシング経験者でしたね。
 一言で表すと「熱い方」です。ボクシングの経験があるからこそ、色々とアドバイスをいただいて、カメラの中でも外でも市原さんが隣でずっとサポートしてくださったからこそ、最後まで走り抜けられたなと感じます。撮影の合間にも、自分からミットを持って「練習しよう」と誘ってくださって。ミットを持ってくださる方が変わるだけで、打ち方も変わってくるんです。後輩である私から練習をお願いするのはなかなか難しかったんですけど、市原さんから声をかけてくださって、一緒に練習に時間を当ててくださったのは、本当にありがたかったです。

――佐々木希さんの演じる由佳とはシスターフッドのような関係性でもありました。
 すごく印象に残っているのは、真名美が部屋に帰ってきて、崩れ落ちて、泣き叫ぶシーンです。テイクを多く重ねたのですが、一回目も二回目も涙が全く出なくて。台本を読んだときから、あのシーンに思い入れがあったからこそ、ちゃんと自分が思い描いた通りに演じたいという気持ちが強かったんですけど、なかなかそれが上手くいかなかったんです。でも監督が「完璧にしようとしなくていいんじゃない?」と言ってくださって、じゃあ何も考えずに自分が今感じたままをやってみますとやってみたときに、あのシーンが出来上がりました。

 真名美が感情を出し尽くした後に、由佳と抱き合うくだりは、もともとト書きになかったんです。でも希ちゃんがあの瞬間に感じた感情のまま、抱き締めてくれた。そのおかげで、本当に由佳と真名美の関係性が見える素敵なシーンになったと思います。

――あのシーンには、真名美としてだけでなく、個人的にも感情移入するものがあったのでしょうか。
 あそこで「エミを産まなきゃよかった」というセリフがあるんです。たとえ本心ではそう思っていなかったとしても、母親としてその言葉を口にせざるを得ないほど追い詰められた状態というのは、どういう心情なんだろうと。自分の感情がコップいっぱいに溢れそうになった瞬間に、どういうふうにその言葉を発するんだろうと、台本を読んでいてすごく感じたので、大事にしたいと思っていました。不器用ながらもずっと真っ直ぐに突き進もうとしてきた真名美が、初めて弱音を吐くシーンだったので、その姿をちゃんと見せてあげたいなという気持ちがありました。

――義母の葉子役の松下由樹さんとの共演はいかがでしたか?
 松下さんはクランクインした瞬間からお義母さんでした。立ち居振る舞い、目の動かし方、いつどのタイミングでもすべてがそうとしか見えなくて。真名美からすると、仲良くしたい気持ちはあるけれど、エミの親権を得るために闘わなくてはいけない相手なので、撮影中は間にバトルがある関係性を常に保ちながらお互いに演じていた気がします。撮影が終わってから、舞台挨拶などで優しい笑顔を目にすると、こんなにも違うんだ! と役者としての凄さに衝撃を受けました。私は「ナースのお仕事」を見て育ったので、松下さんと観月ありささんが同じ作品にいる、ということに感動していました(笑)。

――北九州市で撮影しながら、真名美の生きている町の空気感を、どのように感じましたか?
 個人的には、若戸大橋と、めかりの展望台が特に好きでした。若戸大橋は、夕陽が落ちる前にその傍らでシャドーボクシングをしたり、職がなくなったタイミングで行ったり、真名美にとっていろんな思い入れのある場所で、その景色を見ながら気持ちを保っていたような気もするんです。展望台は真名美が葉子に「世界チャンピオンになります」と宣言する場所なので、印象に残っていますね。

――この映画を通して、主演としてどんな思いを届けたいですか?
 闘って、つまづいたとしても、また闘って。人生はその繰り返しなので、真名美が何度も立ち上がる姿を見て、少しでも前向きになって、次の日にもう少し頑張ってみようかなと思ってもらえるように、届けられたらいいなと思います。

撮影:田村充

映画『レッドシューズ』

2月24日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

映画『レッドシューズ』本予告編【12月9日(金)北九州先行公開、2023年2月24日(金)新宿ピカデリー他全国公開】

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<ストーリー>
娘と二人で、慎ましくも静かに暮らす真名美(朝比奈彩)は、ある日家庭裁判所に呼びされた。真名美たちの経済状況が悪く貧窮状態にあり、娘を義母が育てるべきだという行政の判断に押され気味だ。そんな中、正義感の強い真名美は職場で理不尽な目に遭っている同僚を庇ったことで失業してしまい窮地に陥る。だが、周知の支えにより新たに老人介護施設での仕事を得るが、そこである事故を起こしてしまい、娘と一緒に居られない状況に…。娘を取り戻すためには、ボクシングの試合に勝ってファイトマネーを得て、生活を立て直すしかない。最強のチャンピオンへの挑戦が今始まるー。

朝比奈彩
市原隼人 佐々木希 森崎ウィン 観月ありさ 松下由樹

監督:雑賀俊朗 脚本:保木本真也・上杉京子 主題歌:「カナリア」岡本真夜(ドリーミュージック) 音楽:Marina M 音楽プロデューサー:森啓 エグゼクティブプロデューサー:神品信市 プロデューサー:藤田修・江守徹 Coプロデューサー:小池唯一 アソシエイトプロデューサー:金澤秀一 ラインプロデューサー:竹森昌弘 撮影:出口朝彦 照明:金子拓矢 録音:甲斐匡 美術:岩井憲 ヘアメイク:金森恵 衣装:松本人美 助監督:井木義和 制作担当:石井修之 編集:石井康裕 音響効果:柴崎憲治 製作:映画レッドシューズ製作委員会 ミライ・ピクチャーズ・ジャパン サーフ・エンターテイメント SDP アンザスインターナショナル レアル RKB毎日放送 コスモグループ ASTRAX CRUISE ドリーミュージック 西日本新聞社 企画・制作:サーフ・エンターテイメント 宣伝:ギグリーボックス 配給:SDP 後援:北九州市 北九州商工会議所 北九州中小企業経営者協会 北九州青年会議所 日本ボクシング・コミッション 協力:北九州フィルムコミッション スターフライヤー 安川電機 九州医療スポーツ専門学校 BOAT RACE若松 ORIO BOXING GYM 九州シネマポート 特別協賛:ラック セーフティーステップ アシバックス カーベル 
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(C)映画レッドシューズ製作委員会