デノンから一体型AVアンプのフラッグシップモデル「AVC-A1H」が発表された。定価¥990,000(税込)で、3月下旬の発売を予定している。カラリングはプレミアムシルバーとブラック。

「AVC-A1H」のプレミアムシルバー

 AVC-A1Hは、昨年秋に開催された東京インターナショナルオーディオショウで参考出品されていたハイエンドAVアンプだ。15chのパワーアンプを内蔵し、ドルビーアトモスやDTS:X、IMAX Enhanced、Auro-3D、360 Reality Audioといった最新3Dオーディオのデコードにも対応している。

 デノンでは1996年に発売した初のドルビーデジタル(ドルビーAC3)対応機の「AVP-A1」を皮切りに、1998年の「AVC-A1D」、2007年の「AVC-A1HD」といった具合に、「A1」の名を持つ名機を送り出してきた。いずれもサラウンドフォーマットの進化にいち早く対応して品質向上を図った製品で、直近では同社110周年記念モデル「AVC-A110」もその流れといえるだろう。AVC-A1Hもそんな伝統を受け継ぎながら、デノンAVアンプの技術の粋を集めた “孤高” のモデルとして設計されている。

 第一の特徴が15chパワーアンプの搭載となる。デノンでは2014年のドルビーアトモス登場初期から、フォーマットとして9.1.6の信号が想定されていることを認識しており、家庭用でもこのチャンネル数がゴールになると考えていたそうだ。そして今回遂に、一体型に15chパワーアンプを搭載したというわけだ。

本体両サイドに15chぶんのパワーアンプ基板が並んでいる

 AVC-A110や「AVC-X8500HA」の13chを超えるチャンネル数を実現するために、モノリス・コンストラクション・パワーアンプを継承。パワーアンプ回路を個別の基板に独立させることでチャンネル間クロストークや振動による音質への影響を排除、純度の高い音場再現を実現した。

 そのパワーアンプには、同社の長年の研究開発の結果を踏まえ、差動1段のAB級リニアパワーアンプ回路を採用している。この方式は性能を確保するための設計が難しくなるが、多段差動アンプと比べても位相回転が少なく、音質的にも有利になるとのことだ。増幅素子には「Denon High Current Transistor(DHCT)」を採用し、これをヒートシンク上に格子状にレイアウト、さらにDHCTとヒーシンクの間に4mm厚の銅製放熱板を挟むことで、熱の上昇や変動を防いでいる。

 これらの出力を支えるため、カスタム電源トランスも作成している。その重さは11.5kg(AVC-X8500HA用は8.5kg)に及ぶそうで、試作時には輸送の途中で自重で壊れてしまうこともあったそうだ。

写真上がアナログプリアウト基板で、下はD/Aコンバーターを搭載したデジタル基板

 さて、上記の通りAVC-A1Hは現在求められる3Dオーディオフォーマットに対応済みで、その信号処理にはGriffin Lite XPを採用している。これは昨日発表されたマランツのAVプリアンプ「AV10」にも搭載されたDSPで、1基で15.4chのプロセッシングを行う処理能力を備えている。

 その15.4ch信号は、オーディオグレードの32ビットD/Aコンバーターでアナログ変換され、プリアンプ回路に送り込まれる。今回は2ch用DACとしてチップを10基搭載することでチャンネル間の相互干渉を抑制、さらに「フロントLとサブウーファー3」「フロントRとサブウーファー4」といった具合に、使用頻度の高いチャンネルと低いチャンネルを組み合わせることで、実使用時の干渉を抑えるよう配慮している。

 またD/A変換を行う際に同期がずれないように、1個の超低位相雑音クリスタルから同時にクロックを提供することで時間軸の揃った音を取り出せるようになっている。

 プリアンプ基板は4層構造となり(AVC-X8500HAは2層)、理想的な電源配置やグラウンドの配線が可能になった。さらにボリュウムICなども最適な配置とすることでシンプルな信号経路を実現している。

端子がずらりと並んだリアパネル。写真右側中段に見えるのが4系統のXLRプリアウト。表示はサブウーファー用だが、メニュー画面から任意のチャンネルに切り替え可能

 なおAVC-A1Hでは15.4chのRCAプリアウト端子を搭載しており、これに加えて4chぶんのXLRプリアウト端子も準備されている。XLRプリアウトからどのチャンネルを出力するかは本体設定で任意に選べるので(初期設定はサブウーファー)、XLR入力対応の外部パワーアンプを組み合わせて使いたいという方は、この機能を活用するといいだろう。内蔵パワーアンプの動作を停止させるプリアンプモードは、チャンネルごとにオン/オフの設定が可能だ。

 最近のデノン製品同様に、サブウーファーの4台駆動にも対応する。4台のサブウーファーからすべて同じ音を再現する「スタンダード」と、それぞれのサブウーファーの近くにあるSmall設定のスピーカーの低域を再生する「指向性」が選択可能。指向性を選んだ場合は部屋を2〜4つのエリアに分け、各サブウーファーはそのエリア内のスピーカーの低音を再生するとのことだ。

 HDMI端子は入力が7系統で、出力はゾーン2用を含めて3系統を装備。このうちゾーン2用出力を除いた端子が8K対応となっている。このHDMIを含めて、デジタル回路にはジッターを低減させる機能が装備された。独自のAL32 Processing Multi Channelも搭載し、マルチチャンネル音声でも微小な音の再現性を高めている。

重さ11.5kgの電源トランス。15chの出力を支える製品が見当たらなかったので、カスタムで製造した

 筐体も頑丈な造りで、ボトムには総厚4mmの3層シャーシを採用。トランスはさらに2mmの銅板を挟んで取り付けられているので、その厚みは6mmにも及んでいる。

 またユニークな点としてはスピーカー端子もハイファイグレードが奢られており、ひとつの重さが32g(AVC-X8500HA用は11g)もある。AVC-A1Hには34個使われているので、これだけで1kgを超える重さがあるわけだ。これらを積み重ねた結果、AVC-A1Hは総重量32kgと、30kgの大台を突破したそうだ(AVC-A110は25.4kg、AVC-X8500HAは23.6kg)。

 発表会でAVC-A1Hの音を体験することができた。会場はAVC-A1Hの製造が行われているディーアンドエムホールディングスの白河ワークス内の試聴室で、B&Wスピーカーを中心にした9.4.6環境が組まれていた。

 なおAVC-A1Hの音作りは同社サウンドマスターの山内慎一氏が担当しており、今回は10ヵ月以上をかけて音質を検討したそうだ。その山内氏の意見をハードウェア面で反映したのが白河ワークスの高橋祐規氏で、AVC-A1Hはふたりのタッグで生まれたモデルといえるだろう。

福島にあるD&M白河ワークスの試聴室。フロアースピーカーを視聴位置から均等の距離に置くなど、理想的なサラウンド再生環境を実現している

 そのサウンドは、とにかく自然なサラウンド感というのが第一印象。全方向にしっかり密度が詰まった音が配置され、音のつながりもなめらかで、移動感もきちんと再現される。

 ドルビーアトモスで収録された、いきものがかりやOfficial髭男dismのライブブルーレイでは、コンサート会場の熱気に包まれるし、ギターの回り込みがクリアーで途切れがないのもいい。低域も充分で、安定したピラミッド型の音場が構築されている。サブウーファーは「スタンダード」モードとのことで、全方向からキレのいい低域を感じることが出来た。ハンドクラップの響きが会場を包む様も印象的だ。

 映画UHDブルーレイ『トップガン マーヴェリック』は、効果音が画面の外まで広がり、スクリーンサイズを超えた臨場感が再現される。セリフの定位も明瞭で、人物や対象物の配置も手に取るようにわかった。また基本的な音のS/Nがいいので、無音シーンが本当に静か。そのぶん緩急の描き分けもいっそう明瞭となる。

 きわめて自然で演出感がないにも関わらず、細かい情報まで正確に描き出す、AVC-A1Hはそんな難しい再現を可能にした、まさに孤高のAVアンプと言えるだろう。

D&M白河ワークス

 なお発表会では白河ワークスでAVC-A1Hがどのように製造されているかも見学できた。こちらについては後日リポートをお届けしたい。