音楽の都オーストリアに本拠地を置くアイオンオーディオ(ayon)の快進撃が止まらない。ワイドレンジでダイナミックなサウンドを標榜する同社は、出力管の能力を最大限に引き出す独自のインテリジェント・オート・フィックスド・バイアス(AFB)を2010年に完成させた。開発に5年を要したというAFBは、バイアス設定の自動化とプロテクション機能、そしてセルフテストプログラムを行なうもの。このAFBが、その後の新製品開発の大きな原動力になっているのだろう。搭載する真空管はすべてカスタムメイドのチューブテスターでバーンインと厳密な特性チェックを行なっているという。

 ここでは到着間もない2機種の管球式インテグレーテッドアンプを紹介する。

Integrated Amplifier
アイオン
Scorpio Ⅱ
¥745,000 (税別)

●出力:42W+42W(4Ω/8Ω、KT88・5極管モード)、30W+30W(4Ω/8Ω、KT88・3極管モード)●アナログ入力:LINE4系統(RCAアンバランス)●入力感度/インピーダンス:350mV/100kΩ●デジタル入力:1系統(USB-B)●対応サンプリング周波数/ビット数:〜384kHz/32bit(PCM)、〜11.2MHz(DSD)●使用真空管:6SJ7×2、6SN7×2、KT88(Electro Harmonix)×4●スピーカー出力端子:4Ω、8Ω●寸法/重量:W460×H260×D360mm/29kg●備考:価格はオプションのUSB-DACモジュール(¥65,000、税別)を含む。別売のリモコン(¥45,000、税別)、真空管保護カバー(¥30,000、税別)あり。出力管KT150モデル(¥750,000、税別)あり●問合せ先:アクシス(株)TEL.03(5410)0071

 スコルピオⅡは、出力管にKT88もしくはKT150を搭載可能な、無帰還クラスA動作のプッシュプル機である。試聴機は前者のKT88を搭載。デジタルファイル音源をNASのfidata経由でアキュフェーズDC1000とUSB接続にして、最初は3極管接続で音を聴いてみた。トニー・ベネット&ダイアナ・クラール「スワンダフル」は、艶っぽい声色を魅力にするスインギーな演奏で、新しいB&Wの801D4を軽やかに鳴らしていく。ネルソンス指揮ボストン交響楽団の「シュトラウス:ドン・ファン」は解像感も十分で、大編成のオオーケストラをワイドレンジで音ヌケも良く響かせる。これが5極管接続では音楽の重心が少し下がって重厚感をもたらし、トニー・ベネットのヴォーカルがわずかに厚みを帯びたリアリティを感じさせるのだ。「ドン・ファン」では低音域の充実ぶりが印象的で、2基の25cm口径ウーファーを程よくグリップしているという駆動力の高さを意識させる。他にも数曲を試聴音源にしているが、個人的には3極管接続の音が好みだった。両方の接続ともにレンジ感の広さは特に変わらず、充実した音を体感させる。

Scorpio Ⅱの天板部を見る。出力管バイアス自動調整機能を装備し、フロント側に出力管ごとに独立でモニターできるバイアス監視メーターが配される。シャーシはアルミ製で、フロントパネルにボリュウムノブと入力セレクターを装備する。

Scorpio Ⅱの内部を見る。写真左上に制御機能用の電源トランスとチョークコイルが配される。出力管用と電圧増幅段用の基板がセパレートされているのが見て取れる。

Scorpio Ⅱのリアパネル。左端にグラウンドリフト切替えスイッチ。その右に自動バイアス調整のスタートボタン、5極管モード/3極管モードの切替えボタンを装備する。バイアス監視メーターの出力管切替えノブはリアに装備。USB入力はモジュールによるオプション仕様。

Spirit Ⅴ
¥1,165,000 (税別)

●出力:70W+70W(4Ω/8Ω、KT170・5極管モード)、45W+45W(4Ω/8Ω、KT170・3極管モード)●アナログ入力:LINE4系統(RCAアンバランス×3、XLRバランス)、DIRECT1系統●入力感度/インピーダンス:500mV/100kΩ●デジタル入力:1系統(USB-B)●対応サンプリング周波数/ビット数:〜384kHz/32bit(PCM)、〜11.2MHz(DSD)●出力端子:PRE1系統●使用真空管:12AX7×2、6SN7×2、KT170(Tung-Sol)×4●スピーカー出力端子:4Ω、8Ω●寸法/重量:W480×H260×D370mm/33kg●備考:価格はオプションのUSB-DACモジュール(¥65,000、税別)を含む。リモコン付属。別売の真空管保護カバー(¥30,000、税別)あり。出力管KT150モデル(¥980,000、税別)あり

 スピリットVは、2006年発売のオリジナル機から世代を重ねて完成度を高めてきた、やはり無帰還クラスA動作のプッシュプル機。試聴機は新型管のKT170を搭載していた。
 こちらも最初は3極管接続で聴いたが、さきほどのスコルピオⅡよりも風格を滲ませた音である。「スワンダフル」は堂々たる彫りの深い音像描写で、男女ともに声色の生々しさが特徴。伴奏するピアノトリオの存在感もグッと増している。フルオーケストラの「ドン・ファン」は、雄大さを印象付ける躍動的な演奏。これが5極管接続では、普段よりも音量を上げても安定ぶりが揺らがず、圧倒的といえる臨場感の豊かさを披露する。背面には低インピーダンスのスピーカーに適応するという2段階のダンプ・スイッチがあり、低音域の制動の変化が感じられた。801D4が相手では不要な機能かもしれない。

  スコルピオⅡとスピリットVは、ともに洗練された現代的な管球サウンドを愉しませた。

Spirit Ⅴの天板部。円筒形のトランスケースはScorpio Ⅱと共通の意匠で同社アンプを特徴付けるもの。出力管バイアス自動調整機能、バイアス監視メーターの装備はScorpio Ⅱと共通。

Spirit Ⅴの内部を見る。制御機能用の電源トランスの下に、Scorpio Ⅱではシャーシ側面部に配された自動バイアス調整などの制御基盤が見える。内部中央にチョークコイル2基が配され、厳重な電源部設計がうかがえる。

Spirit Ⅴのリアパネル。左端に組み合わせるスピーカーに応じてダンピングを調整できる「DMP」スイッチ。スピーカー出力端子はScorpio Ⅱともに4Ω/8Ωに独立で対応。本機はダイレクト入力とプリ出力を装備する。XLRバランス入力1系統が右端に配される。 

Spirit Vはリモコンが付属。音量調整とミュート操作が可能。

Spirit Vを操作する三浦氏。

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