大晦日。解決できそうにない大きな悩みを抱えた男女が、人でごった返している空港で偶然に出会った。一瞬の交錯が運命を引き寄せ、それぞれの悩みを“終わらせるための旅”に、共に出る。吉村界人と武田梨奈が、W主演だけでなく企画にも参加した注目作『ジャパニーズスタイル/Japanese Style』が、いよいよ12月23日(金)より公開される。ここでは、その二人にインタビューを敢行。本作の始まりから、共演の感想まで話を聞いた。

――よろしくお願いします。まずは、公開を迎える今の心境をお聞かせください。

吉村界人(以下、吉村) いやぁもう、シャカリキですよ(笑)。公開が迫って来たぞ、早く観てほしい。そういう気持ちでいっぱいです。

武田梨奈(以下、武田) 私もシャカリキです(笑)。ようやく公開が決まって、しかも劇中の時間軸と同じ年末というベストなタイミングで公開できることが、すごく嬉しいです。

――本作は、お二人とも企画から参加されています。その経緯をご説明いただけますか。

吉村 始まりは食事会なんですけど、僕とアベラ監督、共同脚本の敦賀さん、プロデューサーの雨無さんとで集まってご飯を食べていた時に、みんなポジションは違うけれども、映像作品に関わっているという共通点があることもあって、まあ必然的に、作品の話になっていくんですよ。そこで、なんかやろうよということになって、こういう映画があったら面白いよねとか、こういうのが好きなんだよねって、どんどん話が膨らんでいったんです、そこで確か僕が、大晦日ってやることがなくて、暇で暇で退屈で、その退屈が苦手なので、何かしませんかって言ったのがきっかけですかね。そこですぐにいいねってなったのが、まあ、始まりと言えば始まりです。

――そこで武田さんが出てきたのは?

吉村 僕と監督、どちらも共通で武田さんと仲が良かったこともあって、その席でも名前が挙がっていたんです。

武田 だいぶ前になりますが、アベラ監督と食事をご一緒する機会があって、以後、お会いするたびに、何か面白いことをやろうよ、という話はしていました。

――武田さんは今回は出演だけでなく、企画にも参加されています。

武田 電話が来て、何の説明もないまま、ただ映画撮ろうよって言われて(笑)。特に断る理由もないので、ハイ! って返事をして、みんなで集まって話をしたら、この熱量があれば形にできそうだなぁと感じて。本当にもう、吉村さんの“映画撮ろうぜ”の一言から、どんどんどんどんいろいろな人を巻き込んで、いろいろなスタッフさんが集まってくれて、という流れです。

――企画に参加するに際して、武田さんからは何か案を出されたりしたのでしょうか?

吉村 6、7人で集まって、結構、ざっくりとした話をして、それを集めてまとめた感じですね。

武田 そうそう、あっ、じゃあそれ入れようかっていう感じでした。劇中に出てくる重要なアイテムでもあるトゥクトゥク(ベトナムのタクシー)も、そんな中から出てきたアイデアになります。

――実際にプロットができて、じゃあ始めましょうという段階になったのは、いつ頃だったのでしょう。

武田 結構ぎりぎりで、撮影する2ヵ月ぐらい前でした。

――そこへ向けて、お二人は企画と主演を兼ねていますけど、どのような準備をしていったのでしょう。

武田 脚本が出来上がった段階で、配役を決めるために、それぞれが意見を持ち合って、相談して、話合いをして詰めていきました。

――企画も兼ねている本作の現場は、これまでの俳優専業とは違うものですか?

吉村 特には変わりませんね。

武田 現場では、お芝居に集中していました。

――お二人が自分の中で思い描いていたものが形になったっていう感覚でしょうか?

吉村 思い描いていたというよりかは、正直に言ってしまうと、ちょっと無責任に聞こえてしまうかもしれませんが、大晦日って退屈だから何かしようぜ、っていう気持ちで言っただけなので、どういう作品にしようとか、どういう映像にして、どういう人に観て欲しいとか、そこまでは考えていなかったんですよ。考えずに発言しちゃうタイプなので。

 だから、現場に入ったらお芝居のことしか考えていなかったですね。お芝居意外のことは、監督や雨無プロデューサーはじめスタッフの皆さんを信じて、そこについていっただけです。

――そうなんですね。完成した映像を拝見すると、主役の二人は、本当にお二人にぴったりだなって感じました。

武田 役の設定をする際には、周囲に重ね合わせができる人物はいなかったんですが、完成した台本を読んでいくと、主演の二人は、なんかアベラ監督に似ているねっていう声が多く聞かれましたし、私たちもそう感じました。演じていると、それがより強くなりました。

吉村 そうそう。

武田 特に吉村さんの演じた役は、すごくアベラさんっぽいというか、そのものだなと思いました。

吉村 最初に台本を読んだ時に、率直にこれ(彼)はアベラさんだって思ったし、演じていてもなおそれを強く感じましたね。

――すると、特に吉村さんの演じた役については、監督が自分を投影したという感じになるのでしょうか?

吉村 おそらくそうでしょうね。

――監督って現場では常に悩みまくっている感じなんですか?

吉村 悩むというか、答えが出ずに(出せずに)、自分の中に閉じ籠って、それをひたすら繰り返して、でも必死にやる! みたいな感じですかね。

――役作り(演技プラン)は、どのように詰めていったのでしょうか? 監督と相談したのですか?

吉村 現場で監督の立ち姿を見たり、監督の思考を探っていって、僕の演じた役だったらというよりかは、アベラさんだったらどう思うのかな、どう動くのかなっていうことを考えていましたね。

――終盤へ行くにつれて、悩むというか悶えるようになります。

吉村 それもアベラ監督ですね。僕はそういうことはしませんけど(笑)、監督にはそういう雰囲気があるなと思いながら演じていました。

武田 そういえば、現場で監督が“あーー”って言っているのは見たことがありますよ(笑)。

――武田さんは、リンの役作りはどのようにしていったのでしょうか?

武田 感情の起伏が激しい子だなと感じたので、急にテンションが高くなったり、逆に泣きわめいたりするなど、それぞれの表現を強めにするようにしました。監督からは、そういう感情を思い切り出してほしいと言われていましたが、私自身、そこまで感情を出す人間ではないので、表現が難しかったです。でも、そういうところはアベラさんっぽいなって思いながら演じていました。

――今まで武田さんが演じられた女性とは大きく違って、女性の持っている感情をすべて出しているなと感じました。

武田 そうですね、ありのまま、でした。

――実際、演じてみていかがでしたか。

武田 そうした役(芝居)は初めてでしたが、相手が吉村さんだったから、どんな感情をぶつけても、きちんと返してくれるだろうなっていう、安心感や信頼感はありましたから、悩まずに思いのままぶつかろうと思っていきました。こういう激しいシーンがある場合、共演の方に、ここはこう行きますって事前に確認することもありますが、今回は吉村さんだから大丈夫という気持ちで臨めました。

――そうした信頼感が、二人の感情表現のリアルさにつながっているように感じました。中でも、後半の、ちょっと取っ組み合いになるところは、いつもと違う武田さんが見られました。

武田 キャーキャー言っているところですよね。面白いシーンになっていますが、演じる時はちょっと難しかったです。

――あの展開は、男からしたら、えっっっって思いました。

武田 そうですよね。(吉村を見て)どうですか? 

吉村 どんな質問よ(笑)。

武田 そこはセリフのやりとりが面白いんですよ。日本沈没すればいいみたいな、二人の投げやり感がすごく出ているんです。分かる部分もあるし、日本人だからっていうことを言い訳にしがちですが、リンにしてみたら、そうしないと、たぶん自分を守れないんだろうなって。面白いけど、人間の奥深さも感じるシーンになったと思います。

――ところで、劇中では結構、アドリブなのかなと思うシーンもありました。

武田 基本、全部セリフですね。

――吉村さん演じる彼が初めてトゥクトゥクを運転して、フラフラ走っているシーンとかも?

武田 右寄りすぎじゃないですかとか、どんだけ左が好きなんですかとかは、セリフですね(笑)。撮影中は、結構風が強く吹いていて、車体を持っていかれそうな時もありました。

――トゥクトゥクって、結構スピードが出るんですね。

吉村 あの見た目ですけど、80キロぐらいは出ますよ。ただ、初めて乗った時は、運転はすごく難しかったです。練習で80キロ近く出した時は、想像以上にスリルがありましたが、そのスリルがたまらないんですよ。

――話を戻しまして、飲み屋で喧嘩するところも、すごくアドリブ感がありました。

武田 そう言ってもらえるとうれしいですね。ただ、このシーンもきちんとセリフがありました。監督からは、二人は常にため息をついていてほしいとか、ここはテンション上げてほしいとか、そういうリクエストがあったぐらいでした。周りが盛り上がっているところにポツンと、疲れきった顔をした二人がいるのは、ちょっとシュールな絵になっていて、私は好きですね。

――その後、外に出て喧嘩するところも?

武田 はい、完全にセリフです。

吉村 めっちゃくちゃ噛みましたけどね(笑)。

武田 お互いに噛み噛みだったので(笑)、2テイク目も撮っているんですが、結局使われたのは、最初の方でしたね。

――アドリブというか、生っぽさを感じました。

吉村 ああいうシーンで、セリフっぽさが出てしまうと、よくないじゃないですか。そう言ってもらえるとうれしいですね。

武田 ありがたいです。言ってしまえば、映画ってフィクションじゃないですか。でも、そのフィクションっぽさをいかになくしてやれるかっていうのは、すごく大切だなって思っていて、吉村さんのセリフ一言一言にリアルさがあるからこそ、本当に騙されたような気持ちになったり、絶望的な瞬間を迎えるのをしっかりと受け止められたのかなと思います。

――ネタバレにならない範囲でお聞きしますが、あの後、二人はどうなるんでしょう?

武田 どうなるんでしょうね。私も撮り終えた後で考えていたんですが……。

吉村 一緒に海外に……。

武田 行ってないかな? 

吉村 僕は行ったと思ってますよ。

武田 私は、彼とは何もないだろうなと感じています。ここまで吹っ切れた関係って、多分リンは今まで築いてきたことがなかったはずだから、あの一夜で吹っ切れて生まれ変わった感覚を得て、おそらく彼のことは、“親友”ぐらいに思っているのではないか、と思います。

――もう一つ、時々インサートされる映像も印象的でした。

武田 私もこの映画の中で1、2を争うぐらい好きですね。ちょっとネタバレすると、あのシーンは追撮したもので、私たちもどこに使われるんだろうって思っていたんです。完成した本編を見て、素直に監督すごいなって思いました。

――今回、初共演ということですが。お互いの感想をお願いできますか?

吉村 いやぁ、リンは喜怒哀楽が凄かったですね。

武田 普段はそんなことないですよね(笑)。

吉村 すごく感情の幅が広くて、普段から喜怒哀楽が少ない人の方が、いいんじゃないのかなって思いましたよ。いつも喜怒哀楽が激しい人が、普段通り喜怒哀楽を出しても、差を感じられないでしょ。いつも怒ってんじゃん、いつも泣いてんじゃんみたいで。だから、僕もその1人になりたいから、普段は、あまり感情を出さない方がいいのかなって思いました。

――武田さんは?

武田 すごく人間味のある方だなって、改めて思いました。ここまで素直な方ってあまり出会ったことがなかったので、例えば、あぁ今嘘ついてるなとか、今そう思ってないだろうなとか、心の中が全部、見えちゃうんですよ(笑)。でも、それはいい意味で人間らしいなって思うし、特に役者さんは、架空のセリフだったり、いない人物を演じたりすることが多いので、本当に全部の言葉(セリフ)やシーンが嘘っぽくならない、きちんとリアルに存在する人間になれる人なんだろうなと思いました。

――ところで、武田さんは前から作品づくりに関わりたいと仰っていましたが、今回、制作(企画)に入っていかがでしたか?

武田 今回、制作に関わらせていただいて、思っていた以上に大変だなっていうのは感じましたが、その一方で作品づくりの大切なことも学ばせていただけたので、この大変さを忘れず、感謝の気持ちを持ちつつ、今後も作品に挑戦できたらいいなと思っています。今までは、やりたいという願望だけで止まっていましたが、これからはもっと前向きに、思いを形にしていきたいと思います。

映画『ジャパニーズスタイル/Japanese Style』

12月23日(金)ユーロスペース シネマ・ロサより全国順次ロードショー!!

<キャスト>
吉村界人 武田梨奈 / 三浦貴大 日高七海 佐藤玲 フェルナンデス直行 田中佐季 長村航希 布施勇弥 みやび / 山崎潤

<スタッフ>
監督・脚本・編集・企画:アベラヒデノブ プロデューサー:雨無麻友子 企画:吉村界人 武田梨奈 共同脚本:敦賀零 音楽:茂野雅道 撮影:栗田東治郎 録音:寒川聖美 ヘアメイク:堀奈津子 衣裳:小宮山芽以 絵画制作:中村佑 助監督:渡邉裕也 制作担当:石川恭彰 スチール:小野寺亮 市川唯人 宣伝協力:岩館佐知子 主題歌:貉幼稚園「あてのない旅」(最新アルバム『弾いて叩いて吹いて歌って』) 製作:スタジオねこ 配給・宣伝:キグー
(C)2020映画「ジャパニーズ スタイル」製作委員会