「Sound Blaster」としては初のデュアルDAC、デュアルXAMP搭載のフルバランス設計を採用し、本格的なUSBオーディオ機器としての性能を備えた最上位モデル「Sound Blaster X5」(12月中旬発売 ¥39,800税込)。ここでは、発売に合わせて、その実力をじっくりとチェックしてみた。

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 「Sound Blaster」は、PC向けのオーディオ・インターフェイスやアクティブスピーカー、ヘッドセットなどを発売しているクリエイティブメディアのサブブランド。ベテランのPCユーザーにとっては、同ブランドの名を冠したPC用のオーディオボードなどを使った経験がある人も少なくないだろう。現在でも、内蔵型オーディオボードをはじめ、外付けタイプのUSB DACアンプ、ノートパソコンとも組み合わせやすいポータブル型など、さまざまな製品がラインナップされている。

 今回発売された「Sound Blaster X5」は、なんといっても徹底して高音質を追求していることが大きなポイントだ。DACチップは、Cirrus Logic社の「CS43198」を2個使用。AB級動作のXAMPディスクリートヘッドホンアンプをデュアル構成で搭載、つまりフルバランス設計としている。

 フルバランス構成とは、ステレオ再生における右と左の信号、それぞれのプラスとマイナスの信号を専用のアンプで駆動する方式。プラスとマイナスの信号が完全に対称になるので、外部から混入するノイズを相殺できるメリットがあるなど、音質に有利な構成。ピュア・オーディオの高級モデルで採用されることも多いものだ。

 一般的なステレオ音声用のDACチップは、右と左の2チャンネル出力ができるが、これを2個使用して左チャンネル用のプラスとマイナス、右チャンネル用のプラスとマイナスを出力させる。あとはこの合計4つの信号を同じ構成のXAMPアンプで増幅するわけだ。このため、DACが2個、ヘッドホンアンプは4個という回路構成になっている。ここまで本格的な構成となっているのは、SoundBlasterとしては初めてのこと。

 これにより、S/Nは130dB、高調波歪み率(THD+N)は0.00018%という優れた性能を実現。対応するオーディオ信号も、PCM384kHz/32bit、DSD256(11.2MHz/1bit)とハイレゾ音源として配信されているもののほとんどに対応している。そして、ヘッドホン出力も一般的な3.5mmステレオミニ出力端子に加えて、4.4mmのバランス出力も備える。

 入力端子はライン入出力(RCA)、デジタル音声入力(光)、USB Type-C端子を備える。PCなどのほか、さまざまなオーディオ機器、薄型テレビなどとの接続も可能。ライン出力もあるので、アクティブスピーカーなどと接続することもできる。このほか、Bluetoothレシーバー機能も備えている(コーデックはSBC)。また、背面のUSB Type-A端子はUSBオーディオ出力も可能なので、クリエイティブメディアの「BT-W4」や「BT-W3」などのBluetoothオーディオトランスミッターを使えば、aptX HDなどの高音質コーデックを使って、ワイヤレス出力することも可能だ。

 そして、Sound Blasterならではのさまざまなオーディオ機能が盛り込まれているのも大きな魅力。音楽配信サービスやハイレゾ音源を高音質で再生できるだけでなく、ゲーム音声をよりプレイしやすい音質にしたりサラウンド効果を加える、あるいはマイクを接続してボイスチャットをすることも可能と、実に多機能。PCゲームをより高音質で楽しみたいという人にもうってつけなのだ。

バランス接続で聴く音は、繊細で切れ味があり、パワフルで実に気持ちがいい

 ここでは、Sound Blaster X5を自宅のWindows PCと組み合わせて使ってみた。PCとの接続はUSB-Cケーブル一本でOK。給電も行なわれるので電源コードの接続は不要だ。ドライバーなどはクリエイティブメディアのホームページからダウンロードする。USBオーディオドライバーだけでなく、ASIO2.2ドライバーなども用意されているので、再生用アプリに合わせて使おう。

 まずは音楽を再生してみた。再生アプリは「Audirvana Origin」を使っている。テクニクスの有線イヤホン「EAH-TZ700」でアンバランス接続。よく聴くクラシック曲『チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」』の「第3楽章」を聴いたが、S/Nがよくホールの豊かな響きまでしっかりと再現した。中高域が鮮明で木管楽器や金管楽器の音色が粒立ちよく聴こえてくる。低音の再現もしっかりとしていて、コントラバスの胴の豊かな響きや大太鼓の力強い打音をパワフルに再現してくれる。

 ヘッドホンアンプの駆動力を試すため、駆動力のあるアンプでないと鳴らしにくいゼンハイザーの「HD800」(インピーダンス300Ω)でも鳴らしてみた。こちらもアンバランス接続。ゲインをハイゲインに切り替えて聴いてみたが、低音楽器や大太鼓も力強く鳴り、中低域がもたついたり、濁るようなこともない、充分な駆動力だ。HD800らしい中高域の自然な音色やニュアンスの豊かさもしっかりと出て、なかなか優秀な実力と感じた。なお、フルバランス構成のXAMP回路は最大で600Ωまでのヘッドホンを駆動できるという。今回は4.4mmバランス端子のケーブルや変換アダプターを用意できなかったので試せなかったが、バランス出力ならさらにHD800を鳴らしきってくれるだろう。

 次は注目のバランス出力だ。テクニクスのEAH-TZ700に、交換用の4.4.mmバランスケーブルで聴いてみた。アンバランス出力でもオーケストラが演奏しているホールの響きや空間は出ていたが、その空間感がさらに広がる。漠然と広がるのではなく、個々の音のエネルギーも増しているので、スケールはさらに雄大になる。アンバランス出力では、低音域の力強さはあるものの出音の勢いがやや穏やかになっていたが、バランス出力となると出音の勢いも増し、ティンパニの連打なども歯切れの良い再現になる。

 イヤホンを換えて、DITAの「DREAM」でも聴いてみた。こちらは接続端子(プラグ)の交換が可能で、3.5mmステレオミニのほか、4.4mmバランス、2.5mmバランスと3種類の交換用端子が付属している。ちょっと古いモデルだが、その実力は今でも優秀。こちらで聴くチャイコフスキーはより繊細で切れ味のある再現。低音もややタイトになるがより力強い鳴り方だ。それぞれのイヤホンの持ち味をしっかりと引き出している実感があり、音楽再生の実力はなかなかのものだと感じる。

 DITA DREAMでのバランス接続のまま、『米津玄師/KICK BACK』を聴くと、パワフルなヴォーカルとエネルギッシュなバンド演奏の混然一体となった雰囲気をきちんと伝えつつ、個々の音も粒立ちよく再現。白熱したライブ感が楽しめる。中盤のサビでオーケストラをバックに歌うところは、スケール感も雄大だ。よくよく聴き込むと、中高域はややメリハリを効かせている印象を受けるが、派手すぎたりやかましくなるほどではなく、ロックやポップスを楽しく聴けるバランスになっていると感じた。『YOASOBI/祝福』も、ヴォーカルの再現は繊細だがひ弱に感じることもなく、声の力強さもよく伝わる。バンドのリズムもパワフルでよく弾む。実に気持ちのいいサウンドだ。

 このほか、PCゲームもプレイしてみたが、細かな音まで再現できるなど、基本的な音質が優れているので、ゲームプレイもより臨場感たっぷりに楽しめる。ここまで本格的に音質を追求し、しかもゲームに強いオーディオ機器は他にはあまりない。元気はいいがガチャガチャと派手な音がするゲーム向けのオーディオ機器だと、耳が疲れてしまい長時間のプレイに向かないこともあるので、Sound Blaster X5はまさに決定版と言える存在だ。

ゲーム向けのオーディオ機能も極めて充実!

 Sound Blaster X5は、直販価格が¥39,800(税込)という手頃で、同価格帯のUSB DAC/ヘッドホンアンプとしては充分以上の実力を持ち、音楽配信サービスやハイレゾ音源を高音質で楽しみたい人にはぜひおすすめしたいモデルだ。しかし、Sound Blasterはこれで終わりではない。ゲーム向けのオーディオ機能もかなり充実しているのだ。

対応ソフトのトップ画面

 独自の「アコースティックエンジン」には、バーチャルサラウンド機能をはじめ、チャット音声の明瞭化やノイズキャンセル機能、モーフ(ボイスチェンジャー)などを好みで調整できる「クリスタライザー」、イコライザーなどがある。これに加えて、FPSゲームなどで足音などの小さな音を強調して、敵の位置などを把握しやすくなる「スカウトモード」も用意されている。これらはPCアプリの「Sound Blaster」アプリで選択や調整が行なえるが、Sound Blaster X5本体のスイッチでも、プリセットしたイコライザーの切替えが可能。

スカウトモードの設定画面

 圧巻なのがイコライザー機能で、「ゲーム」「ミュージック」「ムービー」「アコースティック」などのプリセットだけでなく、ゲームジャンルもFPSやアドベンチャーなどジャンル別に用意されているし、音楽ジャンルもボーカル、R&Bなどと実に細かい。そして、人気のあるゲームとして「Fortnite」「CyberPunk2077」「Apex Legends」「原神」「Call of Duty」などなど、実に豊富なプリセットが用意されている。たくさんありすぎて困るほどだし、自分の好みの調整を加えていくこともできる。

サウンドモードは各種を用意。本体前面のボタンでも、写真のソフトからでも切替え可能

 また、PC入力のほか、ライン入力や光デジタル入力、マイク入力などの音声をそれぞれ個別に音量調節し、まとめて音声出力できるミキサー機能も備える。ゲーム実況動画の配信などをする人にとっては、ちょっとしたオーディオ・インターフェイスとして使うこともできるのだ。なお、本体側ではワンボタンでこうした機能をすべてオフとして純粋なオーディオ再生を行なう「ダイレクト」ボタンをはじめ、ゲイン切り替え、入力切替え、大型ツマミのボリュームなどが用意されており、PC機器以外との接続時でも気軽に操作できるようになっていて、PCでゲームメインの使い方をする人でなくても使い勝手は良好だ。

音楽だけでなく、ゲームも高音質で楽しめる注目の一台

 このように、音質の実力も充分で、ゲーム機能やボイスチャット、ミキサー機能まで備えているのはSound Blasterならではだ。これで実売約4万円というのはかなりお買い得。そのうえで、普及が進んでいる音楽配信サービスやハイレゾ音源の高音質再生も楽しめるのだから素晴らしい。サラウンド機能もあるので、動画配信サービスで映画やドラマを見ることが多い人にも向くだろう。PCは現在のさまざまなコンテンツをまとめて楽しめる機器でもあるので、そうした多彩なメディアや楽しみをすべてカバーできるUSBオーディオ機器は貴重。ゲームメインで考えているけど、ハイレゾ再生や本格的なオーディオ再生にもちょっと興味を持っている人には最適なモデルだ。