【再生システム研究】一体型AVセンターの完成形! ヤマハRX-A8Aの空前の立体音響

 基本構造からデザインまですべてを一新した新AVENTAGEシリーズのトップモデルとして、ヤマハは2021年8月末にRX-A8Aを発売した。本来なら2021年春に発売の予定だったそうだが、コロナ禍の影響を受けずれ込んでしまったという。ただ、その時間を製品の完成度を高めるために費やすことで、その成果を見事にサウンドへと結実させたのである。下位モデルの姉妹機とともにこれまでのヤマハのAVセンターで初めてセンター位置にボリュウムを配したことは印象的だ。シンプルにしてスマートな製品のイメージを打ち出しつつ、パネルの剛性を高めて新世代機らしさをアピールする。

 

Profile
1986年発売のDSP-1を嚆矢として35年以上の長きに渡って、ホームシアターでの音場再生を担ってきたヤマハのAVセンター。その中核技術がCINEMA DSPと呼ばれる音場創生テクノロジーであり、世界各国の著名ホールの実測とその再現を原点に、様々な進化を遂げてきた。現在CINEMA DSPは単独の音場モードをユーザーが選ぶ方式に加えて、視聴中のシーン内に含まれる音響要素(セリフやBGM、環境音、効果音など)をAI(人工知能)がリアルタイムで分析、最適な音場効果を自動的に創出する「SURROUND:AI」に進化を遂げている。今回は11chアンプ内蔵で、単独で7.2.4構成のスピーカーシステムでドルビーアトモス再生が可能な、ヤマハ現行最高峰モデルRX-A8Aを使って『トップガン マーヴェリック』を再生してみることにした(HiVi編集部)

AV Center

YAMAHA
RX-A8A
¥484,000 税込

●定格出力:150W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.06%、2ch駆動時)
●搭載アンプ数:11
●寸法/質量:W435×H192×D477mm/21.4kg
●問合せ先:(株)ヤマハミュージックジャパン お客様コミュニケーションセンター オーディオ・ビジュアル機器ご相談窓口 TEL. 0570(011)808

 

 

根源部分に手を加えられた新時代のAVセンター第一弾の最高峰機

 本世代から新開発のシャーシが採用されていることも注目したい。前作のRX-A3080まで長らく使い込んだシャーシを改良することでAVセンターを新たなステージに押し上げようとする意欲がうかがえる。基本性能を高めるために、根源的な部分に手を加えたことの意義は大きかったように思う。

 デジタル変換を担うDACチップにはセパレート型のAVプリアンプ、CX-A5200と同じくESSテクノロジー社製のDAC、ES9026PROを2基採用、広いダイナミックレンジを確保するとともに高調波歪みの低減に力を注いだ回路で構成されている。

 パワーアンプ部の出力段は基本的に9chアンプ搭載機だった前作のRX-A3080と同様だが、11ch仕様に換装したことにも、彼らの積極果敢な姿勢が感じ取れる。そしてこのパワートレインを十全に駆動できるよう電源部を大幅に増強した。大型化した電源トランスの下部に専用の脚部を設けたり、グラウンドの配線をセパレート型パワーアンプMX-A5200と同様の素材を用いて、ローインピーダンス化を実現している。整流回路にカスタムメイドのブロックコンデンサーを投入し、加えて各部のパーツのグレードを高め、一体型AVセンターとして最高峰のクォリティを目指している。機能面ではAuro-3Dの再生に対応、主要なイマーシブなサラウンド再生機能はすべて盛り込まれたことが新しい。

 さらにこのモデルの進化の原動力になったのがQualcommの64bitで動作するSoC(シリコン・オン・チップ。いわゆるDSPと考えてよい)である。これを後述するCINEMA DSPの最新形「SURROUND:AI」の動作などに使っている。

パワーアンプは11ch内蔵。本機単独で7.2.4構成のスピーカーシステムを駆動できるほか、フロントL/Rをパッシブバイアンプ駆動とした5.2.4再生なども可能で、使用しているシステムに合わせて、内蔵アンプを無駄なく使うことができる

内部前方には電源とパワーアンプセクションを配置。本体後方は各種信号処理セクションとなる。信号処理回路は大規模かつ高速化させた高度なデジタルセクションを搭載しているが、アンプ回路への影響を最小限に抑える設計思想が徹底されている

付属マイクを用いて、視聴前にヤマハ独自の自動音場測定/調整機能YPAO(Yamaha Parametric Room Acoustic Optimizer)を行なった。このステップを踏むことで、スピーカー設定の基本項目の測定のほかに、高度なイコライザー機能が活用できるので、ユーザーはぜひ使いこなしてほしい

 

 

強烈な音響と抑制が効いた音響設計をピュアダイレクトで緻密に再現

 さて今回のテーマは『トップガン マーヴェリック』を一体型AVセンターで鳴らし尽くす、ということ。本作はルーカスフィルムのサウンドディビジョン「スカイウォーカー・サウンド」でダビング作業が行なわれたこともあってか、斬新かつダイナミックな音づくりがなされている。ヤマハのRX-A8Aがこのドルビーアトモスサウンドのダイナミックさをどこまで再現できるのかが、今回の大きなテーマだ(RX-A8A以外の視聴機器はHiVi2023年冬号参照)。

 まずストレートデコードでイコライザー補正回路の動作や表示機能を停止する「ピュアダイレクト」で視聴して驚いたのがダイナミックな表現力とタフネスさを備えたサウンドを聴かせてくれたことである。そして一瞬音が無くなった時に要求されるS/N感の高さにもRX-A8Aは良く応えている。『トップガン マーヴェリック』は、派手さだけを追いかけるのではなく、随所に抑制を効かせた音づくりのなされた作品であることもRX-A8Aで再生してすぐに理解できた。

 また今回の視聴では、DMR-ZR1のセパレート出力を使わず、本機を経由してプロジェクターに接続しているが、映像回路も優秀で、解像感の劣化が少なくS/Nの良い映像を再現してくれたことも付け加えおきたい。

 それでは各パートを視聴した印象について触れていこう。オープニングのシーンは前作『トップガン』とほぼ同様のカット割りで始まる。ここでの主役は空母の上を発着艦するジェット戦闘機の効果音と音楽だ。とりわけ音楽の扱いが大胆で、サラウンド側から天井(オーバーヘッド)スピーカーにまで音が振り分けられている。そうしたニュアンスをしっかりと伝えてくれただけでなく、空間のつながりも実にスムーズだった。

 チャプター2でマーヴェリックがスクラムジェットエンジンを搭載した極超音速機ダークスターでマッハ10に挑戦するシーンを観た。オートバイで格納庫に到着すると待ち構えていた仲間からテスト飛行は中止だと告げられる。会話の響きが格納庫の空間の広さを良く描き出す。命令を無視し、ダークスターが離陸した瞬間、その風速にゲートで煽られるエド・ハリス演じるケイン少将の歪んだ顔と、その後に続く離陸時の爆音の軌跡も腰砕けになることなく堂々と再現する。

 チャプター8のトップガン式フットボールをビーチで行なう場面では、音楽とFoly(フォーリー。足音や衣擦れのような効果音)が主体となった音づくりが行なわれているが、陽射しを感じさせるノリの良い音楽をバックに戯れるパイロットの姿を、緻密なFolyの音がマスキングされることなく、しっかり浮かび上がらせる。

 チャプター10以降は、F/A-18E/Fスーパーホーネットで敵地に乗り込み、ウラン濃縮プラントの爆破の後、対空ミサイルに撃ち落とされるところまで視聴した。疾走感あふれる飛行シーンから一転して対空ミサイルに追いかけられる場面で、目まぐるしく展開するジェット戦闘機とミサイル、そしてミサイルの囮となるフレア弾の発射など、細かく作り込まれた音の再現に思わず手に汗を握った。テンション漲る飛行音とフレア弾の厚みのある効果音、後方空間から聞こえる交信音が大いなる緊張感を与えてくれる。この中低域の豊かさと躍動感あふれるサウンドはヤマハ製歴代AVセンターの中でも随一といえるかもしれない迫力を醸し出す。パワーアンプの電源部を強化した恩恵がこうした部分にもよく現れていると言ってもいいだろう。

●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
ストリーミング端末:アップル Apple TV 4K
スピーカーシステム:モニターオーディオ PL300II(L/R)、PLC350II(C)、PL200II(Ls/RS)、PL100II(Lsb/Rsb)、イクリプス TD508MK3(オーバーヘッドスピーカー)×4、TD725SWMK2(LFE)

モニターオーディオとイクリプスによる7.1.4構成のスピーカーシステムを用いて取材を実施している。なお、本文では触れていないがApple TV 4Kでの再生も行なっている。映像は120インチスクリーンでの再生となる

 

高精度なイコライザーと独自「SURROUND:AI」を試す

 続いて自動音場測定機能YPAOを使って高精度のイコライザーを試した。モードは「フロント近似」。今回はルームアコースティックが調整されたHiVi視聴室で、フロアースピーカーは同一メーカー/同一シリーズで組んでいるのでそれほど大きな変化は出ないだろうと考えていたが、違いがしっかり現れた。少々おとなしくなる傾向はあったが、音場空間全体のまとまり感は大いに高まる。複数のメーカーのスピーカーで混成部隊のサラウンドシステムを組んでいるのなら、試してみる価値が大いにある。

 ヤマハのAVセンターといえば、CINEMA DSPに惚れて導入し続けているユーザーも多いと思う。CINEMA DSPはヤマハAVセンターの代名詞的存在。試してみないわけにはいかない。シーンの音の要素をAIが解析して、最適な音場効果を自動的に創出する「SURROUND:AI」を試す。YPAOのフロント近似の設定のまま、いくつかのシーンを再生していく。ダイアローグの雰囲気はそれほど変化しないが、シーンによっては、いくぶんBGMの要素が目立ち、前に出てくる印象も受ける。サラウンド側の音も明快になることで包み込まれる感じも耳に良く残る。シーンごとの信号処理の変化もじわりと行なわれているので、空間表現が唐突に変わるような違和感はまったくない。

 今回のRX-A8Aのように、基本となるパフォーマンスが向上しているモデルでは、ストレートデコードとなる「ピュアダイレクト」での再生になんら不満はないが、CINEMA DSPのファンなら進化した「SURROUND:AI」を試してみる価値はあると思うので、このあたりの判断はユーザーに委ねたい。

 「ピュアダイレクト」のストレートなサウンドにも一本筋が通り、瞬発力に優れた音は実に小気味良いし、「SURROUND:AI」再生時のサウンドも活力を失なわず、空間表現を絶妙に拡張する点には好感が持てる。

 いずれにしてもRX-A8Aで鳴らす『トップガン マーヴェリック』の強烈かつ緻密な音は、本機が一体型AVセンターの頂点というべき素晴らしい製品であることを雄弁に物語っている。

 

今回はHiVi視聴室常設のモニターオーディオのプラチナムシリーズ2とイクリプスのサブウーファーとオーバーヘッドスピーカーによる7.1.4再生を行なった。イクリプスのオーバーヘッドスピーカーはスモール(小)設定として、100Hz以下の低音をサブウーファーに割り振った

イコライザーはパラメトリックタイプとなり、モードも「フラット」、「フロント近似」、「ナチュラル」、「低周波数領域」が選べる。今回は「フロント近似」と「使用しない」を比較してみた

音声信号に手を加えずにストレートな再生を行ないたい場合は「PURE DIRECT」モードで再生するとよいだろう。リモコンからワンタッチで本モードが設定できる。音場モードが選択できないほか、本体フロント画面表示も消える

「SURROUND:AI」もリモコンでダイレクトにオンオフが可能だ。なお、「PURE DIRECT」の状態から「SURROUND:AI」とするには、一度「PURE DIRECT」をオフにして、「SURROUND:AI」をオンにする必要がある

 

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』