Auro-3Dの生みの親、ベルギーのAuro Technologies社が生み出したAV機器ブランド、ストームオーディオ。現在、本ブランドは、Immersive Audio Technologies Groupに移管されて運営されている。そのストーム・オーディオが送り出すAVプリアンプ、ISPシリーズ(ISP.16 Analog、ISP.24 Analog、ISP.32 Analog)が第3世代となる「ISP MK3」へと生まれ変わった。

 ハードウェアとしては、新デザインの採用にとどまっているようだが、ソフトウェア面で画期的な進化を遂げている。その主な内容は①独自のアップミックス機能となる「StormXT」、②各チャンネルの低域を任意のスピーカー、サブウーハーに割り当てられる「Flexible Bass Management」、③デコード能力のアップとスピーカー設置の柔軟性向上を背景にした「SUITABLE SPEAKERS LAYOUT」という3項目だ。

 ①は独自のアップミキサーで設置したスピーカーすべてから適切な音声を出力できることが大きなトピックだ。これはドルビーアトモス、DTS:Xといった音源でも有効。デコード後の音源には含まれていないセンタートップ、ボイス・オブ・ゴッドなどのスピーカーを鳴らすことができる。

 ②は各チャンネルの低域成分(帯域は任意設定可能)を指定したスピーカーとサブウーファーに振り分けて再生できるという機能。特に小型のスピーカー設置が強いられるサラウンドチャンネル、トップチャンネルの再生で威力を発揮しそうだ。

 ③最大24chデコードに対応、ドルビーアトモス音声では「13.1.10」に、DTS:XもNeural:Xアップミキサーを併用して「13.1.10」、Auro-3Dでは7.1.6chに対応している。32chモデルでは、24chデコード機能に加えて、マルチアンプ駆動に対応、さらに最大6つのベースゾーンをサポートする。この結果トップスピーカー設置が10本に拡張。同時にスピーカー設置の自由度が上がり、部屋の状況に合わせたセッティングが可能になった。

 いずれもソフトウェアによる機能性のアップだが、最終的なパフォーマンスに与える影響は大きく、AVプリアンプとしての魅力は大幅に向上したといっていいだろう。なおこれらの機能は既存モデルについても、アップデートサービスを行なう予定だ。

 

Profile
ドルビーアトモス、DTS:Xとともに第三の「イマーシブオーディオ」として人気が高まっている「Auro-3D」規格の生みの親であるAuro Technologies社が立ち上げたAVコンポーネントブランドがフランスのストームオーディオ。2018年に高度なセパレートAVセンターISP 3D.16 ELITEが日本上陸、その高度なサウンドパフォーマンスが注目を集めた。現在同ブランドはImmersive Audio Technologies Group社に移管されているが、以後も積極的な開発を続けて、前述の製品がモデルチェンジ、MK3化された。外装デザインが変わったことに加えて、最大13.1.10の24chデコードに対応するほか、フレキシブルかつ独自のアップミックスモード「StormXT」が搭載された。スマホ/タブレット用の専用アプリのほか、別売りオプションで専用リモコン(¥16,500 税込)も用意された。ファームウェアアップデートも行なわれ、外観以外はほぼすべての機能が更新、従来機のユーザーもその恩恵が受けられる。高価格製品だが、長期間に渡って陳腐化せず、最新の状態で使用できる点は見逃せない。(編集部)

Control AV Center

STORM AUDIO
ISP.24 Analog MK3
¥2,750,000 税込

●型式:コントロールAVセンター
●対応信号:最高24ch(ドルビーアトモス再生時13.1.10)
●対応フォーマット:ドルビーアトモス、Auro-3D、DTS:X Pro、IMAX Enhancedほか
●接続端子:HDMI入力7系統(18Gbps対応)、HDMI出力2系統(eARC対応)、デジタル音声入力6系統(同軸×3、光×3)、アナログ音声入力5系統(RCA×4[7.1ch入力にアサイン可]、XLR)、アナログ音声出力1系統(24ch XLR)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量:W441×H191×D490mm/13.2kg
●問合せ先:(株)ナスペックTEL. 0120(932)455

 

 

今回の取材は、HiVi視聴室で7.2.8スピーカー構成で検証したのち、祐天寺にあるMIL(メディア・インテグレーション・ラボ)スタジオで行なった。2022年5月号、6月号で紹介した視聴スペースで、ISP.24 Analog MK3を早速導入したため、そのパフォーマンスを体験させていただいた。スピーカーは全チャンネルがフランスのフォーカル社のCI(カスタム・インストール)シリーズで組んだ驚異のイマーシブスタジオだ。43.2ch分のスピーカーがほぼ理想的な状態でセッティングされているが、今回は7.1.6構成の状態で視聴している

 

 

超弩級の最新AVプリの実力をふたつの環境でチェック

 ここでは『トップガン マーヴェリック』の潜在能力をフルに引き出すために、ストームオーディオのISP.24 Analog MK3を用いた2つの超弩級システムを視聴。HiVi視聴室のリファレンスシステムに組み込んだ環境と、本機をリファレンスプロセッサーとして導入しているMILスタジオでの2ヵ所で試し、それぞれのインプレッションをリポートしたい。

 まずHiVi視聴室のシステムだが、24chアナログ出力を備えたISP.24 Analog MK3をシステムの核として、16ch仕様のPA 16 MK3と8ch仕様パワーアンプPA 8 MK3との組合せで、7.2.8構成のスピーカーシステムを構築。オーバーヘッドスピーカーの「8」にはセンタートップ、ボイス・オブ・ゴッドチャンネルも含まれている。なおHiVi視聴室での取材はすべて音響補正技術「Dirac Live」オンで行なっている。

 まずはヴォーカル、ピアノなど、聴き慣れた2ch曲をステレオで再生をしてみたが、重心の低い骨太のサウンドは健在だ。とにかく音の骨格がしっかりとして、しかも明確。にじみを感じさせない押し出しの強いサウンドで、高さ方向、奥行方向ともに、空間の拡がりもスムーズだ。音量を思い切って上げても帯域バランスが崩れず、うわずった感じにならないのは、筐体、足元がしっかりと補強されたた補強されたためだろう。聴き手に迫り、覆い尽くすような包容力もあって、独特の居心地のよさ、聴き心地のよさを感じさせてくれるような頼れるサウンドという印象だ。

 いよいよ『トップガン マーヴェリック』の再生。UHDブルーレイのドルビーアトモス音源をStormXTモードで再生した。厚みのある中低域の描写をベースに、立体的に展開する緻密で雄大な音場空間を堂々と描き出してみせた。

 チャプター2、マーヴェリック(トム・クルーズ)が極超音速機ダークスターで、マッハ10に挑むシーンでは、全帯域にわたって気持ちよく音が吹き上がり、音の出口の広さ、情報量の豊かさを印象づける。思い切って音量を上げてみたが、歪っぽさがほぼ感じられないないためか、極超音速機のジェットの爆音が耳障りにならず、うるさくない。このあたりプロオーディオ機器の血統を感じさせる部分だ。

 前述の通り、ドルビーアトモス再生では、StormXTモードオンでセンタートップ、ボイス・オブ・ゴッドスピーカーも有効となる。確かにケイン少将の頭上をダークスターが駆け抜けていく離陸シーンでは、音の厚み、勢い、移動感と、空間全体(特に前方の高さ方向)の表現力、分解能の高さが実感できる。部屋中央部の天井位置に音源が配置される恩恵が少なくないことは明らかだ。

 ちなみに「山中湖ラボ」のAVプリアンプ、トリノフオーディオのAltitude 16ではスピーカーのセッティング、場所にあわせて、最適な音を配置する「リマッピング」機能を備えている。ただ山中湖ラボのセッティングでは、ドルビーアトモス再生では音源の配置はドルビーアトモス推奨位置にほぼ沿ってスピーカーを配置しており、StormXTに比べるとその効果は控えめ。今の段階では善し悪しは語れないが、HiVi視聴室で体験したISP.24 Analog MK3のStromXT機能には大きな効果があったことは確かだ。

 

写真は、32ch仕様に16ch AES Inputと32ch DANTE Input/Outputオプションボードを装着した状態。アナログ音声出力はバランスXLR専用となるため、所狭しとバランス出力端子が装備されている。HDMI入出力はすべて18Gbps対応となるが、2023年には8K映像信号 対応ボードが登場予定という。なお、MK3となる本機はMK2バージョンからはDSPやDACなどの信号処理チップ自体は変更を受けていない

 

 

理想的環境で本領発揮。別格の立体音響に圧倒された!

 続いて視聴場所をMILスタジオに移動。主にプロオーディオ、コンテンツ・クリエーション分野でのソフトウェア販売を手がけるメディア・インテグレーション社が、様々なイマーシブオーディオを理想的な環境で体験できることを目指して構築された特別なスタジオだ。システムは別掲図の通り。視聴位置を取り囲むようにフォーカル製のスピーカーシステムが配置され、しかもすべてフルレンジ設定での再生となり、ベストポジションでは時間軸の補正はほぼ必要がない。またISP.24 Analog MK3はHDMI音声を正確にデコードすることに徹した使い方を行ない、レベル調整などは、本機以降の機器で受け持たせている。部屋の音響特性についても、アコースティックに入念に整えられており、「Dirac Live」はオフ。StormXTの設定もオフとしている。

 

MILスタジオに導入されたISP.24 Analog MK3は、ラックマウントで設置されている。 取材時はアナログバランスにて音声出力して状態で行なったが、今後は業務用で使われ ているマルチチャンネルデジタル伝送規格DANTE(ダンテ)用のモジュールを組み込ん で、よりシンプルかつ高品位な状態で運用を行なう予定だという

MILスタジオでは膨大な数のスピーカーが使われているが、オリジナルの木製構造材に美しく組み込まれているため圧迫感はほとんどない。藤原さんの前にあるのが、フロントRチャンネル用の1000 IWLCR UTOPIAだ。フォーカルのトップグレードUTOPIAグレードのインウォールスピーカーとなる。上方に横向きに設置してあるのがハイトスピーカーの1000 IWLCR6だ。いずれもベリリウム素材のドーム型トゥイーターを搭載している

 

 

 MILスタジオで体験する『マーヴェリック』は、ここでも低域の押し出しの強さ、骨格の太さは格別だ。肌合いのいい重厚な響きが印象的なサラウンドサウンドで、ISP.24 Analog MK3は、随所でAVプリアンプとしての基礎体力の高さを感じさせた。

 セリフひとつとっても、声の重み、微妙な音色、艶がしっかり感じられて、ニュアンスが実に豊かな再現で、拡がりもなめらかだ。鮮度の高い音がダイレクトに前後左右そして上方すべてから降り注いでくるような鮮烈さは、イマーシブオーディオの再生に対して専用設計されたスタジオならでは。迫力は充分にあるものの、全体に刺々しい刺激がほとんど感じられない、肌触りのいい聴かせ方なので、大音量でも聴きづらさはなく、耳障りな歪み感もない。

 チャプター12。“ならず者国家”のウラン濃縮プラントを破壊する戦闘シーンだが、戦闘機のジェット音、風切り音、爆破音、そして操縦席の激しい息づかいと、その音の多彩なこと。数多くの音が複雑に入り組んで緊迫の場面を演出しているが、ひとつひとつの音が極めて鮮明で、しかもそれぞれの距離感まで鮮明に把握できる。

 電気的な補正を加えることなく、アコースティックな処理だけで空間を作り上げているメリットも少なくないと思うが、これはISP.24 Analog MK3から出力される音源の高いクォリティなくしては、到底、考えられない世界。スピーカーユニットまでの距離が約2.5m程度で、空間としての大きさを圧倒的に感じさせるようなセッティングではない。ただそのなかでも遠近、移動、拡がりと、音の微細な表現をしっかりと描き出す。最終的にその情報量が『マーヴェリック』に描かれている、命懸けの緊迫感に満ちたサラウンド表現に結実していると言っていいだろう。

 実在感に富んだセリフの再現性、重厚で、深みのある空間の拡がり、そしてフル帯域で一気に吹き上がる瞬発力と、ストーム・オーディオの持ち味を活かしながら、新たな武器を手中に収めたISP.24 Analog MK3。特に上部センターに音源を定位できる「StormXT」アップサンプラーと、任意のチャンネルの低域成分を指定したスピーカー、サブウーファーからも出力できる「Flexible Bass Management」の恩恵は大きく、AVプリアンプとしての総合的な表現力はまったくの別物として生まれ変わったと言っていいほどだ。

 すでにオーディオ機器としての基本性能の高さは折り紙付き。加えて、今回、その持ち味を最大限に引き出す優れた機能性を装備したことで、ホームシアターの中核機としての魅力は、飛躍的に向上したと断言できる。

 

MILスタジオはドルビーアトモス再生だけでなく、DTS:X、Auro-3D、360 Reality Audioなど様々な立体音響音源を妥協せず再生するための構築された空間だ。今回はドルビーアトモス音声が収録された『トップガン マーヴェリック』再生のため、7.1.6サラウンドシステムとして鳴らした。なお、サブウーファーは物理的には2基用いたが信号処理的には同一信号での再生とした

 

●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ/イーストン E8K(120インチ/16:9、サウンド仕様)
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
ボリュウムコントローラー兼インターフェイス:AVID Pro Tools MTRX
パワーアンプ:Lab.Gruppen D20:4L、innosonix MA32/D
スピーカーシステム:フォーカル1000 IWLCR UTOPIA(L/C/R)、1000 IW6(Ls/Rs/Lsb/Rsb)、1000 IWLCL6(オーバーヘッド×6)、SUB 1000F(LFE×2)

※取材協力:(株)メディア・インテグレーションMI事業部 カスタマーケア TEL. 03(3477)1493

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』