【再生システム研究】ステレオ2chスピーカーで組む感動のAV再生の世界
英国生まれのスピーカーブランド、スペンドール。日本に紹介されてはや60年近くの時が流れた本ブランドは、やはりBBCのモニター・スピーカーと言うイメージが色濃く残る。メーカーとしてのスタートは1971年だが、創業者の一人であるスペンサー・ヒューズが開発に携わったコンパクトなLS3/5aは、ライセンス契約によって多くの派生モデルを生み出し話題を集めた製品でもある。往年のオーディオファンの中にはこのスピーカーのユーザーになった人も多いのではないだろうか。
そのスペンドールが最新のプログラムソースにフォーカスした新製品D-LINEをリリースした。ここでは、『トップガン マーヴェリック』を鳴らすステレオスピーカーとして、上位機D9.2を紹介したい。
Profile
スペンドールは、1960年初頭にスペンサーとドロシーのヒューズ夫妻によりイギリスで設立された名門スピーカーブランド。スペンサー・ヒューズはBBC(英国放送協会)のエンジニア出身で、彼がモニター用に開発した「BC1」がスタジオ用途で成功、さらに一般市場向けに改良されたモデルが人気を博し、英国を代表するスピーカーブランドとなった。近年、日本では天然木を活かしたClassicシリーズを中心に展開してきたが、2022年秋よりモダンスピーカーを目指したA-LINEとD-LINEの2ラインが上陸。今回は後者の上位モデルD9.2スピーカーで『トップガン マーヴェリック』再生を試みた(編集部)
Speaker System
SPENDOR
D9.2
¥1,320,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:22mmドーム型トゥイーター、180mmコーン型ミッドレンジ、180mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:500Hz、4.2kHz
●出力音圧レベル:90dB/W/m
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W210×H1,155×D398mm/35kg
●カラリング:ブラックオーク(写真)、オーク、ウォルナット、チェリー、サテンホワイト
●問合せ先:(株)トライオードTEL. 048(940)3852
このモデルは3ウェイ4ユニットのフロアスタンディング型であり、180mm口径のウーファーが2基、同サイズのミッドレンジと22mm口径のトゥイーターで構成されているスピーカーだ。ウーファーの振動板にはケブラーを織り交ぜたコンポジット・コーンが、ミッドレンジにはポリマー素材によるコーンが採用され、トゥイーターにはポリアミドの振動板を持つドーム型ユニットが搭載されている。トゥイーターはリニアな動作を実現するため、一定のプレッシャーを与えて音圧の均一化を図っていることも特徴だ。
エンクロージャーには、非対称の内部補強材を配し、加えてポリマー製のダンプ材を効果的に用いることで内部の不要な振動を低減している。さらに「リニアフロウポート」テクノロジーと呼ぶ整流板にヒントを得たバッフルを組み込み、テーパーの付いたふたつのポートの流速をコントロールして低音の均質化と風切りノイズの低減している。
D9.2は本体ベース部にスチール製の4つのスタビライザー・ディスクを装着し、スピーカー自体の安定性とスパイク部分での振動の抑制を実現、低音域の再生に対するスタビリティを高めている。
背面底部にシングルワイヤリング専用の接続端子とバスレフポートを装備。ポートの内部がテーパー状に整形された構造になっており、キャビネットから空気を二股に分離しつつスムーズに排出させて、ポートノイズを低減する「リニア フロウ テクノロジー」という仕組みが組み込まれている
S/N感に優れた静けさの描写と凛とした声の響きが印象的だ
それではD9.2をレグザの有機ELディスプレイ48X9400Sの両サイドにセッティングして『マーヴェリック』を視聴してみよう。プレーヤーはリーヴォンUBR-X200。プリメインアンプにアキュフェーズのE-5000を用いてアナログ2chによる接続を行なった。
結論から述べるならこの組合せは大いにアリだ。というより画面サイズは65インチでも、80インチでもD9.2の備える、濃い口の表現力で映画音響に対してしっかりと応えてくれるだろう。今回は48インチという、今となっては中型クラスのディスプレイと組み合わせたが、スケール感のあるサウンドが画面全体を包み込むことで、実際の画面サイズ以上の大きさに感じさせてくれる。
加えて、ぼくがもっとも感心したのは、D9.2のフォーカス感の良さとダイアローグの明瞭さだ。さすがに後方からすり抜けていく戦闘機の移動感はあっさりとしか感じられないが(2ch再生だから当たり前だが)、スイートスポットに座って聴くかぎり、前後の移動感の「ニュアンス」が十分に聴き取れる。
チャプター2。マーヴェリックが、超音速機ダークスターの格納庫に到着した後に続く会話のシーンの静けさの描写も、D9.2がS/N感に優れていることをよく示している。音量を上げて視聴しても音の形が崩れることはないし、本当に画面からダイアローグが聴こえてくるように絵に音が良く馴染む。効果音はいくぶん控え目で節度感を備えているものの、音楽の鳴り方が絶妙な点も申し分ない。
チャプター5冒頭では、格納庫内で司令官が発するセリフがダイレクトに伝わってくるし、そこに広がる声の響きが凛としていて濁りがない。チャプター7でマーヴェリックがアイスマンの元に相談に行く場面でも会話が実に画面に寄り添う。ここでも静かなシーンにおける優れた音の描き分けが印象的だ。チャプター8の「トップガン式フットボール」を行なう場面は、音楽が活き活きと鳴ることで躍動感を高めてくれるし、チャプター13の敵基地から脱出するシーンでは飛行中の交信音に付けられた細かい音もしっかりと聴き取れた。
ふたつのスピーカーの間に展開する密度感の濃さと、音像型ならではのフォーカスの結像によって、今回のように至近距離で画面に集中して再生すると、次第にスピーカーの存在がなくなり、絵と音だけが残る。D9.2は、そんなAVの一体感が見事に味わえるスペンドールの新世代スピーカーである。
取材はHiVi視聴室で行なった。リーヴォンUBR-X200で2ch音声にダウンミックスしたステレオ信号を、XLRバランスケーブルでアキュフェーズのプリメインアンプE-5000に接続、スペンドールD9.2を駆動した
●視聴したシステム
有機ELディスプレイ:レグザ48X9400S
UHDブルーレイプレーヤー:リーヴォンUBR-X200
プリメインアンプ:アキュフェーズE-5000
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』