10周年を迎えたアステル&ケルンが、“真の次世代フラッグシップ”と銘打って発売したのがA&ultima SP3000(以下、SP3000)。高級時計にも採用されている「ステンレススチール904L」のボディは美しく洗練され、より直感的に使える操作性を向上させるなど、あらゆる面で次世代を感じさせるモデルだ。

 なかでも一番の特徴は、最新フラッグシップDAC「AK4499EX」を採用したHEXAオーディオ回路構造だ。これは、デジタル処理とアナログ処理を完全に分離したD/A変換処理を行なうもので、旭化成エレクトロニクスと共同で開発したもの。その結果、SP3000のDACは「AK4191EQ」を2基と「AK4499EX」を4基使用している。バランス出力とアンバランス出力が独立していることも特徴で、「AK4191EQ」はそれぞれ2DAC構成となっている。これにより、過去最高となる130dBものSN比を達成した。

 

旭化成エレクトロニクスのDAC「AK4191EQ」2基でデジタル信号のノイズを低減し、最新フラッグシップDAC「AK4499EX」4基でアナログ信号を分離・処理する。この「HEXAオーディオ回路構造」によって、ポータブルタイプのデジタルオーディオプレーヤーとしては世界で初めてデジタル信号処理とアナログ信号処理の物理的な分離を達成、圧倒的なSN比を発揮するという

 

 

 取材は、アステル&ケルン×キャンプファイヤーオーディオのコラボモデルのイヤホンPATHFINDERと、手持ちのヘッドホンやイヤホンで、SP3000を聴いてみた。ハイインピーダンスで鳴らしにくいゼンハイザーのヘッドホンHD800との組合せでは、ひ弱になりがちな低域もぐっと力強く鳴らす駆動力の高さに感心した。米津玄師の「KICK BACK」を聴くと、エネルギーたっぷりの声で、リズムもキレ味鋭く刻む。歌と伴奏が混然一体となったグルーヴ感が持ち味だが、それでいて個々の音は混濁せず実に精密に再現される。サラ・オレイン『One』の「ボヘミアン・ラプソディ」もコーラスと声がきれいに独立しながら、ヴォーカルと見事に調和する。

 

コラボイヤホンでSP3000の性能がより明らかに

試聴で使ったコラボモデル「PATHFINDER」は、キャンプファイヤーオーディオの優れた技術を結集し、Knowles社のデュアルダイヤフラム・BAドライバー、独自のカスタム・デュアルBAドライバー、10mm振動板を2基組み合わせたデュアルダイナミックドライバーで構成される。小柄なサイズと美しいデザインが見事で、澄み切った音色と解像感や音場感の高さも圧巻の出来。SP3000の優れた表現力を存分に味わえるイヤホンだ。

 

 

 テクニクスのイヤホンEAH-TZ700では、低音が実にパワフルで濃密な音になる。YOASOBIの「祝福」はヴォーカルが細身になりがちな曲だが、細身のまま芯の通ったエネルギーのある声を楽しめる。チャイコフスキーの「交響曲第6番」も、音場のスケールが大きく雄大なステージで、個々の楽器の音まで精密かつ色彩感豊かに描く。

 

ストレート再生での精緻な音が最高!グイグイと引き込まれる快感

 圧巻は「PATHFINDER」との組合せで、チャイコフスキーの交響曲をステージで聴いているかのような立体的な音場感と、オペラグラスでオーケストラの一人一人を見ているような個々の音の粒立ちの良さが両立している。このように、SP3000としての音質は極めて透明で、組み合わせたヘッドホンやイヤホンによって自在に変化する。あるいはヘッドホンの持ち味をすべて引き出したような鳴り方をすると感じた。

 アンバランス接続からバランス接続に切り替えてみると、音場の広さと深さがさらに豊かになり、個々の楽器の音の実体感も増したと感じるが、その差はわずか。独立した構成となるアンバランス出力回路の出来の良さをよく実感した。このほか、PCMならば最大384kHz、DSDならば最大11.2MHzまでアップサンプリングする新採用の「デジタルオーディオリマスター(DAR)」、スピーカー再生に近い聴こえ方になる「クロスフィード機能」など、イコライザーを含めてユーザーの好みに合わせる機能もあるが、個人的にはそれらをすべてオフとしたストレートな再生が本機の高性能と音楽的表現力の高さをもっとも味わえると感じた。

 S/Nの優秀さを一番に感じるのは確かだ。しかし、聴き込んでいくと、S/Nというよりその場が見えるような音場感や空間の深さ、時間的・周波数的な高精度さは意識から離れ、躍動感や高揚感こそが素晴らしいと感じる。オーディオ的な高性能がきちんと音楽表現に昇華され、そこから磨き上げられた音こそ、本機の最大の魅力と言えよう。

 

結論 イヤホン/ヘッドホンの本領を発揮させる無敵のDAP

これまでのポータブルプレーヤーとは明らかに次元の違う音の良さで、イヤホン、ヘッドホンの持ち味をすべて引き出す無色透明かつ無敵の駆動力に感心した。たくさんの優れたヘッドホンやイヤホンを持つ人にぜひ使ってみてほしい。

 

 

Digital Audio Player
Astell&Kern A&ultima SP3000

¥659,980 税込

●容量:256Gバイト
●接続端子:デジタル音声入力1系統(USBタイプC)、アナログ音声出力3系統(3.5mmステレオミニ[光デジタル出力兼用]、2.5mmバランス[4極]、4.4mmバランス[5極])、デジタル出力2系統(光[3.5mmステレオミニ兼用]、USBTypeC[デジタル入力兼用])
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/32ビット(PCM)、〜22.4MHz(DSD)
●対応Bluetoothコーデック:SBC、AAC、aptXHD、LDAC
●寸法/質量:W82.4×H139.4×D18.3mm/493g
●問合わせ先:アイリバーサポートセンター TEL. 0570(002)220

出力端子は3.5mmステレオミニ、2.5mmバランス、4.4mmバランスを備える。独立回路の恩恵もあって、アンバランス接続でも強力なサウンドを奏でる

 

[試聴ソフト]
●デジタルファイル:「チャイコフスキー:交響曲第6番<悲愴>第三楽章/テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ」(96kHz/24ビット FLAC)「KICK BACK/米津玄師」(48kHz/24ビット FLAC)「ボヘミアン・ラプソディ/サラ・オレイン」(96kHz/24ビット FLAC)「祝福/YOASOBI」(96kHz/24ビット FLAC)
 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』