12月11日(日曜日)、東急レクリエーションが運営する東京都町田市の「109シネマズグランベリーパーク」プレミアムサウンドシアター「SAION」(サイオン)において、『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』のライブ・ビューイングが開催された。

 「SAION」(サイオン)は東急レクリエーションが2021年末、音に特化したプレミアムサウンドシアターに導入したカスタムメイドの音響システムの名称である。

 『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』 は黒と白を基調とした映像と坂本龍一の奏でるソロ・ピアノを収めた作品。収録はNHK509スタジオで実施された。ニューヨークから招集されたチームにより撮影・編集された映像は、まるで絵画を観るような感覚を抱かせる。独特のカメラ・アングルはスタジオに複数本設置されたマイク(マイク・スタンド)をまるでオブジェのように捉え、見る者を研ぎ澄まされた音の世界へと誘う。レコーディングは坂本作品でお馴染みのエンジニア・ZAKが担当している。
 ピアノの音色は当然ながら、教授の息遣い、そしてダンパーペダルの「シャーン」という音までが音楽の一要素として捉えられ、スタジオの空気感と共に響いてくる。ピアノ・タッチの音、楽譜をめくる音、ピアノの消え際の余韻までもが映画館という環境でここまで克明に伝わってくることに驚かされた。5.1chサラウンドの音声は繊細そのものだ。
 セットリストは下記の通り。とりわけ「Lack of Love」でカメラが教授を後方から捉え、徐々に頭に迫り、ピアノの鍵盤にフォーカスしていくシーンは鳥肌もの。鍵盤を操る手をアップで捉え、教授が首を垂れる影を効果的に見せ、スタジオ全景を無機質なトーンで捉える手法などは、陰影感を含め考え抜かれた映像設計が貫かれ終始圧倒された。

『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』セットリスト
1. Improvisation on Little Buddha Theme
2. Lack of Love
3. Solitude
4. Aubade 2020
5. Ichimei - Small Happiness
6. Aqua
7. Tong Poo
8. The Wuthering Heights
9. 20220302 - sarabande
10. The Sheltering Sky
11. The Last Emperor
12. Merry Christmas Mr. Lawrence
13. Opus - Ending

 「SAION」のスピーカーシステムは(株)ジーベックスのサウンド・チューナーとスピーカーの開発スタッフが、映画館の広さや特性に合わせて測定と聴覚を頼りに繰り返し調整を行ない、追い込んできたからこそ得られる領域のサウンドといっていい。カスタムメイドの音響システムの真意はそこにあり、だからこそ聞き手の感性に訴えかけてくる。既存のスピーカーシステムとは音の分解能や音色再現が異なり、唯一無二の音を提示している。現状、既存の映画館でここまで音楽をきちんと再現できる環境は限られていると思われる。

 『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』の上映後は、2023年1月17日にリリースされる坂本龍一の6年ぶりの新作『12』の全曲試聴が実施された。スクリーンにはアルバム・タイトルと曲名だけが投影されほぼ暗闇のなか、ピアノや持続音を駆使した求心力の高い音で構成される新作がお披露目された。新作『12』は2017年のアルバム『async』とも肌合いが異なる、音数をさらに絞り、研ぎ澄まされた音楽(音の粒子)で来場者にこれまで味わったことのない感覚を与えてくれた。
 「SAION」は音楽を本来の音で再現できるため、今後も今回のようなクォリティの高い音楽系イベントが開催されていくに違いない。

『12』の曲目リスト 
01.20210310
02.20211130
03.20211201
04.20220123
05.20220202
06.20220207
07.20220214
08.20220302 - sarabande
09.20220302
10.20220307
11.20220404
12.20220304

 なお、坂本龍一は2023年4月14日、新宿歌舞伎町で開業される「109シネマズプレミアム新宿」の全シアター(8館)の音響監修を務めることも公表されている。「SAION -SR EDITION-」と名付けられる映画館に導入される音響システムは、「109シネマズグランベリーパーク」の「SAION」よりさらに高みを目指して設計・開発されているという。果たしてどんなサウンドを聞かせてくれるのか、否応なく期待は高まってくる。今後も東急レクリエーションの動向からは目が離せそうにない。

ライブ・ビューイングの来場者は手書きで教授へメッセージや感想などを寄せていた。熱心にメッセージを綴る来場者の姿が印象的だった

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