イギリスのイヤホン専門ブランドROCK JAW AUDIOが日本再上陸を果たした。同社製品は過去に日本国内で発売されていたことがあるが、一旦姿を消していた。今回は、Granplatz Consultingがメーカーと交渉し、10周年旗艦モデルとして完全ワイヤレスイヤホンを開発。日本市場での取り扱いを再開、第一弾となる「AVANT AIR MAX」について、クラウドファンディングでの支援販売からスタートした。その評判を受け、12月17日から店頭販売含め本格的な販売を始めることになったわけだ。

 AVANT AIR MAXは、同社の最近の技術の集大成と言われる製品で、単層カーボンナノチューブ振動板を採用しているのもトピック。また、アクティブノイズキャンセリング機能やアプリ連携といった機能はあえて持たず、音質に特化したモデルという。今回は麻倉怜士さんにAVANT AIR MAXをじっくり使っていただいたので、そのインプレッションをお届けする。(StereoSound ONLINE編集部)

全帯域に渡ってクリアーなサウンドを楽しめる、希有な完全ワイヤレスイヤホン

「AVANT AIR MAX」 市場想定価格31,900円(税込、12月17日本格発売)

 AVANT AIR MAXはROCK JAWブランドのトップモデルで、鋼の20倍強く、銅の1000倍の電気伝導度を持つ単層カーボンナノチューブ振動板を搭載した完全ワイヤレスイヤホンだ。プロによる厳しいチェックと独自の綿密なチューニングにより、16Hz〜65kHzという広い再生周波数帯域を獲得、全帯域に渡ってクリアーなサウンドを楽しめるという。

 本文にもあるとおり、AVANT AIR MAXは2021年12月にクラウドファンディンを行い、多くのイヤホンファンから注目を集めた。そして今回の正式なリリースを受けて、12月17日(土)〜18日(日)に東京・秋葉原で開催される「ポタフェス2022」に出品されることになった。会場ではAVANT AIR MAXの試聴も可能とのことなので、是非ROCK JAW AUDIOのブース(2F-32)まで足を運んでいただきたい。

AVANT AIR MAXの付属品。素材の異なる2種類のイヤーチップ(それぞれS/M/L)と充電用USBケーブルが同梱されている

 イギリス中東部レスターシャー州に本拠地を置く、ROCK JAW AUDIOが画期的な技術を採用した、完全ワイヤレスイヤホンを開発した。その先端性を込めて、フランス語のAVANTGARDE(前衛的、先進的)からネーミングされた、「AVANT AIR MAX」だ。

 ROCK JAW AUDIOは2012年に音楽家、DJ、エンジニアなどにより設立されたイヤホン専門の開発集団。ROCKとはその聖地、イギリス発という意味だ。JAWとは創業者のひとり、JOE WATTSのこと。9名の音響エンジニアが開発を担当しているという。音質への妥協を許さない姿勢から徹底的な音質チェックを実施、音楽の楽しさを世界中に広げられるような商品の開発を行っている。

 わが国にも約10年前から製品が紹介されており、2014年の独自ボイスコイル技術によりチューニングされたヘッドホン「ACERO」、15年のフィルター取り替えにて音質変更可能な有線イヤホン「Alfa Genus V2」は人気を博した。その後国内発売が途絶えていたが、Granplatz Consultingが新たに取り扱いを開始、今回のAVANT AIR MAXは、この10年の技術の集大成となる完全ワイヤレスイヤホンという意義がある。

AVANT AIR MAXは、カーボンナノチューブ振動板ドライバーを搭載しているのが特長だ。今回はドイツのメーカーと共同開発した単層タイプが使われており、これは世界初だという

 その象徴が、世界で初めてドイツメーカーと共同開発した独自の単層カーボンナノチューブ振動板を採用したことだ。いいスピーカーの条件は、(1)振動板の強度が高い、(2)速く振動する、(3)内部損失が大きい……だ。この3点でカーボンナノチューブ振動板は音速が速い(6300m/s)、高剛性、内部損失が高いという理想的な条件を備えている。

 しかも、ウーファーからトゥイーターまで全域で使える。ハイエンドオーディオでも注目され、アメリカのMAGICOも採用している。今回は一般的な多層ではなく、より特性の高い「単層」のカーボンナノチューブ振動板が採用されたのも注目。優れた装着感、短時間充電が可能、単体で12時間持つバッテリー……と、他にも技術的な注目点は、多い。

 では試聴に入ろう。私は完全ワイヤレスイヤホンの試聴では 3曲聴くのを常にしている。カーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」、UAレコードの『情家みえ/エトレーヌ』から「チーク・トゥ・チーク」、そして、グスターボ・ドゥタメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニーのチャイコフスキー『くるみ割り人形』の「行進曲(Marche)」、だ(BluetoothコーデックはaptXを使用)。

試聴は麻倉さんのご自宅オーディオルームで行った。写真左はROCK JAW製品の輸入販売を手がけるGranplatz Consultingの大西博之さん

カーペンターズ『Singles 1969-1981』より「イエスタデイ・ワンス・モア」(48kHz/24ビット/FLAC)

 「イエスタデイ・ワンス・モア」では、ひじょうに明瞭なサウンドが聴けた。冒頭のピアノの音像が、くっきりと描かれ、細部までていねいに描写される。エレクトリックベースの輪郭もエッジが立ち、前向きでスピードが速く、切れ味がシャープだ。音場における音像の明確さは、特筆すべきレベルといえよう。本曲を構成するヴォーカル、ベース、ドラムス、ストリングスなどのひとつひとつのパートの音がはっきりしたイメージを持って再現され、しっかりとした音調と共に、前向きに勁い勢いを持ち、弾む。

 周波数特性的にはピラミッド型のコンストラクションが特徴だ。雄大な低域の上に、鮮鋭感の高い中高域が乗る。その低域は、凝縮感を持ち、しっかりとした存在感を聴かせている。低音が強調されると、それなりに雄大ではあるが、鈍い膨れたものになることが多いが、AVANT AIR MAXは締まりとスケールのバランスが絶妙だ。キレがシャープで、同時に安定感も高いから、低音がよく解像し、音階感が明確だ。

AVANT AIR MAXの本体は人間工学に基づいた設計が行われており、抜群のフィット感で長時間付けていてもまったく疲れないという

『情家みえ/エトレーヌ』より「チーク・トゥ・チーク」(192kHz/24ビット/FLAC)

 「チーク・トゥ・チーク」も、明瞭でハイスピードだ。冒頭のピアノ、ドラムス、アコースティック・ベースが快速で、正確な時間軸を伴って再現され、隈取りされた明確な音像感にて、確実に描かれる。

 ヴォーカル音像が音場内にボディ感豊かに浮かびあがる。立ち上がり、立ち上がりが迅速で、ハイスピードな声模様だ。情報量が多く、バランス、質感も優れているので、情家さんがまさにそこで歌っているかのようなリアルさを感じる。空間再現も優れていて、スタジオでの楽器の配置まで明瞭に再現されていた。

本体はタッチコントロールに対応しており、イヤホンを装着したままで再生・停止や音量調整などの操作が可能

チャイコフスキー:バレエ《くるみ割り人形》より「行進曲(Marche)」 グスターボ・ドゥタメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニー(96kHz/24ビット/FLAC)

 『くるみ割り人形』の「行進曲」では、リッチなソノリティに耳を奪われた。ひじょうによく知られたバレエ音楽の傑作だが、冒頭のファンファーレでは、クラリネット、ホルン、トランペットそれぞれの楽器が明瞭で、小さな音量から大音量まで、クリアーさを伴って再現される。それに続く弦楽器のメロディでは、聴いている人をわくわくさせる心地よさを感じさせるのも、他のワイヤレスイヤホンにはない魅力だ。

 録音会場となったL.A.のウォルト・ディズニー・コンサートホールの豊潤な音場情報がたっぷり聴けた。音が発せられ、広い会場に拡散していく様が分析的に聴け、スケール感も明瞭だ。右側のハープ、中央奥のクラリネットなどの距離感も分かる。音調はハイコントラストで、鮮明。トランペットの華やぎも愉しい。

取材中の麻倉さん。厳選した3曲を始めとする色々な楽曲をチェックしていただいた

 AVANT AIR MAXは明確、明瞭、そして躍動……と、音楽のわくわくする愉しさを体験できる、完全ワイヤレスイヤホンだ。本音調のかなりの部分はカーボンナノチューブ振動板が貢献しているであろうとは、疑いのないことと聴いた。アクティブノイズキャンセリグやアプリ連携といった機能は非搭載ながら、その分クォリティに注力し、独自のテイストを訴求するモデルとして、イヤホンファンの耳目を集めることだろう。

「AVANT AIR MAX」の主なスペック

●使用ドライバー:6mm単層カーボンナノチューブ振動板ドライバー+N52 NdFeBマグネットドライバー
●再生周波数帯域:16Hz〜65kHz
●Bluetoothコーデック:SBC、AAC、aptX
●インピーンダンス:32Ω
●感度:102dB@1kHz
●防水仕様:IPX5
●最大使用時間:12時間(イヤホン)、39時間(充電ケース併用)
●質量:6.5g(イヤホン)、52g(充電ケース併用)

提供:Granplatz Consulting