こんなに素晴らしい音だったのか!
高鮮度で描かれる、スリリングな演奏に身体が震えるほどの感動を覚えた

ステレオサウンド社のSACD/CD『ルパン三世 1977〜1980オリジナル・サウンドトラック〜for Audiophile〜』に続き、第2弾として『ルパン三世 カリオストロの城 オリジナルサウンドトラックBGM集〜for Audiophile〜』が発売された。

今回も日本コロムビアの全面協力で、当時の貴重なマスターテープを使用、南麻布スタジオでマスタリング作業が行なわれた。マスタリングエンジニアは山下由美子さん、レコーディングエンジニアは久志本恵理さんという布陣。マスターテープの再生はスチューダーA80、Merging Technologies社のHAPI(プレミアム・タイプ)でSACD収録用の2.8MHz DSD信号に変換。CD音源はdCS社のA/Dコンバーター902を使用しリニアPCM 96kHz/24ビットに変換後、スタジオ独自のソフトウェアで44.1kHz/16ビット化してマスターとしている。SACD層、CD層とも、第1弾と同様に音質にこだわった制作だ。

Stereo Sound ORIGINAL SELECTION
『ルパン三世 カリオストロの城 オリジナルサウンドトラックBGM集〜for Audiophile〜』

(日本コロムビア/ステレオサウンド SSMS-061)¥4,950税込
●SAC/CDハイブリッド
収録曲
01 非常線突破 バリエーション
02 炎のたからもの バリエーションI
03 忍び足
04 炎のたからもの バリエーションII
05 地下水道の謎
06 炎のたからもの バリエーションIII
07 摩可不思議
08 炎のたからもの 歌/ボビー
09 そよ風の誘惑 バリエーション
10 ウェディング(18世紀ドイツ音楽)
11 ルンルン気分で
12 トロピカル・ウェイヴ バリエーション
13 伯爵の陰謀
14 ミステリー・ゾーン
15 哀愁の一匹狼
16 恐怖の一夜
17 ミステリアス・ジャーニー バリエーション
<BONUS TRACK>
18 ルパン三世のテーマ(「ルパン三世のテーマ’78」シングル・ヴァージョン)
19 抱いて、ルパン 歌/サンディ・A・ホーン
20 ラヴィン・ユー(ラッキー) 歌/トミー・スナイダー
21 しゃれた沈黙 歌/木村昇
●レコーディング・エンジニア:久志本恵理(日本コロムビア)
●マスタリング・エンジニア:山下由美子(日本コロムビア)
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アニメに限らず劇場公開映画のサントラ盤は、作品で使用された音楽を楽しめるものだ。主題歌やメインテーマなどが印象的な作品はサントラ盤の人気も高い。しかし、本作は初公開時点ではあまり評価は高くなく、その後に再評価され人気となった。このサントラも公開から4年後の発売だ。時機を逸してしまったこともあり、購入した人は少なかったと思う。残念ながらぼくも聴いていない。だから、ぼくの「カリ城」の音楽の記憶は、上映用フィルムのサウンドトラックに記録された劇伴のものだ。もちろん、映像パッケージはUHDブルーレイも所有し、当時のモノーラルの音だけでなく、ステレオ化、DTS-HDMA7.1ch化された音なども聴いているが、劇伴としての音楽はセリフや効果音を邪魔しないように音圧を制限したミックスが行なわれていて、あくまで映画を構成する音のひとつとして聴いていた。

それもあって、SACDで甦った本作を聴いたときには身体が震えた。1曲目の「非常線突破 バリエーション」は、映画冒頭のカジノ襲撃シーンで使われた曲だが、音の鮮度の高さにも驚くし、弦楽器によるスリリングなメロディーの厚みのある音色とキレ味の鋭いプレイに圧倒された。このリズムの厚みは映像パッケージでの再生では感じにくい部分だ。この曲を聴くと映像が脳裏に鮮やかに甦ったのはもちろん、曲そのものの素晴らしさに惚れ惚れしてしまった。

3曲目「忍び足」は、伯爵の影たちが宿屋のルパンを襲うときなどの場面で使われる曲。弦楽器による重厚な導入から一転してスリリングに展開する流れも実によく計算された曲だが、パーカッションの数も豊富だし、木琴をはじめとして編成が豪華だ。電子楽器も使われているようだが、時代的にほぼすべて生楽器による演奏だろう。劇場用アニメとは言っても、楽曲自体も多くはテレビ放送と共用されているなど、予算は決して多くはないはずなのに、この豪華さ。1970年代後半の、現代とは違う活気に満ちた豊かさを思い出す。

8曲目は、主題歌である「炎のたからもの」。歌声の抑揚の豊かさは生の歌声を聴いているかのよう。映画での印象はせつなさを感じさせるしっとりと歌いあげる曲と感じていたが、記憶していた以上にドラマティックで、情感たっぷりに歌っている。声量の豊かさにも感心した。こちらも編成が実に豪華だ。音質にこだわって制作されたSACDということもあるが、今まで聴こえなかった音がこれほどあったことに驚かされた。こうしたオーディオ的な喜びは、ぜひとも読者の皆様にもじっくりと味わっていただきたい。

10曲目「ウェディング(18世紀ドイツ音楽)」。伯爵とクラリスの結婚式で流れる入場曲だ。パイプオルガンによる演奏で、教会を思わせる広い空間の響きは実に美しい。また、主旋律に従属する低音のメロディーもパイプオルガン特有の長く持続した音で重厚に描かれている。低音の荘厳さに、仕組まれた結婚式という闇の深さがかえって際立つ印象だ。

13曲目は「伯爵の陰謀」。城の地下に落とされたルパン三世と銭形警部が協力して脱出を図る場面などで使われる。リズムこそ軽快だが、メロディーは不気味な雰囲気があり、それらが絶妙にマッチして緊迫感を生み出している。そして、14曲目「ミステリー・ゾーン」はクラリスが閉じ込められた塔への侵入で使われた曲。物語の時系列と曲順は逆転しているが、アルバムとしての構成と考えると実にドラマティックでいい。この曲だけに限らないが管楽器と思われる笛の音がときおり尺八のような、こぶしをきかせたような奏法を多用しているのが興味深い。ジャズをベースにしつつも、どことなく和楽を感じるのは、ルパン三世自体が持つ和洋折衷の妙に通じる。

17曲目「ミステリアス・ジャーニー バリエーション」。湖に隠されていたローマの遺跡を目の前にした場面だ。作品で使われる場面もロマンティックでいいが、その前後のメロディーも哀愁をにじませながらも気持ちのよい爽快感を感じさせる楽曲になっていて聴き応えのある曲だ。

本作には、このほかボーナストラックとして、「ルパン三世のテーマ(『ルパン三世のテーマ'78』シングル・ヴァージョン)」やPARTⅡの挿入歌を収録。これもなかなかレアな楽曲だ。なお、「カリ城」では主題歌とともに人気のある「サンバ・テンペラード」は未収録だが、こちらは第1弾SACDに収録済み。この機会に2枚まとめて入手してはいかがだろうか。

本作は『ルパン三世 カリオストロの城』の音楽を存分に楽しめるが、このSACDでは、それ以上に大野雄二の音楽家としての才能を堪能できる仕上がりとなっている。彼の魅力がたっぷりと詰まったアルバムといえそうだ。

ルパン三世のサントラがSACD化! 思わずリズムを刻んでしまう、最高の音に仕上げました

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