ソニーのプロジェクターは、このところ最上位機に準じる価格帯にもレーザー光源化を推し進めてきている。その「VPL-XW7000」と「VPL-XW5000」が完成したということで、勇躍ソニー大崎の視聴室に出かけた次第。

SXRD 4Kプロジェクター:ソニー

VPL-XW7000 市場想定価格¥1,870,000前後

VPL-XW5000 市場想定価格¥880,000前後

●投写方式:SXRDパネル×3
●パネルデバイス:0.61型4KSXRD
●画素数:水平3,840×垂直2,160画素
●レンズ:XW7000=2.14倍電動ズームACFレンズ、XW5000=1.6倍手動ズームレンズ
●光源:レーザーダイオード
●レーザー光源寿命:約20,000時間(目安時間)
●光出力(工場出荷時):XW7000=3,200ルーメン、XW5000=2,000ルーメン
●ダイナミックコントラスト:∞対1
●接続端子:HDMI入力2系統(18Gbps対応、HDCP 2.3対応、CEC非対応)、USB端子、LAN端子、3Dシンクロ端子、他
●消費電力:XW7000=最大約420W(待機時:約0.3W)、XW5000=最大約295W(待機時:約0.3W)
●寸法/質量:XW7000=W460×H210×D517mm(レンズ、突起部含まず)/約14kg、XW5000=W460×H200×D472mm(レンズ、突起部含まず)/約13kg

 このXW+4桁型番の新シリーズの特徴は新開発の小型高出力のレーザー光源だけではない。反射型液晶方式であるSXRDイメージングデバイスのサイズが従来の0.74型(水平4,096×垂直2,160画素)から0.61型(水平3,840×垂直2,160画素)に変わったのだ。画素ピッチは4.0μmから3.5μmに縮小。サイズが小さくなると投写レンズや光源の光路もコンパクトにまとめることができるので、それが筐体全体の小サイズ化、また軽量化にも貢献するなど利点が多いわけだ。

 光学ブロックのサイズも実に小さくまとまっているし、光学性能はワイドダイナミックレンジになったという。

 それと、画像処理エンジンは「X1 Ultimate for projector」を新採用。BRAVIAのテレビに採用されていたX1 Ultimateをプロジェクター用に最適化させたものだ。高度な画像処理技術によって、オブジェクト型超解像の画像処理が映像の個々の対象(オブジェクト)ごとに最適な処理を与える、というのが基本理念だが、課題は直視型テレビの鮮明さに追いつくことだった。

写真左が従来モデルに搭載されていた0.74インチSXRDパネルで、画素数は水平4,096×垂直2,160画素。右は今回の2モデルに採用された0.61インチパネルで、画素数は水平3,840×垂直2,160画素に変更されている

 つまりプロジェクターと直視型テレビの映像と並べて見ても差がないほどの明るさと輝度レンジ、細部のコントラストを確保したい、という企図だ。ちなみに、レーザー光源が瞬速の光量調整能力を備えることから、光量の「ダイナミックコントロール」を採用。「VPL-VW875」で採用されていたレーザー光源の制御と機械的に光量を絞るアイリス制御との併用は廃されている。ただし、輝度に応じて階調精度の振り分けをする「ダイナミックHDRエンハンサー」との併用で、十全な画質補正の最適化が得られるはずだ。

 それとVPL-XW7000のみに搭載されている「ライブカラーエンハンサー」は、周囲光が画面に混入する条件であっても、HDR映像の高輝度に見合った高彩度色を提示し、しかも色系や輝度系の繊細情報を失わないという表現域を目指している。つまりは有機ELテレビに対抗する意欲満々だ。それには高輝度部の色域を拡大し、明るく高彩度で色数が豊富=カラーボリュウムの拡大という基礎体力の向上が支えている。

 さてプロジェクターで忘れてはいけないキーデバイスが投写レンズだ。ACF(アドバンストクリスプフォーカス)レンズはVPL-XW7000のみ搭載。その精密なフォーカスはレーザー光源の上位機だったVPL-VW875のARC-F(オールレンジクリプスフォーカス)と同等だという。VPL-XW5000の投写レンズは手動フォーカス/ズームであり、上左右のシフトも手動。

 視聴時の120インチのスクリーンはゲイン0.9のマットタイプ。だから光出力の格差は分かりやすい。

左がこれまでのレーザー光源搭載プロジェクターの光学ブロックで、右が新型モデル。「新開発小型SXRDパネル」や「高密度レーザーダイオード」、「高効率光学フィルター」の採用で、大幅なダウンサイズが実現できたという

 まずは4Kの各種のデモ映像を見たが、普段はじっくり見ると疲れてしまうスポーツ映像の超鮮明映像に見入ってしまった。特にVPL-XW7000の「ライブカラーエンハンサー:強」時の輝度レンジの広さと、高輝度部にたっぷり色が乗ってしかもトーンがしっかり確保されていること、また芝の緑が実に鮮やかで濃淡や色味の違いをよく描き分け、芝目の立体的描写力など感動ものだった。高出力プロジェクターの存在意義がここに明らかになってきた。

 VPL-XW5000の方も暗室では立派なスポーツ動画だったが、ゲインの低い質感重視のスクリーンにて、やや明るい視聴環境では明るさ不足なる。プロジェクターの映像はスクリーンとの合作で品位が決まるので、明室での鑑賞を重視するなら質感に優れたスクリーンの中からゲインの高いものを選ぶべきだ。単純化していうと、3,200lmに対して2,000lmならゲインを1.6倍にすれば明るさは同等ということになる。あるいは画面サイズを欲張らないのも明るさ確保の必須条件だ。例えば画面サイズを寸法比0.8倍、120インチに対して96インチにすると明るさは1.6倍近くになる。

 風景映像も壮麗にして臨場感が秀逸。空の青みの立体的な均質感や深さ、陽光の実質が全空間に満ちている実感など、最高級クラスでないと味わえなかった没入感が実現している。明部の階調性、高彩度部の濃度、色相の描き分けが高水準なのだ。これも光源のゆとりがあってこその境地だ。ダイナミックHDRエンハンサーによる微細な質感の補強も良好。明るさのゆとりのある場合は、この「強、中、弱、切」の選択だけでかなりの対応力となる。

VPL-XW7000では、「画質設定」のメニューから「エキスパート設定」に入ると、「ライブカラーエンハンサー」の切り替えができる。これは、色域の一部を拡張し、より効果的にHDR映像を楽しめるようにするものだ

 映画ソフトは4K UHDブルーレイの『雨に唄えば』が圧巻だった。3原色分のネガフィルム3本を使う古典的なテクニカラー撮影であり、徹底した修復の成果により色純度がよみがえり、光沢の鮮度も生々しい。原理的に印刷方式の彩色なので中輝度、高彩度系の絵柄になるのだが、その緻密な色素と思いがけないほど豊かな中間色の表情が素敵だ。

 そして踊り子の絣(かすり)のような半透明の衣装の折り重なりによる濃淡の変化、光のゆらめき。透過と反射の双方で薄物が光を変調し、光が踊る実感が高彩度基調の中で鮮やかだ。現代のデジタル撮影ならさらに鮮明な描写になるだろうけど、光彩が感光乳剤の厚みを経て濾(こ)しとられ、光源色が色素の積み重なりを貫いて再び天然色を得るフィルム方式は、光の実相を実際より成熟させて再現する点に優位性があるだろう。そうした感興を呼び起こす力が今回の2機種にはよく備わっている。

 ブルーレイ盤の『ハウス・オブ・グッチ』もごきげん。チャプター3。金目当ての恋人を作った軟弱息子(アダム・ドライバー)を厳父(ジェレミー・アイアンズ)がしかりつける場面。

同社製テレビ、ブラビアシリーズで高い評価を得ている映像処理プロセッサーを、プロジェクター用にカスタマイズした「X1 Ultimate for projector」を搭載

 父が自伝映画のフィルム編集をしている部屋は薄暗いものの最暗部が煤を練り固めたような黒や映画機材の重い造形感が秀逸。映し出される白黒映像ともども、過去の栄光を反芻する世代の内面の絵解きでもある。その叱る表情は強い斜め光により彫が深い陰影を持ち、意志の強さが明らかだ。これはレンブラントライティングの基本を踏まえている。

 対する息子は、明暗がきれいに左右2分割されるスプリットライティングであり、内面の葛藤や優柔不断が現れる。

 これらが実に明快に、強い明暗手法で描かれ、メイク術も加味されて一瞬のうちに人物の内面や優劣が絵解きされるわけだ。そうした高密度の芝居を、この強靭な明暗表現と実感をよくトレースする階調性、そして質感そのものに化けた色表現が支えている。そうした訴求力がやや物足りないVPL-XW5000も、画質優先でじっくり調整するとさらに秀でた表現力を現すだろう。

 というわけで、実は画質調整はほとんどプリセットのままで視聴を続けた次第。たいていは各種補正を解除して素の状態で見たいと要求するものだが、今回は半ば金縛りに会ったようにデフォルト基調で映像を注視することになった。完全無欠ということはないが、新しいキーデバイスを導入した新世代機の能力は高いし、サイズ、重量、そして価格を考慮するとさらに魅力は増す。

弟機のVPL-XW5000では、レンズのピント、フォーカス、シフトはマニュアルで設定する

 VPL-XW5000が抜きんでた性能をこなれた価格で得られることはもはやいうまでもない。同じ価格帯であった高圧水銀ランプ光源の「VPL-VW575」など、光出力1,800lmで消費電力は最大約460W、重量14kgだ。それに対してVPL-XW5000はそれぞれ、2,000lm、約295W、重量13kg。ランプ交換不要であり、公称の騒音値も少し小さくなっている。サイズは大差ないのであり、基本スペックを確認するだけでも優位はまちがいない。ただし、この価格帯では標準化されていた電動の投写レンズが手動になったことは残念。それとメガネシャッター式立体映像には対応していない。

 その点、VPL-XW7000もメガネでシャッター式立体映像に標準対応はしていないが、本体にはシンクロ出力端子が装備されている。それをXPAND社製の業務用トランスミッター「AE125-RF」に接続し、同社製3Dメガネ「X105-RF-X1」、または、VOLFONI社製の業務用トランスミッター「VPES-04100」に接続し、同社製3Dメガネ「VPEG-03210」を使用することで対応させている(どちらも別売)。ただしその価格は結構な水準だ。3Dソフトは今でも国内盤の新作がリリースされているのであり、もっと本気で取り組んでほしいものだ。

 ちなみにゲームで要求がある2K/120pの出画レートについては、VPL-XW5000ともども一応クリアーしているが、実機でどうかは要確認だ。

●取材に対応いただいた方々。左からソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 商品企画部門 Display商品企画1部 吉江直さん、同 TV事業部 商品設計第1部門 商品設計3部 池浦一賢さんと宮野京介さん。ソニーマーケティング株式会社 プロダクツビジネス本部 成田篤史さん、ソニー株式会社Global Sales & Marketing ホームマーケティング部門 B2Bビジネスマネジメント部 石川朋味さん

 それはともかく、VPL-XW7000の性能と価格の強みは決定的だ。たとえば従来のVPL-VW875など、光出力2,200lm、ARC-Fレンズ、重量22kgであり、デジタル信号処理を併用した隅々までフォーカスが正確な性能は魅力だ。しかしVPL-XW7000は、それぞれ3,200lm、ACFレンズ、重量14kg、20%ほどの容積縮小、そして価格がほぼ半分という仕様なのだから進化の恩恵は決定的だ。これはキーデバイスをほぼ一新した、まれにみる大改革モデルの成功例として記憶に残り続けるだろう逸品だ。

ビデオプロジェクター:特長動画:VPL-XW7000,VPL-XW5000【ソニー公式】

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