先般いきなり発表された「私的録画補償金」に関する法令改正。BD/HDDレコーダーや録画用BDメディアを対象に、アナログレコーダー時代に制定された私的録画補償金制度を復活させようというものです。既に「著作権法施行令の一部を改正する政令案」として発表され、パブリックコメントの募集も9月21日(水)で終了します。つまりわれわれエアチェックファンの意見を表明できるチャンスはあと2日しかないということ。今回は麻倉怜士さんによる本件についてのリポートを再録しますので、これを読んでぜひあなたもパブリックコメントを送って下さい。(StereoSound ONLINE編集部)

 先月私の「緊急提言」で述べた、「私的録画補償金」制度をBD/HDDレコーダーに適用しようという提案について、8月23日から、文化庁著作権課が政令改正に向けてパブリック・コメントの募集をスタートしました。

 今回の募集は「著作権法施行令の一部を改正する政令案」についてのもので、その概要はこちらのサイト( https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239979 )で確認できます。専門的な表現が多くなかなか分かりにくいですが、おおむね前回、私が報告したものと同じです。

 具体的には、アナログ放送の時代にレコーダーや記録ディスクを対象に課金されていた私的録画補償金制度を復活させ、現行のBD/HDDレコーダー、録画用BD-R/REメディアにも適用しよう……というもので、先のサイトでは以下のように表記されています。

 「現在、アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する機能を有するブルーレイディスクレコーダーは既に規定されているが、こうした機能の有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定することとする。

 なお、これに伴い、政令第1条の2第2項に基づき、新たな対象機器による録画に用いられるブルーレイディスクも制度の対象となる。」

 地上アナログ放送が終了して10年以上が過ぎ、現在販売されているBD/HDDレコーダーにはアナログ放送チューナーはもちろん、アナログ映像・音声入力端子も搭載されていません。つまり、“アナログ信号をデジタル信号に変換して影像を記録する”ことは不可能なわけで、そんな今はなき機器に向けて規定されていた制度を、今の製品に対応させようということ自体、無理筋なのではないでしょうか。

 「こうした機能の有無にかかわらず、ブルーレイディスクレコーダーが制度の対象機器となるように新たに規定する」とありますが、これまで何の動きもなかったのに突然、今、規定するというのはいったい、どういうことでしょうか。

 すでにデジタル放送専用機(つまり現行のBD/HDDレコーダーです)が補償金の対象にならないということは、裁判で明解な判決が出ているのです( https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=81849 )。

 2008年からダビング10が採用されたため、ユーザー側の録画の自由が制限されています。ダビングしたディスクメディアからは再度、ダビングはできません。こうした制約がすでに課せられているわけで、それに補償金が加わると、ユーザーは二重の負担を強いられるという事情からの当然の判決でした。

 今回は、文化庁が令和2年(2020年)に行った「対象機器における消費者利用実態調査」の結果を受けて見直したと説明されていますが、この点についても曖昧な印象は禁じ得ません。

 前回も報告しましたが、文化庁が消費者団体に説明した内容によると、令和2年(2020年)に「対象機器における消費者利用実態調査」を行ったところ「過去1年間の保存データ容量に占めるテレビ番組の割合が5割以上の者が52%」だったそうです。これくらいたくさん録画に使われているのだから、補償金の対象にすべきという理屈です。

 ただこれは、iPodやウォークマン、音楽専用HDDレコーダー、BD/HDDレコーダーなどを対象にした調査のようですから、当たり前の結論とも思われます。つまり、BD/HDDレコーダーはテレビ番組録画機器なのだから、テレビ番組を録画するのは、当たり前以前のことですよね。

 そういった疑問点の多い調査結果を根拠にされてもなぁ、と誰しも考えるでしょう。文化庁はこの調査結果について、どんなユーザーを対象にしたのか、さらにどういったハードウェアについて使い方を調査したのかなどの詳細を公表するべきでしょう。

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)も、今回の政令案に対する見解を発表しており、そこでは上記のような経緯を踏まえての反対意見と、今回の補償金制度が課されることになれば、今後様々な機器やサービスの事業展開を進める上でリスクとなり得るとして重大な懸念を表明しています( https://www.jeita.or.jp/japanese/topics/2022/0823_2.pdf )。

 これはとても重要なポイントです。というのも、今回の件は、“BD/HDDレコーダー”という限られた分野での話と思われがちですが、将来的にはデジタル録画が可能な他のデバイスやメディアにも適応される可能性も、あります。外付けHDDやSSD、USBメモリー、SDカード、さらにはスマホなどを課金の対象にする、そのための、まずは第一歩というわけです。

 実際に近年の社会環境変化の中でBD/HDDレコーダーの市場は大幅に縮小しており、そんな市場に課金をする価値があるのかという疑問も残ります。一方で、市場としてはメモリーやスマホは桁違いに大きいわけですね。

 今回の件は、経過に不自然なところが多い。なぜ十年以上前に役目を終えた制度がゾンビのように突然出てきたのか。それが、PCやスマホにまで広がっていく怖さもある。また消費者にアンケートを取ったので、それを今回の理論的な論拠にすると言うのですが、そのアンケート自体もあやふやで、信用できません。このように不可解なことだらけでは、クリエイターの利益のためと言われてもピンと来ませんね。

 愛好家にとってはなんとも疑問の多い今回の政令改正。既にパブリック・コメントの募集は始まっています。ユーザーがここでスルーしてしまうと、そのまま決定してしまうでしょう。

 コンテンツを自分の手許に置いて、愛着を持って保管し、再生する録画文化は日本の宝物です。“自分のお気に入りのコンテンツを私的に所有する”という素晴らしい文化が失われないためにも、関連リンクから明解に態度を表明しましょう。

※パブリック・コメントの送付はこちらのサイトから行えます