第3回「リン・サラウンド体験記」は、愛知県名古屋市にお住まいのHさん宅にうかがった。HiVi2022年5月号の仙台編、7月号の三重編では、長年リン製品と親しんできた筋金入りのAV/オーディオファンがいかにリン製品でサラウンドを実践しているかをご紹介したが、今回ご登場いただくHさんは初めてのAVシステムの司令塔としてSELEKT DSMを導入。ご家族と一緒に映画を楽しまれている。幅広いユーザーに愛用されるSELEKT DSMを、Hさんはどのように使われているのだろうか。

日中は温かなサンルームが、夜は家族が集うシアタールームに

 今回の取材先であるHさん宅は、名古屋市内でも人気の高い文教地区の一角にある。外構を囲む打ち放しコンクリート塀、チャコールグレー/軒なしの寄棟屋根、同系色の鋼板を使った壁面。門扉の外側から眺めるとストイックで静的な印象だが、エントランスを抜けてリビングダイニングに足を踏み入れると、その印象はガラッと変わる。天然木を贅沢に使った屋根の棟木や垂木をそのまま見せる吹き抜け構造で、天井高は6〜7mあるように感じる。大きな天窓から白漆喰の壁面と木目の床面に柔らかな光が降り注ぎ、夏休み真っ只中の3人のお子さんたちが家じゅうを駆け回っている。

 キッチン脇の階段を数ステップ上がった中2階部分にあるサンルームが、H邸のシアタースペースだ。10畳ほどのスペースの奥手一面はベランダにつながる掃き出し窓になっており、その両端にデンマークのスピーカーブランド、ダヴォンのトールボーイ/2ウェイモデル、Twistが置かれている。室内の雰囲気にTwistのフォルムがあまりにも自然に溶け込んでいるので、スピーカーというよりこの場のためにあつらえられた木質のオブジェのように見える。白い床面に設置されているのは2本のTwistのみで、ほかにはAV機器どころかソファやテーブルすら置かれてないが、そこには物足りなさや寂しさをいっさい感じさせない、満ち足りた時間と空気が流れているように感じる。

 

 

 「とにかくモノを置きたくない、というのがまずありました。だから部屋に“常設”されることになるフロントスピーカーは、ずっと眺めていても飽きないダヴォン一択でした」

 そう語る家主のHさんは、もともとAVに入れ込んできたマニアではない。自宅にシアタースペースを設けようと思い立ったのは、ご自身が運営に携わる多目的ホールに4Kプロジェクターを導入する際に名古屋のインストーラーショップ、NEXTの勝野陽介さんに声をかけたのがきっかけだった。

 「ある日、勝野さんに誘われてNEXTのショールームへ行き、そこで観た『ボヘミアン・ラプソディ』に大きなショックを受けました。実はいままで、家庭用AV機器のクォリティがこれほどまでにアップしているのを知らなかったんです。こんなに綺麗な映像と音が自宅で楽しめるなら、現状あまり活用できていない自宅サンルームのスペースにホームシアターをつくりたい。そう考えて、勝野さんに相談しました」

 

ラウンドフォルムの木製サイドパネルが美しいダヴォンのトールボーイスピーカー、ツイスト。2ウェイ・バスレフ構成で、前面バッフル部は上から下までサランネットで覆われている。スピーカーケーブルは壁面を通り、シアター後方のセレクトDSMまで配線されている

 

SELEKT DSMを中心としたシンプルなシステムを構築

 すでに完成されたこの空間に、なるべく手を加えたくない。そう考えた勝野さんは、シアターシステムをインストールするにあたり、最小限の施工によって最大限の効果が得られるシステムプランを模索。Hさんがひと目で気に入ったTwistのほか、掃き出し窓のカーテンレール部分にカスタムメイドの木製スクリーンボックスを取り付け、サラウンドスピーカーとしてギャロ・アコースティックスのDROPLETを天井からペンダント状に吊り下げた。

 

吹き抜けが気持ちいいサンルームの天井部分。「すでに完成された空間に、なるべく手を加えたくない」というインストーラーの意向から、サラウンドスピーカーにはペンダントライトのような形状のギャロ・アコースティックスDROPLETが選ばれた

 

 もっとも大きなアレンジが必要だったのはプロジェクターだ。サンルームの後方の壁面を抜き、ソニーVPL-VW745がジャストサイズで収納できる孔を設けた。この孔は壁のすぐ裏手にある納戸につながっており、H邸シアターのコントロールセンターであるリンSELEKT DSMはそのクローゼット内にカスタムメイドされたラックに収まっている。左の写真のように、このラックに設置されているのはVPL-VW745とSELEKT DSM、Apple TV 4K、補助的に使われるソニーのUHDブルーレイプレーヤーとWi-Fiルーターのみ。H邸のインテリアと同じく、実にミニマルで潔いシステムである。スピーカーケーブルやLANケーブルなどの配線はすべて壁の内部に回し、生活動線からはほとんど見えないように配慮されている。

 

スクリーン対面の壁面にはソニーVPL-VW745を収めるための孔が設けられている。この壁の向こう、写真に見える階段を上がった先には5畳ほどの納戸があり、そのクローゼットのなかのラックにVPL-VW745ほか、すべてのAV機器がまとめられている

納戸へ続く階段からサラウンドスピーカーのギャロ・アコースティックスドのロップレットを見たところ。屋根の最上部の棟木と並行して配される母屋(もや)という部材から吊るされており、スピーカー本体は、視聴位置から3.5mほどの高さに位置している

 

 「この空間に一般的なAVセンターを持ち込む発想はまったくありませんでした。システムも操作性もできる限りシンプルで洗練されたものにしたい。そう考えると、当時発売されたばかりだったSELEKT DSMを中心に据えたシステムがこの部屋には最適だと思いました」

 そう語る勝野さんは、ステレオパワーアンプとKATALYST DACを内蔵するSELEKT DSM-KAをベースに、サラウンド用のスタンダードDACモジュール、パワーアンプモジュール、HDMIスイッチングモジュール、サラウンドプロセッシングモジュールを追加したサラウンド仕様のSELEKT DSMをHさんに提案。それまで本格的なAV機器を使ったことがなかったというHさんだが、基本的な操作をすべてスマホアプリで行なうことができるSELEKT DSMの機能性と音の良さに触れ、システムの導入を決めた。

 「けっして安い買い物ではないので慎重に検討しましたが、思いきって導入してよかったです。私はリンというブランドを知りませんでしたし、他のAV機器を使った経験もありません。しかし勝野さんがおっしゃるように、この空間に大がかりなシステムを入れるのは抵抗がありましたし、何よりSELEKT DSMを実際に触ってしまうと、これ以外の選択肢が考えられなくなりました。それぐらい操作性が快適で、パフォーマンスも素晴らしかった。ただ、SELEKT DSMの素晴らしく洗練された外観がクローゼットのなかに隠れてしまうことには若干のうしろめたさがありますが……(笑)」

 

H邸の司令塔、リンSELEKT DSMもラック内にすっきり収納

H邸のシステムの司令塔となるリンSELEKT DSMは、ソニーVPL-VW745やApple TV 4Kとともに、納戸のクローゼット内にあるラックに収められている。操作は専用アプリで行ない、HさんがSELEKT DSMの本体を操作することはない

 

ネットワークプレーヤーとしてはもちろん、モジュールの追加によりホームシアターのコントロールセンターとしても活用できるリンSELEKT DSM。H邸に導入されたのはKATALYST DAC+アンプ内蔵仕様の「SELEKT DSM-KA」をベースモデルとしている

SELEKT DSM-KAに、「HDMIスイッチングモジュール」と「サラウンドプロセッシングモジュール」、「サラウンド用スタンダードDAC」、「アンプモジュール」が追加されている。ユーザーが用途に応じて機能をモジュールという形で追加、カスタマイズできるのがSELEKT DSMの大きな特徴だ

 

H邸の主な使用機器

●プロジェクター : ソニー VPL-VW745
●スクリーン : キクチ ホワイトマットアドバンス(120インチ/16:9)
●ネットワークプレーヤー+プリメインアンプ+サラウンドプロセッサー : リン SELEKT DSM-KA(サラウンドプロセッシングモジュール+サラウンド用DAC/アンプ内蔵仕様)
●ストリーミングプレーヤー : Apple TV 4K
●UHDブルーレイプレーヤー : ソニーUBP-X800
●スピーカーシステム : ダヴォンTwist(L/R)、ギャロ・アコースティックスDROPLET(Ls/Rs)

 

 

使いこなしはこれから。広がるリン・サラウンドの可能性

 日々忙しく仕事をされているHさん。現在のところ、このシアタースペースでの映画鑑賞は「月に1〜2本、観られるかどうか」とのことだが、好きな映画を再見して新たに気づくことも少なくない。

 「妻と『トップガン マーヴェリック』のIMAXスクリーン上映を観に行こうと話していて、予習を兼ねて先日、オリジナルの『トップガン』をAmazon Prime Videoで観たんです。数十年も前にテレビで観て以来だったので、大画面で観るのはもちろん初めて。迫力や臨場感が記憶のなかの『トップガン』とはまるで違って『マーヴェリック』の期待値がいっそう上がりしました。いまや子どもたちにとってもここは欠かせない遊び場になっています。このシステムを導入したおかげで、家族と過ごす時間がとても豊かになったと思います」

 ここでの用途は、現状は映画鑑賞に限られているが、インストーラーの勝野さんとしては今後も「様々な可能性を持ったSELEKT DSMの魅力をHさんに伝えていきたい」と語る。

 「モジュラー方式を採用するSELEKT DSMは、ユーザーの希望によって機能性を拡張できるのが大きな特徴です。もしHさんが現状の4.0chシステムからのアップグレードを望まれるなら5.1ch、あるいはEXAKT LINKを活用した7.1chまでサラウンドを進化させることができます。しかしこのサンルームシアターでは、スペックを上げていくことよりもむしろSpotify Connectを使ってカジュアルに音楽を流すなど、日常使いの快適さにSELEKT DSMの魅力が活かされるのではないかと思うんです」

 ネットワークプレーヤー機能とコントロールアンプ/プリメインアンプ機能を一体化したリンのDSMシリーズ。MAJIK DSM/AKURATE DSM/KLIMAX DSMという従来の3シリーズとは異なり、SELEKT DSMはユーザーの用途によって仕様を選択(セレクト)できるのが最大の強みだ。ゆえに、AVと2chオーディオを高品位に両立させたいマニアだけではなく、Hさんのように居住空間との共存を第一に考える方とも非常に親和性が高い。

 幅広いユーザーに向けて門戸が開けられたリン・サラウンドが、2007年に登場したDSと同等の驚きとインパクトをもって広がりつつある。それを実感させる取材だった。

ホームシアターの使用は基本的に日の落ちた夜だけと決められているため、特別な遮光対策は施されていないが、照明を落とせば日没前でも写真のように充分な暗さを保つことができる。また、スクリーンボックス上部には間接照明が設けられている

 

取材にご協力いただいたインストーラー
● NEXT : ☎︎ 052(757)3355

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2022年秋号』