大橋隆行監督がメガホンを執った『とおいらいめい』が現在、池袋シネマ・ロサにてレイトショー公開中だ。彗星の接近によって人類が終末を迎えてしまう……。そんな世紀末的な雰囲気の中で進んでいく、三姉妹の心情の変化を、丹念に描いた注目作となる。

 ここでは、昨年から今年にかけて出演作が続々と公開されるなど、若手女優の中でも熱い注目を集めている髙石あかりに出演の感想を聞いた。

――よろしくお願いします。まずは、公開を迎える心境をお聞かせください。
 ずっと楽しみにしていたので、早く公開してほしいという気持ちでいっぱいです。関係者向けの試写会をしたのが結構前で、そこから一度海外(映画祭)へ飛んで(笑)、好評をいただいて、それが日本に帰ってきて、『ベイビーわるきゅーれ』、『さよなら、バンドアパート』に続いて、まったく違う役柄をお見せできるのが、すごく楽しみです。

――本作は、オファーで出演が決まったそうですね。
 はい。監督とは、別の作品の試写会場で初めてお会いして、ご挨拶をさせていただきました。その後、本作の執筆中に私の顔が浮かんできたということで、オファーをいただきました。

――オファーの理由は聞きましたか?
 具体的なものはお聞きしていないんですけど、インタビュー記事を拝見すると、年齢から受けるものよりも落ち着いている声が印象に残った、ということで選んでいただいたようです。

――出演が決まって、音の役作りは?
 当時はまだ映像作品でのお芝居の経験も浅かったので、声のトーンを下げてみようかなというぐらいでした。あとは撮影地でもある岡山へ行って、そこでの共同生活を通して自然と音になれたのかなという感じです。長女・絢音役の吹越(ともみ)さんと次女・花音役の田中(美晴)さんのお二人は、楽屋でもお姉ちゃんって呼ばせてもらっていましたし、スタッフさんを含め、(共同生活を送ることで)本当に全員と家族になっていったように思います。

――ところで、最初に3姉妹が揃った時はいかがでしたか?
 吹越さんと田中さんのお二人はもう、(役の)イメージそのままだなって感じて、顔合わせの段階から感銘を受けすぎて(笑)、早く岡山に行って撮影したいって、すごくワクワクしていました。

――どこに感銘を受けたのでしょう?
 お二人のお芝居が本当に素敵なんです。声の質とか雰囲気に打たれました! 吹越さんには、長女としての芯の強さが声に現れているのが本読みの時から感じられましたし、動きがつくと、そこにさらに繊細さが加わるんです。

 田中さんは、夜、一緒に帰るシーンがあるんですけど、その時に役から感じる(妹への)距離感がとても絶妙で、私が一番好きなシーンになりました。それに、撮影を離れたところでも、いつも私のことを気にかけてくださって、本当に助かりました。吹越さんと田中さんには、本当の姉のように甘えさせてもらいました(笑)。

――吹越さんにインタビューした時には、合宿をしているみたいで楽しかったと話されていました。
 本当に! 毎回スタッフさんが食事を作ってくださるんですけど、そこで初めてすき焼きを食べたんです。こんなにおいしいものなんだって、もう感動しました(笑)。

――さて、話を戻しまして、まずは台本を読んだときの感想をお願いします。
 まず、ノストラダムスって何だろうって(笑)。音自身も知らないので、そこはあまり知識を入れずに演じようと思いました。やがて終末がくるということについては、あまり重く捉えずに、ゆっくりとした日常の延長に不穏な空気が流れてくるという感じで、死についてあまり意識しないでいることが、逆にリアルな雰囲気を生み出しているのかなと思いました。音自身がそれを感じる(意識する)のではなく、周囲が段々と変わっていく。そう考えていました。

――3姉妹の中でも特に音を見ていると、もうすぐ世界が終わるという雰囲気は感じませんでした。
 そうですね。音は、父親が亡くなってから一人で生きてきて、そこに急に姉二人が来たことで、家族が増えて、その周囲に知り合いが増えていってという環境の中で、新たに生まれてきた感情を吸収しようと敏感になっていった先に、突き落とされる、という感覚でした。(設定は厳しくても)演じていて楽しかったです。

――次女と二人で牡蠣を食べるシーンは印象的でした。
 私も大好きで、とても印象に残っています。気が付いたら次女(花音)と音が急速に仲良くなっていて、それが感じられる映像になっていました。ただ、長女はその輪の中に入ってこないので、私もなるべくお姉ちゃんは見ないようにしていたんです。完成した映像を観ると、お姉ちゃんをすごく遠くに感じたので、この後、(お姉ちゃんと)仲良くなれるのかなって思いましたけど、とにかく音は本当に牡蠣をおいしそうに食べていました。

――少しネタバレしますが、音には終盤に、ファンタジーな展開が待っています。
 音はそれを現実に感じていたと思います。すぐにその二人――すごく年下ですけど――はお姉ちゃんだと気が付いたはずですし、その出会いによって、(お姉ちゃんに対する)いろいろな感情が出てくるところは、とても素敵だなぁと思いました。その感情を持って今の二人を見ることで、本当の家族になっていったのではないでしょうか。

――音は、姉二人とは一緒に暮らしていなかったけど、仲良くなりたいという気持ちはずっと持っていた?
 そうだと思います。それが夢の中に現れたと思ってもいいですし、本当に過去に行ったと受け取ってもらってもいいと思います。

――そして、大喧嘩を経て……。
 絢音と花音が喧嘩する声を聞いて、(音は)これが家族なんだな~って実感したと思います。リハーサルの時から3人とも爆発していて(笑)、監督もすごくよかったって言ってくださいました。ほぼアドリブでしたけど、監督からはできるだけ続けてほしいと言われていたので、途中からセリフも頓珍漢になるところがあるんですけど、役(音)になり切って掛け合いができたかなって思います。

 音自身は、二人の子供時代の喧嘩を見ているので、今目の前で起こっていること(喧嘩)も、いつもの二人なんだな、小さいころから変わっていないんだなって安心しているんじゃないでしょうか。音は、二人の過去を知らないので、二人が昔のことを話している時はいつも寂しさを感じながら遠くから見ているんですけど、(二人の)過去を体験したことで、昔から変わらない二人の関係を見ることができたし、嬉しかったんだろうな、そしてようやく家族になれたんだろうなって。すごく素敵なシーンになったと感じています。カットがかかった時は、おそらく全員が“決まった”と思うぐらい、やり切れたシーンになりました。

――そして長回しのシーンに続きます。
 台本に書いてあるのは3つぐらいであとはアドリブだったんです。予め、あれを言おう、これを言おうと考えていましたけど、現場では真っ白になってしまって(笑)。あとはもう、二人が言ったことを受けて反応していただけで、髙石あかりがいたというよりは、音としてそこに立っていた感じで、何も考えずに、沈んでいく夕日を見ながら、自然と涙が出ていました。

――役になり切った?
 そうですね、素ではあるけど、自分ではない何か(音)に。断続的におよそ一年続いた撮影の中で、最初の期間の最後に撮ったシーンが、その長回しになります。3人の仲というか絆が本当に強まってできた映像だと感じていますので、ぜひ、注目していただきたいです。

映画『とおいらいめい』

9月23日(金)まで池袋シネマ・ロサにてレイトショー公開中

<キャスト>
髙石あかり 吹越ともみ 田中美晴
ミネオショウ 大須みづほ 森徠夢 武井美優 古矢航之介 三原哲郎 川辺純子 石橋征太郎 大田恵里圭 園山敬介 タカ海馬 荒井啓仁 舞木ひと美 藤田健彦 しゅはまはるみ

<スタッフ>
企画・製作・配給:ルネシネマ
監督・脚本:大橋隆行
原作:とおいらいめい(2004年上演舞台)
撮影監督:長谷川朋史 音楽:上久保汐李 助監督:原啓仙/渡辺喜子 録音:長沼優可/小牧将人/寒川聖美 ヘアメイク:大貫茉央/早川葵 制作:藤田健彦/大原昌典 フードコーディネーター:荒井啓仁 アクションコーディネーター:タカ海馬 ガンエフェクト:小暮法大 協力:岡山県フィルムコミッション協議会/せとうちフィルムコミッション/瀬戸内市商工観光課/備前市役所産業観光課/厚木土木事務所/相模原水系広域ダム管理事務所
2022年/日本/シネマスコープ/ステレオ/150分
(C)ルネシネマ

<あらすじ>
彗星の衝突により人類の滅亡が数ヶ月後に迫った2020年。小学生だった1999年にノストラダムスの予言を信じ、家出をした長女・絢音と次女・花音と、その後生まれた腹違いの妹・音が、初めて一緒に生活することになる。

絢音は、彗星の衝突を前にシェルターの個室の設計を担当しており、暴力によるシェルター強奪の危険と隣り合わせの日々。花音は、帰郷を機に、妻とうまくいっていない妻子持ちの小学校の同級生・良平と再会。音は、未成年ながらひょんなことから飲み会サークルと出会い、飲んだ帰りに花音が良平にキスするのを目撃。

互いに踏み込めず、すれ違う三姉妹は、世界の終わりを前に、本当の家族になれるのか。

https://runecinema.com/tooiraimei/

髙石あかり プロフィール/三女:宮田音 役
2002年12月19日生まれ。宮崎県出身。
2019卒業後、女優活動を本格化。
2020年と2021年に舞台「鬼滅の刃」で竈門禰豆子役に抜擢された他、2021年公開の映画『ベイビーわるきゅーれ』(阪元裕吾監督)でW主演を務め話題を集めた。またドラマ「生き残った6人によると」(二宮健監督)にレギュラー出演する他、映画『追想ジャーニー』(11・11谷健二監督)、『終末の探偵』(12・16井川広太郎)の公開も控えている