ビートルズがインド紀行において楽曲作りに勤しむ姿を捉えたドキュメンタリー作品である。

 1968年、カナダの青年ポール・ザルツマンが自身の生き様を見つめ直すため、インド北部のリシケシュにある瞑想運動の創始者、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの僧院を訪れる。そこには偶然にもビートルズのメンバーが、瞑想から新たなる活動の源を得るため僧院のバンガローに滞在していた。ビートルズの面々との出会いはややぎこちないものだったが、やがて打ち解けてジョークを飛ばしあうようになる。

 本作の監督はそうした体験を持つ32年後のポール・ザルツマン(映像作家となり、エミー賞を2度受賞)。娘のデビアニ・ザルツマンに当時の様子を語りかけながら、彼の視点でビートルズのメンバーを捉え、足りない映像はアニメーションで補うという手法が採られている。またザルツマンとともにデヴィッド・リンチも製作総指揮としてこの作品に係わっている。

 導師マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーを囲んでの集合写真はザルツマンが撮影したものだが、映画『ザ・ビートルズ:Get Back』にも登場するので、ビートルズのメンバーとはその後も良好な関係が続いていたのだろう。

 物語にはナレーションが使われているが、ザルツマンとの親交も深いモーガン・フリーマンが起用された。ビートルズのメンバーも含めモノローグの多くは若干バランスが整っていない感じで聞きづらい部分もあるが、8mmカメラでの収録ということを考えれば納得できると思う。僧院での映像はノイズも散見されるが、ドキュメンタリー作品としての臨場感が味わえる仕上がりである。

 ジョンとジョージはこの僧院に55日間滞在したが、リンゴは一週間、ポールは11日でこの場を後にしている。しかしながら48日の間に48もの楽曲を作ったと紹介されているように、この僧院での滞在は彼らにとって、久々に創作活動に集中できる時間だったことがよくわかる。

 ジョンとポールがアコースティックギター片手に曲作りしている姿も見ることができるが、残念ながら演奏シーンはなく、このあたりはいささか物足りないかもしれない。もっともこの作品を仕上げるにあたって、ザルツマンはビートルズ研究をおこなうマーク・ルイソンらを伴い、再び寺院を訪れることで回想シーンを加えて作品に深みを与えようとしたことがうかがえる。

 当時のリシケシュ行きには、ビートルズのメンバーのほか、ビーチ・ボーイズのマイク・ラブやドノヴァン、そして俳優のミア・ファローとその妹プルーデンスも帯同していた。ジョンの作曲した「ディア・プルーデンス」は彼女のことを歌ったものだし、「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」では、モデルになったリッキ・クックの元を訪ねることで曲作りにまつわるエピソードを掘り下げている。

 いずれも1968年11月にリリースされた2枚組アルバム『TheBeatles』(通称『ホワイトアルバム』)に収録されているので、映画を観た後このアルバムを聴くと、曲への深い思いがより伝わってくることだろう。

 本作はビートルズを題材に扱った映画ではあるが、ザルツマンの視点で描くことにより、彼らのインド紀行における知られざる一面を発見できる、ビートルズの上級ファンに向けたドキュメンタリーである。

『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』
●監督・脚本・製作:ポール・サルツマン●ナレーション:モーガン・フリーマン●製作総指揮:デヴィッド・リンチ
●出演:デヴィッド・リンチ、パティ・ボイド、ジェニー・ボイド、マーク・ルイソン、ルイス・ラファム、ローレンス・ローゼンタール、リッキ・クック、ハリプラサード・チョウラシア、デヴィアニ・サルツマン
●2020年●カナダ●英語●79分●カラー●1.78:1●5.1ch●原題:MeetingThe Beatles in India●字幕:大西公子●字幕監修:藤本国彦●配給:ミモザフィルムズ

23歳のポール・サルツマン監督

<STORY>
1968年、23歳のポール・サルツマン監督は、失恋の傷を癒しに北インドのガンジス川のほとりにあるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラム(僧院)の門を叩く。そこで思いがけず出逢ったのは、世界的ロックバンド「ザ・ビートルズ」のジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人だった。サルツマンが瞑想を学びながら、カメラに収めたビートルズと過ごした奇跡の8日間が、50年以上の時を経て初めて明かされる。
※2022年9月23日(祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺、新宿バルト9ほか全国順次公開
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