ニューヨークを拠点にする、うらぶれたウェルター級ボクサーのデイヴィー。その彼が惹かれる、向かいのアパートに住むダンサーのグロリア。だがグロリアはダンス・ホールの支配人でギャングの男の情婦だった・・・。当時27歳のキューブリックが『恐怖と欲望』に続いて監督した長編第2作(ユナイテッド・アーティスツが配給権を買い取り、一般劇場で公開された初の商業映画)。
35mmオリジナルカメラネガからの4Kレストア/HDRグレード。2011年クライテリオンBLU-RAY(ネガ2Kスキャン)からのアップグレードは、微細なテクスチャとディテイル描画力に明快。63年に取り壊されたペンシルベニア駅やタイムズスクエアなどのロケショット、ゴミが散らばる路地、薄汚いインテリアは観どころのひとつ。
HDRはHDR10とドルビービジョンHDRを採用。キューブリックのカメラ(撮影)はローキー調に徹しているものの、ハイライトと暗部のコントラスト・バランス、深みを増した黒レベルが迫真的な画像を生み出している。グレースケールの豊かな階調、低照度ショットの視認性も良好だ。粒子感は中庸でオーガニック。光学処理ショットは解像感が後退する。
2011年リマスター・モノーラル音声をリユース。67年前のサウンド・パフォーマンスではあるが、経年変化によるノイズを解消した堅牢なシネソニックを提供する。セリフは常に同期しているわけではないが、ポストシンク(※)による品質がシネソニックを際立たせ、深みのある音色を醸し出している。駅の騒音、アスファルトを踏む足音、ボクシングの観衆、タイムズスクエアの交通音、クライマックスのアクションなど、活力のあるサウンド・エフェクトも聴きどころ。
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4/5
(※) - 本作のプロダクションサウンド(現場録音)にはネイサン・ボクサー(のちに『地獄の黙示録』『カンバセーション…盗聴…』を担当)が雇われていたが、ブームマイクとポールが画面内に映り込む多くのショットがあったため、キューブリックはサウンド・クルーを解雇、すべてのセリフと効果音は録音スタジオでポストシンクした。グロリア役のアイリーン・ケイン(のちに作家として活動)の声は、ラジオ女優のペギー・ロヴィンが吹き替えている。