スマートホンは、いまや世代、性別、地域の垣根を越えて広く浸透し、コミュニケーションツールとしてのみならず、日々の生活に欠かせないキーデバイスになっています。その傑出した能力は、当然ながら音楽再生の分野でも遺憾なく発揮されています。

ここでは、5月に小社から発行したムック「かんたん、わかりやすい スマホで始めるオーディオ&ネット動画再生読本」の中から、スマホを音楽の再生機として、ハイレゾ音源の醍醐味を体験するための知識、ノウハウ、システムづくりのあり方などを紹介した記事を、順次掲載していきます(全36回を予定)。

今回は、音にこだわるなら有線イヤホン&ヘッドホンがおすすめというテーマでお届します。

「かんたん、わかりやすい スマホで始めるオーディオ&ネット動画再生読本」はこちらからご購入いただけます。

 通常のオーディオシステムで言えば、最終的に音として再現するスピーカーに相当するイヤホン、ヘッドホン。それだけに再生時のサウンドクォリテへの影響力が大きく、ダイナミックレンジ(音の迫力)、S/N感(静けさ)、解像力(音の細かさ)と、音楽を再現する基本的な能力の多くはここで決まってしまうといっても過言ではない。

 音質を最優先するのであれば、シンプルな接続が可能で、オーディオ機器としての歴史も長い有線のイヤホン、ヘッドホンをおすすめしたい。イヤホンについてはBluetoothで接続して、ワイヤレスで楽しむスタイルが人気だが、ここではどんなコーデックで伝送されるかで、基本的な情報量が大きく変化する。

 最近はLDACやaptX Adaptive(「テーマ2 音質を決める最大のポイント。Bluetoothコーデックに注目」参照)のように最高96kHz/24ビットのハイレゾ相当の伝送に対応したコーデックが実用化されているが、この恩恵を享受するには、イヤホン/ヘッドホンとスマホの両方が対応していることが不可欠。現状ではハードルが高いと言わざるを得ない。

 当然ながら、スマホとケーブルでアナログ接続できる有線のイヤホン、ヘッドホンは、コーデックの影響はなく、しかもアンプも内蔵しておらず、バッテリー容量を心配する必要がない。特に耳穴の前に置かれたドライバーユニットから音楽を聴くヘッドホンは、大きさの制約が少なく、基本的な表現力にも余裕があるのが強みだ。

 また有線タイプは製品のバリエーションも豊かで、スタジオモニターとして実績のある名機も少なくない。そして設計がシンプルで、開発のコスト負担も小さいため、1万円前後でも「おっ」と驚くような音のいい製品に出くわすこともある。これはイヤホン、ヘッドホンの両方について言えることだが、この「見つける楽しさ」はまさに有線タイプの特権と言っていいだろう。

イヤホンに使われる主なドライバーの種類

[ダイナミック型]

自然なバランスが特徴。振動板素材がポイントだ

ダイナミック型は通常のスピーカーシステムと同様、ボイスコイルを介して振動板を前後に駆動し、空気を振動させて音を描き出す方式。自然な帯域バランスを確保しやすく、また比較的安価で調達できるため、普及機、高級機を問わず、広く採用されている。振動板には紙、フィルム、金属など、さまざまな素材が使われているが、なかにはビクターのウッド採用モデルのように特殊加工した木材を用いたケースもある。振動板だけで音質は決まらないが、再生帯域、S/N、音色などは、この部分に少なからず左右される。

Fiio FD3 Pro。イヤホンとしては大型の12mmダイナミック型ドライバーを採用している

[BA(バランスド・アーマチュア)型]

中・高域の表現力に優れた繊細な音が特徴

もともと補聴器用として使われていたユニットをオーディオ用として改良したもので、振動板を小さなピンで振動させて音を出す。音質的には中・高域の表現力に長けて、繊細な音が特徴。低音域の再現性が苦手という面があるが、基本的な情報量に余裕があるため、トータルの設計で補える。またドライバー自体を、小型化しやすく、高級機では低域と高域、あるいは低域、中域、高域と、2基、3基のBAユニットを配置した複数使いの製品も珍しくない。

CHIKYU-SEKAIの5BAドライバー構成の5/COSMOS。複雑な内部構造となっている

[ハイブリッド型]

適材適所でドライバー方式を使い分けて高性能を追求

低域用にダイナミック型ドライバー、中域、高域用にBA型ドライバーといった具合に、適材適所にユニットを使い分けたハイブリッド型のシステム。より広いダイナミックレンジを確保しやすいため、良質なハイレゾ音源が手軽に入手できるようになった今、高級機を中心に採用例が増えている。帯域を拡大しやすい反面、各ユニットが担当する帯域をスムーズにつなぐネットワーク回路が不可欠で、高価な製品での採用例が多い。

ハイブリッド型のドライバー構成を採用したKineraのIDUN Golden

ヘッドホンの主な種類

[開放型(オープンエアー型)]

圧迫感が少なくすっきりした音が魅力

ドライバーユニットを納めたハウジングの背面に空気孔を持つタイプで、スピーカー再生に近いすっきりとしたサウンドが特徴的だ。密閉型に比べると、圧迫感が少なく、聴き疲れしないという利点があるが、音漏れしやすいため、室内での再生を想定したモデルがほとんど。ハウジングの空気孔部分を縮小し、密閉型と開放型のいいとこ取りを狙ったセミオープン型もある。こちらは、音がこもらず開放的、それでいて音漏れは比較的少なく、豊かな低音が楽しめるというもの。とはいえ音漏れは避けられないため、実質的にはオープンエアー型に近い方式だ。

グラドのRS1x。耳を覆うハウジング中央が開放しているのがわかる

[密閉型(クローズド型)]

もっとも普及している方式。力強い低音が得られやすい

ドライバーユニットを収めたハウジングの背面が閉じられているタイプで、ヘッドホンとしてはもっともポピュラーな形状といっていいだろう。構造上、音漏れしにくく厚みのある、力強い低音が期待できる。スタジオユースではヴォーカル録音など、遮音性の高さが求められるケースでは、この密閉型ヘッドホンが好んで使用されている。主に耳をすっぽりと覆うアラウンドイヤー型が多いが、耳に押しつけるように装着する比較的コンパクトなオンイヤー型もある。

スタジオユースの定番が密閉型。写真はシュアのSRH840A

スマホとの接続には携帯型DACが便利だ

 有線接続が音質的には断然有利なことは明らかだが、iPhoneは2016年登場のiPhone7世代以降から全製品がイヤホン端子非搭載だし、Androidスマホでもイヤホンジャックを持たない製品が大半を占める。仮に端子を装備していたとしても音質的にはおすすめできるレベルの製品はほぼないのが現状で、もちろんハイレゾ再生もできない。音質にこだわるのならば、携帯型のD/Aコンバーターなどを用意して、そこから有線(アナログ)でイヤホン/ヘッドホンと接続することが必須だ。

 最後にイヤホンをいい音で楽しむためのコツをひとつ。

 さまざまな大きさ、素材のイヤーチップが付属されているイヤホンがワイヤレス、有線問わず多いが、ここの音質への影響が意外に大きい。収まりのいい装着感を得ることも重要だが、どんな素材のチップを選ぶかによって音の聴こえ方が大幅に変わってしまうので要注意だ。

 ジャストフィットが基本だが、音質的にはやや大きめチップを選び、耳の穴に隙間なく、押し込めるようにギュッと装着するのが好ましい(ゆるいと低音が薄くなる)。ゴム系なのか、ウレタン系なのか、素材の違いも音質に大きく影響するので、ぜひ色々と試してほしい。

注目! スマホとどうつなぐかで音が激変する
音にこだわったDACを活用しよう

 スマホとイヤホン/ヘッドホンの組合せで音楽を聴くというスタイルは、世代、性別を越えて広く浸透しているが、両者をいかに接続するかによって音質が変わってしまうので注意が必要だ。

 まず知っておいてほしいのは、スマホにイヤホン端子があったとしても、音質を重視するなら、これは使わない方がいいということ。デジタル信号をアナログ信号に変換する回路(専門的にはDAC回路と呼ぶ)は、スマホでは簡易な回路によるもので、絶対的な情報量やS/Nともに鑑賞用としては充分とは言えず、ハイレゾ再生にも不向きだ。

 有線接続で音質を追求する場合は、スマホと直接接続できるスティック型を中心とした超小型DACが便利だ。USBバスパワーが利用できるタイプと、バッテリー駆動のタイプに分けられるが、いずれも音質改善効果は大きく、Amazon Music、Apple Musicのハイレゾ再生も可能になる。手のひらサイズのヘッドホンアンプ(DAC内蔵)を使えば、音量調整、D/A変換、電源供給と、各種回路に余裕があるため、さらなる音質向上が期待できる。

アナログ出力のないスマホとイヤホンやヘッドホンをどうやってケーブルでつなぐのか。ポイントになるのは、DAC(Digital to Analog Converter)と呼ばれるアイテムだ。写真は、スマホとの連携を想定して開発されたEARMENのCOLIBRI(詳細は「驚きの超小型高音質DACに注目」参照。写真は付属ケースに納めた状態)。千円未満で売っている「変換アダプター」とは次元の異なるサウンドを実現する逸品だ

【関連記事】

【 本記事の掲載号は スマホで始めるオーディオ&ネット動画再生読本 】