弊社では、去る6月11日〜12日に、有楽町の国際フォーラムで開催された「OTOTEN2022」で、声優の小岩井ことりさんをゲストに迎えたセミナーを開催した。小岩井さんは自身で作詞作曲を手がけるアーティストであり、またポータブル・オーディオ機器を多数所有するオーディオ愛好家という一面も持つ。

 今回はそんな小岩井さんが関わる楽曲をハイエンド機器で再生しながら、彼女が音楽に込めた思いや、オーディオをどんな風に楽しんでいるかをうかがっている。さらに弊社から7月26日に発売した『別冊Digi-Fi〜小岩井ことりと楽しむオーディオの世界〜』用に書き下ろしていただいた新曲も披露、素敵な歌声を来場者と一緒に楽しんでもらった。以下では当日のセミナーの様子を、ダイジェストでお届けする。

小岩井 皆さん今日はお集まりいただきありがとうございます。普段は声優をやっております、皆さんと同じくオーディオ大好きな小岩井ことりです。今日はよろしくお願いします。

武田 司会を担当します、ステレオサウンド編集部の武田昭彦と申します。隣は同じく編集部の松本壮史です。

小岩井 今日はOTOTENということで、オーディオに詳しい方があつまっていただけていると聞いています。このセミナーも定員がすぐに埋まったとのことで、とても嬉しいです。

武田 弊社では7月26日に、小岩井さんをフィーチャーした『別冊 Digi-Fi〜小岩井ことりと楽しむオーディオの世界〜』を創刊すべく準備を進めており、その一貫として今回のセミナーのゲストをお願いしました(編集部注:現在絶賛発売中です → https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/bookshop-ss/9784880734828 )。

小岩井 それ、最初に発表しちゃうんですね(笑)。

松本 もともと小岩井さんがオーディオを好きということを聞いていましたので、そういった方にこれまでとは違うオーディオの楽しみ方を語っていただきたいと思ったのが、企画のきっかけです。

小岩井 私もオーディオは好きなんですが、やっぱり高級な品物も多いので本格的に取り組めずにいました。中〜高校生ぐらいからイヤホンとかに興味はあったのですがなかなか買うことができず、仕事を始めてからちょっとずつ集め始めてという感じだったんですね。

 そこからオーディオが好きなんですということを色々な所でお話しさせてもらう機会があって、ついにはステレオサウンドさんから本を出してもらえることになりました。

武田 今日は小岩井さんにゆかりのある楽曲をここにあるオーディオ機器で聴いていただきながら、お話しを進めていきたいと思います。

小岩井 凄いシステムですよね。実は私はこのスピーカーが気になっていて、近くで見てもいいですか? 「ステラ・ユートピア」という製品だそうで、お値段もかなりお高いそうです。いつも思うんですけど、こういうスピーカーって本当に綺麗ですよね〜。こんな高級スピーカーで音を聴ける機会は、少なくとも私にはあんまりないので、今回は本当に皆さんと一緒に音を楽しめるのを楽しみにしてきました。

武田 小岩井さんはヘッドホンやイヤホンをコレクションされていますけど、そのうちのひとつがフォーカル製だそうですね。

小岩井 はい。以前ヘッドホンのイベントに出演させてもらった時に、イベント特別価格で売っていたんですよ。もちろん私は出演者だから、最後まで待っていました。そしたら売れ残っていたので、思い切って買わせてもらいました。高級品ですけど、どうしても欲しかったんです。ヴォーカルがとってもいいんですよね。

武田 ではまず、小岩井さんがオーディオに興味を持ったきっかけからお聞かせください。

小岩井 音にはずっと興味がありました。声優になったきっかけも、ある作品でキャラクターが鳴き声のみで喋るのを聴いたからです。当時私は
幼稚園とか小学校低学年くらいでしたが、何を言っているかが幼心になんとなくわかって、それがすごい素敵だなって感じたんですよ。

 それで音ってすごいなって思って勉強していったら、音の高さ、音の大きさ、音色とか色々な要素があるんですよね。それらが重なっていって、そこに感情が生まれるって、興味深いなと思いました。

 小学生ぐらいの時にパソコンを買ってもらったんですけど、そこからフリー音源と編集ソフトとかを使って波形を見たりとかする中で、オーディオにも興味を持っていきました。

武田 別冊のインタビューでもお話しいただいていますが、小岩井さんは波形を見て、オーディオの世界に入ってきたというとても珍しいタイプですよね。

小岩井 私は波形って面白いなって思うんですけど、珍しいんですかね(笑)。

武田 さて、小岩井さんはDTMステーションクリエイティブというレーベルで、藤本さん、多田さんと一緒に音楽創作活動もやられていますね。

小岩井 藤本健さんとは、MIDI検定の資格を取ったことがきっかけで知り合いになって、そこからコミックマーケットで音楽を販売してみようと思っているんですっていうお話を聞いて、多田彰文さんも含めたDTMステーションクリエイティブの企画のひとつとして一緒にやれたらということで
参加させていただきました。

武田 現在、小岩井さんが参加されているCDを2枚発売しているそうですので、その中から一曲聴いていただきたいと思います。

小岩井 ぜひ「oyasumi」を聴いてもらいたいです。この曲は、一度音源をつくってから、ダミーヘッドマイクを通して録音しなおすっていうかなり特殊な録り方をしています。ヘッドホンとかイヤホンで臨場感を楽しんでいただきたいというのが狙いだったんですが、スピーカーで聴いてもいいと先日松本さんから教えてもらったので、今日はこのスペシャルなスピーカーセットで、皆さんにも体験してもらいます。

——「oyasumi」を再生

小岩井 はい、ということで皆さん起きてますか?(笑) こんな経験私も初めてで、皆さんが目を閉じてスピーカーに聴きいっている姿がとても可愛くて、見ていてすごく楽しかったです。

武田 このCDは今では入手困難とのことで、フォーカルでしっかり聴いていただけてよかったと思います。

小岩井 続いて、ちょっとコンポ感のある楽曲から、「ハレのち☆ことり♪」をお願いします。

——「ハレのち☆ことり♪」を再生

小岩井 はい、ということでいかがだったでしょうか。今日はかなりの本格システムで聴かせてもらっていますが、ここで聴いていても音を体感しているって気がして、凄いと思っていました。

武田 ところで、小岩井さんは作詞、作曲をするときは、どちらから先にといった決まりはあるんでしょうか?

小岩井 そうですね、次に聴いてもらう「運命の輪を廻す者XX」は作詞も作曲も私が担当しましたが、もう全部一緒という感じですね。構成をまず考えて、あとは同時にやっていくことが多いかなと思います。私にとって音楽は数学っぽいなって感じてて、どんな曲調を組み合わせたら綺麗になるかという決まりがある程度あるので、そこを軸にしながら表現したいものを組み立てていくっていう感覚が強いと思います。

 「運命の輪を廻す者XX」はかなり変な楽曲だと思うんですけど、当時は物語音楽というものをすごく作りたかったんです。どんな曲にしたいのか、打ち合わせの時にメンバーの皆さんに説明はしたんですが、本当に伝わらなくって、曲を聴いてもらってから、やっと全貌が見えましたって藤本さんと多田さんに言ってもらえました。

——「運命の輪を廻す者XX」を再生

小岩井 いかがでしたか? 伴奏はかなりループが多く、循環してる物語なのかなっていうのを感じ取ってもらえるように作ってみたいと思っていました。コミックマーケットでの限定頒布だったので、何かストーリー性もあるものを出したいなと思って、音楽だけど、小説のような構成をにしています。

武田 さて、小岩井さんは 2019 年からkotoneiro(ことねいろ)というレーベルをスタートしていますが、そこではASMR音源も手がけているそうですね。

小岩井 ASMRという言葉は世間的にも広まってきたかなと思うのですけど、まだそんなに知らない方もいらっしゃるかもしれません。定義としては、耳から入ってきた音で脳がゾワゾワしたり、快感があったり、リラックスできたりする情報を全部ASMRと呼ぶそうです。だからすごく幅広くて、波の音とか風音、女の子が耳元で囁いてくるものまで色々な音源が世の中に溢れています。

武田 ご自身がダミーヘッドで録音されたものもありますし、あとは声優さんと一緒に作っている作品など30タイトル以上あるんですね。

小岩井 音だけのコンテンツですから、音質にはこだわっています。ユーザーの皆さんのそれぞれの環境で、できるだけしっかり聴いていただくことで、次も楽しんでもらえるようにしたいと心がけています。

武田 音源フォーマットとしてはFLAC/WAV/MP3があり、CDクォリティからハイレゾまで準備されています。

小岩井 今日はその中から、私の心臓の音をお送りします。このシステムで心音を聴いたなんて、皆さん激レアな人間ですよね(笑)。

——音楽ファイルから、心音を再生

小岩井 このまま延々と7 時間続きます(笑)。

武田 この音源もダミーヘッドマイクで録音されたのですか?

小岩井 はい。ダミーヘッドマイクを抱えて、布団の上でゴロゴロしながら録っています。自分でもびっくりしたんですけど、心臓の音って人によって違うんですよ。音楽でいうところのキックの種類が違うみたいな、そんな違いがあってめちゃくちゃ興味深いです。

松本 ではいよいよ、『別冊 Digi-Fi〜小岩井ことりと楽しむオーディオの世界〜』について紹介させていただきたいと思います。

小岩井 皆さんよろしくお願いいたします。

——拍手

武田 今回の別冊の中では、小岩井さんにいくつかのオーディオセットを体験してもらい、印象をお話しいただきましたが、その際にどういう所に注目してチェックされたのかについて、まずお聞かせ下さい。

小岩井 私の場合、機材を聴く時にはいくつか段階があるんですよ。今回スピーカーの聴き比べをさせてもらった時も驚かれたんですけど、必ず周波数帯域をチェックするんですね。

 まずそれぞれのスピーカーで、解像度の差があるんです。画像のドットの粗さみたいなものと考えてもらえたらと思います。これは大体製品のお値段に比例していると思います。

 次に音の色付けというところで、周波数帯の3kHzあたりにピークがあるなとか、8kHzあたりが強調されているなぁといったところを考えます。こういった色づけって、スピーカーを作った方の伝えたいところだったり、景色だったりすると思うので、まず周波数帯域をチェックしています。

 また耳って日によって感じ方が違いますよね。私はむくみやすい体質なので、そういうのも聴こえ方に多少なり影響してるんだなぁと感じています。ですので、なるべく色々な人に意見を聞いています。

 その後は定位感ですね。広がりだったり、左右の間隔が上手に再現されているか、奥行があるかといった所を確認して、最後にその全部のデータを分かった上で、音楽をゆっくり楽しむっていう感じですね。

武田 ありがとうございます。実はこのお話は取材時にもうかがったのですが、音を判断する方法について、そんな風にわかりやすく語ってくれる人って本当に少ないので、驚きました。

小岩井 オーディオの大先輩の方々なら、経験から伝えられることも多いと思いますが、私まだまだインプットが少ないので、ます耳で聴いて理論的に理解した上で、楽しさを探る方があっているように感じています。

武田 そこの評価軸の作り方が、小岩さん独自ですね。

小岩井 作り手もさせてもらい、ステージに立たせてもらい、そして受け取る側としても楽しんでいるからこそなのかなと思っています。

武田 さて今回、別冊のために小岩井さんに楽曲を作っていただけないかとお願いしました。そこでできたのが「Sound Letter」という曲になりますが、これはどのような思いで作っていただいたのでしょう?

小岩井 そうですね。ステレオサウンドを拝見していて、スピーカーとかアンプといった機材に“生命”を感じる時があるんじゃないかなって感じたんです。私の場合は真空管の灯りとかに、命の輝きを感じるんです。

 そんな風に、オーディオファンだからこそ感じることもあるんじゃないかなと思って、昔使っていた機材とは違う機材で聴く、昔の自分からの音の手紙みたいなものをテーマに書いてみました。

武田 今回は、高音質な音源にしたいということで、DSDフォーマットの一発録りで収録しています。別冊を買っていただいた方はこの音源がダウンロードできます。

小岩井 DSDって、あまり聞いたことのないフォーマットかもしれませんが、音がいい方式なんですよね?

武田 そうですね。特に今回はDSD 11.2MHzで、最高の音質を目指しています。

小岩井 ものすごくきめ細かい音で、現状最高レベルの品質なんですが、編集ソフトがないんですよね。一発撮りしか録音手段がないというのでびっくりしました。本当に取ったままの空気感を皆さんにお届けするっていう、かなり珍しい企画になっております。

武田 では「Sound Letter」を聴いていただきます。

小岩井 今日は最高音質でかけてもらえるんですよね? であれば電気も暗くしてもらった方が集中してもらえますよね。過去の皆さん自身かもしれないし、私からかもしれない、そんなお手紙だと思って聴いてもらえたら嬉しいです。

——「Sound Letter」を再生。曲が終わると、大きな拍手が起こった。

小岩井 やっぱりこの環境で聴くと、ちょっと特別ですね。

武田 現在は、声や楽器をパートごとに録るマルチトラックレコーディングが一般的で、小岩井さんもこれまではそういう方法でCDを作られていたと思うんですが、今回は初めての一発録りということで、普段と違ったところはありましたか?

小岩井 正直に言うと、今の楽曲でも冒頭とかはあまりうまく歌えていないんです。ではなぜこのテイクを選んだかっていうと、色々な楽器がどんどん出来てきて混じり合うというところで、より歌声が安定してくるんですね。それも含めて、歌詞が物語になってるなと思ったんです。

 最初の歌声では、寂しさとか冷たさを感じると思うんですけど、そこからだんだん色々な物、人に出会うことで、人生が豊かに広がっていくみたいな表現が、DSDだから伝えられる、誠実に伝わったので、これはこれで素晴らしいなと思いました。

武田 ありがとうございます。弊社としては、この曲を多くの皆さんに聴いていただき、これまでオーディオに親しんでこなかった人にも、この曲をきっかけにヘッドホンをよくしてみようとか、小岩井さんの声をもっといい音で楽しんでみたいとか考えてもらいたいと願っています。

小岩井 そうなんです。どんなイヤホンでも音楽を聴くことはできますが、いい音じゃないと
伝わりにくい表現もあると思うので、ここを入り口にしてもらえたら嬉しいなと思いますね。

松本 ちなみに別冊では、小岩井さんのイヤホン、ヘッドホンコレクションも紹介しています。オーディオファンの方はそれらもひとつひとつ確認していただくと面白いかもしれません。

小岩井 うちにある100 種類を超える機材ちゃんたちを素晴らしい写真に撮影してくれているはずです。実は昨日ライブがあったんですけど、カスタムのイヤモニも全部預けていたので、普段音楽を聴くために使っている
ユニバーサルタイプのイヤモニでステージに立つという珍しい経験をしていました(笑)。

松本 ざっと数えましたが、160機種ほどありました。

小岩井 そっかぁ、そんなにありました? だいたい100個くらいだと思っていたんですが(笑)。こんな本なかなかありませんので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。

松本 見ても楽しいし、読んでも、聴いても楽しい本になるよう作っておりますので、皆さんご期待下さい。

武田 これでセミナーは終了いたします。今日はありがとうございました。

小岩井ことり『Sound Letter』DSD11.2MHzハイレゾ録音ー準備編ー

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