放送関連機器を手がけるアストロデザインの展示会、「アストロデザインプライベートショー」が、6月16日〜17日の2日間、東京大田区にある本社オフィスで開催された。2019年以来3年ぶりのリアル開催とあって、最新情報を求める多くのプロフェッショナルが足を運んでいた。ここではそれらの展示内容とともに、恒例の麻倉怜士さんによる、同社代表取締役社長 鈴木茂昭さんへのインタビューをお届けする。(StereoSound ONLINE編集部)
麻倉 今日はよろしくお願いいたします。アストロデザインさんのプライベートショーは3年ぶりの開催とのことで、たいへん興味深く拝見しました。そんな中で印象的だったのは、外部との連携が進んでいるということです。これまでは、アストロデザイン独自の開発テーマが多いように感じていたのですが、今日の展示では他社との協業が多かったのが意外でした。
鈴木 弊社としては、以前から色々な会社と一緒に技術開発を進めてきていました。ただ最近はコロナ禍もあり、大々的には展開できていませんでした。しかし最近は、そういったケースが圧倒的に増えています。
麻倉 その要因は何なのでしょう?
鈴木 弊社はNHKの8Kに関連した技術開発のお手伝いを手がけてきました。しかし最近は、8K放送もいまひとつ注目されないし、NHKも4K/8Kをセットにして“スーパーハイビジョン”として展開するなど、8Kが盛り上がっていないのです。放送現場の人たちは8Kを推進していきたいと考えているのは間違いないのですが、国政も含めてどうにも中途半端な状態になっています。
それもあり放送関連の8Kビジネスは、コロナ禍前から雲行きが怪しかったのです。期待されていたオリンピックも延期になったり、最終的にはパブリックビューイングが中止になるなど、8Kとしてのビジネスはほとんどゼロという結果でした。
麻倉 アストロデザインとしては、本当に厳しい状況だったんですね。
鈴木 弊社は他社にない技術を持っていたこともあり、一時は8Kの仕事ばかりになっていた時期もありました。そういう環境の中で、いきなりみんなが8Kの開発を止めてしまったので、社としての売り上げも落ちてしまいました。
麻倉 そんな状況をどうやって乗り切ったのですか?
鈴木 このままでは会社が存続できないので、新しいことに取り組もうと考えました。とはいえ日本国内で8K技術でビジネスをするのはなかなか難しい。もちろん8Kのようなハイエンド技術を使って何かやりたいという人はいますが、残念ながら予算がない。
そんな中で、GAFAを始めとするアメリカ企業から新しいトレンドがでてきました。彼らはスマホの次をどうするかを常に考えており、色々な仕掛けを進めているようなのです。
麻倉 なるほど、配信・通信の世界でも8Kは活用できますからね。
鈴木 そもそも日本以外で8Kを放送している国はありませんので、“放送”というテーマだと、海外では話が通じないんです。でもインターネットの映像はどんどん解像度が上がっていて、テレビとしては、4Kはもちろん8Kモデルもアメリカで売られています。
なぜなら、アメリカでも8K配信が既に存在しているからです。正直なところ、8K本来のクォリティで配信できているかは疑問ですが、現実に8Kの配信コンテンツはいっぱいありますし、それをテレビで見たい人はいるということです。
実際にアップルのディスプレイは以前から5K解像度を持っていましたし、最新モデルでは6Kに進化しています。つまり、PCで観るということについては、超高精細が当たり前になってきているのです。
アメリカには、そういう明らかな高解像度のトレンドがある。そういう流れの中で、弊社もアメリカに向けて色々な提案をしてみたところ、8Kをゲームに使うと面白いといった案が出てきて、彼らと一緒にトライしたら、これは凄い、他でも使えるといった具合に話が進んでいきました。
もうひとつ、最近はVR(バーチャルリアリティ)機器も出てきていますが、それに関連し、5年ぐらい前からアメリカのVRベンチャー会社が弊社の8Kカメラに注目してくれて、360度映像を一緒に作ったりしていました。
先般、この会社が米国の巨大IT企業の1社に買収されて、しばらくやりとりが途切れていたのですが、最近またコンタクトがあって、引き続き一緒にやりましょうということになりました。結果として買収先の会社から弊社に注文が入ることになったんです。
麻倉 まさに瓢箪から駒ですね。
鈴木 他でもアメリカの会社との取引がどんどん増えています。それらはすべて8Kに関連した案件ばかりなのです。
麻倉 放送に縛られないところで8Kをどう使うかが、世界的なトレンドなのですね。ところで、アメリカからは具体的にどんなオファーがあるのでしょう?
鈴木 撮影用カメラに関するものがほとんどで、8K動画が撮れることが条件ですね。8Kの静止画を撮れるカメラは他社にもありますが、8K/60pや8K/120pでムービーを撮影でき、なおかつ余計な圧縮をしないでリアルな8Kを確認できるカメラは少ないのです。用途としてはスポーツ系が多いようです。
麻倉 スポーツを綺麗に撮影して配信しようということですか。
鈴木 撮影した映像をただ流すのではなく、素材として使って、何か生みだそうという狙いです。撮影して、すぐに加工して使うらしいのですが、詳細はまだ弊社にも開示されていません。
“見るため” だけの映像ではなく、8K動画を使って “何かを作る”、そのためには8Kの高解像度と、60pや120pといったフレーム情報が必要なのでしょう。
麻倉 今回の展示で、8K/60pや8K/240pの動画がデモされていたのは、そんな展開も見据えてのことだったんですね。大々的に展示するからには鈴木さんは何か考えているだろうと推測していました。
鈴木 8Kを大画面で見ると、24コマの映画や30pのビデオではフレーム情報が足りないと感じることがあります。映画は24コマの芸術なのでそれも持ち味だと思いますが、ビデオでは情報が足りないと思ってしまう。
麻倉 今日の展示を拝見すると、8K/60pでも物足りなくなりそうです。
鈴木 そここそ、麻倉さんお得意のハイエンドな映像の世界につながっていくポイントだと思います。映像にこだわりのあるユーザーが8Kを楽しみたいと思ったら、今後は8K/60p以上は必須になっていくでしょう。
麻倉 そこに8Kの勝機がありそうですね。これまでは8Kという“解像度”が先行し、次に “ハイ・ダイナミックレンジ(HDR)” “色域(BT.2020)” と表現方法が進化して、今度は “フレームレート” の充実が求められていく。
鈴木 ユーザーの要望は必ずそういう方向に進んでいくでしょう、技術がそれに追いついていけば、新たな市場もできてきます。
とはいえ、そこまでの新規の取り組みは弊社だけではできません。そこであちこち相談してみたら、だんだん新しい技術を持った仲間が増えてきたのです。その一部を今日のプライベートショーで展示していただいたというわけです。
麻倉 なるほど、そういうことだったんですね。
鈴木 現在のメインの市場はアメリカですが、そこで求められている技術を持っている会社は日本にたくさんあります。ただ、どの会社もそこに気がついていない。それが、日本の大きな問題でしょう。産業立国だの技術立国だのと言ってる割には、足下の技術がどうなっているのかに注意を払っていない。これではいい技術も失われてしまいます。
麻倉 それにしても、TOPCONの測定器を使った色域測定であったり、建造物の検査であったりといった技術は、アストロデザインのカメラや信号発生器を使ってはいますが、そうそう簡単に開発できるものではないと思います。
鈴木 弊社だけでは無理でした。様々な会社と技術の詳細について相談し、そのノウハウを活用させてもらっています。
他にも、弊社の8Kカメラを使った高速道路のトンネル内のクラック(ひび割れ)検査システムを展示しています。これまでは正確に検査するために高速道路を通行止めにする必要があったそうですが、このシステムなら時速60kmで走っても、これまでと同じ精度の撮影ができるんです。8Kの解像度と120pのフレームレートがあるからこそで、実用化という意味でとても有用だと思います。
麻倉 アストロデザインとして8K技術を育ててきたことで、様々な方面に展開していく可能性が広がったのではないでしょうか。
鈴木 8K技術は、大容量データをいかに高速で処理するかが重要です。今回展示した「卓上型3Dフェイススキャナー」なども、通常では画像処理の負荷が大きくなってしまうんですが、そこは弊社の得意な部分でもあり、処理時間も数分で済んでいます。
麻倉 アストロデザインのコア技術が、世の中が進んでいく方向にうまくアプライしていったのですね。
鈴木 ありがたいことに、弊社の技術が使えるのではないかといったお問い合わせをいただくことも増えています。
※次回へ続く