──今回は、編集部が用意したシステムを3つ聴いていただきました。最初に用意したのは、エヌモードのヘッドホンアンプX-HA3 FTと、プリメインアンプX-PM3 FTです。この2モデルは、「Sound Letter」のレコーディングに演奏とアレンジで参加いただいたファンダメンタル代表の鈴木哲さんが開発に協力されています。

小岩井 鈴木さんが手がけられたオーディオ機器をしっかり聴いてみたいと思っていたので、聴けてよかったです。

X-HA3 FT
音の立ち上がりやアタック感が際立ち音楽の強さをさり気なく引き出してくれる

──今日はX-HA3 FTと組み合せるヘッドホンとして、小岩井さんがリファレンス的に使われているウルトラゾーンのSignature NaturalとゼンハイザーのHD800をお持ちいただきました。再生機器も小岩井さんにアステルアンドケルンのデジタルオーディオプレーヤーACRO CA1000を持参いただき、X-HA3 FTとアナログ接続でつないで再生してみましたが、印象はいかがでしたか?

小岩井 全体の印象としては、色づけしすぎることなく迫力を増してくれるヘッドホンアンプだと思いました。自分で作詞・作曲した「inner wave」を聴いてみたんですけど、X-HA3 FTをつないだ場合とつながない場合を聴き比べると、つないだ場合は10kHzあたりから上の高域がスーッときれいに伸びていました。加えて音の立ち上がりやアタック感が際立っていたから、迫力が増して聴こえたのだと思います。そのあたりの帯域を気持ちよく感じるユーザーはきっと多いと思うので、たくさんの人に愛される製品なのも納得です。

──ヘッドホンごとの印象の違いはどうでしたか?

小岩井 ウルトラゾーンは密閉型なので、低音がよりしっかりと感じられました。ゼンハイザーは空間再現がより豊かでした。どちらにも共通して言えるのは、繰り返しになりますが迫力が増すところです。包み込むような感じではなくて、強さを引き出してくれる感じ。かと言って、それがものすごくわかりやすい変化というわけじゃなくて、さり気ない変化なんです。そのバランスがいいと思います。

──鈴木さんは本機の設計について、「音楽の美味しいところを出せるよう心がけた」と語っています。

小岩井 なるほど。よくわかります。鈴木さんご自身が音楽制作もされるからかもしれないけれど、制作者の気持ちを大切に考えて設計されたヘッドホンアンプだということが伝わってきます。鈴木さんがアレンジしてくださった「Sound Letter」のDSD版を聴くと、鈴木さんが意図した鳴り方が改めてわかった気がします。やっぱり空気感の伝え方が上手なヘッドホンアンプですね。

 

ヘッドホンアンプ
エヌモード X-HA3 FT
¥160,000(税別)
●出力:LOW・110mW(40Ω負荷)/HIGH・180mW(300Ω負荷)
●接続端子:アナログ音声入力2系統(XLR×1、RCA×1)、アナログ音声出力2系統(XLR×1、RCA×1)、ヘッドホン出力3系統(3ピンXLR×1、4ピンXLR×1、6.3mmステレオジャック×1)
●寸法/重量:W210×H73×D250mm/約2.3kg
●備考:電源電圧AC100V 50/60Hz(ACアダプター)DC15V〜18V(本体)
●問合せ先:(株)リリック ☎ 092(403)1003

Profile
エヌモードは、シャープで1ビットオーディオを推進したメンバーを中心に設立されたオーディオブランド。本機は同ブランドのヘッドホンアンプX-HA3をファンダメンタル代表の鈴木哲氏がリファインしたモデルで、型番末尾のFTがそれを示す。入出力はアナログ接続のみに対応し、ここではデジタルオーディオプレーヤーのACRO CA1000とRCAケーブルでつなぎ試聴している。

 

 

 

X-PM3 FT
色づけのない音で音楽を聴かせる空気感の表現がうまいんです

──続いてプリメインアンプのX-PM3 FTを聴いていただきました。こちらは先ほどお話に出ていた小岩井さんの自作スピーカーと、「システム3」で詳しくお話しいただくソナス・ファベールのLumina Iというスピーカーで聴き比べてみました。再生機器は先のX-HA3 FTと同じく、アステルアンドケルンACRO CA1000です。アンプとしてのキャラクターはどのように感じられましたか?

小岩井 X-HA3 FTを聴いたときの印象とかなり近いです。高域が気持ちよく伸びていて、低域は比較的すっきりと聴かせる。何か色づけがされたような感じはなくて、原音への忠実性が高いと思いました。何をもって原音と呼ぶのかは難しいところですが、「inner wave」も「Sound Letter」も自分が制作に関わっているので、スタジオで聴いた音を「原音」とすると、どちらのスピーカーで聴いたときもそのエッセンスがしっかり再現されていたと思うんです。あと、空気感の表現がうまい点もX-HA3 FTと同じですね。自作スピーカーのほうはマイスタジオや自宅の制作ルーム、いくつかの試聴室でも鳴らしたことがあるのですが、スタジオで聴いた印象と大きく違わなかったので驚きました。フルレンジなので、本来はそんなに高域まで伸びるスピーカーではないけれど、アンプの力を借りて気持ちよく鳴ってくれていたと思います。

聞き手・構成:伊藤隆剛

左はデジタルオーディオプレーヤーのアステルアンドケルンACRO CA1000

プリメインアンプ
エヌモード X-PM3 FT
¥168,000(税別)
●出力:13W×2(8Ω)、19W×2(4Ω)
●接続端子:アナログ音声入力3系統(RCA×3)、ワードクロック入力×1(BNC・最大24.576MHz)
●寸法/重量:W210×H62×D250mm/約2.3kg
●備考:電源電圧AC100V 50/60Hz(ACアダプター)DC15V〜18V(本体)

Profile
同ブランドのプリメインアンプ、X-PM3がベース。本機もコンデンサーやボリュウム回路などが見直された、ファンダメンタル・チューニング(FT)モデル。外部クロック入力が6種類のサンプリング周波数から選べる。ここでもデジタルオーディオプレーヤーのACRO CA1000とRCAケーブルでつなぎ試聴している。

 

 

ここで聴いた曲

『Comet Seeker』から「inner wave」(44.1kHz/16ビット PCM)
chocoNekoβ
(TA-Link’s)

「Sound Letter Take 5」(11.2MHz/1ビット DSD)
小岩井ことり with Nicogi+
(ステレオサウンド)

 

 

本記事の掲載はDigiFi『小岩井ことりと楽しむオーディオの世界』