無名の路上ミュージシャンが、やがてスポットライトを浴びてメジャーデビューを果たす。juJoeのボーカルとギターを担当する平井卓郎による同名小説を映像化した映画『さよなら、バンドアパート』が、いよいよ7月15日(金)より公開される。ここでは、無名時代のミュージシャン・川嶋に寄り添う女性“ユリ”を演じた森田望智にインタビューした。

――よろしくお願いします。まずは、公開を迎える心境をお願いします。
 まだ実感がなくて、本当に上映するのっていう感じなんですよ。でも、嬉しいですね、早く公開してほしいです。

――出演決まった時はいかがでしたか?
 映画は大好きですから、出演が決まった時は本当に嬉しかったですね。台本を読んだ時にも、原作の言葉をすごく大事に拾って脚本に活かされているなっていう印象があって、このセリフをどういう風に伝えたらいいんだろうと思ったし、そもそもそのセリフがすごく新鮮でしたから、今までにない言葉になるだろうなって、未知な部分も強く感じました。

――具体的には。
 たとえば、“人間を半分に割ったもんらしいで”とか、普段は言わない、詩のようなポエムのようなセリフが私の役には多かったんです。だから、本気で言っているのか、ふざけて言っているのか。あるいは、本心だけどふざけて言っているのか……という風に、捉えどころのないというか、捉えどころがなさすぎて、核心を言っている分、(表現は)すごく難しいなって思ったんです。そういう役って経験がなかったし、そこまで言葉を明確に言っている人も周りにはなかなかいないので、そこはどうやって言うんだろうという悩みは大きかったです。加えて、関西弁も初めてでしたので、挑戦っていう意識は強くありました。

――作品を拝見すると、ユリは本当にいるのかなって思う瞬間もありました。
 そうなんです。いるのか、いないのかよく分からない感じと思っていて、その表現はすごく難しかったですが、夢の中にいるような人っていうイメージを持っていました。

――私もそれを感じて、森田さんがどう捉えられていたのかなと思いました。
 私は、川嶋さんと一緒にいるユリって、多分、本心を隠しているんだと思います。あれは理想の自分、こうありたい自分の姿を川嶋の前で演じている、と。パッと見の印象は、捉えどころがなくて、でも自分を持っていて、背中も押してくれるし、どこか憧れるような要素もありつつ、でも本当にいるのかなっていう雰囲気なんです。

 存在するという現実感がないのは、多分、本心がそこにないからだと思うんです。でも、自宅でDVを受けている時のユリが本当の姿であって、強そうだったり、明るいのか暗いのか分からないけど、川嶋に見せる姿は、本当はなりたい自分だけど、なれない……。そんな想いで演じていました。

――それは、台本を読んだ時に森田さんの中でそう感じたのですか。
 そうでないと、やりにくいというか、やれないなって思ったんです。その言葉を話しているユリのちょっと強い感じだけが全てだと捉えてしまうと、人物として自分に落とし込みにくいなと。だから裏を大事に作ろうと思いました。結果、実際は表面の部分が大きく写っている。そういう風に捉えたら、ユリの見えない部分も想像しやすかったので、私はそう解釈しました。

――そうお聞きすると、川嶋と出会う屋上のシーンは強烈でした。
 そうですよね。だから、全部作っているんです。普通、酔っている人って酔ってないふりするじゃないですか。でも、ユリは逆を行くんです。自分を作っているから。けれど、川嶋さんといることで自分の居場所があって、救われたりホッとしたりする部分も真実としてあったと思います。

――野暮なことを聞きますが、あれは酔っている演技なんですか、酔っていると思わせる演技なんですか。
 酔ってはいるんですけど、自分で自分に陶酔しているというか、酔っている自分に酔っているイメージは持っていました。だから、皆さんが感じるイメージとちょっと違うユリが、自分の中で育ったのかもしれないです。

――そう伺うと、酔っている割には、目が酔っていないというお芝居は、正確な表現になるんですね。
 台本に書かれているわけではないので、そうした表現をする時は、単純に怖かったですよ。表面だけに思われてしまうかもと感じつつ、でも挑戦したいという想いの方が強かったです。

――そこから少し時間が経ち、橋の上で川嶋と話すところも酔っ払っていましたけども、そのシーンはどんな感じだったのでしょう?
 ちょっと照れ臭いセリフが多いんですが、相手に言うというよりは、多分、自分に言っているんだろうなって感じていました。そういう言葉を私も発していた時期があって、かっこいい名言じゃないけど、本で読んだことを自分の言葉のように友達に言うみたいな(笑)。ユリのそういったセリフは、家に閉じ籠って自分を出せていないから、実は成長が止まっているのかなって思うところがありました。だから言葉に頼ったり、人から聞いたものをそのまんま言ってしまう。そういうことを言うって、どういう人なんだろうって思いながら、役を作っていきました

――ユリと川嶋は、出会うべくして出会った。そして、お互いにいい方向(?)へ進んだ、と。
 恋とか愛とか、好きとか嫌いというよりかは、その空間にいることで、ユリは自分を保っていたのかなっていう風に思います。だからいい方向というよりは、何かを保つために、自分の何かを埋めるためにいたんだと感じます。

――物語の後半で、川嶋の前にふっと現れて、“聞いた話なんだけど……”って話すところは、切ないですね。
 そうですね。個人的に、ああいう言い方をする女の人って、実は気付いてほしいのかなって思うんです。友達が言っていると言っても、実は自分のことなんじゃないのって思ってしまうんです。だから、そういうふうに分かっている部分と、別に分からなくてもいいと思っている部分と、相違する感情を合わせ持っているのがユリっぽいなって思います。

――ところで、関西弁はどうでしたか?
 とても難しかったです。大阪出身の親戚に協力してもらって、自然な言い方を教えてもらいました。

――うまく話すコツは?
 未だに難しいと感じているんですが、たとえば“なんとかねん”って言うじゃないですか。でも“ねん”というと似非なんだそうです。“ん”が聞こえるか聞こえないかの程度で言わないといけないとか、本当に細かいことまで教えてもらいました。ただ、うまく話そうとすると似非になってしまうから、逆を行った方がナチュラルに聞こえるよって言われたんです。

――今回演じられたユリも含めて、森田さんが演じられた役は、その役のキャラクターの上に、森田さんの雰囲気が載っているように感じます。その雰囲気はどのように作られているのでしょうか?
 その雰囲気というのは、具体的にどんな風に感じますか?

――どっしりしているというか、物怖じしないというか、何があっても慌てないように見えますし、同時におっとりしているようにも感じます。
 あっ、そう言われることは確かに多いですね。でも、うーん、なんでしょう、私は多分、すごく幸せに生きてきた方だとは思うんですよね。

 ただ、仕事に関しては、悔しさを感じることの方が多かったので、そのどっしり構えているみたいなところは、もしかしたらそういうところで培われたのかなって、ちょっと今思いました。

――では最後に、今回、共演された清家さんの印象をお願いします。
 お会いする前にまず、清家さんのPVを拝見したのですが、本当に素晴らしい歌声で、心の底からすごいと感じたんです。

 その後、実際に現場でお会いしてみると、お芝居は未経験と仰っていましたが、やはりミュージシャンの方って、人として立つことを当たり前の感覚としてされているので、ナチュラルに立てているんですよ。初めてお芝居をするとなったら、まず、どう立てばいいのか、どう歩いていいのかも分からないと思うんですけど、普通にその場に川嶋として立っているんです。もう、すごいなって思いましたね。そんな清家さんと共演できて、とても嬉しかったです。

映画『さよなら、バンドアパート』

2022年7月15日(金)より感動のロードショー シネマート新宿/シネマート心斎橋/キノシネマ天神ほか全国順次公開!

<キャスト>
清家ゆきち 森田望智 梅田彩佳 松尾潤 小野武正 上村侑 髙石あかり 石橋穂乃香 千原せいじ 阿南健治 大江恵 / 竹中直人 KEYTALK cinema staff

<スタッフ>
原作:平井拓郎「さよなら・バンドアパート」(文芸社刊) 監督・脚本:宮野ケイジ プロデューサー:関顕嗣 アシスタントプロデューサー:宮下昇 音楽マネージメント:深水光洋 ラインプロデューサー:三好保洋 NFT プロデューサー:ERIC YN KIM 撮影監督:吉沢和晃 録音:宋晋瑞 整音効果:臼井勝 編集:中村和樹 美術:阿久津桂 衣装:松延沙織 音楽:アントニオ古賀 劇伴音楽:菅大介 バンド演奏:QOOLAND、juJoe 制作プロダクション:FREBARI 配給・宣伝:MAP 製作:FREBARI/映画「さよなら、バンドアパート」製作委員会
[2021年/日本/カラー/シネマスコープ/DCP 5.1ch/97分]
(C)2021「さよなら、バンドアパート」製作委員会