ジョージ・A・ロメロ監督の古典的一作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が4Kリマスター版として6月17日からシネマート新宿、立川シネマシティほか全国順次公開される。

 父親の墓参りに行くために車を飛ばしていた兄と妹。その兄が“リビングデッド”(いわゆるゾンビ)に襲われて絶命する。妹は命からがら近くの家に逃げ込んだ。つづいてアフリカ系アメリカ人の男・ベンもどこからか逃げてきた。空き家なのかと思っていたら、1階の騒ぎを聞きつけて、“どうしたんだ?”とばかりに、若い男女、“ミスター・クーパー”と呼ばれる男とその妻が階段をのぼってくる。地下では大怪我をしている娘が虫の息だ。

 人間模様うずまく密室劇が、おそらくは大部分が同時録音(アフレコなし)によって綴られる。役者たちの声や身振りに感じたのは、映画やテレビの場でというよりも、演劇の現場で観客の反応を浴びながら鍛えられてきたひとたちなのだろう、ということ。

 ほぼ密室なのに妙な解放感があるのは、定期的に外の風景(ゾンビがウヨウヨいる)を映し出していること、コオロギらしき羽音(日本では詩的に“声”と表現される)と思われるサウンドが入っていることが奏功しているようだ。随所で挿入される、“テレビの緊急ニュースを見る風景”も妙に印象に残った。そのニュース放送現場には、時間表示の異なる4つの大きな時計が飾られている。東部時間、中部時間、山岳部時間、太平洋時間。これは、こんなにも時差がある超巨大国アメリカの中で起きた、人間とゾンビのせめぎ合いなのだ。

 ミスター・クーパーのこなまずるさと、どうにか全員を助け出したいと奮闘するベンの対比にひきずられ、おそらく誰もが「ベンがんばれ」と思いを最高潮にするであろうタイミングで、物語は意外な方向に流れてゆく。

 この映画が公開された1968年といえばキング牧師が暗殺され、ジェイムズ・ブラウンが「セイ・イット・ラウド、アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」を放った年である。2017年に亡くなったロメロ監督自身が生前に自身で4Kリマスターしたヴァージョンが、いまだに差別や憎しみのなくならない世の中で公開されるのは尊いことだ。

映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4Kリマスター版』

6月17日(金)より シネマート新宿ほか全国順次公開

出演:デュアン・ジョーンズ、マリリン・イーストマン、ジョージ・コサナ、ジュディス・オーディア、カール・ハードマン、キース・ウェイン、ジュディス・リドリー、
ラッセル・ストライナー、チャールズ・クレイグ、ビル・カーディル

原案・監督:ジョージ・A・ロメロ 脚本:ジョン・A・ルッソ、ジョージ・A・ロメロ 製作:カール・ハードマン、ラッセル・ストライナー 撮影・編集:ジョージ・A・ロメロ 音楽:ウィリアム・ルース、フレッド・シュタイナー 特殊効果:トニー・パンタネラ、レジス・サーヴィンスキー 提供:是空、ハピネット・メディアマーケティング 配給:アンプラグド
原題:NIGHT OF THE LIVING DEAD/1968年/アメリカ/96分/モノクロ/スタンダード/モノラル/日本語字幕

4K restoration (c) 2017 Image Ten, Inc. All rights reserved.“NIGHT OF THE LIVING DEAD was restored by the Museum of Modern Art and The Film Foundation, with funding provided by the George Lucas Family Foundation and the Celeste Bartos Preservation Fund.