自社光/電気変換チップ搭載のフィバーの最新8K対応ケーブル

 フィバー(FIBBR)から決定版とでも言うべき最上位光ファイバーHDMIケーブルがこの夏発売されることになった。ULTRA 8Kと命名されたこの光ファイバーケーブルは、これまで市場で人気を博してきたPURE 3の上位に位置づけられる製品となる。同社から充分な資料がまだ届いておらず(※参照)、ここでは現状わかっていることをお伝えし、PURE 3と一対比較しながら画質・音質をチェックしたので、その詳細を記すことにしたい。

 

※ 編集部註:本文原稿入稿後に「ULTRA 8Kは世界で初めてCable-ID規格を搭載している」ことが判明しました。「Cable-ID規格」とはメーカー、導体種類、PCA(Power for Assembly/電源供給管理機能)、HEAC(HDMI Ethernet and Audio return Channel/ネットワーク通信/ARCの両方に対応した伝送機能)対応、などのHDMIケーブルの個体情報をケーブル本体内のICチップに持たせ、HDMI接続機器と相互に情報を送り合うことで、HDMI機器とHDMIケーブルの相性が悪いという問題をなくすことを目的にしたHDMIの最新フォーマットのひとつとされています。

 

 まずフィバーの概要について述べておこう。同社はHDMIフォーラムの主要メンバーで、世界最大の光ケーブル製造会社であるYOFCとアジア最大手の半導体製造会社であるVIAテクノロジー社との共同出資会社である。YOFCによるフィリップス(オランダ)の光通信部門の買収がそのスタートで、光/電気変換チップと光ファイバーケーブル両方を量産できる、世界でも稀な企業のひとつと言われている。

 

OPTICAL HDMI CABLE
FIBBR ULTRA 8K
価格未定、今夏発売予定

● 伝送帯域:56Gbps
● 対応フォーマット:HDMI 2.1、HDCP 2.2/2.3 
● HDMI機能対応:eARC/ARC、CEC(イーサネット伝送は非対応)
● 製品ラインナップ:1m、2m、3m、8m、10m、12m、15m、20m 
● 問合せ先:(株)ナスペック TEL. 0120-932-455

 

 

 ULTRA 8KとPURE 3の最大の違いは電気/光変換通信チップにある。PURE 3はシリコンライン(ドイツ)製チップが使われていたが、ULTRA 8Kは自社製。その性能はシリコンライン製を凌ぐものと思われ、スペックを見ると、伝送スピードはPURE 3の48Gbps(ギガビット/秒)にたいして56Gbpsと表記されている。ちなみに48GbpsというのはHDMI 2.1に準拠した値で、4K/120p、8K/60pの長距離伝送が可能となる。

 使用される光ファイバーケーブル自体は見たところPURE 3と同じもののようで、180度曲げて使うことができる。フィバーが「ベンド・ロバスト・テクノロジー」と呼ぶこの特性を備えたYOFC製グラスファイバーは、スリムで丈夫で曲げても折れない。しかも他社製グラスファイバーに比べて軽量なので、自重によって接続された機器のHDMI端子にダメージを与えない。

 シェル部分のハウジングはPURE 3とは異なる金属製で、耐振性能に優れると思われる。面白いのはシェルの黒い部分とU字の間が透明で、信号伝送時には青く光る仕様になっていることだ。製品は当然ながら著作権保護機能のHDCP 2.2/2.3 eARC(Enhanced Audio Return Channel)、CEC(Consumer Electronics Control)をサポートする。製品としての最大長は20mだ。

 では、なぜ4K/120p、8K/60pのハイスピード長距離伝送に光ファイバーケーブルが必要なのか。銅線などの金属導体を用いたHDMIケーブルでは、信号伝送時に金属特有の内部抵抗による損失が生じるからである。金属導体のHDMIケーブルを使ってみて、3mなら問題なく4K信号が送れたのに、10m版を試してみたら途端に映像が途切れたり映らなくなったりという経験をされた方もいらっしゃることだろう。いっぽう光ファイバーケーブルは内部抵抗による信号ロスが事実上発生せず、どれだけ距離を伸ばしても性能劣化はほぼ生じない。しかも広帯域伝送が可能なので、優秀な電気/光変換通信チップさえ用いれば、4K/120p、8K/60pの長距離伝送が問題なく実現できるというわけだ。

 

1〜3mまではプレーヤー/レコーダーと直視型ディスプレイ、あるいはAVセンターなどとの接続に最適だ。8m以上は特にプロジェクターユーザーに注目してほしい

 

プラグ下部がシースルーになっており、信号伝送時にファイバーケーブルが青く光る仕組み。外装は金属製であるが、大きさ自体はコンパクト。壁内配線などの際にも大きな問題になることはないだろう。光ファイバータイプの常で、ケーブルには方向性があり、「1 SOURCE」プラグを信号送り出し側に、「2 DISPLAY」プラグを信号受信側につなげる必要がある

 

 

PURE 3から画質が大幅向上。明るく立体感が向上した

 輸入元からULTRA 8Kの3mと15m、それとPURE 3の2mと10mを拝借し、両者を比較しながらそのパフォーマンスの違いをチェックしてみた。

 

テストはULTRA 8Kの3m品と15m品を用意して、同社の既存HDMIケーブル、PURE 3の2m品と10m品と都度差し替えて行なった。パナソニックの有機ELディスプレイTH-55LZ2000を使って短尺品の比較テスト(接続図①)と、JVCの8KプロジェクターDLA-V9Rに長尺品を、デノンのAVセンターAVC-X8500HAに短尺品を使った比較テスト(接続図②)の2セッションで実施している

 

 

 まず有機ELテレビのパナソニックTH-55LZ2000と4KレコーダーのパナソニックDMR-ZR1間でULTRA 8Kの3mとPURE 3の2mをつなぎ代えての比較。ビコムの超高画質UHDブルーレイ、HDR10+収録の『8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』、『西表島』でチェックしてみたところ、ULTRA 8Kの画質のよさに大いに驚かされる結果となった。

 PURE 3だけを見ていたら何の不満もないのだが、ULTRA 8Kにつなぎ替えると、『8K空撮夜景』の夕景のハイライトが伸び、遠景で捉えられたビルの窓枠がより切れ味鋭く描かれ、全体に立体感が増した。『西表島』の〈星砂の浜〉では遠くに見える人々のカラフルなTシャツがよりくっきりと描かれ、色乗りも増したように見える。波が打ち寄せる砂浜のきめ細かさや青空にぽっかりと浮かぶ雲の立体感なども明らかにULTRA 8Kが勝って見えるのである。映画のUHDブルーレイではどうか。米国盤の『ウエスト・サイド・ストーリー』では、プエルトリコ移民が暮らす古ぼけたビルのロングショットを見ると、ULTRA 8Kのほうがやはり鮮鋭感が高く、輝度と彩度のバランスがよく見えるし、ピーク輝度が上がったかのようだ。

 ではJVC DLA-V9Rを用いてプロジェクター大画面での違いをチェックしてみよう。ZR1からPURE 3の10mとULTRA 8Kの15mを差し替えてHDR10信号として比較した。スクリーンはゲイン1.0のキクチ グレースマット100の120インチワイドである。『8K空撮夜景』と『西表島』のPURE 3とULTRA 8Kの違いは、有機ELテレビで比較したときとほぼ同じ印象。ULTRA 8Kをつないで見ると、ピーク輝度が上がったかのようだし、ローライトからハイライトにかけての階調の稠密さでもPURE 3を上回る印象となった。

 映画のUHDブルーレイ『ウエスト〜』では有機ELテレビでの比較よりもその違いが大きく出た。ニューヨークの街角でプエルトリカンの若者たちが歌い踊る場面。カラフルな衣裳の色合い、艶やかなスキントーンがULTRA 8Kで見ると、いっそう目に鮮やかで、心が浮き立つような楽しさがある。

 〈低コントラスト/高階調〉の難しいシーンが続くドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のUHDブルーレイ『DUNE/デューン 砂の惑星』ではULTRA 8Kの画質面での優位性がいっそう明らかになった。薄暗い大面積の中を黒いマントを着た二人の女性が歩くシーン。その黒の黒らしさと微妙な黒の色合いの違いがPURE 3以上にULTRA 8Kは精妙に描き切るのである。

 フェルメールの絵画が動き始めたかのような驚きを抱かせるリドリー・スコット監督『最後の決闘裁判』の、馬小屋に佇む女性を逆光で捉えたショット。この難しい場面でもULTRA 8KでDMR-ZR1とつないだDLA-V9Rは見事な描画性能を誇示した。女性の目に当たるタッチライトの輝きがひときわ印象的で、全体のシルエットを柔らかく立体的に描くのである。

 音質はどうだろうか。ZR1とデノンのAVセンターAVC-X8500HA間をPURE 3の2mとULTRA 8Kの3mを差し替えながら聴き比べてみたのだが、これがまたULTRA 8Kが好印象という結果となった。大貫妙子のCD『Pure Acoustic 2018』でチェックしてみたところ、ULTRA 8Kに替えるとヴォーカルに潤いが加わり、立体的な音の広がりが明瞭となった。映画『ウエスト〜』でも同様の結果で、全体に音がまろやかに、細かな環境音がふっと浮かび上がるようになり、その予想を上回る音の違いに驚かされた次第だ。

 PURE 3とのシビアな比較で明らかになったULTRA 8Kの高品質。PURE 3よりも価格はだいぶ高くなるようだが、56Gbpsのハイスピード伝送対応のメリットが、如実に画質・音質に反映されていることを実感させられた取材となった。

 

視聴した機器

● 4K有機ELディスプレイ:パナソニックTH-55LZ2000
● 8Kプロジェクター:JVC DLA-V9R
● スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
● 4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
● AVセンター:デノンAVC-X8500HA
● スピーカーシステム:モニターオーディオ PL300II(L/S)、PL200II(Ls/Rs)、PL100II(Lsb/Rsb)、イクリプスTD508MK3(オーバーヘッド)

再生したソフト
● UHDブルーレイ:『8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』『西表島 〜太古の自然をめぐる〜』、『ウエスト・サイド・ストーリー』『DUNE/デューン 砂の惑星』
● CD:『Pure Acoustic 2018/大貫妙子』