シルバトーンは、世界一のウェスタン・エレクトリック収集家が主宰するオーディオメーカーだ。私は真空管式ならではの艶やかで濃厚な音楽表現と、高能率なスピーカーを考慮したノイズレベルの低い回路設計が同社製品の理念と理解している。希少なヴィンテージ真空管による個性の豊かな音を重要視していることも特徴に挙げられよう。

 ここでは、2機種のフォノイコライザーアンプを紹介する。700万円(税別)のSQ102と、1000万円(税別)というSQ100Rはともにたいへん高価だが、シンプルかつ現代的なデザインにまとめられた入魂の製品である。

Phono Equalizer Amp.
シルバトーン
SQ102
¥7,000,000(税別)

●入力端子:MM2系統(RCAアンバランス)、MC2系統(RCAアンバランス)●出力端子:2系統(RCAアンバランス、XLRバランス)●入力感度:5mV(MM)●MC昇圧トランス:1:10●利得:2Vrms(MM5mV入力時)●使用真空管:D3a×2、7044×2●寸法/重量:W450×H120×D410mm/20kg●問合せ先:G.I.P.ラボラトリー TEL 023(673)1121

SQ102のリアパネル。左側4列の端子が入力、中央2列が出力で、入力は左からMC1、MC2、MM1、MM2となる。出力はRCAアンバランスとXLRバランスを各1系統装備する。

SQ102の内部。高い利得を得るCR型イコライザー回路は1枚基板にまとめられ、中央には増幅のD3aと7044真空管の頭頂部が見える。電源部は左側にシールドされて配置される。

Phono Equalizer Amp.
SQ100R
¥10,000,000(税別)

●入力端子:MM2系統(RCAアンバランス)、MC2系統(RCAアンバランス)●出力端子:2系統(RCAアンバランス×1、XLRバランス×1)●入力感度:5mV(MM)●利得:2Vrms(5mV入力時)●MC昇圧トランス:1:10(HIGH)、1:20(LOW)●使用真空管:D3a×2、7044×4、WE310A×2●寸法/重量:W480×H120×D410mm/20.5kg(本体)、W480×H120×D410mm/24.5kg(電源部)

上級機SQ100Rのリアパネル。入力は左側にMM、MC各2系統の入力、中央にはRCAアンバランスとXLRバランスの各1系統出力を配置。グラウンドはGNDとLIFTの切替えスイッチもある。右側には別筐体の独立電源部とつなぐ専用マルチコネクターを設けている。

SQ100Rの内部。段間結合にも使われる8基の純銀巻線トランスと、4基の純銀LCRインダクタなどが配置されたイコライザー回路はCR型。SQ102と同様、独自の初段入力回路による高い利得と出力を得ている。

SQ100R本体部の両側面。増幅用のD3aや増幅/バッファー用の7044、電圧増幅段のWE310Aは、内部回路と外側パネルとの間の空間に隔壁を設けて配置される。

 SQ102は、フィルター回路の一部が初段回路と有機的に結合されているというCR型のRIAAイコライザー回路を採用。MC型の入力にはナノクリスタルコアに純銀線を巻いた昇圧トランスが奢られている。ドイツテレコムのD3a真空管による信号増幅と7044(6900)真空管による増幅を行ない、ナノクリスタルコアに純銀線を巻いた出力トランスを経て信号が出力される。

 電源部が別筐体のSQ100Rもナノクリスタルコアに純銀線を巻いたMC入力と出力用トランスを搭載しており、RIAAイコライザー回路は純銀線によるインダクター(L)を採用したLCR型である。左右で8本の真空管を使う増幅回路は非常に凝っている。D3a真空管による電圧増幅~7044真空管の出力はトランスフォーマーを経由してLCRフィルター回路に引き継がれ、WE310A真空管による電圧増幅と7044真空管によるバッファーから出力トランスに送られるのだ。本機も前述のSQ102も、スウェーデン在住の米国人JCモリソン氏が設計したトランスコンダクタンス方式の初段回路を採用している。

 アナログプレーヤーのテクニクスSL1000Rにグランツ製MH1000Sトーンアームと、フェーズメーション製PP2000(MC型)を組み合わせて試聴に臨んでいる。SQ102で聴くアンセルメ指揮「三角帽子」は、自然な音の立ち上がりで多彩な音色の描きわけも巧みにこなし、音楽に込められた情感を豊かに聴かせる。デイヴ・グルーシンのダイレクト盤も低音域の安定ぶりと質感の高さが印象的。傅 信幸氏が選曲と構成を手掛けた『Nobu΄s Popular Selection』で聴く、アン・バートンの小気味よく華麗な歌声にも生気が宿っている。

 SQ100Rは芳醇な香りを漂わせた魅惑的な音を持ち味としており、それでいて解像感にも優れた高品位な音に驚かされた。アンセルメ指揮「三角帽子」は、レンジ感が想像していたよりもワイドで、一音一音の鮮明さと共に音楽を躍動的かつ濃淡の感じられる音で描いてくる。アン・バートンの声色は絶品といえる生っぽさで、音場空間の広さもじゅうぶん。デイヴ・グルーシンでは、潤沢な電源部に支えられていることが納得できる力強さと細部まで鮮やかな表現に、私は感服した次第。

SQ100Rの端子、電源部を確認する三浦氏。

【本記事の掲載号は 管球王国 Vol.103】